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現代の効率厨、異世界で生産と経営を回して気づいたら領主の右腕  作者: てへろっぱ


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203/209

第203話 三つの町を一周する支払いを消したら、最後の荷車もいらなくなった

翌朝、地図の上には三つの丸と、三本の線が残っていた。


俺たちのいる町。


昨日まで試験していた、半日ほど離れた町。


そして北へ一日ほど進んだところにある、三つ目の町。


二町間だけなら話は単純だった。


こちらから向こうへ払う金と、向こうからこちらへ払う金を差し引き、差額だけを運ぶ。


昨日の試験では、両方向合わせて八万五百九十枚分あった支払いに対し、実際に街道へ出す必要があった銅貨は二千七百五十枚まで減った。


貨幣輸送用の荷車は五台から一台。


御者五人が一人。


護衛十人が二人。


それだけでも十分すぎる成果だった。


ところがユハが見つけた三本目の道を加えると、その二千七百五十枚さえ、本当に運ぶ必要があるのか分からなくなった。


「まず、町じゃなくて支払いを見る」


レイナが地図の横へ紙を置いた。


それは昨日まで何度もやってきたことだった。


町がどこにあるか。


誰が偉いか。


どの商会が大きいか。


そういう情報より先に、何がどちらへ流れているかを見る。


ブラントは昨日のうちに、参加商会から確認できる範囲の輸送記録を集めていた。北の町については全商会分ではない。こちらと取引量の多い商会と、半日先の町との取引が多い商会だけだ。


