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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
8話(下) 面影のラグーシア

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122 過ぎ去りし日々(7)

 菓子やポットの問題を片づけたときには、時計が午後1時を回っていた。もうあまり時間は残されていない。


 キャサリン様の身支度を整えるべく、私は2階の主寝室へ向かう。


「あら、エマ」


 部屋に入ると、キャサリン様は鏡の前に座っていた。

 淡い藤色のドレスを身につけている。

 お茶会用としては華美すぎず、そうかといって地味でもない。ちょうどよい品の良さだった。


「キャサリン様、ご準備はいかがでございますか?」

「ええ、おかげさまで。あなたのほうこそ、大丈夫なの?」


 軽い口調でキャサリン様が振り返った。

 私は微苦笑を浮かべて応える。


「ご心配には及びません」

「フランツィスカは、私には甘いんだけれどほかの人には厳しいのよね。あまり気にしすぎないでね」


「肝に銘じます」


 キャサリン様が鏡の中の自分を見つめる。


「今日のお茶会、本当はあなたに頼みたかった仕事じゃないの」

「力不足で申し訳ありません」

「そういう意味じゃないわ。ローゼリアおば様って、少し癖のある方なのよ。あなたがうちに慣れるまでは、引き合わせたくなかったの」


 言葉の意味を理解する前に、キャサリン様が話を続けていた。


「でも、フランツィスカがどうしてもって、しつこく言うものだから……」

「……。メイド長のご判断であれば、異論はありません」

「困ったら、いつでも私のほうに目配せしてちょうだいね。ちゃんと助け舟は出すから」


 軽妙な調子の中に、確かな配慮が透けていた。

 主人が侍女に「助け舟を出す」などと告げる機会は、本来あるはずがない。しかし、キャサリン様は当然のように口にしている。


「ありがとうございます。キャサリン様のご迷惑にならぬよう、できる範囲のうちは自力で対処いたします」


 私の返事に、ややキャサリン様は不服そうに眉を寄せた。だが、すぐに表情を元の柔和な笑みに戻される。


 キャサリン様も十分に心配性ではないかと思ったが、もちろん口に出すまではしない。そのお姿に、あの人と同じものを感じて、少しだけ私の目頭が熱くなった。


 たった数日でホームシックになってしまうのだから、私は自分で思っているよりもずっと弱い人間だったようだ。




✿✿✿❀✿✿✿




 午後2時、招待客の到着が始まった。

 最初にいらしたのは、ヤイシュリン・ワーケンベルク様だ。

 桃色のドレスを身につけた、はつらつとした令嬢で、年は私より1回り以上も下になる。馬車から飛び降りるように出て来る姿は、貴族らしからぬ闊達さがあった。


「久しぶりね、キャサリン!」


 そのままキャサリン様に抱きつかん勢いだったが、ワーケンベルク家の執事にぎろりと睨まれたために、どうにか寸前で制止していた。不満げに自分のところの執事を見つめ返すが、日常茶飯事のようで、執事側に意に介した様子はない。


「ヤイシュリン嬢、相変わらず元気なのね」


 キャサリン様の声が、少しだけ柔らかい。幼馴染とのことだが、本当に気の置けない間柄なのだろう。次に到着したのは、ゾーラ様。落ち着いた藍色のドレスを身につけた、物静かな令嬢だった。


 挨拶は短い。

 だが、一つひとつの所作に気品がある。お辞儀の角度も、挨拶の流れも、典型的な令嬢の作法に忠実だった。


「お招きいただき、光栄です」

「ええ、いらっしゃってくださって嬉しいですわ」


 キャサリン様の応対もいくらか改まったものになっている。

 そして、最後にいらしたのがローゼリア様だった。

 お年の頃は50代の前半。

 深緑のドレスに、髪をきっちりと結い上げている。馬車から降りて来る姿には、長年社交界の中心にいた者特有の、ゆったりとした威厳があった。


 顔立ちには年相応の皺があるが、目の光はまだまだ若々しい。


「ようこそ、ローゼリア伯母様」

「ご機嫌よう、キャサリン」


 ローゼリア様は、軽くキャサリン様の頬に手を添えた。それを受けて、キャサリン様が子供のように目を細めている。仕草に2人の親密さがにじんでいた。


 直後、ローゼリア様がちらりと私に視線を向ける。

 見知らぬ侍女のことが気になったのかもしれない。

 私は急いで頭を低くした。

 お手数ですが、ブックマークと評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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