157話 みんなで祈ってみた
ローナたちの戦いが幕を開けたあと――。
宇宙空間は、完全に無法地帯と化していた。
〈@:うおおおおっ! 40連火葬十字――略して「剣」!〉
〈@:武器モーション移しバグ――からの百裂ロケランキック!〉
〈@:数術――からの古代魔法ホーリーしゃがみ撃ち!〉
〈@:ギザギザチェンソースワップ!!〉〈@:毒ヘビ×999!〉〈@:エメラルドタートル甲羅バグ!〉〈@:ハネペンロケット×999〉〈@:プラズマコンボ!〉〈@:フリーズレンチンバグ!〉〈@:自演報復バグ!〉〈@:半自動式散弾銃キック!〉……。
――世界の法則? なにそれ、おいしいの?
とでも言わんばかりの、でたらめな攻撃のオンパレード。
なぜか剣からは銃弾が放たれ、足からは榴弾が発射され、ショットガンの銃身が隕石の表面をギャリリリィィィイッ! とけたたましく削っていく。
割合ダメージ以外で削るのは不可能……そう思われていた隕石の天文学的なHPが、じわじわと……だが確実に、目に見えるスピードで減少していく。
攻略不可能の象徴であった隕石――それを、今。
――インターネットの力が、完全に圧倒していた。
そして、そんな神話の一場面のような天上の戦いを……世界中の人々が、ローナの設置した配信画面越しに見守っていた――。
◇
〈@:【火炎瓶】+【炎上勝法】+【セップク】+【ド根性】+【火事場力EX】+【背水ノ刃】+【ロケットスタート】+【大物食い】+【バトンパス】+【インフルエンサー】! 敵味方全員、与ダメが1分間100倍になる! 俺は死ぬ!〉
〈@:なんでそれ修正されてないんだよw〉〈@:ちょw隕石に触れただけで死ぬwww〉〈@:どうせ超短期決戦だ! おまえら心臓を捧げろおおおおおおお!!〉
まるで祭りのように、花火のように。
神々は楽しげに隕石へと特攻しては――光の粒子となってド派手に散っていく。
その様子を、始まりの町前の戦場から見上げていたのは、この世界の女神たちだった。
「じゃはははっ! 世界の終わりも、ローナの前じゃいつもの祭りでしかないの!」
『A.ローナ氏 TUEEEwww』
「はぁぁ……まったく、笑いごとではないですよ。なんですか、外の世界から神を万単位で召喚するって……もうめちゃくちゃじゃないですか。どうするのですか、この後始末……」
「んなもん、明日考えればいいのじゃ!」
『A.明日から本気出す』
「とかいって、結局これ、対応するのわたくしになるパターンですよね……」
と、ラフィエールは頭を抱えて、深いため息をつく。
とはいえ……たしかに、それも明日があればこその話だ。
無事に明日を迎えられなければ、なんの意味もないのだから。
そして、この隕石との戦いについては、ローナに託すしかなかったが……。
地上の者たちにも、まだローナのためにやれることは残されていた。
「ひとまず、わたくしたちが、今やるべきことは……祈ることです。この世界では、信仰が神に力を与えるように……強い祈りが創世物質を通して現実を創り変え、彼女の力となるはずで――」
『グルオオオッ!!』
「うるせぇ、光の女神キック!!」
「……戦場で祈るの、わりとむずいのじゃ」
『(>_<)人』
……なにはともあれ。
この世界では、強い祈りが少女の力となるはずだ。
ゆえに、女神たちは強く祈る――あの小さな少女の無事と勝利を…………。
◇
『……リフレクション! 水分身の舞い! からのぉ、炎神魔法ロナフレイム、しゃがみ撃ち!』
…………ドォォ……ンッ…………ドォォ……ンッ……!!