最初から全部集める必要はない。


一つでも輪が見つかれば、まずそこだけ試せる。


ミナが三本の線に数字を書き込んでいった。


半日先の町から、こちらへ。


昨日確定した差額、二千七百五十枚。


こちらから、北の町へ。


双方の支払いを二町間だけで差し引いた後でも、こちらから北へ八千四百三十枚。


北の町から、半日先の町へ。


同じように差し引いた後、五千九百六十枚。


フィンが三角形を順に目で追った。


「向こうからこっちへ二千七百五十。こっちから北へ八千四百三十。北から向こうへ五千九百六十……」


指先が地図の上を一周する。


「やっぱり回ってる」


そうだった。


全部ではない。


だが少なくとも二千七百五十枚分については、


半日先の町からこちらへ。


こちらから北へ。


北から半日先の町へ。


同じ額が三角形を一周できる。


もしそのまま払うなら、二千七百五十枚は三本の街道を順番に通ることになる。


もちろん、本当に同じ銅貨が一周するとは限らない。


それぞれの町にある別の銅貨を使うだろう。


けれど結果だけ見れば同じだ。


半日先の町は二千七百五十枚減る。


こちらの町は二千七百五十枚受け取って、二千七百五十枚払う。


北の町も二千七百五十枚受け取って、二千七百五十枚払う。


そして半日先の町へ、二千七百五十枚戻る。


三つの町を全部合わせれば。


誰の手元の銅貨も、その二千七百五十枚分については増えていない。


減ってもいない。


移動しただけだ。


フィンが地図から顔を上げた。


「じゃあ、動かさなくていい?」


「町全体ならそう見える」


俺が答えると、領主がすぐに聞いた。


「町全体なら、ということは、そのまま消してはいけないのか?」


「誰が誰に払う金なのかを確認しないと駄目です」


ここを飛ばすと危ない。


半日先の町がこちらへ二千七百五十枚払う予定だからといって、その町の商人全員の支払いを勝手に消せるわけではない。


こちらから北へ払う人間も別だ。


北から半日先へ払う人間も別。


町という大きな箱だけで見れば輪になっていても、中にいる商人はそれぞれ別の取引をしている。


領主府が勝手に、


「三町で帳尻が合ったから、皆さん支払い済みです」


とはできない。


それをやれば、今まで避けてきたものが全部戻ってくる。


町が商人の借金を肩代わりする。


領主府が決済を保証する。


誰かが払えなかった時、他の商人へ損が広がる。


便利そうに見えて、別の制度だ。


だから輪を見つけても、消すのは確認できた輪だけにする。


ブラントが取引記録を一件ずつ追い、しばらくして三枚の紙を机へ置いた。


「ちょうど追える組み合わせがあります」


一枚目。


半日先の町にある商会が、こちらの町の乾物商会から保存食を仕入れている。


今週の支払額。


三千百枚。


そのうち、昨日の相殺後に実際の町間移動として残っている額に含まれる。


二枚目。


こちらの乾物商会は、北の町から木箱と保存用の樽を仕入れていた。


支払額。


六千四百枚。


三枚目。


北の町の木工商会は、半日先の町から鉄製の留め具と道具を仕入れている。


支払額。


四千二百枚。


三者の中だけでも輪がある。


半日先からこちらへ三千百。


こちらから北へ六千四百。


北から半日先へ四千二百。


最も小さいのは三千百。


理屈の上では三千百枚分を三本すべてから消せる。


ただし昨日、半日先の町からこちらへ町全体で残っていた差額は二千七百五十枚だ。


それ以上をこの輪だけで消すと、今度はこちら側から半日先へ逆方向の支払いが必要になる。


今回消せるのは二千七百五十枚まで。


レイナが数字を書き直した。


半日先からこちらへ。


二千七百五十から、零。


こちらから北へ。


八千四百三十から、五千六百八十。


北から半日先へ。


五千九百六十から、三千二百十。


フィンが紙をじっと見る。


「半日先からこっちへ来る、昨日の一台が……ゼロ?」


「この輪に参加する商会が全部了承して、三町の記録が一致すれば」


「昨日、最後の一台だったやつだよね?」


「ああ」


二日前には五台だった。


昨日、一台にした。


今日は、その一台を走らせなくて済む可能性が出てきた。


けれど、ここで急いでは意味がない。


俺たちは三商会へ、同じ内容の確認票を作った。


誰に対して、いくら支払う義務があるか。


そのうち、今回三町相殺へ入れる額はいくらか。


相殺後、自分の支払残高はいくらになるか。


誰か一人が「理解していない」「嫌だ」と言えば、その輪は使わない。


領主府が強制もしない。


手数料も取らない。


参加しない商会は、今まで通り銅貨を払えばいい。


最初に確認したのは、こちらの乾物商会だった。


主人は紙を読み、しばらく考えた。


「私が北へ払う六千四百枚のうち、二千七百五十枚を払わなくてよくなる」


「はい」


