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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
6話 ベアトリス・ハルフォード

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53 慈善舞踏会の夜(1)

 冬の慈善舞踏会は、王都でも指折りの大邸宅を会場として開かれた。

 広間には色とりどりのドレスと、磨き上げられた燕尾服が行き交っている。

 シャンデリアの光が床の大理石に反射して、まるで水面のように揺れていた。

 笑い声と音楽。

 グラスの触れ合う音。

 窓の外には、静かに雪が降り積もっている。

 キャサリンは広間の端に立ち、グラスを手に全体を見渡した。


 ――さてと。


 準備は、すべて整っている。

 エマが耳元で小さく告げた。


「お嬢様、ベアトリス様がいらっしゃいます」

「見えているわ」


 広間の中ほどに、落ち着いた青のドレスを身にまとったベアトリスの姿があった。

 銀色の髪が、シャンデリアの光を柔らかく受けている。

 その佇まいは、いつもより少しだけ違う気がした。

 緊張しているのか、あるいは覚悟を決めているのか。

 キャサリンには、どちらとも読み取れた。


「アーサー様は?」

「少し前からいらしています。あちらの一角に」


 エマが目線だけで示す方向に、アーサーの姿があった。いつも通りに穏やかで、周囲に積極的に話しかけているようだが、その目はどこか落ち着きがない。心なしか聞き役に回っている場面も、以前に比べて多くなっているようだ。


 ――種は、ちゃんと育ったみたいね。


 キャサリンは内心で満足げにうなずく。


「ニコラス殿下は?」

「まもなくご到着の予定です」


 エマが手元の時計を確かめながら答えた。

 タイミングは問題ない。

 あとは、段取りのとおりに進むかどうかだ。

 その直後、広間の入り口付近がわずかにざわめいた。




✿✿✿❀✿✿✿




 ニコラス殿下の登場は、華やかだった。

 といっても、本人が特別に振る舞いを誇示しているわけではない。

 ただ、その場にいるだけで、自然と周囲の目が向いてしまうような引力が、あの青年にはある。

 金色の髪に、涼やかな目元。

 お忍びでの参加とはいえ、王族としての育ちが、立ち居振る舞いの隅々にまで染みこんでいた。

 ルシアン殿下ほどの威圧感はなく、どちらかといえば近づきやすい雰囲気を持っている。それが、かえって会場の空気を一変させた。


「あの方は……?」

「どちらのご子息かしら」

「見覚えがないわね。それにしても……」


 ひそひそと、周囲の令嬢たちが小声で言葉を交わす。

 ニコラス殿下は、そ知らぬ顔で手袋を外しながら、さりげなく広間を見渡した。視線がキャサリンに一瞬止まり、気づかれない程度に小さくうなずく。


 見るからにニコラス殿下は緊張しているようだが、自分の役目は忘れていないらしい。キャサリンも同じく、表情を変えずに応じた。


 ――ビオラ嬢は?


 素早く視線を動かす。

 朱色のドレスが、広間の向こうに見える。

 ビオラは当然のようにニコラス殿下に気づいていた。その目が、殿下の方向へとゆっくりと引き寄せられていく。


 ――食いついた。


 事前に情報のない相手だ。いくらビオラのアンテナが優れていたとしても、じかに接触してみなければ判断はできないはずだった。


「エマ」

「見えております」


 侍女も短くキャサリンに返す。

 ビオラの目が輝いている。

 純粋な興味なのか、それとも打算なのか。どちらにしても、今夜の彼女の関心は、しばらくはニコラス殿下になるだろう。


「……アーサー様は、きちんとビオラ様の獲物ではなくなったのでしょうか?」


 エマが心配そうにキャサリンに尋ねる。


「優先順位は下がったでしょうけれど、どうかしらね。総合的に見れば、まだまだダメンズなんじゃないかしら?」


「それは……」

「あんまり急に素敵な殿方に変身されても困るわ。ビオラ嬢はともかく、別の令嬢たちも目の色を変えちゃうじゃない。このくらいでいいのよ」


「なるほど」


 エマは納得したようにうなずいていた。

 キャサリンは、実はそこまで考えていなかったと言いたげに、明後日のほうを向いていた。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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