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現代の効率厨、異世界で生産と経営を回して気づいたら領主の右腕  作者: てへろっぱ


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134/210

第134話 余りは戻す


朝。入口は暗いまま。箱壁も返却棚も灯りも触らない。外変化0。

補修班返却3。遅延なし。対象外なし。穴札12。

数字は揃っている。問題は、その先に出た。


補修班へ許可を一段拡大してから、修理の戻りが明らかに早くなった。

壊れた道具が溜まらない。作業台の空きが増える。炉前の待ちが減る。

効率が上がった。そこまではいい。


効率が上がると、人は余った時間で余計なことを始める。


フィン 補修班、朝から仕事が無いって顔してたぞ。

ミナ 仕事が早く終わっただけ。

ゼフ 終わったなら帰ればいい。

レイナ 帰らない。作り足す。

フィン ああ、職人って暇になると勝手に何か作るよな。

レイナ 余りが出る。

ミナ 今日の進捗は、それ?

レイナ 余りは戻す。

フィン 作らせない、じゃないんだな。

レイナ 作っていい。流さない。


止めると燃える。

作るなと言えば、技術を軽んじた、仕事を奪った、職人を縛ったと椅子が立つ。

なら作らせる。

ただし、許可した数を超えた分は、その日の流れへ入れない。余りは同じ箱で戻す。理由は書かない。誰が余らせたかも書かない。


ミナが紙を一枚だけ置いた。


用途パック 当日許可数まで 余りは同箱で翌便戻し 追加説明無し


フィン 翌便に回すんじゃなく、戻すんだな。

レイナ 回すと増える。戻すと寝る。

ゼフ 新しい保管箱は作らない。

ミナ 同じ箱に戻して、同じ位置へ。

レイナ 外変化0。


これまで相手が狙ってきたのは、穴札、腰袋、返答札、停止札。

全部、運用の入口だった。

今日は違う。入口を破れないと分かった相手は、出口を膨らませる。

許可を増やせ。急ぎだ。足りない。現場が困っている。

言葉で量を増やし、余りを外へ溢れさせる。


溢れた物は、勝手に売れる。

売れれば転売になる。

転売が出れば公開、監査、責任、管理表。椅子が一気に並ぶ。


だから今日は、敵より先に余りを寝かせる。


昼前。補修班工房から若いのが来た。

いつもの三箱ではない。両腕に三箱。背中側の荷台に二箱。合計五つ。


フィン 増えたな。

補修班の若いの 早く終わったんで、ついでに二つ。

レイナ 余り2。

若いの 使えませんか。

レイナ 戻す。

若いの 壊れてないです。

レイナ 知ってる。戻す。

若いの 出来はいいです。

レイナ 見ない。戻す。


若いのが珍しく食い下がる。

いつもなら、止まると面倒なんで、で終わる男だ。

だが自分で作った物は別らしい。箱を抱えた腕に力が入っている。


補修班の若いの 同じ寸法です。穴も合ってます。

ゼフ 合ってる。

若いの なら、

ミナ 当日許可数まで。

若いの 余ったら?

レイナ 同箱で戻す。

若いの ……翌便?

レイナ 翌便も数まで。

フィン 毎日余らせたら、毎日帰ってくるぞ。

若いの それは嫌だな。

レイナ 作る数を覚える。

若いの ……分かりました。


怒らない。

余計に作るなとも言わない。

戻ってくるのが面倒なら、自然に数を合わせる。損で止める。

若いのは追加の二箱を荷台へ戻した。手渡しはない。新しい棚もない。返却理由の紙もない。


フィン 職人の自尊心、折らずに戻したな。

ミナ 折ると燃えるから。

レイナ 作った物は悪くない。数が余り。

ゼフ 物と運用を混ぜない。

補修班の若いの 聞こえてますよ。

フィン 悪い。

若いの でも、数を覚えればいいだけなんで。

レイナ 正解。


ほのぼのはそこで終わるはずだった。

終わらなかった。


市場からブラントが早足で戻ってきた。

走ってはいない。走ると見物が増えるからだ。だが歩幅がいつもより広い。


ブラント 急ぎ札が回っています。

ミナ 外札?

ブラント 札というより注文です。補修材を今日中に十。領主名義と書いてあります。

フィン 十? いきなり雑だな。

レイナ 紙は?

