155話 みんなで戦ってみた
今回も長めです。
空から降ってきた隕石との、世界の命運をかけたデートが始まったあと。
ローナが第1のデートスポットに選んだのは――エルフの隠れ里だった。
そこは今や、毒薔薇たちが咲き乱れる花園となっており……。
「「「隕石キターーーー!」」」
「隕石キタコレ!」「隕石たんインしたお!」
「とんでもねぇ待ってました、救世主様!」
「よし! ぽまえら、風魔法で毒花粉を空へアゲるのだ!」
「「「――うおおおおおっ! あっが~れっ!!」」」
隠れ里の上空に、ローナと隕石が姿を見せると同時――。
エルフたちがそれぞれの世界樹杖ワンド・オブ・ワールドを振り上げ、周囲に嵐のような上昇気流を発生させる。
――ふわあああぁ……ぁぁぁ……っ、と。
紫色の渦を巻きながら舞い上がる、毒薔薇の花びらと花粉……。
その毒の渦の中心で――毒裁の魔女ザリチェ・ベノムガーデンは、肩に羽織った白衣を女王のマントのようになびかせながら、毒々しい紫のハーブティーに優雅に口をつけていた。
「……花に嵐とは、このことですわね。せっかくのティーブレイクを台無しにするとは、お優雅ではないですわ、隕石とやらは」
……ふぅ、と。
ザリチェは毒々しげに毒づきながら、あらためて隕石を見すえる。
そう……隕石、だ。
人間があんなものと戦うなど正気の沙汰ではない。けれど……。
「……わたくしが、攻略の鍵……なんですわよね」
そう、ザリチェは託されてしまったのだ。
この世界を救うための中心的な役割を――。
「……え? つまり、これ、わたくしがミスったら世界終わるんですの? や、やっべぇですわぁ……緊張でゲロ吐きそうですわぁ……ちょべりばですわぁ……」
「ちょっと、救世主様に選ばれたんですから自信を持ってください! まだ舞えますよ!」
「う、うむ、ザリチェしか勝たん! ザリチェは、その……いい鎖骨をしているぞ!」
「脛骨のカーブも素晴らしいです!」
「ドリブルもうまい!」
「……人を褒めたことがない生き物ですの、この母娘?」
などと、エルフの女王とエルナが必死にザリチェを元気づけている一方で。
ザリチェに世界の命運を託した本人はというと。
『あ、ザリチェさ~ん、こんにちは~っ!』
あいかわらず、なにも考えてなさそうだった。
そのアホみたいにのん気な声に、ザリチェは思わず、はぁっとため息をつく。
まあ、そのおかげで……少し肩の力は抜けた気もするが。
『あ、そうだ……地上からだと、ここまで攻撃するのは難しいですよね。ちょっと高度を下げ――』
「――不要ですわ」
『え?』
と、ようやくザリチェはいつもの調子を取り戻して答える。
「ローナ・ハーミット。花粉が上空何メートルまで舞い上がるかは、ご存じでして?」
『…………』
「…………」
『ちょっと検索しても――』
「そう、条件にもよりますけれど……この季節に、この立地に、エルフたちの風魔法も合わされば、花粉が到達できる限界高度は――」
ザリチェは、女王のようにあごを優雅に持ち上げて。
上空にある隕石を――見下し、嘲笑う。
「――――13kmですわぁ♡」
世界樹の杖から放たれる上昇気流の魔法で、上空まで舞い上がった毒花粉。
それを吸いこんだ隕石は、顔(?)をだんだん紫色にして……。
へくち! へくち! とくしゃみをし始める。
「……らふふ♡ わたくしの花粉ちゃんからは、逃げられませんわぁ♡」
対流圏内――つまり、雲の下にいるかぎり、そこはザリチェの射程圏内。
さらに、条件さえ整えれば……花粉は時速100km以上のスピードで、1000km先にまで飛散する。
かつてザリチェは、この花粉の力で世界を支配しようとたくらんでいた。
いや、ローナ・ハーミットがいなければ……実際に世界征服をなしとげていたかもしれない。
あるいは……彼女こそが、“世界最強の魔女”だったかもしれない。
たまたま旅の序盤に出会っただけで……ローナのこれまで旅路において最大の脅威になりえたのは、間違いなく彼女だったのだから。
――悪役をもって隕石を制す。
そんな本来の運命ではありえなかった光景の中……。
ローナによって、めちゃくちゃに毒された世界の中で――。
「――らふふふふ♡ 今、この世界は……わたくしの毒壇場ですわぁ♡」
世界滅亡案件のひとり――毒裁の魔女ザリチェ・ベノムガーデンは、薔薇が咲き誇るように美しく、妖しく、毒々しく、嗤うのだった。
「救世主様! 隕石がどこにいようと、わたしたちが風魔法で毒花粉を届けます!」
「ローナ殿は、次のデートスポットに行ってクレメンス!」
「ふんっ、今回は花を持たせてあげますわ!」