「代わりに、半日先の商会から受け取る三千百枚のうち、二千七百五十枚も受け取らない」


「そうです」


「差し引きすると、私の手元には?」


「本来と同じです」


主人は自分でも計算した。


半日先から三千百枚を受け取り、北へ六千四百枚払うなら、差額は三千三百枚の支払い。


相殺後は、半日先から受け取るのが三百五十枚。


北へ払うのが三千六百五十枚。


やはり差額は三千三百枚。


変わらない。


「借りるわけではない?」


「違います」


「支払いを来週へ回す?」


「今日の支払いとして終わります」


「誰かが私の代わりに払う?」


「それも違います。三つの確定済み支払いの同じ部分を消すだけです」


主人はもう一度紙を見て、それから笑った。


「だったら、銅貨二千七百五十枚を受け取って、数えて、また別の袋へ入れて送り出す仕事が消えるわけですな」


「そうなります」


「参加します」


半日先の商会からも了承が届いた。


北の木工商会も同じだった。


ただし北の商会から、一つ質問が戻ってきた。


《相殺したことを、どう証明するのか》


そこは必要だった。


銅貨を渡さない以上、後から誰かが「まだ払ってもらっていない」と言い出した時に困る。


だから、三町相殺に使った部分には、三枚とも同じ番号を付けることにした。


番号自体に価値はない。


持っていても買い物はできない。


他人へ渡しても使えない。


単なる照合番号だ。


三者の確認票に、


《三町相殺 二七五〇 同一番号》


と記録する。


三枚が揃わなければ成立しない。


一枚だけでは支払い済みにならない。


さらに、それぞれの元の取引記録にも同じ番号を記す。


あとから争いが起きたら、その番号だけ追えばいい。


新しい帳簿を一冊作る必要はない。


領主府が全履歴を持つ必要もない。


当事者三者が自分の記録を持つ。


ブラントが確認した。


「領主府側には何を残しますか?」


「試験結果だけ。どの番号で何枚相殺したかだけでいい」


「取引明細は?」


「商会側」


「商品名も?」


「要らない」


領主府に情報を集めれば集めるほど、保管と管理の仕事が増える。


必要な時に追えるなら、普段は持たない方がいい。


三町から最終確認が届いたのは二日後だった。


数字は一致した。


二千七百五十。


三者とも同じ。


支払期限も同じ週。


すでに成立している取引だけ。


未来の売上は入っていない。


借金の延長もない。


条件が全部揃った。


そこで昨日準備していた貨幣輸送を止めた。


半日先の町から、こちらへ来るはずだった一台。


二千七百五十枚。


御者一人。


護衛二人。


朝。


いつもなら荷車が到着する時刻になっても、門には何も来なかった。


遅れているのではない。


事故でもない。


最初から出ていない。


フィンが門の外を眺めた。


「何も来ないね」


「それで正解」


「成功したのに、見るものがない」


「運ばない改善だからな」


荷車が速くなったなら、速く走る姿を見せられる。


積載量を増やしたなら、大きな荷を見せられる。


新しい倉庫を作ったなら、建物が残る。


今回は何もない。


走るはずだった荷車が走っていない。


働くはずだった護衛が別の場所にいる。


消費するはずだった馬の餌も減っている。


成果が「存在しない」。


けれど数字を見ると、その大きさははっきりした。


三町相殺。


今回消した支払い、二千七百五十枚が三方向。


街道上で省略された貨幣移動。


合計八千二百五十枚分。


そのうち半日先からこちらへ来る貨幣輸送は、二千七百五十枚から零。


荷車一台。


御者一人。


護衛二人。


宿泊、零。


輸送用の封印袋、零。


道中で盗まれる可能性も、その一台については零になった。


さらに三町全体では、二町間相殺まで済ませた後に残っていた貨幣移動一万七千百四十枚分が、八千八百九十枚まで減った。


三つの町をまとめて見ただけで、さらに八千二百五十枚分が消えたことになる。


フィンが数字を二度見した。


「二町だけで見ると、これ以上減らせなかったんだよね?」


「そう」


「三町にしたら、また半分近く消えた」


「輪になっていた分があったからな」


「じゃあ四つの町なら、もっと消える?」


その質問に、俺はすぐ頷かなかった。


町を増やせば必ず減るわけではない。


支払いが一方向だけなら輪はできない。


締め日が違えば混ぜられない。


取引の確認方法が違えば、数字を合わせる仕事の方が大きくなるかもしれない。


参加者が増えすぎれば、一件の間違いを追うのにも時間がかかる。


「輪があればな」


それが答えだった。


数を増やすことが目的ではない。


消せる往復や循環を見つけることが目的だ。


領主も同じことを考えていたらしい。


「三町相殺所を作る、ではないのだな?」


「今は作りません」


「担当部署も?」


「要りません」


「毎週必ず三町で精算する決まりも?」


