156話 インターネットを使ってみた
それからも、世界の命運をかけたローナと隕石のデートは続いた――。
「――聖なるかな、聖なるかな、その光は全地に満つ!」
「ぃよっし、ローナたちが来たのじゃ!」
「このお告げ空間は、神域……ここでなら、神も全盛期に近い力で戦えます――光鎖結界!」
「むぉおおおッ! 今じゃ、みんなで松明を投げるのじゃああああッ!」
『エクスディェエエエエスッッ!!』
『o( `д´)○』
――――つなぐ。
【ぴ~っこぴこぴこ✜ 空園都市の浮遊プレートで空に町を創ったのデス✜ 町ブラデートとしゃれこむがいいのデス✜】
〘――〈トキメキ度〉上昇を確認――また、〈推定高低差:100km〉による〈落下ダメージ〉も甚大と推測されます――〙
――――つなぐ。
「……くくく……いでよ、終末竜ラグナドレク……ッ!」
「……滅びのラストストリームッッ!!」
「……説明しよう! 滅びのラストストリームには、毒・炎上・暗闇を付与する効果があるのだ!」
「……ふはははッ! すごいぞーッ! かっこいいぞーッ!!」
――――希望を、つないでいく。
この世界に生きている人々の魔法が、技術が、祈りが、願いが――隕石へと叩きこまれていく。
少しずつ、だが確実に……その膨大なHPを削り取っていく。
しかし、タイムリミットの足音もだんだんと近づいてきて――。
『隕石(♀):……もうマジ無理。ネイル割れた……』
『隕石(♀):……信じてたのにな……気づけよ……』
『隕石(♀):……あなたと幼馴染だっていうだけでも嫌なのに……』
『や、やべぇのじゃ! 隕石が別れる直前の彼女みたいになってるのじゃ!』
『トキメキ度低下っ! 恋の賞味期限切れよ、ローナちゃんっ!』
「……っ! 制御不能になる前に、地上からできるだけ離します! フルスロットル!」
ローナはそう言うなり、上空へと飛翔する。
1秒でも長く、隕石が地表に衝突するまでの時間を稼ぐために――。
――上昇する、上昇する、上昇する……。
大気を突き抜け、雲を置き去りにし――。
さらに、上へ、上へ、上へ、上へ……空のその先へと――――――……。
…………………………。
…………………………。
……そうして、どれだけ飛んだだろうか…………。
気づけば……そこは、世界の果てだった。
あるいは宇宙と呼ばれる場所だろうか。
周囲に見えるのは、底のない真っ暗な空間と、星の海……。
眼下には、青く輝くローナたちの惑星。
そして、そこまでたどり着いたところで。
隕石の頭上に表示されていたトキメキゲージが――世界の終わりへのカウントダウンが……。
ぴぴっ……と、無機質な音を立てて『0』を刻んだ。
…………デートが、終わったのだ。
その瞬間、隕石はふたたび物言わぬ岩塊へと戻り――その軌道を修正する。
眼下に広がるローナたちの惑星へと。
あらかじめ決められていた破滅の運命へと……。
「ら……ライフサーチ……っ!」
ローナは祈るような気持ちで、隕石のHPを確認する。
残りHPが1割を切っていれば、あとは毒と炎上のダメージで倒せるはずだ。
地上からの総力戦……みんなが全力を尽くして、希望をつないで、ここまで来た。
その結果、残りHPは――。
「…………ぇ……?」
――553京4023兆2221億1286万5484。
………………。
……4割しか……削れていなかった。
まだ半分以上、HPが残っていた。
「……なん、で……?」
そこで、ローナはようやく気づく。
この隕石は――HPを回復しているのだと。
けっして壊されないように、そんな運命は許さないというように――対策されていたのだと。
もし、ここから毒や炎上でHPを1割削れたとしても、残りHPは5割。
そして、隕石のHPの5割とは――。
――461京1686兆184億2738万7903。
………………。
……届かなかった。
絶対的な運命の前には、全ては無意味だった。
周囲には……もう、なにもない。
仲間も、手段も、武器も……ピンチに駆けつけてくれる主人公も……。
こうしている間にも、隕石は回復し続ける。
そして、正しい運命にしたがって……隕石は、地上へと落下を始め――……。
…………GAME OVER……。
………………。
この光景を見ていた人々の視界が、真っ暗になる。
誰もが絶望に塗り潰されそうになる。
しかし、そんな暗闇の中――。
――――ぴこん♪ と。
ふいに、通知音が響いた。
ローナが音のしたほうへと顔を向けると……。
そこにあったのは、光り輝くインターネット画面。
その画面の中に映っているのは、地上にいる仲間たちの顔と、『頑張れ!』とローナを応援するコメントたち……。
「……うん……まだ、終わりじゃないよね」
ローナは、ふっと微笑む。
その瞳に、もはや不安の色はない。
それに、ここまでの戦いは、無駄ではなかった。
おかげで……隕石を倒す準備が整ったのだから。
そう、隕石をここまで誘導してきたのは、ここまで時間を稼いできたのは――。
――――戦うため、だ。
そして、宇宙空間でなら、ローナも全力で戦うことができる。
この攻略不可能な隕石を――“攻略”することができる。
「スキル、発動……」
宇宙空間の中、ローナはその小さな手を頭上へと掲げた。
光の粒子がその手へと集まり、しだいに形をなしていく――。
……手段はもうない? そんなわけがない。
まだこの戦いでは使っていない、とっておきの手段が残されている。
この世界で、ローナが初めて発現させたSSSランクスキル。
どんな絶望も、どんな不条理も、どんな運命さえも笑い飛ばしてきた、世界最強の力。
それを今――発動する。
「いでよ――――インターネットっ!!!」
ローナがそう叫んだ瞬間――。
――――――――――――――――――――――――――――……………………!!