ブラント 七枚。書き手は三人。文面は全部違います。

ミナ 椅子を七脚。

フィン 座る気満々。

レイナ 凍結。数だけ。


ブラントが紙束を一枠へ置く。手渡しにはしない。

ミナは読まない。領主名義という文字にも反応しない。紙束は既存の凍結送りへ滑る。


ブラント 内容を確認しなくていいんですか。

レイナ 領主なら数字で来る。

ミナ 紙七枚は領主じゃない。

フィン 領主、紙を七枚も書くくらいなら本人が一言で済ませるもんな。

ブラント それはそうですね。

レイナ 急ぎ0。余りは戻す。


急ぎという言葉は便利だ。

急ぎと言えば、数を飛ばせる。

安全と言えば、説明を引き出せる。

善意と言えば、受領を作れる。

どれも椅子だ。


相手は、補修班が余分に二箱作ったのを見ていた。

余りがあるなら急ぎに回せ。

回した瞬間、許可数が崩れる。

崩れた瞬間、外札でも流せる前例になる。


前例は一度でいい。

一度できれば、次からは椅子を並べるだけで増やせる。


入口の外に、左肩が擦れた男が現れた。

今日は道具を持っていない。代わりに人を連れている。荷運び人が四人。空の荷車が一台。


左肩の男 急ぎの注文だ。余ってる二箱を出せ。

フィン 出せって言った瞬間、椅子。ここ椅子ない。

男 実物があるだろ。補修班が持ってきたのを見た。

レイナ 余り。戻す。

男 余ってるなら使えばいい!

ミナ 当日許可数まで。

男 現場が困ってる!

レイナ 困ってるは言葉。

男 領主の注文だぞ!

ブラント 数字が来てません。

男 紙に書いてある!

ミナ 紙は寝た。

フィン 七脚まとめて凍結。終わり。


男の顔が歪む。

穴札を真似ても通らない。

腰袋にも触れない。

紙も読まれない。

なら現物を荷車に積んで既成事実を作る。運び出した瞬間、出荷になる。出荷になれば受領が生える。受領が生えれば署名と責任が生える。


男が荷運び人へ顎を振った。

荷車が一歩前へ出る。


ユハが無言で位置を変えた。

道を完全には塞がない。

荷車が入れば、返却の流れとぶつかる幅だけ残す。


荷運び人 通れないぞ。

左肩の男 端へ寄せろ!

フィン 寄せたら返却が止まる。

男 少しくらい止めろ!

レイナ 止めない。

男 急ぎだ!

レイナ 急ぎ0。


荷車を押し込めば、自分たちが邪魔になる。

引けば、運び出せない。

止まれば観客になるが、観客が止まれる幅はない。

ユハは一言も発さず、荷車の角度だけを腐らせた。


そこへ子供便が来た。

いつもの三つ。番号だけ。

荷車の前で止まりそうになった子供へ、レイナが短く言う。


レイナ 戻るな。横。

子供 横!

ユハが半歩ずれる。子供一人と箱一つだけ抜けられる線が開く。

荷車は通れない。子供便は通れる。


子供 いち!

次の子供 に!

最後の子供 さん! 終わり!

フィン 荷車だけ綺麗に詰まったな。

レイナ 大きい物は止まる。小さい流れは通す。

ミナ 箱の勝ち。

左肩の男 ふざけるな!


男は荷運び人に二箱を直接取りに行かせた。

補修班の若いのが持ち帰ろうとしている余りだ。

奪わせない。捕まえない。

箱を守るために人を止めると、対立が燃える。

なら箱を動かす。


レイナ 夜便へ。

補修班の若いの 今?

レイナ 今は戻す。夜に同じ位置。

若いの 了解。


若いのは二箱を荷台から降ろさないまま方向を変えた。

出す物が消えたわけではない。

戻るだけ。

追えば、相手が補修班工房まで付いていく形になる。覗きになる。覗きは外の目にも分かりやすい。


左肩の男 待て!その箱は注文分だ!

補修班の若いの 余りです。

男 なら置いていけ!

若いの 戻します。

男 理由は!

若いの 止まると面倒なんで。

フィン 強い。

レイナ 正解。


若いのは速歩きで離れる。走らない。

荷運び人たちは箱のない荷車だけを押したまま残る。

空の荷車は、椅子より目立つ。

何を取りに来たのか、何も積めなかったことまで外から見える。


見せ場を作りに来た側が、空振りを見せる形になった。


男は焦って紙を出した。

追加許可申請。緊急出荷票。領主代理の署名欄。

だが紙は箱。読む前に寝る。


ミナ 凍結送り。

男 読め!

レイナ 読まない。

男 領主の名前がある!

