47 未来視(1)
その夜、キャサリンは机に向かっていた。
エマから受け取った報告書に目を通しながら、頭の中で情報を整理する。
「……」
燭台の炎が、かすかに揺れた。
窓の外では、雪がまた降り始めている。
王都の夜は静かだった。
――まずは、エドワード様とビオラ嬢の関係を崩さなくっちゃ……。
ベアトリスが自分の言葉で立てるよう、土台を作る。
アーサーについては、ベアトリスが前を向いた後で考えればいい。
段取りは見えている。
それなのに、何かが引っかかっていた。
胸の奥から、小さな棘が刺さったような感覚が取れない。
――気のせいかしら?
ペンを置いたとき、意識が遠くなった。
✿✿✿❀✿✿✿
見知らぬ光景の中に、キャサリンは立っていた。
広間。
シャンデリアの光。
色とりどりのドレス。
どこかの夜会の会場だ。
――これは……。
タイムリープとは違う感覚だった。
自分の体が幽霊のように透けてしまっている。
声も出ない。
動けない。
だが、見ていることだけはできる。
――また、能力の暴走……?
それはすぐに悟ったが、違和感が拭えない。
冬のチャリティーボールだろうか。
慈善舞踏会は言葉どおり寄付を募るものだ。
もっと状況を把握しようと、キャサリンが視線を巡らせる。
会場の端の柱に、エドワードの姿があった。腕を組んで、どこかを眺めている。その表情は上機嫌とは言いがたく、何かを待っているような顔だ。その遠くに、エドワードのほうを窺っている人物が見える。
――まさか、あれは……私?
その人物とは、ほかでもなくキャサリンだった。
――チャリティーボールには、もちろん行ったことがあるけれど……。
キャサリンには、目の前の光景に思い当たる節がなかった。
過去ではないとすれば、考えられるのはひとつしかなかった。
――未来の光景……。
自分はそれを体験しているとでも言うのだろうか。
非合理的な考えが頭をよぎったが、すでにタイムリープ自体が超常の存在だ。深く気にするだけ損だろうと、すぐに頭を切り替える。
――ビオラ嬢はどこ?
キャサリンがその場で視線を動かすと、ほどなくして目星の女性が見つかった。
広間の中央。
華やかな朱色のドレスをまとった赤毛の令嬢が、笑顔で周囲の男性たちと話をしていた。まだ出会ったことはないが、彼女がビオラで間違いないだろう。ほかの令嬢たちとは、存在感が違う。そこには計算され尽くした華やかさがある。
近づきやすい笑顔。
しかし、その顔の下に、確かにキャサリンは策謀の気配を感じ取っていた。
――何をする気?
ビオラの視線が広間の一角に定まる。キャサリンも同じ方向を向いた。
青年だ。
二十代の半ばほどで、整った顔立ちに落ち着いた佇まいの青年が、そこには立っている。
社交の場には慣れているようだが、取り巻きを引き連れるタイプではなく、1人で物静かに舞踏会を楽しんでいる。
――あの方は……。
身に覚えはないが、心当たりならあった。
キャサリンの胸に嫌な予感が広がっていく。
あれはベアトリスの幼馴染のアーサーではないのか。
――あら……。まずいんじゃないかしら?
ビオラがアーサーと思しき男性に近づいていく。その動きはとても自然で、誰も訝しむことはない。とうの本人であってもだ。
アーサーが振り返り、ビオラは微笑んだ。
その笑みは、恐らくどんな相手にも使えるものだっただろう。
しかし受け取る側にとっては、自分のためだけに用意されたもののように感じられたはずだ。
アーサーが言葉を返す。
その声は、キャサリンのもとまでは届かない。
アーサーの表情は警戒しておらず、むしろビオラに興味を持ったようにさえ見えた。
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