『はい! エルフのみなさん、ありがとうございます! 隕石さんも花畑デートを楽しんでくれたみたいです!』
『隕石(♀):ふ、ふんっ……ちょっとしか、楽しくなかったんだからね……っ♡』
「「「――草ァッ!!」」」
そして、バトンをつなぐように――。
ローナは、次のデートスポットへと飛んでいく。
その後ろを、ごごごごごご……と巨体をうねらせながらついていく隕石。
毒によって今、毎秒5000兆ものダメージを隕石に与えているが……毒だけで隕石のHPを削りきろうとすれば、30分はかかる。
しかし、それだけの時間を稼ぐのは難しい。
だからこそ、割合ダメージを重ね合わせるためにも――。
「よし、次は……海デートだねっ!」
ローナはあらかじめ空に配置しておいた矢印つきの案内看板――もとい案内インターネット画面を見ながら、次のデートスポットへと飛んでいくのだった。
◇
「――ザリちーはうまくやったみたいね……次はあたしたちの番、か」
「「――る!」」
第2のデートスポットは――海。
陸地からの距離も水深も充分な地点――ならぬ“海点”にて。
水月の魔女マリリーンは、水竜族の姫ルル×2の背にまたがって配置についていた。
ちなみに、ローナに教えてもらった『海底歩行バグ』のおかげで、マリリーンは当然のように水中で呼吸してしゃべることができているが――。
「隕石は水の中で息ができなくて割合ダメージを受ける……のよね?」
と、マリリーンはあらためて、ローナがお絵描きサイトで作った『デートのしおり』なる怪文書――もとい、計画書(?)を確認する。
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♡隕石との海デート♡
マリリーンさんが高度の柔軟性を維持
しつつ臨機応変に、
幻術でデートを盛り上げて、
隕石を心キュンキュンさせてくれる予定!
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「クライアントの無茶振り、えっぐ……」
と、マリリーンは今さらながらにツッコむ。
こんな計画(?)で世界の命運が決まるなんて……と、文句のひとつも言いたくなるが。
「「――るっ、危ない!?」」
通話画面の向こうでは、雷が降りそそぐエレクの雷湿原を『光ったら……ローリング!』と、雷をジグザグに避けながら飛んでいるローナの姿。
その後ろには、かすっただけでも即死しそうな巨大な隕石が迫ってきており……。
「…………」
そう、このふざけた作戦において……一番、危険を背負って戦っているのは、間違いなくあの娘なのだ。
あの娘は、普段なにも考えていないくせに……自分以外のみんなは安全に戦えるようにと、それだけは配慮して計画を立てた。
さらには、避難してもいいとまで言われた。
それは、まるで……世界のために生贄になろうとしているかのようで――。
「あ~もうっ! こんなの……逃げられるわけないでしょ、バカッ!」
ここで逃げたら……1000年前と同じになってしまう。
だからこそ、水竜族の姫であるルル×2も、避難せずに戦場へと出てきたのだろう。
と、そんなことを考えている間にも、ローナ+隕石が海上のポイントへと到達し――。
「「――る! 来るぞっ!」」
と、ルル×2が警告するように声を上げた――直後。
爆弾で吹き飛ばされながら海へとダイブしてきたローナに続いて……。
――ド……ッボォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…………ンンンッッ!!
海が――爆発した。
「――――っ!?」
「「る……るぅぅぅ~っ!?」」
山でも落ちてきたのかと思うほどの衝撃。
通話画面越しに隕石を見て、覚悟していたとはいえ……さすがに、思っていた以上だ。
「こ、これが……隕石……っ」
「「るっ! 無理ゲーだ!」」
海の中に現れた巨大な隕石の姿に、思わず体がすくみそうになる……が。
「……こっ……ここで、逃げるわけにはいかないのよ……っ」
と、マリリーンは、最近の出来事を思い出す。
『……“聖地”を避難所に?』
『はい!』
『それなら、水竜の唄と旋律を使って、海割りの儀式をしたほうがよさそうね』
『水竜の唄と旋律? 音が鍵になってるんですか?』
『ええ、そうね……で、その海割りの儀式をおこなえるのは、あたしたち水竜の巫女の一族ってわけ……ま、まあ、あんたがしてほしいって言うなら、あたしが儀式をしてあげてもいいけど――』
『うーん、音が鍵ってことなら“ゆーち○ーぶ”でいけるかなぁ? 『水竜の唄 いべんとむーびー』で検索っと――』
――ざばああああああああああぁぁぁぁ……あああああああぁぁぁぁ……ッッ!!
