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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
8話(上) 逆行のキャサリン

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111 悼むべき命日(6)

 それはキャサリンの直観だった。


「エマ、そいつから離れなさい!」


 尾行していたことを明かしてでも、今すぐに対処するべきだと思ったのだ。

 それを受け、ギルバートも駆けだした。馬を呼んで来てくれるのだろう。

 通りの真ん中で、エマがゆっくりと振り返る。

 だが、すでにその顔には、見慣れた表情がない。

 無表情の代わりにあったのは、わずかに紅潮した頬と、輝くような瞳――そして、淡くほころぶ微笑みだ。


「お嬢様、聞いてください」


 声が明らかに弾んでいた。キャサリンのほうへと、エマが駆け寄って来る。

 人前で走るなと、口を酸っぱくして注意する侍女の行動だとは信じられない。


「エマ……」


 侍女がキャサリンの腕を取った。これもエマならば絶対にしない仕草だ。


「夫が生きていたんです」

「――ッ」


 言葉がうまく入って来なかった。


 ――嘘よ……。


 頭の中で言葉遅れて意味を結んでいく。

 早すぎる。

 そんなはずはない。

 まだ出会ったばかりではないか。

 こんなにも序盤で、すでにエマの中で歯車が狂っていたというのか。

 キャサリンは、エマの後ろに立つ女性を半ば睨むように見つめた。


「あら、怖いのね。エルフェルト家ともあろう者が、初対面の相手にそんな視線を向けるなんて、心外だわ」


 その声には、退屈そうな倦怠感と、底のない好奇心が同居していた。


「嫌ですわ、あなた。そんなかわいらしい言葉づかいだなんて」


 エマは体をくねらせて、恥ずかしげに抗議する。

 侍女の姿には一瞥もくれず、女性はエマを後ろから突き飛ばした。

 もはや乱暴にされることさえも喜ばしいのか、小さな悲鳴を上げたエマは、それでも恍惚とした表情で女性のことを見上げている。


 女性がにやりと笑った。


「前にもこういうことがあったの。ほんのちょっと小突いただけなのに、もうずいぶんとあたしに夢中になっちゃっていることがね。ふ~ん、そっか。そうなのね。ようやく合点がいったわ」


「な、何を言っているの?」

「あなた、見えているんでしょう。あたしのことが」


 驚くべきなのは相手のほうだというのに、なぜ自分のほうが息を飲んでいるのだろう。

 通りの喧噪が、急に遠くなった気がした。


「そうよね、あたしに力があるんだもの。ほかの人が持っていたって、別に不思議じゃないわ。能力同士がぶつかると、変なふうになっちゃうのね。出会ったばかりのこの女が、すでにあたしの虜なのは、一度もう術中にはまっているから。タイムリープしている人がいるのよね? それはほかでもなく、キャサリン・エルフェルト――あなたよ」


 今度こそキャサリンは何も言えなかった。

 誰にも話したことのない秘密を、易々と看破されてしまって平常心でいられるわけがない。


「初めまして、逆行。あたしはラグーシア。あなたと同じ、地獄から這い戻って来た者よ」


 視界の端で、出番を窺うように赤い髪がちらちらと動いていた。




   〈(下) 面影のラグーシアに続く〉

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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