「作りません」


「輪が見つかった時だけ?」


「その方がいいです」


領主は満足そうに頷いた。


最近、この確認が早い。


何かがうまくいったからといって、すぐ制度へ固定しない。


使える時に使う。


使えない時は使わない。


それだけでも維持する仕事は大きく違う。


夕方には、空いた御者と護衛の行き先も決まっていた。


貨幣を運ぶはずだった御者は、翌日に北へ出る木材便へ回った。


荷車一台も同じ便へ使う。


護衛二人のうち一人はその木材便。


もう一人は、最近荷量が増えていた南街道の定期便へ。


仕事を奪ったわけではない。


銅貨を往復させるためだけの仕事から、商品を運ぶ仕事へ移った。


ゼフが夕方の記録を持ってくる。


「木材便、今まで積み残していた分を追加で載せられる」


「どれくらい?」


「荷車一台分。そのまま」


銅貨を運ばなくしたことで。


今度は木材を多く運べる。


貨幣輸送を消した結果が、生産側の輸送量へ返ってきた。


ミナも数字を追加した。


「明日の木材搬入量は通常より約十八パーセント増える見込みです。新しい荷車を購入したわけではありません」


フィンが笑った。


「お金を運ぶのをやめたら、物が増えた」


「使う場所を変えただけだけどな」


「でも前は、必要だと思ってお金を運んでたんでしょ?」


そうだ。


誰も怠けていなかった。


誰も間違った仕事をしていたわけではない。


自分の支払いだけを見れば、貨幣を運ぶのは当然だった。


だが範囲を少し広げると、別々の正しい仕事が全体では無駄になっていることがある。


一店舗。


一市場。


一つの町。


二つの町。


三つの町。


見る範囲を広げるたび、今まで必要に見えた仕事の中から、消せるものが見つかった。


今日の結果を一枚へまとめる。


三町間で確認できた支払いの輪、二千七百五十枚分。


三方向合計で八千二百五十枚分の貨幣移動を省略。


二町間相殺後に残っていた町間貨幣移動一万七千百四十枚分を、八千八百九十枚まで削減。


半日先の町からこちらへの貨幣輸送は二千七百五十枚から零。


荷車一台削減。


御者一人削減。


護衛二人削減。


新貨幣、零。


貸付、零。


支払延期、零。


領主府保証、零。


中央保管、零。


新設部署、零。


空いた荷車は木材輸送へ転用。


翌日の木材搬入量、約十八パーセント増加見込み。


領主が最後まで読んだあと、地図を眺めた。


三角形のうち一本には、もう貨幣輸送の印がない。


「これで終わりなら、ずいぶんきれいなのだが」


フィンがすぐに反応した。


「それ言うと、また来るよ」


「何がだ?」


「次の問題」


領主が笑った。


今回は俺も入口を見た。


誰も来ない。


ブラントもいる。


ユハもいる。


ゼフもいる。


全員この部屋だ。


「今日は大丈夫そうだな」


そう言った直後、レイナが地図を見たまま口を開いた。


「問題、見つけた」


外から来る必要はなかった。


フィンが両手で顔を覆う。


「レイナだった」


彼女が指していたのは、三町の外側だった。


さらに西。


地図の端に近いところ。


領外へ続く街道。


「ここ、貨幣が出ていく方が多い」


「何の支払い?」


ブラントが記録を確認する。


「塩、金属材、それから一部の薬品です。領外商人への支払いが中心ですね」


「戻ってくる支払いは?」


「かなり少ないです」


それでは相殺できない。


少なくとも、同じ相手との支払いだけを見れば。


ところがレイナが指したのは、その街道ではなかった。


王都方面へ伸びる別の道。


こちらから王都へ商品を出し、代金を受け取っている。


一方。


西の領外商人の中には、王都から大量の商品を仕入れている者がいるらしい。


こちらから西へ。


西から王都へ。


王都からこちらへ。


また一つ。


地図の上に大きな輪ができる。


ただし今度は。


領内の三つの町ではない。


領外の商人。


王都。


別の領主。


違う帳簿。


違う確認方法。


今までとは桁が違う。


領主も笑うのをやめた。


「これは、勝手には触れんな」


「ですね」


三町なら、同じ領内で記録方法を合わせられた。


今度はそうはいかない。


相手には相手の仕組みがある。


こちらが効率的だからという理由だけで、変えろとは言えない。


それでも。


もし向こうも同じだけ貨幣輸送へ困っているなら。


こちらから制度を押し付けるのではなく。


数字だけ見せることはできる。


俺は報告書の一番下へ、今日最後の一行を書いた。


《領内で消せた貨幣移動を、領外へ説明した場合、相手にも利益があるか》


三つの町を一周する銅貨は、途中で消せた。


次に見るのは。


こちらだけでは決められない相手との無駄だった。

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