51 雪の準備(3)
王宮からの帰り道にはエマが馬車で合流していた。
「アーサー様について、まとまりましたので」
「聞かせてちょうだい」
キャサリンが窓の外から視線を戻す。
「社交界での評判はおおむね良好です。穏やかで誠実、頭も切れる。人当たりもよく、敵を作るタイプではないようです。しかし、少し気になる話もいくつか」
「……?」
キャサリンが先を促せば、エマが手元の書類に視線を落とす。
「約束の時間や場所を、相手への確認なしに変えることが多いようです。本人に悪気はなく、むしろ相手も自分と同じ考えだろうと思っているようで……周囲の方々も、特に指摘はしていないようですが」
「……そう。王様気質なのね」
キャサリンが短く返す。
「はい。特に、ベアトリス様に対しては、その傾向が強いようです。幼い頃からベアトリス様がアーサー様に合わせることが当たり前になっていたようで――」
「本人はそれを当然のものと思っているわけね」
キャサリンが静かに言葉を引き取った。
――このぶんだと、ビオラ嬢のダメンズレーダーは百発百中ね。
「ベアトリス嬢への気持ちのほうは、どう?」
エマが少しだけ考えてから答えた。
「少なからず好意を抱いているようなのですが、ベアトリス様が行動するのが筋だと思っているのか、自分から何かをするという発想がないようです。ベアトリス様が婚約者を得ても、どこかで『いつでも戻ってくる』と思っているような節が……周囲の証言からも、うかがえます」
「……重症ね」
実際、半分くらいはアーサーの予言する未来へと向かっていってしまっているので、キャサリンとしても考え方自体は否定しがたい。無論、ベアトリスのことを思えば、論外である。
キャサリンは腕を組み、しばらく黙った。
窓の外を、雪の積もった王都が流れていく。
「エマもビオラ嬢のアンテナに引っかかった理由は、このあたりだと思う?」
エマがうなずく。
「はい、そうですね。ビオラ様が狙うのは、エドワード様のような明確な悪意を持つ方だけではないのかもしれません。無自覚に周囲を傷つけるタイプも、その対象に含まれるのではないかと」
「本当に厄介な嗅覚ね」
キャサリンがつぶやいた。
ある意味では、エドワードに対する制裁は財産の持ち逃げという形で、ビオラが代わりにやってくれるのだ。これまでのケースとは違って、ビオラには幸せな家庭を壊してやろうという悪意を感じられない。ベアトリスに対する露骨な敵意はないのだ。
――狂犬ビオラをどう扱うかが勝負。
ダメンズハンターとして、エドワードへの噛みつきのみを引き出せれば、ベアトリスを幸せにできる。そのためにはアーサーの言動を正さなければならない。その場限りの礼儀では、本心をビオラに看破される恐れが高かった。
「アーサー様に直接、会ってみるわ」
「場をご用意いたしましょうか」
「ええ。できれば自然な形で……フィリップ様の関係する集まりに、アーサー様も顔を出す機会はないかしら?」
エマが少しだけ考えてから、静かにうなずいた。
「明後日、画廊で小さな展示会があります。フィリップ様もご出品される予定で、アーサー様の家も子爵なのでご招待を受けているようです」
「ちょうどいいわね」
キャサリンが前を向いた。
馬車が石畳の上を、ゆっくりと走り続けた。
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