宇宙に初めて光が生まれた瞬間のように。
新星が次々と生まれ、爆発するように……。
他の世界へとつながる光の窓が――無数に展開されていく。
ひとりの少女の言葉が、電子信号となって。
光の窓を超えて、世界を超えて、運命すらも超えて――。
どこかにいる“誰か”のもとへと、接続されていく。
そして、また…………どこかの世界で、電子音が鳴り響く。
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【今、私たちは……インターネットと…】
【一緒に戦っています!…】
●ライブ ⛶
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【#緊急配信】サ終を止めます!【#ロー
ナです】
678,310人が視聴中…
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チャット ⌵
:なにこれ?急にここに飛ばされた
:同じく
:これなんてギャルゲ?
:インターネットへの熱い信頼w
:草
:wwww
:よくわからないけど頑張れ!
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――ローナ・ハーミット。
それは、この世界の主人公――ではない。
本来ならば、登場人物紹介に載ることも、物語の脇役になることもなく……『こんにちは』と言うことしかできない、どこにでもいる普通の少女だった。
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このローナですって子
やばくねw
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なにこれ草
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てか、このゲームやってたわ
ひさびさに復帰してみるか
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もうサ終してるぞ
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え?ログインできたけど
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+[ メッセージを入力 ]☺︎
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……幼い頃。
部屋に閉じこめられていた少女にとって……。
屋敷の中にある小さな部屋だけが“世界”の全てだった。
でも、その“世界”は……暗くて、退屈で、ひとりぼっちで。
だから、少女はいつも窓ばかり眺めていた――。
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@nanashihunter …
#ローナです トレンド入り!
サ終止めてくれえええ!
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@ikkyuuhaijin …
これ、本当にゲーム画面…?
#ローナです
⇆ ♡ 〣
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@knightofnight …
マジで異世界だったりしてなww
#ローナです
⇆ ♡ 〣
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@taikentukai …
……あれ、ログインできる?
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⌂ ⌕ ☖ ✉
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窓の向こうに広がる外の世界は、いつも眩しくて、カラフルで、暖かくて……。
たくさんの人がいて、知らないものがたくさんあって……。
だから、少女は窓へと手を伸ばし――祈った。
――“外の世界”をもっと知りたい! と。
そのとき、たまたま少女のいた屋敷には、父が大霊脈から違法に吸い上げていたマナが……。
少女の祈りを叶えるのに充分な量のマナがそこにあった。
誰かの夢を叶える物質――創世物質。
それは、この世界の奇跡や魔法の源。
少女の祈りは、光となって、奇跡となって、魔法となって……。
――ある日、少女の前に“外の世界”へとつながる“窓”が現れた。
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▍掲示板/【糞運営】エタリア雑談スレ
par167【サ終】
[74@名無しの冒険者]
これで終わりかぁ……
[75@名無しの冒険者]
さらば、俺の青春
[76@名無しの冒険者]
てか、隕石エンドはさすがにクソ
[77@名無しの冒険者]
F○14にはなれなかったゲーム
[78@名無しの冒険者]
もしかして、クソゲーなのでは…?
[79@名無しの冒険者]
あーあ、次なにしよっかな……
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――【インターネット】。
それは、世界をつなげる“窓”を創り出す力。
そして、文字通り――インターネットを操作する力。
……最初は、使い方さえわからない謎のスキルだった。
しかし、少女は旅を通して、たくさんの景色を見て、たくさんの人と出会って……。
この力の使い道を、ひとつずつ増やしていった……。
そして、ここは……少女の旅の終着点。
今ならもう、この力をどう使えばいいかわかる――。
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12:18 ╰━━━━━╯ 〣 67%
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▍掲示板/【糞運営】エタリア雑談スレ
part167【サ終】
[80@名無しの冒険者]
おい、これやばいぞ見てみろw
[81@名無しの冒険者]
なんだこの配信www
[82@名無しの冒険者]
ローナですちゃん、あいかわらず
めちゃくちゃで草w
[83@名無しの冒険者]
いやでも…これ無理くね?
