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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
6話 ベアトリス・ハルフォード

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幕間 雪解けの庭で(3)

 それから数日後、エドワードの近況がベアトリスの耳にも届いた。

 持ちかけた縁談が片端から断られているらしい。

 社交での評判が悪いのに加えて、財政が予想以上に悪化していることが、少しずつ知れ渡り始めているようだった。ビオラへの支出の全貌が明らかになったためだというのが、執事づての情報だ。


 エドワードは被害者として同情を求めようとしているそうだが、ベアトリスへの仕打ちが周知された今、その訴えはほとんど力を持っていない。


「……」


 ベアトリスはその話を、特に感想を持たずに聞いた。

 溜飲が下がるということもなく、これでよかったという気持ちが強くあるわけでもない。

 ただ、自分から遠い出来事のように感じられた。




✿✿✿❀✿✿✿




 雪が小康状態になった日の午後、アーサーがまた屋敷を訪ねて来た。


「外に出よう」


 開口一番にそう言ったアーサーに、ベアトリスは少しだけ目を丸くした。


「外ですか?」

「庭でいい。久しぶりに、新しい空気を吸ったほうがいいだろう」


 アーサーの言い方は、やっぱり少し強引だ。

 それでも、ベアトリスは上着を手に取る。

 二人で中庭に出た。雪は止んでいた。

 地面に積もった白色が、冬の日差しをやわらかく跳ね返していた。息を吸うと、冷たい空気が肺の奥まで届く感覚がある。


「……。たしかに、気持ちもいいかもしれないですね」


 ベアトリスがぽつりと言う。


「そうだろう?」


 アーサーが得意げに返した。そんなアーサーを、ベアトリスが小さく笑う。


「なんだ?」

「いいえ」


 ベアトリスは白い息を吐きながら、枝だけになった木々を眺める。


「……。春になったら、あの植物園に行かないか」

「植物園……」

「昔一緒に行ったことがあるだろう。覚えていないか?」


 もちろん、覚えている。忘れるわけがない。

 あの日は雨が降り出して、小さな東屋で雨宿りをした。水滴が葉を叩く音の中で、なんでもないことを話した。


 アーサーは傲慢なだけで博識だ。帰り道には、ベアトリスに植物の名前を一つひとつ教えてくれた。メディニラ・マグニフィカという桃色の花は、今でも印象深く残っている。


「……覚えています」


 今度は、ちゃんとした返事ができた。

 アーサーは短く「そうか」と答えから、いくらかの間を開けてもう一度口を開く。


「……。あのときは、俺が先に帰ってしまっただろう?」

「……」


 ベアトリスは何も答えない。

 用事を思い出したと言って、アーサーは勝手に帰ってしまった。

 いつものことだと思ったベアトリスは、特に気にしていない。この人と付き合うということは、こういうことなのだろうと思っていた。


「あれは嘘だ」

「……?」

「用事なんてなかった。ただ……このままお前と一緒にいたら、何か変なことを言ってしまいそうで……だから逃げた」


 ベアトリスがアーサーを見る。アーサーは庭の木を眺めたまま、こちらを振り向こうとしない。気のせいだろうか、その横顔が少しだけ赤く見えた。寒さのせいで頬が赤くなっているのかもしれないし、そうではないのかもしれない。


 ベアトリスには判断がつかない。


「変なこととは?」


 思わず、口を衝いて言葉が出てしまった。

 アーサーは答えない。

 決して言いたくないわけではないのだろう。そうであれば、そもそも自分から話題を振っていないはずだ。本当に、どう言えばいいものか迷っている様子だった。


「逃げずともよかったですのに……」


 ベアトリスがつぶやく。

 冬の枯れ木は近くで見ると意外と複雑な形をしていた。枝が伸びて、また枝が伸びて、そのどれもが空に向かっている。


「そうだな……。そうすればきっと、エドワードとも……。すまなかった、俺のせいだ」


 謝ってほしかったわけではないと、ベアトリスは内心で苦笑する。

 だが、きっと春の植物園では同じことが起こらないだろうと、確かな手ごたえもベアトリスは感じていた。


「植物園ですね?」

「そうだ。そこからやりなおさせてくれ」


 ベアトリスがアーサーを見る。今度はアーサーもベアトリスを見ていて、その視線はもう二度とベアトリスを離そうとしなかった。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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