『……………………』
『なんか“ゆーち○ーぶ”でいけちゃいましたね』
『……………………』
まあ、いろいろと言いたいことはあったが……。
なにはともあれ――海は、割れた。
地上と海底は、地続きになり……人間と水竜族が“水面下”ではなく、本格的に交流を再開することになった。
「……ここから……ここから、なのよ……っ」
かつて、マリリーンと若き海王が見たかった未来は……ここからなのだ。
あと、もう少しなのだ。
たかが隕石ごときに、邪魔をさせるわけにはいかない。
だから――隕石の進路上で待ちかまえていたマリリーンは、世界樹杖ワンド・オブ・ワールドを高々と振りかざす。
ちなみに、マリリーンの幻術は……ローナと出会い、“あにめ”を作ることになったことで、はからずも本来の運命をはるかに超えて進化していた。
もともと実物を見てしっかりイメージを固めなければ、ちゃんとした幻術にならなかったが……。
――今は、もう違う。
「…………知ってるかしら? 海底にも……桜は咲くのよ……ッ!!」
そして、マリリーンが杖を一閃した――次の瞬間。
――さぁぁぁぁ……ぁぁぁ……ぁぁぁぁぁ…………っ! と。
虹の波紋が広がるように。
暗かった海底の景色が、鮮やかな色彩へと塗り替えられた。
万華鏡のように、夢幻のように、宝石箱のように、ステンドグラスのように、虹のかけらを散りばめたように、百花が咲き乱れるように……。
――色が、爆発する。
桜色のサンゴが一斉に花開き、その欠片がほのかに光りながら、花びらのように海中を舞い踊る。
オーロラのようにたなびく色とりどりの光の魚の群れが、青い灯火のような海蛍が――暗い海の中を幻想的に照らしだす。
それは、世界の命運をかけた戦いの最中ということを、忘れそうになる光景で……。
『わぁぁっ……綺麗っ! “幻想”みたいです、マリリーンさんっ!』
と、通話画面の向こうでローナが目を輝かせた。
「えへへ、テーマパークに来たみたいでテンション上がるなぁ」
『隕石(♀):ふ、ふーん……なかなかロマンチックじゃない……♡』
『あっ、隕石のトキメキ度も上がってます! さすがマリリーンさん! ありがとうございます!』
「べ、べつに、あんたのためにやったんじゃないし……っ! と、とにかく、あたしがここまでしたんだから……ちゃんと救いなさいよね、世界っ!」
『はい!』
「「る! マリンがデレた!」」
「で、デレてないわよっ! あとマリリーンよっ!」
「る! ルルも“あにめ”の続きが見たい!」「とっとと隕石倒して見せるがよし!」
『わかりました! それじゃあ、これが終わったらみんなで“あにめ”を作りましょう!』
「「――るっ♪」」
そうして、ローナはしばらく隕石との海デートを満喫し……隕石に水中ダメージを充分に与えたところで。
ふたたびバトンをつなぐように――次のデートスポットへと向かうのだった。
◇
ところ変わって、海上――。
大海原のど真ん中に、港町アクアスの船団が整然と並んでいた。
そこに乗りこんでいるのは、アクアスの冒険者とドワーフの一団だ。
「わふぅ……マジで隕石と“でぇと”しやがってますね、ローナの姐御」
「ちゅーっ! そこで、ちゅーよっ! あーもう、焦れったいわね……わたしちょっと、やらしい空気にしてくるわっ!」
「お、落ち着けっ! 船の上で荒ぶるな、アリエスの嬢ちゃんっ!」
「って、もう隕石がツラ出しやがりますよーっ!」
と、ワッフルがそう警告を発した直後――。
――ざ……ッばあああああああああああああああァァァァァァ…………ンンンンッッ!!
