第137話 次は返した場所へ
朝。入口は暗いまま。箱壁も返却棚も灯りも触らない。外変化0。
返却箱が三つ落ちる。
一つ目。補修班内。
二つ目。いつもの金物屋。
三つ目。昨日初めて使った東通りの金具工房。
三箱とも返却。破損0。遅延0。
穴札12。机出し0。朝値変更0。
フィン 昨日使った場所から、全部戻ったな。
ミナ だから今日も三つ出せる。
ゼフ 別の場所が欲しがったら?
レイナ 空きがない。
フィン 金を多く出しても?
レイナ 関係ない。
ミナ 今日の進捗は?
レイナ 次は返した場所へ。
フィン 同じ場所に戻すのか。
レイナ 必要なら。
ゼフ 必要じゃなければ空く。
レイナ うん。空いた分だけ別へ。
ミナ 共同注文で箱の行き先を奪えない。
レイナ そう。
ミナが紙を一枚だけ置く。外から見えない位置。理由は書かない。
次便は返却元へ 不要なら空き1 共同注文0 予約0 新規箱0 説明無し
箱を使った場所が返す。
返した場所が今日も必要なら、同じ箱が戻る。
今日は要らないなら、その一箱だけ空きになる。
誰かが十箱欲しいと言っても増えない。
複数の工房をまとめても増えない。
金を先に積んでも増えない。
箱の数は三つ。
三つが戻ったから、三つが出る。
フィン これなら商人が注文をまとめても意味がないな。
ミナ 注文数じゃなく、返却箱の数で出る。
ゼフ 商人の倉庫へ一度集める案も?
レイナ 返却元じゃない。0。
フィン でも一か所にまとめた方が運ぶのは楽だぞ。
レイナ 運ぶのは楽。箱が消える。
ミナ 倉庫から先を見られなくなる。
レイナ 値段も変えられる。
フィン 効率だけ見たら負けるやつか。
レイナ 途中を増やす効率は嫌い。
補修班工房へ行く。
補修班内で使った一箱は、今日も必要だった。
補修班頭 昨日と同じ物を一つ。
レイナ 返却元。必要1。
補修班の若いの 今日は新しく三つ作るんですか。
ミナ 返却三つ。全部使える。
若いの じゃあ作るのは?
レイナ 0。
若いの 仕事が無い。
補修班頭 刃を研げ。
若いの 研ぎすぎるなって言われます。
レイナ 軽く。
若いの 軽く研ぐって難しいんですよ。
フィン 余計な物を作るよりいいだろ。
若いの 箱が全部戻ると、補修班が暇になりますね。
レイナ 壊れない方が正解。
補修班頭 職人に向かって、それを言うか。
レイナ 壊すために作ってない。
補修班頭 まあ、そうだな。
一箱目は補修班内へ戻る。
新しい札なし。手続きなし。
返却された箱が、同じ用途へ落ちるだけ。
次は金物屋。
ブラントが市場から戻ってくる。
朝値を伝えに行っただけなので、手には紙も箱もない。
ブラント 金物屋は今日は不要だそうです。
レイナ 空き1。
フィン 理由は?
ブラント 聞いていません。
レイナ 正解。
ミナ 不要なら空き。それだけ。
ゼフ その一箱を別の工房へ流せる。
レイナ 今日使う場所だけ。
三つのうち、一つが空いた。
予約表は作らない。
希望者一覧も作らない。
昨日欲しかった者を優先する札もない。
今日使う場所があれば、今日の空き一つを流す。
なければ戻す。
フィン 希望者、昨日だけで何人いた?
ブラント 少なくとも五工房です。
ミナ 選ぶと揉める。
レイナ 選ばない。使う場所が来る。
フィン 五つとも今日使うって言ったら?
レイナ 箱1。
フィン だから誰に?
