154話 星を引き寄せてみた
――それからも、サ終対策は順調に進んでいった。
モンスターの大量発生については、エリミナ率いる人類連合軍が結成されて対処にあたることになり……。
冒険者ギルド・ドールランド商会・ドワーフたちは、各地でダンジョンシェルター化計画を。
マリリーンたちはカジノ通いをし、ラッキーペンデュラムなどの景品を大量ゲットしていく――。
しかし、そうしている間にも、サ終へのカウントダウンは進んでいき……。
だんだん世界の終わりが可視化され始めていった。
空を見上げれば……日に日に大きくなっていく、不吉な紅い月のような隕石……。
ここまで来ると、さすがに隠しきれなくなり、避難体制が整ったタイミングで一般市民にもサ終の告知がされたが……。
あらかじめ準備をしっかりしていたかいもあり、大きなパニックになることはなかった。
というより、今までも世界の危機がちょくちょくあったため、こういう空気に慣れていたというのもあるだろう。
そうして、嵐の前の静けさのように穏やかな空気の中、どんどん時間が過ぎていき……。
――そして、ついにサ終当日となった。
「……ふぅ。なんとか、避難は間に合ったね。地上も……大丈夫そうかな」
始まりの町の前にある草原にて。
ローナは人々のモンスター討伐の様子を見ながら、ほっと小さく息を吐く。
『サ終日は、イフォネの町の前にモンスターが大量発生♪』
という、偽ラフィエールが配信でおこなった犯行予告通り、朝から大量のモンスターがイフォネの町の前にわき出してきたが……。
「――星命吸収! からの、獄炎魔法――エリミネイトフレイムッ!!」
――ごおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオ……ッッ!!
と、天をつくほどの巨人が現れ、炎の剣で戦場を焼き尽くす。
そして、炎と爆煙が晴れたとき、草原にはモンスターの影はもはやなく――。
戦場に立っているのは、世界樹杖ワンド・オブ・ワールドを手にしたエリミナ・マナフレイムの姿だけだった。
「……い、いや……そうはならないでしょ……」
なぜか、エリミナは自らの魔法の威力に怯えているように、「……わァ……ぁ……」と顔を青くしながらぷるぷる震えているが……。
以前、敵モンスターの死にさえ涙していた慈悲深いエリミナだ。きっと今回もそうなのだろう。
「こ、これが、英雄エリミナ様の力っ!」
『ぐごご、さすがだエリミナ・マナフレイム……貴様がナンバー1だ……ッ』
「え……いや……その……」
「「「――うおおおおおっ! 人類連合軍、エリミナ様に続けぇえええッ!」」」
と、エリミナに奮起されたのか、草原からは冒険者や騎士たちの元気な声が聞こえてくる。
彼らが手にしているのは、伝説のエルフの秘薬に、ローナをかたどった身代わり人形。
さらには、トラップタワーやウォールローナによって、強固な防衛ラインも形成しており――。
これなら、安全にモンスターと戦えるだろう。
そんなこんなで、わりとオーバーキル気味に、地上のモンスターが駆逐されていく光景がそこにあった。
(えへへ、世界樹の杖が役に立ってるね! 増殖させといてよかったぁ! うん……この様子なら地上のほうは大丈夫そうかな)
となれば――。
(……あとは隕石だけ、だね)
と、ローナが空へと視線を向ける。
ちょうどそのタイミングで、インターネット画面に表示された時刻が、11時57分に……。
――世界の終わりまで、あと3分となった。
その瞬間――黒雲で覆われた空が、どろり……と禍々しく不吉な赤黒い色へと変貌する。
そして――。
「…………見えた……」
黒雲を突き破り――天を裂くようにして。
赤黒い炎をまとった巨大な“それ”が、ごごごごごごごご……っと姿を現した。
その威容は、見間違えようもない。
――――隕石、だ。
この世界を終わらせようとする世界最後の厄災。
しかし、いったい誰が、あれを……“石”などと呼んだのだろうか。
地上からでも重圧を感じるほどの、圧倒的な質量……。
ただ、そこにある――それだけで。
大気が潰れたような悲鳴を上げ、世界が激しく震えだし、人々は魂の底から絶望する……。
『あ、あれが……隕石でありやがりますか……』
『でかすぎんじゃろ……』
『……たしかに、あんなのが降ってきたら……終わるわね、世界……』
各地で配置についている仲間たちからも、通話画面越しに悲鳴に近い言葉が聞こえてくる。
すでに、世界中で隕石の姿が視認できるのだろう。
…………世界が、終わる。
誰もがそんな未来しか見えず、力なく空を見上げることしかできない。