と、海が――爆ぜた。
隕石が海中から出てきた……ただ、それだけで。
海が激しく荒れくるい、船が小枝のように波にもみくちゃにされ……。
「わ、わふっ!? アリエスの姐御、大丈夫でありやがりますか、この船!?」
「………………」(すっ)
「なんで今、目ェそらしたでありやがりますか!?」
「だ、だだだ、大丈夫よ? ほら、わたしゴールド免許だから……まあ、ここ3年ぐらい船運転してなかったけど」
「まさかペーパーでありやがります!?」
「まあ、就活のために資格取っただけだし……」
「これが終活になりやがりますよ!?」
「でも、安心して! 今日こそ、わたしの大型船舶免許(3級)が火を吹く気がするわ!」
「不安しかありやがらない……」
と、そんなやり取りをしつつも。
アリエスは舵を握ると人が変わるタイプのようで――。
「ふ、ふふふ……ぶっ飛ばすぜ、ベイベーっ!」
「わふっ!? 大型船でドリフトを……っ!?」
なんだかんだ、神がかった舵さばきで、襲いくる荒波を次々と乗りこなしていく。
見れば、他の船も同様だった。
そう、ここにいるのは、海とともに生きてきた港町アクアスの冒険者や船乗りたち。
彼らはもともと、海での戦いのプロフェッショナルであり、そして――。
「こんなの“水曜日”の地獄と比べれば、あくびが出そうね!」
「こんなものか、世界の終わりィィッ!」
「乗るしかない、このビッグウェーブにッ!」
「進めぇええええええ――ッ!」
そう、彼らは“水曜日”の地獄を見てきたのだ。面構えが違う。
なにはともあれ、こうして船は荒波をねじ伏せ、隕石の真下までたどり着き――。
「――ぃよっし、隕石の真下に到着でありやがりますっ! んじゃ、てめーら……“花火でぇと”を始めやがるぞぉおおおっ!」
「「「――どわっほい!!」」」
ワッフルの号令と、ドワーフたちの景気づけの歓声とともに。
船に備えつけられた無数の大筒が、空に向かって一斉に火を吹いた。
――ドォォォ……ォォン……ッ!! ドォォォ……ォォン……ッ!
と、不吉な赤黒い空を吹き飛ばすように、色とりどりの花火が咲き乱れ……遅れて、祭り太鼓のように、大気をびりびりと震わせる轟音がやってくる。
「祭りの始まりだどぉおおッ!」
「ドワーフの科学は、世界一ィィィィ――ッ!!」
「左舷、弾幕薄いど! なにやってるど!?」
「「「――フルボッコだどん!」」」
砲弾ではなく、花火――。
それを選んだのは、デートに花をそえるためという理由がひとつ。
そして、もうひとつの理由は――広範囲に炎をまき散らすためだ。
『隕石(♀):なんだか、体が火照ってきちゃった……♡』
『あ、みなさん、隕石が炎上状態になりました! あと上から見る花火がすっごく綺麗です!』
「「「――どわっほい!」」」
『よーし! 私も隕石の悪口をSNSに書きこんで炎上させるぞーっ!』
「それは……効果がありやがるんで?」
なにはともあれ。
隕石のまとっていた禍々しい赤黒い炎が、カラフルなお祭りカラーへと塗りかえられる。
これで、毒に加えて炎上による割合ダメージが隕石に入るはずだ。
「わふっ!? 大筒がぶっ壊れたでありやがりますっ!」
「んなら、さっさと直せッ! その鍛冶道具は飾りかッ!」
「わふっ!? こんな船の上で高難易度の譜面を!? お師匠、パねぇでありやがりますっ!?」
……世界が終わるかもしれない。
だというのに、なんでだろうか……楽しくてたまらない。
みんなもバカみたいに、ニコニコ笑っている。
隕石にビビっていたやつも、初めて見る海に怯えていたやつも、関係なく。
かつて、ローナがドワーフの国を救ってくれたときのように……。
ローナがいるところは、いつでもどこでも、お祭り騒ぎで、どんちゃん騒ぎだ。
「ははっ……配信を見て、世界が終わるだなんて考えるやつァ、いねぇだろうな」
「そうでありやがりますね、お師匠」
と、ドワーゴとワッフルの師弟はあきれたように、しかし誇らしげに笑い合う。
ちなみに、この『ローナと隕石とのデート』は、インターネットを通して、この世界の全土に生配信されており……。
今、世界中の人々が、配信画面を通してローナを――そして、このバカげた祭りを見守っていた。
「やっぱ、今、この世界に必要なのは……“祭り”でありやがりますね」
――祭り。
それこそが、絶望を吹き飛ばす特効薬。
とはいえ、こんな世界中を巻きこんだ祭りなど、ローナにしかできないだろうが……。
「ったく、世界の終わりに花火なんて……この世界は面白すぎて、退屈しやがる暇がありやがりませんね、ローナの姐御っ!」
空を見上げ、ワッフルはにかっと笑う。
そこで今も戦っているひとりの少女に、想いをはせながら――次へとバトンをつないでいく……。
次回、「インターネットを使ってみた」
本作もいよいよクライマックスです。
最後までお付き合いいただけると嬉しいです。