レイナ 箱が着いた時に使う所。
ゼフ 未来の在庫は0。
ミナ 代理も0。
レイナ 今日の使用だけ。
フィンが少し考える。
書類で申告させれば簡単だ。
だが紙なら、全員が急ぎになる。
全員が今日使うと書く。
全員が困っていると書く。
紙で選ぶと、紙が上手い者が箱を取る。
なら現場の動作で見る。
箱が着いたら、その場で用途へ落とせる場所。
使わず保管するなら対象外。
昼前。来た。
昨日の女商人。
その後ろに工房主が四人。
荷車は一台。昨日の空車より小さいが、三箱は積める大きさ。
女商人 昨日のお話を受け、使用者本人を連れてきました。
レイナ 多い。
女商人 皆さん、本当に補修材を必要としています。共同で六箱注文します。
レイナ 共同注文0。
女商人 使用先は四か所です。用途も確認できます。
ミナ 当日空き1。
女商人 残りは明日以降で構いません。予約します。
レイナ 予約0。
女商人 では、毎朝四人が来いと?
レイナ 来なくていい。
女商人 必要な箱をどう受け取るのです。
レイナ 空きが出た日に、今日使う場所へ。
女商人 空きが出たことをどう知るのです?
レイナ 知らなくていい。
女商人が初めて言葉を止めた。
フィン 確かに、知らなきゃ取りに来られないな。
ミナ 取りに来るから代理になる。
ゼフ 箱側から使う場所へ行く。
女商人 誰が使用先を決めるのです。
レイナ 今日の動作。
女商人 説明になっていません。
レイナ 説明無し。
四人の工房主が顔を見合わせる。
そのうち一人が前へ出た。
革細工の金具を扱う小さな工房らしい。手には外れた留め具と、使い込まれた作業袋。
革具工房主 こいつの留め具が足りない。今日中に直して、夕方の便へ載せたい。
レイナ 使用場所は?
革具工房主 工房。ここから二つ先の通りだ。
レイナ 箱が着いたら?
革具工房主 すぐ使う。
レイナ 空き1。直送。
女商人 待ってください。
女商人が一歩前へ出る。
女商人 共同注文の代表は私です。代金もまとめて支払います。箱はこの荷車へ。そこから各工房へ届けます。
レイナ 集中受取0。
女商人 個別に運ぶより早い。子供便の負担も減ります。
フィン そこだけ聞くと正しいんだよな。
ミナ 荷車から先が見えない。
女商人 私が責任を持ちます。
レイナ 責任者0。
女商人 なぜです?
レイナ 責任を置くと紙が増える。
女商人 記録が必要なのは当然でしょう。
レイナ 当然が椅子。0。
女商人はすぐに別の言葉へ移る。
女商人 では、運送だけ請け負います。所有権は各工房のまま。
レイナ 途中渡し0。
女商人 箱には触れません。荷車に載せるだけです。
ゼフ 載せるには触る。
女商人 言葉尻を取らないでください。
レイナ 箱を取らないで。
フィンが横を向いて肩を震わせた。
女商人 笑うところではありません。
フィン 悪い。短すぎて刺さった。
ミナ 当日空き1。使用先直送。
女商人 他の三工房は?
レイナ 今日は0。
工房主の一人 明日なら?
レイナ 明日の空き次第。
別の工房主 予約は?
レイナ 0。
工房主 毎日取り合いになるじゃないか。
レイナ 取り合わない。箱が行く。
工房主 だから、どうやって選ぶ。
レイナ 今日使う動作がある所。
工房主 全員あると言ったら?
