第185話 印は分かればいい。領主府のお墨付きにはしない
朝。入口は暗く、灯り二基も低いままだった。返却棚には三箱。一番、二番、三番とも異常0。物理箱3、穴札12、朝値変更0。
昨日は、全部の部品へ固有番号を刻む案を0にした。
必要なのは番号そのものではない。問題が起きた時に、同じ原因を持ちそうな物まで辿れることだ。
工房印。
納入日。
仕入れ先。
製造時期。
それで足りるなら、新しい番号は要らない。
ただ。
最後に一つ残った。
《工房印が重複したら、追跡できない》
そこで今朝。
市場側の机。
紙。
三枚。
《製造者印・領主府登録制度》
《登録済工房印一覧》
《未登録印使用禁止案》
フィンが三枚を順番に見て、最後の一枚だけ少し持ち上げた。
「もう禁止まで行ってる」
ミナが隣から覗く。
「登録料もある」
「誰が取るの?」
「領主府」
レイナ 「0」
細身の商人 「まだ説明していない!」
今日もいる。
革帯の男まで、工房印を押した木札を二十枚ほど持ってきている。
革帯の男 「今回は追跡のためだ! 昨日、工房印が役に立った。それなら印が誰の物か分かる状態にしておくべきだろう!」
レイナ 「分かるのはいい」
男 「なら登録!」
「誰に?」
「領主府に!」
「なぜ?」
男が止まる。
フィン 「そこ毎回来るな」
革帯の男はすぐ立て直した。
「領主府なら全領を一元管理できる!」
ミナ 「管理する人」
「一人でいい!」
ブラント 「工房は現在確認できるだけで百三十七」
男 「……二人!」
フィン 「増えた」
ブラントは続ける。
「個人工房を含めればさらに増えます。印を持っていない職人もいます」
革帯の男 「なら印を作らせる!」
全員 「0」
男 「話が進まない!」
まず。
本当に困っている重複があるかを見る。
ブラントが既存の取引帳と工房印の控えを調べる。
完全一致。
2組。
似ている。
7組。
読みにくい。
11。
フィン 「思ったよりある」
細身の商人 「ほら!」
レイナ 「完全一致2」
ブラント 「はい」
一組目。
丸の中に槌。
北村。
《赤炉鍛冶》。
もう一軒。
南寄り。
同じく丸の中に槌。
《赤炉鍛冶》。
フィン 「店名まで同じ」
革帯の男 「登録制度必須!」
レイナ 「困ったことある?」
ブラントが確認する。
取引先。
違う。
北赤炉。
主に井戸金具。
南赤炉。
主に農具。
納入先も。
ほぼ重ならない。
過去。
誤認。
0。
ミナ 「同じだけど困ってない」
細身の商人 「今後困る!」
レイナ 「困ったら変える」
男 「後手!」
北赤炉の工房主。
呼ばれている。
印を見て。
「俺は変えてもいいぞ」
フィン 「軽い」
工房主 「南の方が古いらしいからな。槌の横に点一個足す」
革帯の男 「正式変更届を!」
工房主 「誰に?」
「領主府へ!」
「取引先に言えば終わりだろ」
終わった。
二組目。
四角の中に輪。
片方。
車輪工房。
片方。
金物商。
こっちは。
一度。
誤認あり。
ブラント 「昨年、金物商から仕入れた輪留めを、車輪工房製と勘違いして帳面へ記載した事例が一件あります」
フィン 「実害は?」
「0です。支払い照合時に訂正」
細身の商人 「実害が出る前に制度を!」
レイナ 「この二軒は困ってる?」
金物商 「俺は変える」
車輪工房主 「別にどっちでも」
金物商 「じゃあ俺が輪の下に線一本」
レイナ 「終わり」
革帯の男 「それを誰が保証する!」
金物商 「俺と取引先」
「領主府が把握しないと!」
「領主府、俺から毎月釘買うのか?」
「買わない」
「じゃあ何で」
男が黙った。
午前。