[84@名無しの冒険者]
あの隕石はさすがにキツいか…
[85@名無しの冒険者]
ログインできれば救援行くのに…
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たとえ、世界が遮断されていようと――関係ない。
何度でも、何度でも、何度でも……。
少女の祈りは“窓”の外へと送信される。
閉ざされていた“窓”を超えて、世界を超えて、運命さえも飛び超えて……。
どこよりも光に満ちた、カラフルな世界へと――。
――――あなたがいる世界へと。
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12:19 ╰━━━━━╯ 〣 67%
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▍掲示板/【糞運営】エタリア雑談スレ
part167【サ終】
[86@名無しの冒険者]
……あれ、ログインできた
[87@名無しの冒険者]
釣り乙
[88@名無しの冒険者]
いや、マジでできるぞこれ!
[89@名無しの冒険者]
あ、俺も入れたwww
[90@名無しの冒険者]
うおおお!いけたぞおおおお!
[91@名無しの冒険者]
これぞ俺らのクソゲーwww
[92@名無しの冒険者]
いや、何が起きてるんだこれ…?
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――――今、接続は完了した。
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12:19 ╰━━━━━╯ 〣 67%
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聞こえますか?
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…………そして。
世界をつなぐ“窓”たちが今、ふたたび光りだす――――。
◇
「――――聞こえますか?」
少女は“窓”の向こうにいる“誰か”へと語りかける。
「……今、私たちの世界が、終わろうとしています――」
かつて憧れた“窓”の向こうへと、少女は祈りを送信する。
「……この世界のこと……私、少し前までなにも知りませんでした……でも、たくさん旅をして……たくさんの景色を見て、たくさんの人と出会って、たくさんの思い出ができて……いつからか、私はこの世界が、大好きになりました――」
少女は、心を込めて祈る。
この祈りが“誰か”に届きますように……と。
「……この世界は、月1回ペースで滅びかけるし、神様たちも“くそげー”って言ったりしますが……でも、この世界の、そんなふうにいつも騒がしいところが、私は大好きです……いつも楽しくて、優しくて、温かくて……大好きな人たちがいる……そんなこの世界が、私は大好きです――」
その呼びかけは、宇宙の闇の中に吸いこまれる……。
それでも、少女は心を込めて祈る。
「……だから、この世界を守るために……少しでいい……あなたの力を、私に貸してください――」
少女は祈る……祈り続ける。
きっと“誰か”がこの祈りを受信してくれていると信じて。
きっと“あなた”がこの言葉を読んでくれていると信じて……。
そして、少女は、ゆっくりと瞳を開くと……。
手を頭上へと掲げ――叫ぶ。
「――――マルチプレイモード……オンラインっ!!!」
その言葉に呼応するように――。
少女が手にしていた“救援チケット”が、カッと光を放った。
光は、どんどん強くなり――やがて、爆発するように膨れ上がり――……。
そして、ひとりの少女の祈りに応えるように。
彼女の背後にある“窓”たちから、次々と――“彼ら”が現れた。
〈@:祭りだああああああ!!〉〈@:配信見てたぞ!〉〈@:マジで隕石と戦ってんじゃんw〉〈@:協力します!〉〈@:乗るしかない、このビッグウェーブに!〉〈@:みんなフレンドに声かけろ!〉…………。
――つながる。
〈@:なんだこれ、めっちゃヌルヌル動けるw〉〈@:いや、マルチって4人までじゃなかった?〉〈@:なんで鯖落ちしないのこれ……?〉〈@:マジで異世界だったりしてなw〉〈@:こまけぇこたぁいいんだよ!〉…………。
――つながる、つながる、つながる……。
〈@:毒・炎上以外であと400京……1人400兆削ればいけるか?〉〈@:余裕!〉〈@:最後にこういうのがやりたかった!〉〈@:運営なんてなんぼのもんじゃい!〉〈@:最後に一花咲かせようぜ!〉〈@:人生最高の3分間にしよう!〉………………。
――つながる、つながる、つながる、つながる、つながる……。
騎士、忍者、狩人、ヒーラー、大剣使い、魔術師、商人、踊り子、着ぐるみ、遊び人、妖精……。
宇宙空間の中、何十……何百……何千……何万……そんな数えるのもバカらしくなるほどの神々が、ひとりの少女を助けるために、今――。
――この世界へと、ログインした。
「…………これが、インターネットの力……」
ローナがぽつりと呟く。
つながる力――つなげる力。
これこそが、彼女が旅の始まりから持っていた世界最強の魔法。
ゆえに、ローナ・ハーミットは……世界樹杖ワンド・オブ・ワールドを手に入れる前から……いや、この物語が始まるより前――この物語のタイトルが綴られた頃には、もうとっくに――。
――世界最強の魔女を、始めていたのだ。
〈〈〈…………………………〉〉〉
インターネットの神々が、ひとりの少女の言葉を待つ。
それは、今まで『攻略サイト』を通して、ローナの旅を助けてくれた神々の化身たち。
そんな万を超える神々の中心で。
何者にもなれないはずだった少女は……。
「……さあ、始めましょう」
攻略不可能な絶望へと、すっと杖を突きつけ……。
戦いの火蓋を切るように――告げた。
「――――私たちの……最後の攻略をっ!!」
〈〈〈@:うおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!〉〉〉
…………そして。
世界最強の魔女ローナ・ハーミットの最後の戦いが、今――始まったのだった。