レイナ 返却元が先。空きだけ別へ。
ミナ 今ある空きは1。
ゼフ 増やさない。
フィン 欲しい数で箱は増えないってことだ。
女商人 需要が増えているのに、供給を増やさないのですか。
レイナ 今は増やさない。
女商人 商機を捨てています。
レイナ 箱を守ってる。
女商人 工房の成長も止めます。
レイナ 箱一つで止まる成長は、先に止まる。
フィン 今日は刺すな。
ミナ でも正しい。
女商人の後ろにいた工房主の一人が、黙って列から離れた。
木工房主 うちは今日じゃなくてもいい。予備に置きたかっただけだ。
レイナ 0。
木工房主 分かってる。必要になった日に頼む。
ミナ 頼むじゃない。空きがあれば直送。
木工房主 面倒だな。
フィン 余計に抱え込むよりはいい。
木工房主 それもそうか。
二人目も手を上げる。
鋳物工房主 うちは明日の作業用だ。今日使うわけじゃない。
レイナ 今日は0。
鋳物工房主 明日空きがあれば頼む。
レイナ 予約0。
鋳物工房主 ……明日また聞く。
レイナ 聞かなくていい。
鋳物工房主 じゃあ、どうすればいい。
ブラント 市場の使用数はこちらで拾います。実際に必要な日だけ伝えてください。箱の確約はありません。
鋳物工房主 確約が無いのか。
ブラント 箱が戻らなければ出ません。
鋳物工房主 それなら仕方ないな。
紙で集めた六箱の需要が、言葉を削ると一箱になった。
今日使う一箱。
明日使う一箱。
予備が一箱。
先の仕事用が三箱。
女商人がまとめなければ、今日必要なのは一箱だけだった。
フィン 共同注文6が、当日使用1になった。
ミナ 残り5は未来の椅子。
レイナ 予約0。
女商人 需要を先読みすることは悪ではありません。
レイナ 悪じゃない。箱がない。
女商人 必要になるまで何も準備しないと?
レイナ 準備は工房がする。箱の確保はしない。
女商人 同じでは?
レイナ 違う。
女商人 説明を。
レイナ 説明無し。
フィン そこは最後まで言わないんだな。
革具工房主が朝値分を自分で払う。
女商人の袋には触れない。
共同資金も預からない。
ブラント 当日空き1。朝値。用途一致。
レイナ 使用先直送。
革具工房主 工房で待つ。
レイナ 待たない。作業してて。
工房主 着いたらすぐ使う。
レイナ 正解。
工房主は帰る。
女商人は荷車の横に立ったまま。
女商人 空の荷車を帰すことになりますね。
レイナ うん。
女商人 非効率です。
レイナ 持ってきたのはそっち。
フィン 今日は本当によく刺すな。
ミナ 荷車0。終わり。
女商人は何も言わず、荷運び人へ合図した。
荷車は空のまま帰る。
四工房をまとめるはずだった商談も、当日使用一件だけを残して消える。
昼。三箱が出る。
一つ目。補修班内。
二つ目。昨日と同じ東通りの金具工房。今日も必要1。
三つ目。空きから革具工房へ。
金物屋は今日不要だったため、箱は戻らない。
その箱が新しい使用先へ移る。
ミナ いち、内側。
子供 いち!
ミナ に、東通り金具。
子供 に!
ミナ さん、革具工房。
子供 さん!
レイナ 速歩き。途中渡し0。
子供たち 終わり!
共同荷車はない。
代表者もいない。
三箱は三方向へ分かれる。
フィン まとめた方が移動距離は短い。
レイナ うん。
フィン それでも分ける。
レイナ 使う場所で落とす。
ミナ 帰りも使用場所から戻る。
ゼフ 箱の行き先と返却元が一つになる。
レイナ 次もそこへ出せる。
フィン なるほど。今日の進捗は配送じゃなくて、次の便を決める仕組みか。
レイナ うん。
革具工房へ着いた三番の箱は、その場で開けられた。
工房主は外れた留め具を作業台へ置き、補修材を一つ取り出す。
子供 さん!
革具工房主 三、受け取った。
子供 終わり!
子供が離れる。
工房主はすぐ作業へ入る。
倉庫へ置かない。
女商人へ渡さない。
予備棚へ積まない。
用途へ落ちる。
少し離れた角に、左肩が擦れた男がいた。
今日は近づかない。
空の袋を持ち、工房から出てくる箱を待っている。
ゼフ 出口待ち1。
フィン 入口で取れないから、使い終わった後を狙うのか。
ミナ 中身が余れば買う。
レイナ 余りは戻す。
作業が終わる。
補修材は一箱分、ちょうど使われた。
工房主が返却箱を持って外へ出る。
左肩の男 空箱なら俺が戻してやる。
革具工房主 便に返す。
男 同じことだろ。
工房主 お前に渡したら次が来ない。
男 誰がそんなことを言った。
工房主 返した場所へ次が来るんだろ。
レイナ 正解。
男 また出てきたな!
