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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
6話 ベアトリス・ハルフォード

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幕間 雪解けの庭で(1)

 婚約を断ってから、2週間が経った。

 ベアトリス・ハルフォードは今日も書斎にいた。

 朝に来て、夜に帰る。

 いや、ここは自分の家だから、帰るという表現は正しくない。

 ただ、一日の多くをここで過ごしているというだけのことだ。


「……」


 ページをめくる。

 手の中にある本は、あの恋愛小説だ。

 キャサリンと話すきっかけになった、金色の文字が表紙に刻まれた一冊。

 だいぶ前に読みおえたのだが、先日から読みなおした。

 女主人公の令嬢は、まだ想いを打ち明けられない。縁談を受け入れた相手との生活を、どこか遠いものとして眺めながらも、日々、幼馴染の青年のことを考えていた。


 自分と少し似ているだろうか。

 ベアトリスは苦笑しかけて、でも途中でやめた。

 似ているようで、だいぶ違う。自分はちゃんと言葉にすることができた。


「よく降りますわ……」


 窓の外では、雪がまた積もり始めていた。

 王都の冬は長い。

 それでも、軒先に落ちた雪の端が、昨日よりも少しだけ解けているのをベアトリスは知っていた。




✿✿✿❀✿✿✿




 その日の午後、アーサーが訪ねて来た。

 約束はしていない。

 エドワードとの婚約が解消されてからというもの、アーサーはこうして時折、特に理由もなくベアトリスの屋敷に顔を出すようになっていた。


「また来たんですか?」


 書斎に通しながら、ベアトリスが聞く。

 以前の自分ならば、こんな直球な言い方はできなかったかもしれない。もっと遠回しに、もっと控えめに、相手の機嫌を損ねないような言葉を選んでいたはずだ。


 アーサーは意外そうに眉をひそめた。


「忙しかったか?」

「そういうわけではありませんが……」


 ベアトリスが椅子に腰をおろすと、アーサーもその向かいに座った。テーブルの上には、さっきまで読んでいた本がある。


 アーサーの視線が書籍に止まった。


「また読んでいたのか、それ」

「はい、もう一度だけ改めて読んでみようと思いまして」

「……。どんな話だ?」


 ベアトリスは少しだけ考えてから、答えた。


「言葉にするのがちょっぴり臆病な、婦女子のお話です」


 アーサーが黙る。

 その沈黙の意味を、ベアトリスは深く考えない。


「……。貸してくれるか? せっかくなら俺も読んでみたい」


 アーサーが本に手を伸ばす。

 ベアトリスはその手を軽く押さえた。


「まだ読んでいる途中ですから」

「……それもそうだな」


 アーサーが手を引いた。

 そこで終わりかと思ったが、アーサーはもう一度口を開く。


「一緒に読んでもいいか」


 ベアトリスの動きが止まった。

 顔を上げると、アーサーは別に深い意味はないという顔で窓の外を見ている。


「……」


 以前のアーサーなら、そんな提案はしなかった。

 自分が読みたいと思えば本を持ち帰り、都合のいいときに返しに来る。

 それだけだった。


「駄目なら、別にいい」


 窓の外を向いたまま、アーサーがつぶやく。

 ベアトリスはしばらく黙ってから、本をテーブルの中央に置いた。


「どうぞ……。でも途中からですよ」

「いいさ。俺はお前ほど読書子じゃない」


 アーサーが本を手に取る。

 ページをめくる音だけが、しばらく書斎に満ちた。

 二人の間に言葉はないが、沈黙が苦ではなかった。

 幼い頃からそうだった。

 この人といると、黙っていることが不思議と楽だった。

 それはきっと、今も変わっていない。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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