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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
8話(下) 面影のラグーシア

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114 過去を正す者、過去を汚す者(3)

 おもむろにビオラが外套の前を開く。

 下から、きらりと光るものが見えた。

 ナイフか、それに類するものだろう。


 ――ビオラ嬢……。


 最初から武器を携行しているというのだから、生半可な覚悟でこの場に現れてはいないに違いない。


 ラグーシアへと駆け寄ったビオラが、手に持ったナイフを振りおろす。今度はキャサリンの目にもはっきりと、それが人を傷つけるための道具であることがわかった。


 だが、ビオラの一刀はあたらない。

 ラグーシアはビオラの動きを完全に読み切っているようで、鮮やかにかわすと、代わってビオラの腕をひねり上げた。


「ぐっ……」


 ビオラが苦悶の声を漏らす。

 さすがに、異常な精度で男を篭絡できる魔性の女性であっても、武術の心得までは持ち合わせていないということか。


 ――逆に、ラグーシアが平然と対処していることが気がかりね……。


 キャサリンは冷静に現況を分析した。

 楽しそうな声を上げ、ラグーシアがなおもビオラに苦痛を与えた。


「うふふ、中々いい余興ね。でも、声を上げながら相手に向かっていく暗殺者はいないわ。あなたは全然、なっていない」


「……。ラグーシア……。よくも、よくもハインリッヒを……」


 憤怒の形相で、ビオラが悪女を睨む。

 手を放し、明後日の方向にビオラを追いやったラグーシアが、そのままキャサリンの侍女を投げ捨てていた。


「エマ!」


 慌ててキャサリンも駆け寄る。

 倒れこんだエマは、うつろな視線で周囲に視線を向けていた。


「ダミアン様……。どこに……?」


 壊れきったエマの姿を確認するや、ラグーシアが満足げにうなずく。


「また会いましょう」

「エマを元に戻しなさい!」

「それはあなたのやるべきことでしょう? もっとも、あなたの逆行であたしの面影に勝てるのかは疑問だけれど」


 くすくすと醜悪な笑みを浮かべたラグーシアが、黄緑色のドレスを翻しながら、通りを悠々と歩いていく。


 キャサリンは呆然とその姿を見つめるしかできなかった。

 立ち向かうには、あまりにも情報が不足していたのだ。

 できることなら、この相手には同じ目的を持った仲間がほしい。それもとびきり優秀な人間であることが望ましい。不本意だが、それはビオラになるのかもしれない。


 そう思ったキャサリンは、エマの体を壁にもたれかけさせると、ビオラを心配して近づいていった。


「ビオラ嬢……」


 手を差し伸べれば、目に涙を浮かべたビオラが自分のことを見返して来る。その涙は、決して男を落とすための色香として用いられるものではなく、純粋な悲嘆に満ちていた。


「……安い同情なんかいらないわ。私はあんたのことも大っ嫌いよ、キャサリン・エルフェルト。あんたは自分の侍女を救うことだけ考えていなさい! あの女は、刺し違えてでも私が殺すわ。邪魔なんかしたら、ただじゃおかないわよ」


 キャサリンの手をはねのけるようにして立ちあがったビオラが、ラグーシアのあとを追うように小走りで進んでいく。


「……。あなた1人じゃラグーシアを見つけることさえできないじゃない……馬鹿女」


 責めるようにキャサリンは独り言ちる。


 ――もっと素直に周りを頼りなさいよ……。


 つぶやきは、春の風に乗ってすぐに消えてしまった。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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