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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
6話 ベアトリス・ハルフォード

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50 雪の準備(2)

 ルシアン殿下への文を送ったのは、その日の昼のことだった。

 返事は夕刻に届いた。思ったよりも早い。


『明朝、時間を取ろう。王宮に来い』


 短い文だった。

 相変わらず、素っ気ない。

 だが、断らないということは、少なくとも聞く耳は持っているようだ。

 キャサリンは返事をエマに託してから、窓の外に目をやった。夕暮れの王都に、また雪が舞い始めている。


 翌朝、キャサリンは王宮の応接室へと通された。

 前回と同じ、執務棟の端にある小さな部屋だ。

 ルシアン殿下はすでに椅子に座っており、キャサリンが入ると鷹揚に顎を引いた。


「また来たな」

「お時間をいただきありがとうございます」


 キャサリンが一礼して、向かいの椅子に腰を下ろす。

 ルシアン殿下は口元に呆れるような笑みを浮かべていた。


「もっと前に頼めとは言ったが……また、ずいぶんな状態だな。いったい私に何を求めている?」

「会場の場にいてくれるだけでも十分かと」

「今回の話は、そのビオラ嬢に、私を当て馬のように使いたいということではなかったか?」


 そのとおりだが、まさか一国の王子を捕まえて、「はい、そうです」と言えるはずもない。キャサリンは黙ったまま柔和に微笑んだ。


「まあ、いい……。そのビオラ嬢、どのくらい鼻は利く?」

「相当なものかと」

「それならば、私よりも適任がいるので、そちらを代わりに出席させよう」

「殿下の代わりに……ですか?」


 キャサリンはとまどいながら、ルシアン殿下に尋ね返す。王位継承権1位の代わを務められる者など、とても思い浮かばなかったからだ。


「ああ。本人の性格と、愚兄が起こした問題ゆえにお披露目が遅くなってしまったがな」

「……まさか」

「そのとおりだ」

「第三王子のニコラス殿下!?」


 自分の仕掛けたサプライズが成功したと言わんばかりに、ルシアン殿下がにやりと笑う。


 ――噂には、三番目の王子がいるとは聞いていたけど……。


 ルシアン殿下が奥の扉に向かって声をかける。


「入って来い」


 ほどなくして、金髪の男性が現れる。年の数はキャサリンよりも4つほど若いだろうか。まだまだ少年のあどけなさを残した美少年だった。


「あ、兄上……」

「話は聞いていたな? 王族としての本格的な社交の前に、お忍びで場の雰囲気を感じ取っておくことは重要だ。それに、ハニートラップの1つや2つに慣れておいて損はないからな」


「はっ! しかし、兄上」


 ニコラス殿下は、ちらちらとキャサリンのほうを窺いながらおずおずと声を出す。


「さすがに僕も、今からハニトーラップを仕掛けますという婦女子を前にして、しどろもどろになることはないと考えます」


 ルシアン殿下が一度キャサリンを見て、その後、呆れたように実弟を見返した。


「……こちらはキャサリン・エルフェルト公爵令嬢。お前に妙なアプローチをする女生とは別物だ」


 かっと、ニコラス殿下の頬に朱が差した。


「こ、これはとんだ勘違いを。ゆ、許せ」

「いえいえ、構いませんわ」


 人間だれしもに傲慢さや冷静さ純真さはあるものだが、この兄弟はそれぞれに特化してしまっていると、キャサリンは内心で苦笑した。


「これが王族であると知る者は少ない。いくらビオラ嬢が用心深くても気取られることはないだろう。存分に使え」


 殿下が満足げに立ち上がる。話はそれで終わりだという合図だ。

 退室しようとしたキャサリンに、殿下がもう一言だけ投げかける。


「ベアトリス嬢はきちんと報われるとよいな」


 振り向くと、殿下はすでに窓の外を見ていた。


「……ええ、そうですわね」


 キャサリンは短く答えて、部屋を出た。

 廊下を歩きながら、先ほどの殿下の言葉を反芻する。


 ――きちんと報われるといいな?


 どこか遠くを見るような目つきで言われた言葉だった。

 その意味を考えようとして、キャサリンは首を横に振る。


 ――今は関係ないわ。


 急ぐべきことが、まだある。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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