66 義賊という不快(7)
「……心配です。でも、私じゃ何もできなくて。首を挟めることじゃないかもしれないし……かえって迷惑かもです……。そもそも、心配するような間柄なのかどうかも怪しくて……」
内心で苦笑してから、キャサリンがそっと問い返す。
「あなたは自分たちをどう思っているの?」
紅茶のカップが揺れる。
波紋を見つめたままアンネが応じた。
「社会的にはパトロンと、その支援されている人という構図なのかもしれません。でも……私は、お互いが困っているなら、理由も聞かずに手助けをするような関係だと思っています。ヒューゴが参っているなら、私は手を差し伸べたい」
「そうね、とても清らかな交際だと思うわ」
「まだ、正式なお付き合いをしているわけじゃ……」
――そっちじゃないわよ、アンネ嬢。
キャサリンは咳払いをして強引に話を戻す。
「肝心のパトロンがそんな状態では、何かとアンネ嬢も不便でしょう? 少し、私のほうで調べておきますわ」
アンネがじっとキャサリンを見つめる。
「キャサリンさん。どうして、そこまで?」
「これから音楽分野の後援になろうというのですから、このくらいは当然でしょう」
「パトロンのみなさんは、そんなことまでしません」
真剣なまなざしだ。
天然な部分だけではなく、やは物怖じしないところも持ち合わせているらしい。
「お恥ずかしい話、私はフィリップ様のように芸術には明るくないので……ほかの方たちと差をつけるためには、こんなことでしか」
キャサリンは言葉を濁したが、アンネは諦めない。
「それだけですか?」
キャサリンは少し間を空けた。
「強いて言うなら、アンネ嬢のことが気になったからでしょうか」
「気にな――」
ボッ!
思わず、そんな効果音が聞こえて来そうなほど、アンネ嬢は顔を赤くした。
――大丈夫かしら、この子……。
いったい何を勘違いしたのかと、キャサリンは困ったように笑う。
「あの……でも、私……」
「あれでしたら人助けが私の趣味なんだと、捉えてくださいな」
納得したような、納得していないような顔でアンネがうなずく。
「すごく高尚な趣味ですね」
キャサリンは何も言わずに微笑んだ。
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喫茶店を出ると、雪がまた降り始めていた。
アンネは来た方向とは逆へと歩いていく。その背中が、やがて通りの向こうで小さくなった。
馬車を待ちながら、キャサリンはエマに声をかける。
「どう思う?」
「愛らしい方ではありませんか」
キャサリンが軽く眉を上げてエマを見た。
「それだけ?」
「あとは、そうですね。真剣な方だとも思います。音楽に対しても、ヒューゴ様に対しても、ご自分の気持ちに正直でいようとしておられます」
束の間、キャサリンは黙る。
――動かない理由は遠慮からなのか……それとも、別のものがあるのか。
エルフェルト家の馬車が来る。
キャサリンは乗り込みながら、今日のアンネの顔を思い返した。
窓の外を見た瞬間に変わった、あの表情。
通り過ぎた馬車に、ヒューゴの姿があったのかもしれない。あるいはグリーンフィールド家の紋章でも見えたのか。どちらにしても、アンネはそれに気がついて、だけど何も言わなかった。
――見えているのに、動けない……か。
歯がゆいだろう。
エマの言葉が、胸の中へと沈んでゆく。
そういう意味では、好き勝手に動けるキャサリンの立場は、とても都合のいいものだ。
「ヒューゴ様にも会っておきたいところだけれど……」
「ご連絡を取りますか?」
気を利かせるエマにキャサリンは首を横に振った。
――時間切れね。
その前に演奏会が始まる。
だが、大まかな背景は理解できた。大丈夫だろう。
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