148話 まるちぷれいをしてみた
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エリミナランドにて、“魔王”がローナとともに『魔法少女エリミナ』を見たあと。
ちょうど、園内にエリミナ本人がいたので――。
(……ほぅ。そなたがエリミナ・マナフレイムかや……?)
「!? え、なに、頭の中に声が!?」
(……くふふ……我は“魔王”……今、そなたの脳内に直接語りかけたり……)
「ま、魔王っ!? いったいどこに――」
「――エリミナさ~ん、こっちです! こっち~っ!」
「!? ぎゃああああ、魔王っ!?」
と、直接会って話をしてみた。
そこで、“魔王”がローナのときのように、エリミナにも憑依しようとしてみたが――。
――がいん、がいん、がいん……。
(…………)
「え、なに……え?」
どうやら、エリミナも化身ではないようだった。
普通に人違いだった。
(……エリミナ・マナフレイムよ……次に会うたとき、我らは敵なり……)
「なんで!?」
そんなこんなで。
困惑しているエリミナ(なぜか最後までローナのほうを見ていた)と別れ、“魔王”たちは、ふたたび玉座のところまで戻ってきたのだが――。
(……ど、どうしよう……我が化身、マジで何処にありや……? 完全に手がかりをば失いたり……ぐすっ……)
「だ、大丈夫ですよ、きっと見つかりますって!」
人目がなくなった途端、しゅんとしだす“魔王”。
「えっと、ちなみに……化身さんが見つからないと、そんなにまずいんですか?」
(……しかり……化身なくして、我が現世に顕現すること叶わねば……)
化身とは、“魔王”が現実世界で活動するための肉体だ。
それがなければ、“魔王”は現実世界へと出ることができないわけで。
(……我は、千年も前より、この夢の世より出づること叶わず……ゆえに、たとえ世界征服が叶わねど……化身の肉体を借り、現世に出でて……青き空を、まばゆき太陽を……今一度、この眼で見てみたし……もはや、それのみなり……)
そう、悪夢の集合体である“魔王”は、『昼』の世では――光の中では、生きられない。
この世に産まれ落ちたときから、そう定められているから。
それでも……“魔王”は憧れてしまったのだ。
まばゆく、温かく、色とりどりの現実世界に……青空や、太陽に――。
「魔王さん……」
(…………)
「青空と太陽の画像ならインターネットにありますが、見ます?」
(…………)
なんか見れちゃった。
(……い、否……そういうのには、あらずして……かようなものは、生で見たきものにして……)
「うーん、そうですかー」
と、ローナは人差し指をあごに当てて考えこむ。
“魔王”の願いを叶えるなら、やはり化身を探したほうがよさそうだ。
一応、“魔王”は放置する予定だったが……なんかもう、暴れる気力もなさそうだし、夢の世界に閉じこめられっぱなしというのも少しかわいそうだし……。
「よし! それじゃあ、私も魔王さんの化身探しをお手伝いします!」
(……い、いいのかや?)
「はい! 私、こういう探し物に便利なスキルを持ってるので、すぐに見つかると思います!」
(……あ、ありがたしっ! 化身を見つけしあかつきには、なんでも褒美をくれてやろうぞ!)
そんなこんなで。
ローナはさっそく、“魔王”の化身探しを始めたのだった。
「まず……化身さんって、見た目はどんな感じですか?」
(……わからず……やつは変幻自在に、“外見編集”しうるなり……)
「う、うーん、他に特徴は?」
(……やつは、この世をば遊戯と認識したり……やつの居りし地には……常に、混沌と破滅とが待ち受けたるなり……)
「なるほど……」
(……あの、情報など、ほとんどなきに等しきが……まことに見つかるものなりや?)
「――大丈夫です。インターネットは最高の解答なので」
(……っ!)
まあ、ともかく物は試しに……と。
ローナが先ほど聞いたワードで検索してみたところ。
「えっと、化身、変幻自在、混沌……あっ、それなら呪文とMPがあれば召喚できるみたいです!」
(……真実かや!?)
「はい、それじゃあ、さっそく召喚してみましょう――いあ! いあ! にゃるらとほて……」
(……ちょっと待って)
なぜか全力で止められた。
「え、この呪文はダメですか? うーん、他には……攻略サイトになにか書いてあるかな……」
と、ローナはあらためてインターネットで調べることに。
「えっと、なになに…… 魔王の化身の正体は……“ぷれいやー”? 名前かな? そういえば、掲示板に“ぷれいやー”って神様がいた気も……とりあえず、掲示板で声かけてみるかぁ……『ぷれいやーさん、今いますか?』……っと」
ローナが攻略サイトの掲示板に、ダメ元でそう書きこんでみたところ。
『@名無しの大剣使い:プレイヤーです。今インできます』
「い、いたぁっ!?」
たまたま掲示板を見ていたのか、すぐに本人から返信があった。
「い、いましたよ、魔王さんっ! 化身がっ!」
(……真実かや!?)
