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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
4話 リディア・ウルペッカ

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31 薬師として

 キャサリンは調合室の奥にある、小さな部屋に通してもらった。

 簡素な椅子と机。

 壁には薬草の束が吊るされていて、青みがかった香りが部屋に満ちている。

 エマは入り口近くに控え、2人の距離を適切に保つ。

 向かい合って座ったリディアは、警戒を隠していなかった。


 ――まあ、当然でしょうね


 そこは気にせず、キャサリンは告げる。そこに前置きはない。


「単刀直入に申し上げます。ランドール家が、あなたの研究を王宮に申請しようとしています。あなたへの相談なしに」


 リディアの表情が固まった。


「……。それをどうしてあなたが」

「知っているから、ここに来ました」

「どこから聞いたのですか」

「ここに足繫く通っているレナ嬢からですわ。もっとも、直接の面識はありませんので、ソフィア嬢からのまた聞きになりますが……」


 リディアの目に複雑な色が混じった。

 レナが動いてくれていたことへの驚き。そしてレナの名前が出たことへの、かすかな安堵。

 しばらく目を閉じて考えこんでいたリディアだが、やがては顔を上げてキャサリンを見つめ返す。

 そこに遠慮や媚びはない。

 対等に話をしようとしている、真剣なまなざしだけがあった。


「本当のことを教えてください。あなたはなぜ私に教えに来たのですか? 公爵令嬢が私のような者のために動く理由が、わかりません」


 核心を突く問いだった。

 キャサリンは少しだけ間を置く。

 タイムリープのことは言えないが、嘘をつくつもりもなかった。


「あなたの薬を待っている子どもたちがいます。その子たちに、本物の薬を届けてほしいのです。今のままでは、まだ薬とは言えないものが処方されてしまう。あなたが懸念しているとおりの未来です」


 リディアの目が、わずかに揺れる。


「……。それだけですか?」

「ええ、もちろん」


 リディアの名誉を回復することも、ヴィクターを成敗することも大事だが、最優先すべきは子供たちの命だろう。これを犠牲にしていいわけがない。


 リディアはしばらくキャサリンを食い入るように見つめていた。

 キャサリンが信じるに値する人間なのか、自分の目で判断しようとしている。

 やがて、リディアが言う。


「わかりました。話を聞かせてください」

「ありがとうございます。では、始めましょう」


 キャサリンは静かにうなずき、ソフィアとレナから聞いた情報を整理しながら伝える。

 セリーヌの動き。

 申請の経緯。

 王宮での発表がどのような形で進みそうなのかという予定。

 まだ、ソフィアとは話し合っていないが、リディアが直接確かめることはないだろう。


「……」


 リディアは黙って聞いていた。

 途中で感情的になることも、否定することもなかった。

 静かに一つひとつを飲み込んでいく。

 キャサリンが話しおえると、リディアは天井を見上げていた。


「自分の目でも確かめさせてください」

「もちろんです。いきなり婚約者を疑えというのも無理な話ですわ」


 キャサリンはあっさりと首を振った。


「そういうわけでは……」


 リディアが静かに息を吐く。

 それからゆっくりと立ち上がった。


「数日、時間をください」

「いいでしょう」


 キャサリンが答えると、リディアはもう一度キャサリンを見た。

 何かを言いかけて、途中でやめる。

 代わりに、深く一礼した。

 退店するリディアの背中を見つめながら、キャサリンは侍女に言葉を投げる。


「エマ、次に行くわよ」

「はい、お嬢様」


 やることは、まだたくさんある。


 ――でも、今度はすべて間に合わせるわ。


 キャサリンは前を向いたまま、静かにそう思った。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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