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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
8話(上) 逆行のキャサリン

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85 遡行する幻影(3)

 この日のエマには、薬草の買い付けという用事があった。

 市場通りに入ったのは、昼をいくらか過ぎた頃合いだった。

 春の日差しが石畳を照らし、露店に置かれた色とりどりの品々を鮮やかに映えさせている。

 行き交う人々の声は重なり合って、通りに市場特有の賑やかさを満たしていた。

 薬草商で必要なものを揃えてから、エマは帰路につこうとした。怪我や病気ではない。一部の紅茶は薬草として売られているので、それを手にしているだけである。


 ふと、少し先の露店に、見覚えのある後ろ姿を見つけた。


「あの方は……」


 ダミアンだった。

 露店の前に立ち、商人と何事かを話している。

 様子が変だ。

 頼りない点は相変わらずだが、大人しい男にしては身振りが多すぎる。

 エマは足を止めた。

 耳を澄ましていれば、商人の声が風に乗って聞こえて来る。


「言いがかりはやめてもらいたいものだね。こいつは正真正銘、職人御用達の品だ。それをわかって買ったんじゃないのか?」


「それにしては素材が……」

「素材? あんた、時計師のくせにそんなこともわからないのか? 恥ずかしくないのかね」


 ダミアンは困ったように口ごもっている。

 商人は50がらみの、がっしりとした体格の男だ。声が大きく、立ち居振る舞いに慣れた図太さがある。内気なダミアンでは相手が悪いだろう。


 少し迷った末に、エマは足早に近づいた。


「何があったんです?」


 声をかけると、ダミアンが振り返った。

 その顔に、驚きと同時に安堵の色が浮かぶ。


「エマさん……。実は、先日こちらで買った時計の部品が、どうにも様子がおかしくて。返金をお願いしているのですが、応じてくれずほとほと参っているんです」


 ダミアンの手元に目をやった。

 小さな金属の部品が、布の上に整然と並べられている。

 軽く断ってから、手に取ってかざしてみる。


「……」


 素材の扱いは、侍女の仕事の中で自然と身についたものだ。

 金属の質感、重さ、光の反射加減などから、大体のところまでは類推できる。一目で粗悪品だと理解できた。


 一見すると、表面の加工は丁寧だ。

 しかし、芯の素材が明らかに安物だった。

 削れば崩れる。

 使えば歪む。

 精密な時計の内部に組み込んだところで、すぐに壊れて動かなくなるに決まっていた。

 エマは部品を布の上に戻し、商人のほうに向きなおった。


「職人御用達の高級品とおっしゃいましたか?」

「そうだぜ。何か文句があるか」

「ええ、確認したいことがあります。表面の加工に用いられている金属と、内部の素材が一致していません。職人御用達の品であれば、芯まで同じ素材を使うはずですね。内側を安物に替えた理由はなんでしょう? 騙して高く売ること以外にあるのなら、教えてください」


 商人の顔が、一瞬固まった。

 だがすぐに、鼻で笑う。


「何を言っているんだ。あんたは時計師でもないのに、そんなことがわかるのか?」


 エマは動じない。


「なるほど、私の言葉だけでは不十分かもしれませんね。お待ちください」


 エマが市場の中をさっと見渡した。

 視線が一点で止まる。

 3つ先の露店に、工具を並べた老職人が座っていた。


「では、あちらの方に、鑑定をお願いしてみましょう」


 商人の顔が、かすかに動く。

 エマはすでに歩き出していた。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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