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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
8話(上) 逆行のキャサリン

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110 悼むべき命日(5)

 命日当日の朝は、薄曇りだった。

 風は穏やかで、しかし日差しは雲に遮られている。春らしくもあり、春らしくもない、どちらにも振り切れない天気だ。


 キャサリンは普段着に近い装いを選んだ。

 目立ちすぎる衣装では、町でエマを尾行することはできない。あくまでも、ただの来訪客の1人として、通りに混じれるくらいの恰好が理想だ。


「ご準備が整いました」


 ギルバートが扉の前に立っている。

 キャサリン同様、こちらも一目で執事とわかる装いではない。地味な外套を羽織っていた。

 うなずき、キャサリンたちは裏口から屋敷を出た。


『今日の午後、少し出かけてもらえるかしら。王都の東側、リネン通りの仕立て屋に布地の確認を頼みたいの。指定の色見本と照合して、問題なければ受け取ってきてちょうだいな』


 エマに伝えた文言は変えていない。

 これであの日の全貌が見えて来るはずだ。




✿✿✿❀✿✿✿




 リネン通りは春の賑わいの中にあった。

 石畳の上を、軽やかな足取りで人々が行き交っている。色とりどりの反物が店先に並び、商家の主人が客と笑いながら値段交渉をしていた。


 キャサリンとギルバートは、通りの少し手前で馬車を降り、徒歩で進んでいる。


「お嬢様」

「ええ、わかっているわ」


 短く応じる。

 少し先に、エマの後ろ姿があった。

 いつもどおり背筋を伸ばし、布の包みを抱えて歩いている。寄り道する気配もなく、まっすぐに仕立て屋へ向かっているようだった。


 通りすがりに、何人かの商人がエマに会釈をする。エマも軽く頭を下げて応じていた。おおかた、屋敷の用事で何度か顔を合わせている相手なのだろう。


 仕立て屋の前で、エマがいったん立ち止まった。中には入らず、店先の反物に目をやってから、また歩き始める。


「……。確認は、もう済ませたあとなのかもしれませんね」

「長居をするほどの用件でもないもの」


 2人は距離を保ちながら、エマの後を追った。

 反対側からも、何人かの通行人が歩いて来る。

 エマが角を曲がった――その瞬間だった。

 侍女が突然、立ち止まったのだ。

 前から歩いて来た人物と、ぶつかりそうになったらしい。

 布の包みがわずかに傾いた。


「あっ、ごめんなさい!」


 キャサリンの位置からは、相手の顔がはっきりとは窺えない。

 うなずき、ギルバートとともに見える位置にまで移動した。

 キャサリンが尋ねるよりも早く、執事が狼狽するようにつぶやいた。


「そんな馬鹿な、ダライアス様?」


 その声は不自然なまでに固い。顔からは血の気が引いていた。

 まるで、見てはいけないものを見てしまったかのような顔だ。

 キャサリンは一度、目をつぶったあとで、じっと相手の姿に視線を向けた。


「……。ギルバート、念のために聞くのだけれど、それはエマのそばにいる人で間違いないのよね?」


「ええ……。お嬢様が驚くのも無理はありません。似ているなんてレベルじゃないですね。完全な生き写しですよ」


 キャサリンが胸中で盛大なため息をつく。


 ――本当に、ベアトリス嬢には感謝してもしきれないわ。


 もしも、事前に知らされていなければ、今頃は自分であっても困惑していて、エマたちの様子を観察するどころではなかったはずだ。


 ギルバートがダライアスに似ているといった人物こそが、ダミアンを名乗っている者に違いない。


 ――やっぱりか……。


 しかし、キャサリンの目に映ったのは、エマの亡き夫とは似ても似つかない。

 それどころか、男ですらなかった。

 胸元がぱっくりと開いた挑発的な衣装。

 腰まで流れる艶やかな髪に、口元に浮かぶのは蠱惑的な笑みだ。

 年のころは、自分よりもいくらか上になろうか。


 ――私のタイムリープと似た種類の力!


 ビオラ以上になまめかしい女性が、そこにたたずんでいた。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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