と、はるか上空で花火のように閃く、炎、雷、氷、風……。
その天上の戦いの余波は、地上――イフォネの町前の戦場にまで、びりびりびり……っと衝撃となって伝わってくる。
そんな中、魔術契約をつけて地上で戦っていたローナの父――ブラウ・ググレカースは、呆然と空を見上げていた。
「……な……なんなのだ、あの戦いは……?」
武に人生を捧げてきたブラウだからこそ、わかる。
あの戦いは……めちゃくちゃだ。
常識を、法則を――逸脱している。
息子のラウザも同じ思いなのか、口を半開きにしながら立ち尽くしていた。
そして、あの天上の戦いの先頭に……出来損ないだと切り捨てた娘のローナがいるというのだ。
「……………………」
……弱い娘、だったはずだ。
ブラウはずっと、その弱さが気に入らなかった。
弱ければ全てを失う――そう子供の頃から教えられてきたから。
やつの母もそうだ。体の弱い女だった。
……気に入らなかった。
だから、強い自分がエルフの隠れ里へ攻めこみ、伝説の万能薬――エルフの秘薬を奪ってきてやろうと考えた。
しかし、どれだけ経っても迷いの森すら突破できず……。
命からがら逃げ帰ってきた頃には、あの女の葬儀はとっくに終わっていた。
………………。
……気に入らなかった。
あの女の面影がある弱い娘が。
だから……目をそむけた。部屋に閉じこめ、自分から遠ざけた。
やつの顔を見ていると、弱かった自分を突きつけられるから。
愛して失うぐらいならば、最初からないほうがマシだから。
だから、ブラウは弱さを徹底的に切り捨てて、ひたすら貪欲に力だけを求めてきた……。
…………が。
『あ、お父さんだ』
『……いや、貴様……監獄で、なにをしているのだ?』
『あはは……ちょっと終末竜ラグナドレクを増殖させたら逮捕されちゃいまして……』
『マジでなにをしているのだ!?』
『あと、取り調べのときに……他国の王族を誘拐したり、邪神の封印をといたり、不法入国したり、“許されざる魔法”を習得したりしたのがバレちゃいまして……』
『娘に罪状で負けた!?』
『まあ、逮捕は4回目なのでもう慣れちゃいましたが』
『ベテランの風格!?』
『じゃあ、私はそろそろ脱獄しますね! カジノに行きたいので!』
『貴様マジでか!?』
……知らなかった。
あの娘が、なんかめっちゃ強くなっていることも。
そして、娘がどういう人間だったのかも――。
「……たしかに……この目で見なければわからない、か」
かつて、エルフの女王に言われた『ググれカス』という言葉を、今さらながらに痛感する。
周囲を見れば……世界の終わりだというのに、誰も悲壮な顔を浮かべていない。
それは、娘がみんなの希望となっているからだ。
ただ、力が強いだけではなく……世界を動かし、世界に希望を与え、世界をつなげる――。
それは、ブラウにはできなかったことで……。
きっと、それこそが……ブラウが求め続けていた本当の“強さ”だったのだろう。
「……ああ……私は、弱かったのだな……」
ブラウは憑きものが落ちたように、ふっと力なく笑った。
それから、もはや見えないほどの高みにいる娘の戦いに思いをはせ、静かに天を仰ぐ。
「…………勝てよ、我が娘…………話さねばならぬことが、たくさんあるのだ……」
そして、彼は強く祈る――娘の無事の帰還を…………。
◇
〈@:1万コンボだどん!〉〈@:ダメージ1万%……ってコト!?〉〈@:コンボボーナスえっぐw〉〈@:これマジでいけるぞ!!〉〈@:コンボ止めるな!!〉〈@:つなげええええええっ!!〉……。
「……くくく……」「……凄まじいな……」「……これが……我らの神の力……ッ」
一方、同じ頃。
黒ローブ集団――黄昏の邪竜教団の六魔司教たちもまた、戦場から天上の戦いを見上げていた。
彼らの種族は、魔族――。
それは、夢を叶えた代償に、自らが悪夢になり果てた人間の末路。
ゆえに“昼”の世界では……“光”の中では、魔族は生きることができない。
六魔司教クラスでさえも、黒いフードを目深にかぶって日光を遮らなければ、満足に外の世界を歩けないのだ。
弱い魔族にいたっては、暗がりで惨めに息をひそめて暮らすしかない。
だから彼らは、終末竜に太陽を喰らわせ、永遠に夜の終わらない“闇の時代”を創ろうとした。
…………が。
『? 終末竜ラグナドレクが欲しいんですか? わかりました!』
『『『……え?』』』
『まず、闘技場のボスラッシュモードで、終末竜ラグナドレクと戦います』
『『『……我らが神ッ!?』』』