ブラント 数字がありません。

男 名前の方が大事だろ!

領主 私はそうは思わんな。


入口の外に、領主が立っていた。


誰も呼んでいない。

護衛を並べてもいない。

市場へ向かう途中で、空の荷車と騒ぎを見つけただけらしい。


左肩の男の顔が一瞬で変わった。

男 領主様。ちょうどよかった。こちらは領主様の緊急注文を、

領主 私は頼んでいない。

男 ですが、こちらに名義が、

領主 数字は。

男 紙に、

領主 数字は。

ブラント 注文0。紙7。余り2。

領主 なら0だ。

レイナ はい。

領主 噂は嫌いだ。私の名を紙に増やすな。

ミナ 凍結済みです。

領主 良い。


領主はそれだけ言って歩き出した。

事情を聞かない。紙も見ない。

左肩の男を捕まえろとも言わない。

数字だけ見て、数字だけで切った。


フィン 本人登場は反則だろ。

ブラント 数字で来ると言った通りでしたね。

レイナ 領主は早い。

ミナ 紙七枚より一言。

ゼフ 燃えない。


左肩の男は荷車を引いて帰るしかなかった。

誰も追わない。

紙の名義を誰が書いたかも聞かない。

荷運び人を責めない。

距離だけ残して終わらせる。


午後。補修班工房へ行くと、若いのが余り二箱を同じ位置へ戻していた。

棚を増やしていない。

新しい札も付けていない。

同じ箱の中へ戻し、蓋を閉めただけ。


補修班頭 余ったか。

若いの 二つ。

補修班頭 出来は。

若いの 良いです。

補修班頭 なら明日使えばいい。

レイナ 当日許可数まで。

補修班頭 分かってる。

フィン 揉めないんだな。

補修班頭 無駄になってないからな。戻っただけだ。

ミナ それが正解。

補修班の若いの 明日は二つ作らなくて済みます。

レイナ もっと正解。


余りを捨てない。

没収しない。

外へ流さない。

翌日の仕事を減らす形で戻す。

職人は損をしない。運用も崩れない。


今まで相手は、こちらの守りを壊そうとしてきた。

今日は初めて、こちらの成果を利用しようとした。

効率が上がったから余りが出た。

余りが出たから外へ流したくなった。

だが成果ほど静かに寝かせないと燃える。


夕方。ブラントが市場から戻る。


ブラント 緊急注文の話は消えました。

フィン 領主本人が0って言ったからな。

ブラント 代わりに、補修班は余裕があるらしい、という話が出ています。

ミナ それは?

ブラント 悪い話ではありません。ただ、注文を増やそうとする店が出ます。

レイナ 増やさない。

フィン 需要が増えても?

レイナ 当日許可数まで。

ミナ 余りは戻す。

ゼフ 箱は同じ。

ブラント 了解です。市場には数だけ返します。


領主へも数字だけ。


ブラント 補修班返却3。余り2。緊急注文0。外紙7。

領主 良い。余った物を外へ出すな。値が崩れる。

フィン 噂だけじゃなく、値段も見てるんだな。

領主 当然だ。安く溢れれば職人が潰れる。高く煽れば客が荒れる。どちらも面倒だ。

レイナ 数を固定する。

領主 そうしろ。噂は嫌いだ。


夜。灯りは二基。低く地味に足元だけ。入口は照らさない。外変化0。

余り二箱は補修班工房の内側。同じ位置。同じ箱。

新しい棚はない。新しい許可もない。

明日の便で、許可数の中に混ざって出てくる。昨日の余りだったことは外から分からない。


穴札は12。

腰袋は二重紐、二枚布、内張り、防滴、遮熱。

だが今日は腰袋を狙われなかった。

守りが固くなったから、相手は成果へ手を伸ばした。


次は物ではなく、値段を動かしてくるかもしれない。

安く買う。高く売る。急ぎを作る。

紙ではなく市場に椅子を立てる。


レイナ 次、値段。

フィン やっと腰袋から離れたな。

ミナ マンネリだった。

ゼフ 長かった。

レイナ 必要だった。終わり。

フィン お前、自分で言うのかよ。


少しだけ笑いが出た。

笑っても止まらない程度の短いやつ。

箱は流れ、返却は落ち、余りは戻る。

今日は守る物が札から成果へ変わった。


俺は板に一行だけ残した。

補修班の余り2を同箱で翌便へ戻し、偽緊急注文0と外紙7を凍結して許可数を崩さなかった。


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