146話 夢の世界を楽しんでみた
「――えへへ、今日も大盛況だったね!」
そんなこんなで、ローナたちがエリミナランドを無事に開園させたあとのこと。
園の運営については、やる気を出したハイスペック“ふぃぎゅあ”たちのおかげで、ローナはほとんどやることがなくなり……。
「あ、そういえば、まだちゃんと夢の国の観光できてなかったね」
というわけで。
ローナはインターネット画面を見ながら、夢の世界をぶらぶらと探索していた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
≡ 千葉県 文A 91個の言語版
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ページ ノート
━━━
出典:フリー百科事典『ウィキペディア
(Wikipedia)』
千葉県(ちばけん)は、日本の関東地方に
位置する県。県庁所在地は千葉市。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「……?」
いつにも増して、インターネットに書いてある内容はよくわからなかったが……。
「えっと、とりあえず、夢の国があるのは……千葉県浦安市ってところなんだね。浦安市の名物は、焼きはまぐり、焼きあさり、たまごフライ、ぼったら……? うーん、どこに売ってるんだろ?」
と、ローナがきょろきょろと周囲を見回しながら、夢の世界をさまようこと、しばし。
「……ん?」
ふと、地面にきらりと光るものが落ちているのを見つけた。
「あれって……カジノコイン?」
それも、1枚や2枚ではなく。
「あっ! あそこにも落ちてる! あそこにも!」
きらり……。
…………きらり……。
……………………きらり……と。
まるで、夢の世界の奥へと導くように点々と落ちているカジノコイン。
どこからどう見ても、あからさまに罠であったが……。
「ひ……拾わないとっ!」
ローナに拾わないという選択肢はなかった。
そのまま、ローナはほいほいと、夢の世界の奥深くへ足を踏み入れていき……。
………………。
…………。
それから、どれだけ歩いただろうか。
「えへへ、大漁大漁♪ これでスロット何回打てるかなぁ」
やがて、ローナは両手いっぱいのカジノコインを抱えながら、ほくほく顔で視線を上げ――。
「…………え?」
そこで、思わず固まった。
気づけば、つい先ほどまでと周囲の景色が一変し……。
いつの間にか、ローナは小さな部屋の中に立っていた。
……どこか懐かしい匂いのする部屋だ。
静かに揺れる白いカーテン。その隙間から優しく差しこむ、暖かな日差し。
そして、窓際にあるベッドの上にいるのは――ひとりの黒髪の女性。
「――あら? どうしたの、ローナ? そんな顔をして……」
ぽかんと立ち尽くすローナを見ながら、彼女は不思議そうに首を傾げる。
そのどこかローナの面影がある顔は……見間違えるはずもない。
「……お母、さん?」
そう、それは間違いなく――ローナの記憶の中にある母その人であった。
しかし、母はローナが幼いときに亡くなっているはずだ。
状況がわからず、ローナはひたすら困惑するが――。
「……そう、きっと怖い夢でも見ていたのね……でも大丈夫……あなたは、もう戦う必要も、危険な目にあう必要もないわ……さあ、こっちへいらっしゃい……わたしの愛しいローナ……」
母は、ありし日の優しい笑顔のまま手招きしてくる。
ローナはそれに誘われるように、ふらふらと部屋の奥へと歩いていき……。
…………ぱたん、と。
彼女の背後にあった扉が、静かに閉じられたのだった――。
(…………くふふ……我が化身……捕らえたり……)
一方、そんなローナの様子を――“魔王”は彼女の母の中から、ほくそ笑みながら観察していた。
そう、これは“魔王”の仕掛けた恐るべき罠。
自身が悪夢そのものであり、夢を操作する力を持つ“魔王”にとって、『この夢の世界に入った者を、幸せな夢に閉じこめる』ことなど朝飯前であり……。
“魔王”の化身の人格が幸せな夢に囚われているうちに、その肉体の主導権を奪えば――“魔王”は完全に復活することができる、という寸法だ。
もっとも、こんなあっさり罠にかかるとは、さすがに思っていなかったが……。
(……わ、我が化身、いとチョロし……ま、まあ、されど幸せなる夢に囚われたるならば、こちらのものなり……)
そう、彼女が囚われているのは幸せな夢なのだ。
『仲間や家族との絆の力が奇跡を起こす』とか、そのようなイレギュラーでもないかぎり……どんな英雄であろうと、この甘く幸せな夢から目覚めたいなどと思うはずもない。
「わーいわーい」
(……くふふ……そのまま永久に夢に囚われるがよろし……我が代わりにそなたとなりて、現世を掌握してくれようぞ……くふふ……むはははははは……っ!)
こうして、ついに“魔王”の恐るべき計画が始動し――。
「――ふぅ……そろそろ帰るかぁ」
(……そろそろ帰るかぁ!?)
