159話 日常に帰ってみた
「…………やった、のか……?」
一方、地上では――。
全ての人々が、呆けたように空を見上げていた。
……耳鳴りがしそうなほどの静寂。
先ほどの盛大な花火を最後に……地上をびりびりと震わせていた音が、衝撃が、光が……。
突然……ぴたり、とやんだのだ。
それと同時に、地上で暴れていたモンスターたちも光の粒子となって消滅し……。
そして、先ほどの爆発の衝撃で吹き飛んだ、禍々しい暗雲の切れ間から――。
――……ぱぁぁぁ……ぁぁぁ……ぁぁぁぁ……っ……。
と、まばゆい光がさしこんできた。
その光の中、砕け散った隕石の破片たちが、美しい流星群となって空を彩っていく。
それは、まるで……人類の勝利を祝福するかのような光景で――。
「…………綺麗……」
「……る?」「……終わった、のか?」
「か、勝った……で、ありやがりますか……?」
誰もがいまだに状況を飲みこめず、その場に立ち尽くす。
しかし、しばらく待ってみても……なにも起こらない。
いつまで経っても、隕石は降ってこない。
――――この世界は……終わらない。
………………。
じわじわと、人々の間に『理解』が広がっていく。
広がって……広がって……広がって……そして――。
「「「「「「――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……ッッッ!!」」」」」」
国や世界を超えて、同時に歓声が爆発したのだった。
「や……やった……勝った! ローナが、勝った!」「むぉおおっ! ローナのやつ、本当にやりやがったのじゃあああっ!!」「……くすくす……まあ、当然ね……」「うおおおおおんっ! 我が使徒ぉおおおうおおおんっ!」『ちくわ大明神』「ははっ、さすがローナさんだなぁ」「……ふん」「「「……神ィッ!!」」」【ぴぃ~っ✜ 鼓動が止まるかと思ったのデス✜】〘――最高の〈撮れ高〉だと――推測されます――〙「あははははっ! 勝利の美酒よっ!」「「るー♪」」「「どわっほい!」」「ふ、ふん……まあ、褒めてやってもいいわ」「わからせ完了ですね、救世主様!」「ふっ……完全勝利UCであるな、ローナ殿」「ようやく終わりましたのね……わたくしの寿命がストレスでマッハでしたわ……」(……ゲームクリアなり)…………。
武器を取り落として、へなへなと泣き崩れる人々。近くの誰かと抱き合う人々。空に向かって、ぶんぶんと手を振る人々……。
それらの人々の感情はやがて、ひとつの名前へと集約されていき――。
「「「「「「――ローナっ! ローナっ! ローナっ!」」」」」」
今、この瞬間……国や種族や世界のを超えて。
世界中の気持ちが、完全にひとつになったのだった――。
◇
「……あははっ……やったぁ……」
一方、ローナはというと。
そんな地上の騒ぎを、通話画面越しに聞きながら。
へろへろと力なく――しかし、満足げに笑っていた。
「……か、勝ったぁ……ちゃんと、守れたんだ……世界……」
その実感がじわじわと、今さらながらにわいて来て……。
ローナは空中で、ぐっと拳を握りしめる。
それはそうと――。
「あ、そうだった」
と、ローナはそこで大切なことを思い出した。
「勝ったときは、相手に向かって屈伸するのがマナーなんだよね!」
というわけで、ローナが消滅した隕石へと向けて、高速で屈伸をしていると――。
〈@Crowd:ローナですさん、おつです〉
「あ、名無しの大剣使いさん」
以前にフレンドになった“ぷれいやー”から、チャットが飛んできた。
姿は見えないが……おそらく、先ほども一緒に隕石と戦ってくれていたのだろう。
〈@Crowd:隕石戦、最高でした〉
〈@Crowd:人生最高の思い出になりました〉
〈@Crowd:それで、なんで屈伸を?〉
「え? ああ、これは隕石さんへの手向けです! いぇ~い、隕石さん見てるぅ~?」
〈@Crowd:やめなよ〉
とまあ、それはさておき。
それよりも、ローナは彼に聞いておきたいことがあった。
「あの、それで……私、サ終を止められましたかね?」
〈@Crowd:え?〉
〈@Crowd:うーん……〉
〈@Crowd:これでサ終を止めるのは無理ですかね〉
「えぇっ!?」
なんか、すごくあっさり否定されてしまった。
……が。
〈@Crowd:ただ、無駄ではなかったと思います〉
〈@Crowd:これだけバズりましたからね〉
と、彼は言葉をつけ足した。
〈@Crowd:インターネットの力は強いですよ、こういうときは〉