「それも、今からここに来てくれるみたいです!」
(……うっそ、まことに!?)
「はい、それじゃあ、さっそく召喚してみましょう――えっと、これをこうして……“まるちぷれいもーど”を“おんらいん”にして、救援チケットを使って……っと」
〈@Crowdさんが冒険に参加しました〉
〈@Crowd:よろです〉
「――というわけで、魔王さんの化身に来てもらいました!」
(……!?!?!?)
そんなこんなで。
ローナは“魔王”の化身を、この世界に召喚したのだった。
ちなみに、来てくれた化身は……リアルな馬のかぶりものをしたパンツ一丁の男の姿をしており――。
(……え、なに、そやつ……何処より出でたるかや?)
「うーん、たぶん並行世界から?」
(……たぶん並行世界から!?)
「はい。この救援チケットっていうアイテムを使うと、並行世界にいる化身さんが少しの間、ワープして助けに来てくれるみたいでして」
(……我が化身、かような便利機能ありけるの!?)
と、あらためて、ローナたちが召喚された化身のほうを見てみると。
化身はなぜかカクカクした動きで、ぶんぶん大きく手を振ってきていた。
〈@Crowd:こんにちは、ローナですさん〉
――しゅぽ♪ と。
化身の頭上にメッセージが表示される。
「えっと……はい、こんにちは、名無しの大剣使いさん! えへへ、いつも掲示板ではお話してますが、これが“おふ会”ってやつですね!」
〈@Crowd:あれ〉
〈@Crowd:ボイチャ機能追加されましたっけ〉
「ぼいちゃ?」
〈@Crowd:というか画質すごいですねw 実写みたいw〉
〈@Crowd:これMOD入れてます?〉
「もっど?」
〈@Crowd:知らないエモだ〉
「えも?」
なにやら混乱しているのか――しゅぽ♪ しゅぽ♪ しゅぽ♪ と、頭の上に『?』つきのスタンプを表示させる化身。
まあ、なんかいろいろ様子がおかしかったが……。
なにはともあれ、これで“魔王”の化身探しは一件落着であり。
「えへへ、化身が見つかってよかったですね、魔王さん!」
(…………)
「魔王さん?」
しかし、なぜか“魔王”は、ものすごく微妙そうな顔をしていた。
その視線の先では――化身がなぜかパンツ一丁のまま、急に走りだしたり、その場でローリングしたり、ぴょんぴょん飛び跳ねたり、いきなり踊りだしたりしており……。
(……え、あの……まことに? まことに、これ? 我が化身、これ……?)
〈@Crowd:まことです〉
まことだった。
(……え、やだ……なんか、やだ……)
と、“魔王”はちょっと泣きそうな声を出すのだった。
とはいえ、化身は化身であり――。
(……ま、まあ、我が思うてた感じとは違えど……いと仕方なし……)
やがて、いろいろ割り切ることにしたらしい。
(……されば、我が化身よ……我が味方とならば、世界の半分をば――)
と、“魔王”が化身のほうを、あらためて見ると。
――がしゃんッ! がしゃんッ! どんがらがっしゃーんッ!
なんか、近くにあった壺や木箱を破壊している化身の姿が、そこにあった。
(……え……いや、あの……なにゆえ、いきなり我ん家の壺や木箱を壊したるかや……? 反抗期? 反抗期かや? あっ、玉座の下を見るのはやめよ……そこはプライベートゆえに……っ)
「あ、あの、名無しの大剣使いさん? なにを……?」
――べちゃっ! べちゃっ! べちゃっ!
(……ちょっ、待って……なにゆえ、無言で我に毒ヘビ投げたるか!? え、なにゆえ、我が周りに壺爆弾をたくさん置きて――)
〈@Crowd:?〉
〈@Crowd:魔王こんなセリフありましたっけ〉
〈@Crowd:まあいいや〉
〈@Crowd:それじゃあ、魔王殺しますね〉
(……!?!?!?)
「わ、わぁっ、ストップ! 名無しの大剣使いさん、ストップです!」
と、間一髪のところで、ローナは慌てて止めに入ったのだった。
その後、ローナたちは必死に事情を説明し――。
〈@Crowd:なるほど〉
〈@Crowd:魔王にこの体を貸してほしいと〉
「はい。少しの間だけでいいので」
ひとまず化身も事情を理解してくれたらしく、ローナたちは、ほっと胸をなで下ろす。
〈@Crowd:魔王程度に救援はおかしいと思いましたが〉
〈@Crowd:そんな隠しイベあったんですね〉
「隠しイベ?」
(……魔王程度?)
〈@Crowd:で、私はなにをすれば?〉
(……まあ、そなたは、そこに立ちておればよし……あとは、我が憑依するのみ……)
〈@Crowd:おk〉
こうして、相手の了承も得たところで。
“魔王”は先ほどローナやエリミナにやったように、霧状になって化身の体へと吸いこまれていく。
そして、“魔王”の霧状の体が、完全に化身の体の中へと収まった、次の瞬間――。
――ゴォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……ッッ!!