似ている印。
七組。
全部見る。
一組。
星と槌。
星と小槌。
見れば違う。
問題0。
一組。
三本線。
三本線。
ただし。
片方は木工。
片方は革。
商品が全く違う。
誤認0。
一組。
文字一字。
削れ。
押すとほぼ同じ。
こちらは。
同じ荷車部品を扱う二工房。
問題になりそう。
レイナ 「変える?」
若い工房主 「うちは始めたばかりだから変えます」
もう一方 「助かる」
終わり。
登録0。
禁止0。
一元管理0。
でも。
混同しそうな当事者同士。
話す。
必要なら印を少し変える。
これで足りる。
細身の商人は不満そうに、登録一覧案を机へ戻した。
「領主府が一覧を持てば、誰でも照会できる」
女商人 「私は取引先の印なら自分の帳面に書いてありますよ」
男 「全工房を?」
「取引しない工房まで覚えて何に使うんです?」
フィン 「強い」
女商人 「荷を追う時に必要なのは、私が買った相手です」
レイナ 「それ」
誰も。
領内全部の工房印を。
毎日使わない。
鍛冶工房。
自分の仕入れ先。
商人。
自分の取引先。
村。
自分が買った部品。
必要な範囲で。
自然に分かる。
そこへ。
本当に追跡問題が出たら。
帳面をつなぐ。
それでいい。
午後。
実例。
荷車連結金具。
昨日の未確認1。
戻ってくる。
異常0。
対象8。
最終。
亀裂2。
正常6。
事故0。
その金具。
工房印。
南鍛冶。
ただし。
同じ南鍛冶印を。
別の小工房が。
昔。
一時使っていたことが分かる。
フィン 「え」
ブラント 「親方が独立する前、同じ親方印を持ち出して使っていたようです」
革帯の男 「ほらあああ!」
今日は一番大きい。
レイナ 「今も?」
ブラント 「三年前に変更済みです」
「今回の金具」
「今年納入」
「なら関係0」
革帯の男 「過去部品なら!」
「納入時期見る」
「印だけでは足りない!」
「昨日からそう言ってる」
印。
一個。
だけで。
全部決めない。
工房印。
納入日。
仕入れ先。
材質。
帳面。
必要な情報を。
組み合わせる。
だから。
《登録済印だけが正しい》
にすると。
逆に弱い。
印さえ正しければ。
物まで正しいと思われる。
そこ。
次の椅子が見えた。
案の定。
細身の商人が別紙を出す。
《登録工房印付き製品=正規製造品》
フィン 「来た」
レイナ 「0」
男 「なぜだ!」
「印は製造元情報」
「正規品の証明だろう!」
「違う」
昨日。
正常標本。
新品でも内部欠陥。
あった。
印が正しくても。
欠陥品は欠陥品。
印がないから。
使えないとも限らない。
村鍛冶が。
自分で作った金具。
印0。
でも。
仕事に合っていて。
問題なく使える。
細身の商人 「では偽物はどうする!」
女商人 「他人の印を勝手に押したら、それは偽装でしょう」
レイナ 「そこは別」
他人の印を。
故意に使う。
相手の商品だと偽る。
これは。
既存の詐欺。
取引問題。
それで処理できる。
新しい《工房印法》。
いらない。
ブラント 「既存の商取引規則で、製造元の虚偽表示は扱えます」
革帯の男 「印専用罰則!」
全員 「0」
男 「分かってた!」
さらに。
実際。
一件。
持ち込まれる。
市場商人。
安い井戸金具。
有名工房の印。
ただし。
妙に浅い。
鍛冶工房主が見る。
「うちの印じゃない」
フィン 「偽物?」
「似せてる」
売った商人。
呼ばれる。
本人。
青い顔。
「仕入れた時から付いていた」
仕入れ先。
行商。
名前。
分かる。
購入数。
十。
販売済み。
六。
在庫。
四。
ここで。
印登録制度がないから。
追えない?