〈@Crowd:これを見て、あの運営が大人しく終わりにするとも思えませんし〉
〈@Crowd:だから、この世界はきっと大丈夫〉
「……?」
彼がなにを言っているのか、いまいちわからなかったが……。
「とりあえず、インターネットの力は最強ってことですね!」
それだけは完全に理解したローナであった。
〈@Crowd:あ、そろそろ、ここから追い出されそう〉
〈@Crowd:それじゃあ、最後にローナですさん〉
〈@Crowd:この世界はどうしようもないクソゲーだけど〉
〈@Crowd:それでも、やっぱり……私もこの世界が好きなので〉
〈@Crowd:だから――〉
〈@Crowd:この世界を救ってくれてありがとう〉
その言葉を最後に、彼はこの世界からログアウトした。
それと入れ替わるように――。
『……ロ……ナ! 生き……るか!?』
『……ローナちゃ……大丈……!? 返事……て!』
「あ、みんな」
通話画面からノイズまじりの声が聞こえてくる。
どうやら、さっきのインターネットキックの負荷のせいか、通信が不安定になったようで……地上にいる仲間たちが、ローナの安否を気にかけているらしい。
「うん、みんなが待ってるし、早く帰らないとね! ファストトラベル――イフォネの町!」
…………かくして。
世界を揺るがした隕石との戦いは、ここに幕を閉じ――。
ローナはふたたび、仲間たちとの平和な日常へと帰っていくのだった。
◇
一方、その頃、イフォネの町の前では――。
さっきまでの歓喜ムードにわいていた草原は、今はお通夜のような空気に包まれていた。
「……ローナ」
「あやつ……返事がないのじゃ」
「まさか、さっきの爆発で……」
ワープ装置でイフォネの町の前に集まっていたローナの仲間たちが、沈痛な面持ちで顔を見合わせる。
そう、先ほどの衝撃で通話画面が不安定になったまま、ローナからの返事がいっこうに来ないのだ。
「……無事、なのかしら?」
【ぴぴぴ* あの爆発を人間が耐えきれる確率:0%なのデス……*】
「………………」
誰ひとりとして言葉を発することができなくなる。
――ローナならなんとかしてくれる。
そう信じて送り出したが……しかし、ローナはまだ子供なのだ。
本人いわく、『体感では4年ぐらい15歳をやっている』とのことだが……それでも、まだ10代の女の子だ。
その小さな肩に、世界の命運を背負わせて……本当によかったのだろうか。
今さらながら、そんな後悔が押し寄せてきて――。
「う、うぅ……」
「ぐすっ、ローナ……」
「……おかしいやつを亡くしたのじゃ……」
……世界は平和になった。
しかし、失ったものもまた大きかった。
地上の人々が犠牲になった少女を想い、静かに涙を流し始める。
…………が。
「あれ、みなさんどうしたんですか?」
「……ぐすっ……ローナが……ローナが……っ」
「? 私がどうしたんですか?」
「「「………………ん?」」」
そこで、人々が顔を上げると……なんか、いた。
……なんか、すごく普通にローナがいた。
いつの間にか、ここに転移してきていたらしい。
空中で光の翼をぱたぱたさせながら、いつものように、ぽけーっとなにも考えてなさそうな顔をしている。
しかも、爆発に巻きこまれたはずなのに、しれっと無傷であり……。
「「「…………………………」」」
……一瞬の静寂。
そして、その次の瞬間――。
「ろ……ローナちゃんがおりゅうううっ!?」
「ローナが生きとるのじゃあああああッ!!」
「わふぅう~っ! ローナの姐御ぉおお~っ!!」
「「る~ッ! ローナローナローナぁあああっ!!」
わあああああああ……ッ!! と、仲間たちから歓声がわいた。
そのまま、我先にとローナのもとに駆け寄ってくる仲間たち。
「え、えへへ。もしかして、心配かけちゃいました……?」
と、ローナも少し照れ笑いを浮かべながら、光の翼を消して、地面へと降り立とうとし……。
……だが、このときローナは大切なことを忘れていた。
そう、威力10京オーバーの弾が装填された回転式金銃デット・オア・アライブを、まだ装備したままになっていたこと。
そして、その威力が上乗せされた今の自分の“キック”が、どれだけの破壊力を秘めているかということを……。
「みんな~っ! ただいま~っ!」
そして……とんっ、と。
ローナの小さな足が、地面に触れた瞬間――。
――ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォ…………ンッッッッ!!!!