しかし、それぞれの戦場にいるローナの仲間たちは、誰ひとりとして下を向いてはいなかった。
なぜなら――。
「――それじゃあ……行ってきます」
希望を託した少女が、まだしっかりと上を向いていたから。
ローナは光の翼を生やすと、ふわりと空へと飛び上がり……。
その小さな体で、ひとり――隕石と対峙する。
「ライフサーチ!」
ローナは、この日のために習得しておいたスキルで、隕石のHPを確認する。
視界に表示された隕石のHPは――。
――922京3372兆368億5477万5807。
(……うん、インターネットに書いてある通り……だね)
こればかりは、インターネットが間違っていてほしい気持ちもあったが……仕方ない。
このHPを削るには、やはり毒や炎上といった割合ダメージを与えるしかなさそうだ。
しかし、そのためには……あの巨大質量を相手に、最低でも20分は時間を稼ぐ必要があり――。
『……本当に、おぬしひとりで大丈夫か?』
「大丈夫です、問題ありません」
足止め係に志願したローナは、少し強がるように笑みを浮かべる。
「それに――隕石を攻略してしまっても、かまわないんですよね?」
『こやつ、死亡フラグしか言わないじゃん……』
なにはともあれ……隕石は待ってくれない。
ここまで来たら、もう作戦を始めるしかない。
だから――ローナは、あらためて隕石と向き直る。
――ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごぉぉぉぉおおおおおおおおッ……!!
と、地上へと落下してくる巨大な星。
まるで破滅へのカウントダウンを刻むように、隕石はどんどん大きさを増していく……地表へと近づいてくる……。
インターネットの神々ですらあきらめた、今までの敵とは比べ物にならないほどの強敵。
そして、ここから先に待ち受けるのは……『攻略サイト』にも載っていない戦いだ。
(……だ、大丈夫……っ)
ローナは頬をぱちんっと叩く。
しっかり調べて準備もした。インターネットの神々や仲間とも相談して、計画を練ってきた。
そして、エリミナがこの隕石の攻略法について助言してくれた。
あとは、ただ……勇気さえあればいい。
(……神様……私に勇気をくださいっ)
ローナは、瞳をぎゅっと閉じて、そう祈りつつ。
世界の命運を背負うように、空の中で隕石を待ちかまえる。
…………そして。
――――戦いが、始まった。
隕石が射程に入った瞬間、ローナは世界樹の杖を隕石へと突きつける。
「まずはぁ――エンチャント・ウィング!」
初手で発動したのは、終末竜衣ラグナローブの装備スキル。
その効果は、『対象を翼状態にする』。
強化技であるため耐性はなく、隕石から光の翼が生え――。
『『『――やったか!?』』』
と、通話画面から声が聞こえるが……。
しかし、隕石は――止まらない。
少しだけ減速させられた気もするが、光の翼はすぐに散ってしまう。
(……これで止まればよかったけど)
やっぱり、そううまくはいかないらしい。
そもそも、エンチャント・ウィングは、『空を飛べるようになるスキル』であって、『空を飛ばなければいけないスキル』でもないし、仕方はないだろう。
それに、エンチャント・ウィングは……その役割をしっかり果たしてくれた。
と、そこで。
「……っ!」
ローナの視線の先で、隕石の砕けた欠片たちが赤熱して炎をまとい、まるで火の雨のように地上へと降りそそぎだした。
この火の雨だけでも、地上には甚大な被害が出るだろう。
だから――。
「させませんっ! 水分身の舞い! からのぉ、光神魔法――ホーリーヒール! 空中しゃがみ撃ち!」
隕石に向けて、回復魔法の極太ビーム9連撃を放つ。
まるで隕石を受け止めるように放たれた神聖な光。
その圧に、隕石もわずかに押されながら……。
砕けた隕石の欠片たちが――時間を巻き戻すように修復され、隕石の元へと戻っていった。
『お、おい、隕石を回復させてどうするんじゃ!』
「大丈夫です。作戦通りです」
もちろん、これで隕石が止まることはない。
一応、回復による“おーばーふろー”というものができないか確認もしてみたのだが……やはり、それもダメらしい。
しかし、これで火の雨は消え……。
(うん……これで準備ができたね)
これで残るは――隕石のみ。
そして、ローナの本命の作戦はここからだった。
「それじゃあ、行きますっ!」
ローナはそう言うと――。
世界樹の杖をアイテムボックスへとしまい、代わりに“それ”を取り出した。
(……まだ……まだ遠い……もっと引きつけて――今っ!)