と、“魔王”の化身の体から、どす黒いオーラが爆発するように膨れ上がった。
「わっ!?」
(……めぁっ!? ち、力が、めちゃみなぎりたる……っ)
“魔王”もここまでとは予想外だったのか、思わず驚愕の声を上げ――。
(……え、すごっ、思うてた以上の力なり……く、くふふふふ……こ、これが我の力……今の我は、最強なりッ! この力にて、この世をば我がものにしてくれようぞッ! くふふ……むはははははははは……ッ!)
「ああっ、魔王さんが力に溺れちゃった……っ」
いきなり手に入った力に、ちょっと調子に乗りだす“魔王”。
しかし、いい気になっていられたのも、ほんのわずかな時間だけであり――。
〈@Crowd:あ、救援のタイムリミット忘れてた〉
〈@Crowd:いったん落ちますね〉
〈@Crowd:おつでしたー〉
(…………ん? ……え……あっ――――)
〈@Crowdさんが元の世界に帰還しました〉
〈@Crowdさんにフレンド申請を送りますか?〉
そんなメッセージを残して、“魔王”の化身はこの世界から消滅した。
もちろん、その体に憑依していた“魔王”ごと――。
「………………」
しばしの沈黙。
それから、ひとり取り残されたローナは……やがて、うんと笑顔で頷いた。
「――えへへ、これで魔王さんも現実世界に出られるね!」
……かくして。
最後にして最大の厄災――“魔王”は、この世界から完全に消滅し……。
世界は平和を取り戻したのだった。
◇
「――おかえりなさい、魔王さん! 現実世界はどうでしたか?」
(……現世怖し……現世怖し……ガタガタガタガタ……っ)
「魔王さん!?」
ちなみに、その後。
ふたたび化身を召喚し、“魔王”を返品してもらったのだが――。
(……“魔王”など、しょせん……先の時代の“敗北者”なり……)
「ああっ、魔王さんが体育座りしちゃった……」
なにがあったのか、完全に心がぽっきり折れた“魔王”が返ってきた。
「え、えっと、それで……見たかったっていう、青空と太陽は見られましたか?」
(……それどころでは、なかりけり……)
と、“魔王”は震えながら語る。
その話によると、“魔王”は化身とともに並行世界に送られたあと……。
あっさり肉体の主導権を奪い返されたうえに、化身が『素材集め』と称して並行世界の自分をワンパンで殺していく光景を、延々と見せられ続けたらしい。
(……や、やつの我を見る目……“素材”を見る目なりけり……)
「う、うーん、掲示板で話したときは、すごくいい人だったんですけど……ちなみに、化身は他にもいるみたいですが呼んでみます?」
(……いや、なんか……もうよいかなって……)
「でも、青空や太陽が見たいって……」
(……まあ、しょせん、我には過ぎたる望みなけり……)
と、すっかり意気消沈する“魔王”。
彼女が封印されてから1000年……。
この1000年で、なにもかもが残酷なまでに変わってしまった。
もはや言葉ひとつ取っても、『草』『映え』『ちょべりぐ』『ぐぐる』『テラワロス』『エリぴょい』など“魔王”にはわからない言葉が飛び交っているし、今の世界には『銀河征服をたくらむ大魔王』や『千葉県知事』のような強者もごろごろいるらしく……。
これでは“魔王”は『人類の敵』になることすらできないだろう。
(……もはや、我が存在意義など……今の世になかりけり……)
ぽつり、と。
“魔王”は弱音のような声を漏らす。
そこに“魔王”の威厳のようなものはなく、その体は迷子のように小さく見え――。
「うーん……魔王さんの存在意義……あ、そうだ!」
そこで、ローナがぽんっと手を打った。
「魔王さん、さっきなんでも褒美をくれるって言ってましたよね?」
(……めぁ? まあ、しかり……されど、我には、世界の半分をくれてやることも叶わず……)
「いえ、世界の半分とかはいらないんですが」
(……今の我には、夢を操るよりほかは、なにもできぬ……されど、夢などただの泡沫の幻……これでは、現代社会にて通用せぬなり……我、ミジンコなり……)
「え? いやいや、夢を操れるなんて最高じゃないですか!」
(……めぁ?)
“魔王”は顔を上げて、きょとんとローナを見つめ返す。
夢など、ただの儚い幻であり――偽物のはずだ。
夢でお金持ちになれたところで、現実では1シルの得にもならない。
だからこそ、“魔王”は本物に憧れて――本物になりたくて、現実世界を求めたのだから。
しかし、ローナの顔を見ると、どうやら世辞や励ましで言っているわけでもないようで。
(……まことに……我が力は、なにかに使えるのかや……?)
「はい! 魔王さんの力があれば“あれ”が創れます! だから、私が褒美として欲しいのは――魔王さんです!」
そして、ローナはむんっと気合いを入れて、“魔王”へと告げた。
「――私たちの手で“そしゃげ”を作りましょう!」
…………と。