違う。
商人の仕入れ帳。
売上帳。
残っている。
六人。
分かる。
レイナ 「回収」
四在庫。
止める。
販売六。
連絡。
確認。
うち。
五。
普通。
一。
ひび。
使用停止。
事故0。
鍛冶工房主 「材も悪い」
ブラント 「虚偽表示と品質問題として既存商取引処理へ」
細身の商人 「登録印照合があれば防げた!」
女商人 「毎回全部の商品を領主府一覧と照合するんです?」
男 「高価な物だけでも!」
レイナ 「必要なら買う側が確認」
「領主府確認証を――」
「0」
同じ。
公が。
全部の取引へ。
《本物》。
を押さない。
買う側が。
重要なら。
工房へ聞く。
仕入れ先を確認する。
有名工房も。
自分の商品へ。
分かる印を付ける。
偽装が起きたら。
普通に追う。
その方が。
狭い。
夕方。
今日の数字。
工房印完全一致2組。
当事者変更2。
似印7組。
追加変更1。
領主府登録0。
全工房印一覧0。
印使用許可0。
登録料0。
正式製造者認定0。
正規品扱い0。
偽装疑義1。
対象10。
在庫停止4。
販売済6。
確認6。
品質異常1。
使用停止1。
事故0。
既存商取引処理へ。
領主へ。
報告。
領主は偽装された金具を手に取った。
「これは印を偽ったのか」
鍛冶工房主 「俺の印に似せています」
領主 「なら登録制度があれば防げたのでは」
レイナ 「押すのは止められない」
領主 「……確かに」
フィン 「登録しても偽物は偽物を押す」
領主 「では登録印一覧で照合」
女商人 「毎回?」
領主 「……しないな」
少し。
考える。
領主 「重要な取引なら製造元へ確認する。普通の取引なら仕入れ先を残す。偽装があれば追う」
レイナ 「うん」
「印は何のため?」
「誰が作ったか分かるため」
「領主府が正しさを保証するためではない」
レイナ 「満点」
フィン 「今日も強い」
領主 「最近この満点が少し嬉しくなってきた」
レイナ 「0」
領主 「そこは0なのか?」
フィンが笑った。
ブラントは帳面を閉じかけて、また一枚取り出す。
「次があります」
フィン 「今日も?」
「はい。今回の偽装品は、有名工房の印に似せて売られていました」
ミナ 「名前の価値」
ゼフ 「信用」
ブラント 「そこで工房側から、『自分たちの印を勝手に使わせないため、正式な専用印と使用権を認めてほしい』という要望が出ています」
フィン 「印を登録しない話から、今度は印の権利?」
レイナ 「誰が困ってる?」
ブラント 「主に名前が売れている工房です」
女商人 「それは商売としては分かります」
細身の商人 「印の使用権を売れる!」
革帯の男 「またお前は!」
レイナ 「明日見る」
夜。入口は暗く、灯り二基も低い。返却棚の三箱にも異常はない。
本日。
工房印登録制度1。
成立0。
完全一致2組。
自主変更2。
似印7組。
追加変更1。
領主府印台帳0。
印番号0。
印許可証0。
登録料0。
登録印付き正規品扱い0。
工房印。
製造元情報として継続。
偽装疑義1。
対象10。
在庫停止4。
販売済確認6。
品質異常1。
使用停止1。
事故0。
虚偽表示。
既存商取引処理。
追加専任者0。
穴札12。
朝値変更0。
補修班許可段+1。
印は。
役に立つ。
誰が作った。
どこから来た。
それを。
追いやすくする。
でも。
印がある。
だから。
良品。
ではない。
印がない。
だから。
偽物。
でもない。
同じ印で。
本当に困るなら。
当事者が変える。
他人の印を。
勝手に使ったなら。
普通に偽装として扱う。
領主府が。
全部の工房へ。
《この印は本物》
とお墨付きを出さなくていい。
レイナ 「今日も一つ」
フィン 「工房印を0にしなかった」
ミナ 「公的登録を0」
ゼフ 「追跡は残った」
ユハ 「事故0」
ブラント 「次は印そのものの権利です」
フィン 「勝手に使われたくない、は普通に分かる」
ミナ 「でも使用権が売買され始めると」
女商人 「商売にはなりますね」
レイナ 「そこを見る」
俺は板へ一行だけ残した。
工房印の完全一致2組・類似7組を領主府登録0のまま当事者間で必要分だけ変更し、偽装品10も既存の仕入れ・販売記録から全件追跡して品質異常1を使用停止、事故0。印は製造元を追う情報として残し、公的な正規品認定にはしなかった。次は、その印を勝手に使われないための「印の権利」をどこまで公が持つ必要があるかを見る。




