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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
8話(上) 逆行のキャサリン

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91 遡行する幻影(9)

 食事が始まると、場は一気に賑やかになる。

 話し上手な若者が場を引っ張り、笑い声が上がる。エマは盛り下げないよう、適切に相槌を打っていたが、内心では退屈さを感じていた。


 はす向かいのダライアスは、全く輪に入れていない。

 出席した手前、どうにか参加しようと心がけているのだろうが、タイミングがつかめないらしく、声を出しかけては引っこめている。


 不器用な男だ。

 そもそも、こんな場に出席すること自体が向いていない。

 自分と同じで仕方なく参加したのだろうかと、ぼんやりと考えごとをした直後だった。

 ダライアスがグラスに手を伸ばして引っかけ、中身を盛大にテーブルの上にこぼした。


「おわっ!」


 広がっていく水。

 隣の者が驚いて椅子を引く。ダライアスは真っ赤になって立ち上がった。


「た、大変失礼しました。ただ今、布巾を」


 エマはすでに動いていた。

 卓上の布巾を手に取り、こぼれた水を手際よく拭き取る。追加の布巾を店の者に頼んで、グラスを元の位置に戻した。一連の作業をたった十数秒の間にこなしている。


「……ありがとうございます」


 呆気に取られるようにして、ダライアスが小声で言った。

 顔がまだ赤い。


「お怪我はありませんか?」

「ないです。本当に、すみません」

「構いません」


 エマは短く答えて、前を向いた。

 場はすでに次の話題に移っている。

 ダライアスが小さくため息をついた。


「あなたは、慣れているのですか? こういう、とっさのことに……」

「仕事柄、そうなっているだけです」


 そっけなく返してから、エマは続きを待った。

 気まずさを埋めようとするなら、次に何か言うはずだ。


「……あの。仕事は、今も商家で帳簿を?」

「ええ、まだそちらに」

「そうですか。僕はガラス細工を。工房で修行中なのですが……」


 ダライアスが少しだけ声のトーンを落とした。

 修行中という言葉に、なんとなく気まずさが滲んでいる。この席には、独立した職人や商家の子息が多い。いまだに修行中の身というのは、引け目になるのだろう。


「吹きガラスですか、それとも別の技法を?」


 エマは少しだけ身を向けた。すでによく知った事情だったが、この程度のリップサービスであれば、誰が相手であってもする。


「吹きガラスが主です。あとは彫刻を少しばかり」

「難しそうな技術ですね」

「はい、本当に難度が高くて……。なかなか思うようにいってくれません」


 苦笑するダライアスの顔が、少しだけほぐれた。

 仕事の話になると、先ほどまでとは声の張りが違うことに気づく。特段、会話を続けるつもりはなかったのだが、ものはついでだと尋ねてみる。


「どのあたりが一番難しいですか?」


 エマが問い返すと、ダライアスはわずかに目を輝かせた。


「息の加減ですかね。強すぎると形が崩れてしまいますが、弱すぎても膨らまない。その日の気候や、ガラスの状態によっても変わるので、教本のようなわかりやすい正解がないんです。毎回、炉の前でゼロから向き合う感じでして」


「だから毎日、同じことをくり返しているんですね」


 言ってしまってから、エマは口をつぐんだ。ダライアスが少し驚いた顔をしている。


「工房の前を通ったことがありまして……失礼しました」


 エマが短く詫びると、ダライアスはつかの間、沈黙してから、困ったように笑った。


「見られていたんですね」

「通り道でしたので」

「……そうだとすると、僕が親方に怒鳴られているのも知っているんじゃありませんか?」

「ええ……まあ」


 ダライアスが天井を仰いだ。


「これは恥ずかしいな……。鼻息荒く語ってしまったのに、実態を知られていたんじゃ格好がつきませんね」


 呟いてから、それでもダライアスは口元に笑みを浮かべる。羞恥よりも、どこか清々しさのある表情だった。


「でも、やめようとは思わないんです。うまくいかないのは悔しいけれど……炉の前に立つたびに、今日こそはと奮い立ちます。その繰り返しで、少しずつ変わって来るものもあって」


 仕事の話をするダライアスは、別人のようだった。

 先ほどまでの頼りない様子が消えて、言葉に芯が通っている。

 エマはそのとき初めて、真剣にダライアスの顔を見た。

 すごく整った顔立ちではない。不細工ではないが、良くも悪くも普通の範疇を抜け出さないのだ。

 食事会はそれからも続き、エマとダライアスの間には、ぽつりぽつりと言葉が行き交った。話しかけるのは、どちらかといえばダライアスのほうが多かった。そこには、少なからずエマ側の遠慮と照れがあったのだが、無論、そんなことに気がつくダライアスではない。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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