ローナはタイミングを見はからい、“それ”を隕石に突きつけるように頭上へと掲げ……。
――そして、告げる。
隕石攻略の鍵となる、その一言を――。
「――――“私とデートしてください”っ!」
……………………。
そして――時間がぴたりと停止した。
『『『…………は?』』』
状況が理解できず、ぽかんとする一同。
ローナの手に握られていたのは、杖でも剣でもなく。
美しくラッピングされた、色とりどりの“花束”だった。
一方、隕石は、ローナの視線の先でぴたりと止まると。
その岩肌が、みるみるピンク色に染まっていき……。
『隕石(♀):は……はぁぁあっ!? で、デートっ!? なっ……ば、バっカじゃないのっ!?』
『『『…………は?』』』
通話画面の中にいる全員が、ふたたび口を開けて固まった。
そんな中、ローナはひとり――。
「――よし、隕石が頬を染めましたね! これは脈ありです!」
と、満面の笑みでガッツポーズをするのだった。
「ふぅ、緊張したぁ……やっぱり、デートを申し込むのは勇気がいりますね……」
『い、いえ、あの……我が使徒ローナ? いったい、なにをしてるのですか?』
『というか、なんで隕石がメスの顔をしてるのかしら、ローナちゃん?』
と、通話画面越しに仲間たちから疑問の声が上がるが。
それに対して、ローナはきょとんと首をかしげ――。
「? 何度も言ったじゃないですか、隕石を“攻略”するって」
『『『――そういう攻略なの!?』』』
「それに、作戦の説明のときに、隕石とデートするってことも言いましたが……」
(((……比喩だと思ってた)))
どうやら、仲間たちに作戦がうまく伝わっていなかったらしい。
(う、うーん……たしかに、隕石の好感度を上げるために強化技とか回復とかしたときの反応もおかしいなぁって思ってたけど……)
これは、作戦開始前に、あらためて説明が必要だろう。
というわけで。
「えっと、この世界には“好感度システム”っていうものがありまして――」
と、ローナはあらためて手短に説明をする。
――好感度。
それは、モンスター含め、この世界のあらゆるNPCに設定されているパラメータである。
『えへへ、エリミナさんのこと、もっと好きになっちゃった!』
『あなたは最高のソナエリストです。ラフィエールポイント+100点』
『推しのUMAにプレゼントを贈って好感度を上げると、能力が成長したり、デートしてくれるようになったり――』
この好感度は、相手と会話をしたり、回復・強化技をかけたり、花束のようなプレゼントを贈ったりすることで上がり……。
そして、好感度レベルを上げると、その報酬として――。
――その相手と1日1回、デートできるようになる。
「それで、デート中は“追従モード”? っていうのになって、デートを申しこんできた人に、なにがあっても絶対について来るようになるみたいでして……もし距離が離れても、すぐにワープして近くに来てくれるそうです」
つまり、これなら……隕石が自分の意思で動けなくても、磁石のように引き寄せることができるというわけだ。
また、デート中はいっさいの攻撃ができなくなるため、隕石も無害化され――。
「つまり、隕石とデートをすれば時間が稼げるというわけです!」
と、ローナはあらためて告げる。
そう、エリミナが以前に言っていた『隕石を操る』『星を引き寄せる』とは、こういう意味だったのだ。
もっとも、本来ならば……隕石に対して『プレゼントする』や『デートに誘う』といった選択肢が出るはずもないが。