『あらかじめ指名手配された状態にしておいて……衛兵たちの攻撃が終末竜ラグナドレクに当たるようにすると、なぜか終末竜ラグナドレクがTポーズになって固まります』
『『『……我らが神が立った!?』』』
『このとき敵対状態やテイム耐性も解除されるので、餌を顔にぶつけて懐かせてから倒すと……この通り、終末竜ラグナドレクが仲間になりたそうにこちらを見てきます』
『『『……我らが神ッ!?』』』
『次に、育て屋に終末竜ラグナドレク(♂)×2を預けると卵が産まれます』
『『『……オス同士で!?』』』
『あ、卵を孵すのは時間がかかるので……こちらに、あらかじめ人数分の終末竜ラグナドレクを用意しておきました!』
『『『……!? ……!?!?』』』
第一の厄災――終末竜ラグナドレク。
……を、なんかあっさり増殖させた少女は。
さらに、六魔司教を信頼して、人数分の世界樹杖ワンド・オブ・ワールドまで託してくれた。
……おそらく、あの少女は、彼らが神と崇めていた存在ではないのだろう。
あの少女がなんなのかは、わからない……が、わかる必要もない。
日陰で虐げられる運命だったはずの悪役たちを信じて――“ズッ友”と呼んでくれたのだから。
こんな自分たちに、日の当たる居場所をくれたのだから。
「……くくく……ローナ様の世の、なんと面白きことか……」
「……それに比べ――」
と、彼らが地上の戦場へと視線を戻すと。
眼前に立ちふさがるのは、第一の厄災――終末竜ラグナドレク。
しかし、その目に意思の光はない。
他の有象無象のモンスターと同じく、ただ運命通りに自動的にわき出し、自動的にこちらと敵対していた。
「……かつて……あなたは、我らの闇だった……」
「……だが……この世は、もはや……貴様のものではない……」
本来の運命ならば、六魔司教もそちら側に立っていたのだろう。
しかし、彼らは今――運命と決別するように、一斉に“敵”へと世界樹の杖を突きつける。
「「「…………運命よ、そこをどけ……我らがズッ友、ローナ様のお通りだ……」」」
そして、彼らは強く祈る――大切な友の無事と勝利を…………。
◇
〈@:うわっ!? エラー吐いた!?〉〈@:運営が対応始めたぞ!〉〈@:こういうときだけ有能かよ!?〉〈@:うおおおお! 一撃当ててけええええ!〉〈@:コンボ止めるなあああっ!〉……。
一方――夢幻領域ヨルムンランド。
そこは魔王が封印されていた、無限に広がる夢幻の世界。
この世界における最後にして最悪の夢境……のはずだったが。
今は、この世界の人々の避難所となっていた。
「……くすくす。ローナの言う通り、これ以上の避難所はないわね……」
「だねー。広さも物資も思いのままだし」
とのメルチェ&コノハの感想に、この夢の王である“魔王”は、少し複雑な表情をする。
(……されど……よもや、我が、世の終わりを防がんとするとは……ゆめゆめ思わざりけり……)
「それより、魔王さん。この避難物資の運びこみよろ~」
(……かように、雑にパシられることになるとも、ゆめゆめ思わざりけり……)
「……まあ、あなたはもう、うちの従業員だし」
「これがあたしたちの戦いだからねー」
(……う、うむ……)
と、“魔王”がメルチェの指示でせっせと作業しつつ。
ふと、騒がしいほうへと視線を向ければ……。
ローナが設置した配信画面の前に、世界中の人々が集まっていた。
彼らの視線の先、画面の中ではローナが宇宙をバックに戦っており――。
「――頑張れッ!」「あとちょっと!」「負けるな!」「頼むっ!」「いっけええええっ!」
世界中の人々が見守っていた――少女の最後の戦いを。
世界中の人々が祈っていた――少女の無事と勝利を。
こんな絶望的な状況だというのに……。
少女を見ている者たちから感じるのは――希望、だった。
(……くふふ……これは……隕石ごときには、勝つこと叶わざるな……)
と、魔王が愉快げに笑う。
そう……ここは、人々の祈りが奇跡となる世界。
たとえ、ひとりの祈りでは弱くても……。
もしも、世界中の人々がひとつにつながり、少女の勝利を祈ったら――?
そんな魔法みたいな奇跡が起こったら――?
その答えは……もう、すぐ目の前にある。
(……ふむ……新しき“そしゃげ”の案を、思いつきたり……)
「にはは! んじゃー、ローナが帰ってきたら、またみんなで創ろっか!」
「……くすくす……明日から、また忙しくなりそうね」
そして、彼女たちは強く祈る――ローナ・ハーミットとの楽しい未来を…………。
M○THER2は神ゲー。
次回決着です。
夕方にもう1話更新します。