…………轟音。
それとともに……大地が、崩壊した。
ローナの足を中心に地面が爆ぜ飛び、隕石が直撃したかのように広範囲に巨大なクレーターがうがたれる。
めきめきめきィィィイイイイイイイ……ッ!! と、波のようにめくれ上がる大地。
飛沫のように舞い上がる岩塊、土、砂塵……。
その光景は、まさに――天変地異。
……かくして、この日。
ローナの『ただいま!』によって……人々が守り抜いた草原が、地図上から姿を消したのだった。
「「「…………………………」」」
その光景をすぐ間近で見ていた、ローナの仲間たちはというと。
駆け寄ろうとしていた足を、ぴたりと止め……。
パァンッ! と破裂した自分の身代わり人形と、ローナを交互に見て……。
誰からともなく、すすす……と、無言で後ずさり始めた。
「わ、わぁっ! ち、違うんですっ! これは、装備外すの忘れててっ!」
「「「…………………………」」」
「あ、あの、なんで、みんな離れるんですか? ほ、ほら、もう装備しまったので大丈夫ですっ! 私は安全ですよっ! あ、エリミナさん、どこに行くんですか!」
「い、いや、その……え~っと、じゃな……」
そこで、顔を引きつらせたテーラが、おそるおそる尋ねてきた。
「……おぬしの、さっきの隕石ぶっ殺キックって……まさか、何度も出せる系?」
「はい」
「こやつ歩く隕石かよ……」
と、全員からドン引きされるローナ。
ただ、そもそも単発の【現金弾】では倒しきれない可能性もあったので、何度も使える『現金弾キック』を隕石戦の切り札として選んだわけで……。
思っていた以上にバフが多重にかけられていたためか、一撃で隕石を倒してしまったが……それはもちろん、何度も使えるに決まっている。
「えへへ! でも、これなら、また隕石が飛んできてもキックだけで倒せますね!」
と、ローナはみんなを安心させるように、満面の笑みを浮かべる。
これで、もうこの世界の未来には、なにも心配がいらないというように。
たしかに、それはそうかもしれないが……。
そんなとびっきりのローナの笑顔に対し、仲間たちは――。
「「「…………あ……うん…………」」」
と、すごく微妙そうな声を出すのだった。
「ま、まあ、でも……うん、細かいことは気にしないでいきましょう!」
「そ、そうでありやがりますねっ!」
「……ろ……ローナが生きてるなら、それだけで丸儲けよ」
「で、ですですっ! 救世主様のおかげで、世界は救われたわけですし!」
そう、世界は救われたのだ。
隕石は粉砕され、ローナも無事に戻り……被害といえば、ローナの『ただいま!』によってお亡くなりになった草原だけ。
となれば、次にやることは、もちろん――。
「「「――宴だああああああああああああああっ!!」」」
――そんなこんなで。
なんだかんだと、すったもんだはあったものの。
こうして、ローナたちの戦いは無事に終わり……。
さっそく、隕石攻略記念のどんちゃん騒ぎが始まったのだった――。
……ちなみに、その後。
レベルMAXになった影響か、ローナが歩くたびに、ずしぃぃいん……ッ!! ずしぃぃいん……ッ!! と、地響きが鳴り、ふたたび周囲にドン引きされることになるのだが……。
――それは、また別のお話。
あと、3話ほどエピローグやります。
夕方にもう1話更新します。











