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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
8話(下) 面影のラグーシア

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119 過ぎ去りし日々(4)

 季節外れに長く続いた雨も、エルフェルト家での就職が決まった翌々日には上がっていた。

 持参した荷物を抱え、私は使用人のための通用口から、屋敷の中へと入る。

 最初の出仕だ。

 通用口の扉は、想像していたよりも頑丈な造りをしている。

 使用人の出入りにしか使われないとはいえ、公爵家の入り口。失われた実家の正門と同じくらいの厚みがあった。


「……」


 スケールの違いに、しばし目が点になる。

 扉を抜けて短い廊下を進むと、すぐに控え室があった。もっとも、そこはこじんまりとした部屋ではなく、10数人が同時に座れるほどの広さがある。私が以前世話になっていたミリアムさんの商家であれば、居住空間のほとんどがここに収まってしまうだろう。


「あらまあ、いらしたね」


 奥から声がかかった。

 よく通る声だ。

 耳に届く前に、空気に通り道を作っているような響きがある。

 声の主は控え室の中央辺りに立っていた。

 歳は私より2回りほど上。背丈は私よりやや低いが、体格はがっしりと恰幅が良い。屋敷の使用人服を一分の隙もなく着こなし、白髪の混じった頭髪をきっちりと結い上げている。


 眉は太く、唇は薄い。

 その目が、私の頭の先から足のつま先まで、素早く往復した。

 ふん、と短く鼻を鳴らす。

 不愉快そうな顔ではないが、好意的とも言いがたい。ただ、目の前のものを観察し、評価をくだす。淡々と作業を行っている顔だった。


「フランツィスカよ。当家のメイド長になるわ」


 名乗りには、無駄な飾りがない。私は荷物を置き、頭を下げた。


「エマと申します。本日よりよろしくお願いいたします」

「悪くない挨拶だね」


 メイド長は鷹揚にうなずいた。

 褒めたわけではなさそうだ。単に事実を確認したという口ぶりだった。


「お嬢様から話は聞いているわ。あなたを選んだのは、ほかでもないお嬢様ご自身。そこに口出しするつもりはないけれど――」


 含みを隠そうともしていない。

 私が選ばれたことを、メイド長は納得していないのだろう。もっとも、自分がどうして採用されたのかは、私自身にさえわからない。エルフェルト家ならば、もっと優秀な人材からの応募もあったのではないか。


「こちらの仕事に支障が出るようじゃ困るわ。先に言っておきたいのだけれど、お嬢様つきの侍女というのは、屋敷の中でも難しい持ち場になるの。相応の覚悟で臨んでほしいものね」


「一所懸命の精神で務めます」

「はりきって済む仕事ばかりじゃないんだけど……」


 微苦笑を浮かべたメイド長が、一瞬だけ遠い目をする。その表情には、長年屋敷を取り仕切ってきた者の、独特の重みがあった。


 厳しい言葉ではあったものの、嫌味の毒は薄い。慣れた相手に向けられる種類の口調なのだろう。新人でこそあれども、私を対等の使用人として扱おうとしている気配があった。


 その点はありがたい。


「部屋に案内するから、ついていらっしゃい」


 歩きながら、メイド長が屋敷の構造を簡潔に説明していく。

 曰く、使用人棟は屋敷の東側に位置する、と。主屋とは渡り廊下でつながっており、夜分でも雨に濡れずに移動できる。地下には食材庫と洗濯場。1階には台所と控え室があり、2階以上が私室になっている。もちろん、どちらも使用人のためのものだ。


 主屋のほうは、1階が応接間と食堂と書斎。2階以上が家族の生活空間になっている。屋敷の周囲には広大な庭があり、果樹園・花壇・池・馬場と、大抵のものが揃っていた。


 使用人の数は、現在およそ30名。料理人、洗濯係、庭師、馬丁、執事、メイド、専属侍女……それらの全員を、メイド長が統括している。


「わからないことがあれば、まずは私に聞きにいらっしゃい。留守のときはナリスター……副長に尋ねるといいわね。最初は何かと不慣れなことが多いでしょうけど、誰かに聞くことを恥ずかしがってはいけないよ」


 言葉そのものは親切だが、その裏には「聞かずに勝手なことをすれば許さない」という静かな圧力を感じた。

 お手数ですが、ブックマークと評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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