しかし、ローナにそのようなルールは適用されない。
なぜなら、ローナはインターネットの神々や、法則に縛られている主人公とは違って――。
――この世界で自由に生きているのだから。
『『『……………………』』』
ローナの説明を受けて、通話画面の先にいる仲間たちが、しばし沈黙する。
たしかに……この方法なら、隕石を倒せるかもしれない。
いや、これぐらいしか隕石の攻略法はないのだろう。
それは、まさにこの世界の希望となる情報だった。
…………が。
『『『………………いや……えぇぇ…………』』』
と、全員から微妙そうな反応が返ってくるのだった。
『い、いや……よく思いついたの、そんなの』
「いえ、考えたのはエリミナさんです。エリミナさんが一瞬で考えて教えてくれました」
『『『――エリミナさん、すごいっ!!』』』
とりあえず、仲間たちのエリミナに対する好感度が上がった。
それはともかく。
「ただ、この作戦にも問題はありまして……」
『問題?』
「はい、これはデートなので、隕石の“トキメキ度”が下がるとデートが終わってしまいます」
『隕石のトキメキ度』
「つまり、隕石を地上にではなく“恋”に落とす必要があるってわけですね」
『やかましいわ』
そう、デートスポット・返事・プレゼントなどの選択を間違え続けると、トキメキ度が下がっていき……トキメキ度が0%になるとデート終了。
その瞬間、隕石は世界を滅ぼす巨大な爆弾となって、地上へと落下する。
また、時間経過によっても、トキメキ度は下がっていくため……。
デートを20分以上続けるには、隕石をときめかせ続けなければならない。
ゆえに、隕石を攻略するために必要なことは――。
「――隕石を、デートしてデレさせることです!」
『い……隕石を……』『……デレさせる?』
隕石との恋愛シミュレーションゲームが、今――始まろうとしていた。
ただ、この方法だと、ローナは隕石に攻撃することができない。
というより、もし攻撃したら、一瞬でデートが終わってしまうだろう。
だからこそ――。
「私が隕石をエスコートしてデートスポットめぐりをしてる間、みんなで隕石に状態異常攻撃をしてください!」
『……な、なるほど……ま、作戦はわかりましたわ』
『はぁ……それしかないんなら、やるしかないわよね』
『それに、細かいこと気にしてる場合じゃ、ありやがりませんしねっ!』
『……やってやる、やってやるわ!』
と、仲間たちが頼もしい返事をしてくれる。
今度こそ作戦をしっかり理解してもらえたようだ。
というわけで、ローナは隕石へとあらためて向き直った。
『隕石(♀):な、なによっ……なにか言いなさいよっ』
「あ、ごめんなさい……それで、デートしてもらえますか?」
『隕石(♀):でも、友達に噂とかされると恥ずかしいし……』
「ダメ、ですか?」
『隕石(♀):だ……ダメとは……言ってないでしょ……♡』
「えへへ、おもしれー女!」
『隕石(♀):トゥンク……♡』
(((……いや……なにを見せられてるの、これ?)))
ちなみに、隕石が人間の言葉を話すのは、『デート中は、どんなキャラもテンプレートのセリフしかしゃべらないから』とのことだが……ローナにはよくわからなかった。
なにはともあれ、デートが始まった以上、いつまでもここにはいられない。
今も、隕石のトキメキ度は減少し続けている。
隕石を攻略して世界を救うためにも――。
「――さあ、私たちの攻略を始めましょう!」
…………かくして。
世界の命運をかけた隕石とのデートが、今――始まったのだった。