フィン 工房主、もう覚えてるぞ。
ミナ 運用が外で勝手に守られ始めた。
ゼフ 説明してないのに。
レイナ 損で覚えた。
男が空箱へ手を伸ばす。
工房主は争わない。箱を抱えて逃げない。
ちょうど来た帰り便の子供へ、そのまま落とす。
工房主 三、返却。
子供 さん!
男 待て!
子供 速歩き! 終わり!
箱は戻る。
男の手には何も残らない。
左肩の男 空箱一つで何が変わる!
フィン 次の一箱が変わる。
ミナ 返却元が行き先になる。
レイナ 途中受取0。
男 そんな勝手な決まり、誰が、
レイナ 紙にしてない。
男 なら決まりじゃないだろ!
レイナ 箱が戻った。終わり。
男は言葉を続ける場所を失った。
工房主は作業へ戻る。
子供便は角を曲がる。
観客がいない。
午後。三箱が戻る。
補修班内1。
東通り金具工房1。
革具工房1。
今日不要だった金物屋からは戻らない。
戻す箱がないからだ。
返却元が一つ入れ替わった。
新しい箱は増えていない。
新しい帳面もない。
ゼフ 返却3。
ミナ 内側1、金具1、革具1。
フィン 明日も全部必要なら、同じ三か所へ。
レイナ うん。
フィン どこかが不要なら、その一箱だけ空き。
レイナ うん。
ミナ 共同注文で順番を取れない。
ゼフ 金で予約もできない。
レイナ 返す動作だけ。
夕方。ブラントが市場から戻る。
ブラント 共同注文の話は、かなり小さくなりました。
レイナ 数字は。
ブラント 共同要求6。当日使用1。集中受取1と代理払い1は成立0。返却3。
ミナ 他の工房は?
ブラント 予備1、翌日使用1、先の仕事3でした。今日必要ではありません。
フィン 女商人が六つに見せてただけか。
ブラント 需要をまとめた、と言えば嘘ではありません。
レイナ 今日の数じゃない。
ブラント はい。市場では、箱を返した工房には次も届く、という話が出ています。
ゼフ 噂になった。
ミナ 否定する?
レイナ しない。
フィン 今回は本当だから?
レイナ 本当でも説明しない。箱を返せば分かる。
領主へ数字だけ。
ブラント 当日数3。返却元継続2。空き移動1。共同要求6は当日使用1。集中受取0。
領主 新しい箱は。
レイナ 0。
領主 予約は。
レイナ 0。
領主 良い。需要を紙で膨らませるな。返した者へ戻せ。
フィン 工房が固定されませんか。
領主 不要と言えば空くのだろう。
ミナ 空きだけ別の使用先へ流します。
領主 なら問題ない。噂は嫌いだ。
レイナ 正解。
領主 今日は言わないと思っていた。
レイナ 期待を裏切らない。
フィン そこだけ律儀だな。
夜。灯りは二基。低く地味に足元だけ。入口は照らさない。外変化0。
三箱は返却済み。
明日の行き先は、明日の使用数で決まる。
予約札なし。
共同注文表なし。
集中受取箱なし。
新しい荷車なし。
穴札12は腰袋のまま。
朝値変更0。
補修班の許可段+1もそのまま。
箱をまとめれば、仲介する者が流れを握る。
箱を使う場所へ分け、そこから返せば、次の行き先は返却動作だけで決まる。
注文の声ではない。
先払いの金でもない。
未来の予定でもない。
今日、使って返した場所へ次を出す。
俺は板に一行だけ残した。
共同要求6を当日使用1まで削り、返却元継続2と空き移動1で三箱を使用先から直接戻した。