“魔王”の恐るべき計画が、今――終わろうとしていた。
「え、あの……え、帰る? まだ、ここに来て3分ぐらいでしょう? どうして帰らないといけないのか、お母さんちょっとわからない」
「震えてるの、私の手が……早くスロットを打ちたいって」
「そんな理由!?」
仲間や家族との絆の力とかではなく……『ギャンブルをしたい』という切なる想いが奇跡を起こし、少女を現実に引き戻そうとしていた。
「だ、ダメよ、ローナ! ギャンブルは身を持ち崩すリスクがあるわ!」
「でも、だからこそ、生きてるって実感が得られるんだと思う」
「え、すごい反論してくる……と、ともかく、あなたはずっと、ここにいればいいの。安全で、幸せで、なにも知らない子供のままで――」
「無理だよ、お母さん……私もう、競馬もスロットもない生活になんて戻れない……っ」
「それは戻れよ!?」
幸せな夢が、今――競馬とスロットに敗北しようとしていた。
もはや少女を止めることはできず、彼女はさっそく幸せな夢から脱出しようとする。
――が。
(……ま、まあ、されど……この夢の世より出づることなど叶わぬなり……)
と、“魔王”はすぐに余裕を取り戻して、ほくそ笑む。
そう、すでにこの夢につながる“扉”は、完全に閉ざされたのだ。
絆の力でいい感じの奇跡が起こったりしないかぎり、その扉が開くことはな――。
「えっと、なになに……『夢の世界にある扉に向かって波乗りすると壁抜けできます』かぁ……それじゃあ、召喚――ルルちゃん×2!」
「「――るっ!」」
なぜか、ざぶんっと水飛沫を上げながら、ずぶずぶと扉にめりこんでいく少女。
(…………)
なんか普通に、幸せな夢から脱出されそうだった。
そして、もしここで少女を逃してしまえば……“魔王”が化身の肉体をゲットして現世に降臨するチャンスは、もう二度と訪れないかもしれず。
そうなれば、“魔王”はこの夢の世界でひとり、永遠にスタンバることになるわけで――。
「――う……うおおおおおおっ、逃がすかああああっ!! うおおおおおおおおっ!!」
「わっ、体の弱いお母さんが野獣のような雄叫びを!?」
もはやなりふりかまわず、“魔王”は母の体を使って、慌てて少女を部屋の中に引きずり戻した。
「はぁっ、はぁっ……いえ、あの……わたし、あなたの亡き母よ? 普通、亡き母と再会したら、もっとこう……やることがあるでしょう?」
「これ以上苦しまないように、ひと思いに成仏させる……?」
「判断が早い」
いや、たしかに、「逃がすかああああっ!!」とか言いながら部屋の中に引きずりこんでくる亡き母とか、ホラーでしかないだろうけども。
とりあえず、母親では夢につなぎ止めるのは無理そうなので――。
(……くっ、なれば、他の家族をば追加せん……っ!)
“魔王”が冷や汗を流しながら、慌てて夢を操作する。
そうして、部屋にしゅぽんっと出現したのは、少女の父と兄だった。
「ははは! ローナ、パパだよぉ~♪」
「どけ!! 俺はお兄ちゃんだぞ!!」
「…………え、普通に気持ち悪い……」
……ダメだった。
なんか、反抗期の娘みたいになってしまった。
「と、というか、なんで牢屋に入ってないんだろう……私に復讐するために脱獄したとか……?」
(……家庭事情がドロッドロ!?)
とりあえず、家族系の夢はダメそうなので……ひとまず母・父・兄には、省スペースのために部屋の隅っこで体育座りをしてもらいつつ。
(……ろ、路線変更なり……っ)
と、“魔王”はふたたび夢を操作する。
「……ん? あっ、今度はダンスしてる猫だ! あっちは、走るフクロウ!? BBQで大きな肉を焼いてる“あめりか人”もいる!」
いきなり現れた大量のコンテンツに、ふたたび幸せな夢へと興味を示す少女。
そう……ここは少女の夢の世界。
少女の頭の中にあるものや、少女が望むものを、なんでも具現化させることができるのだ。
「わーいわーい」
(……はぁ、はぁ……力をめちゃ使いたるが……こたびこそ、なんとかな――)
「――うん、もういいかな」
(……コンテンツの消費が早し!? な、なれば……さらに新規コンテンツをば追加なり……っ)
「わぁっ、今度は“ぱちすろ”だっ! わーいわーい」
(……はぁ、はぁ……よくわからねど、いと食いつきよし……くふふ……されば、こたびこそ、幸せなる夢に囚われるがよろし……永久に――――)
「……うん……もういいかな……」
(……うっそぉ……)
一瞬で有り金を溶かした少女の姿が、そこにあった。
(……くっ、かくなる上は……当たる確率の調整をば……っ)
と、今度は、少女の前にあった“ぱちすろ”が確定演出を連発し始め――。
「はぁ……」
少女は目を閉じて、ゆっくりと首を横に振る。
「――そうじゃないんだよなぁ」
(………………)
なんか、すごく面倒くさい客だった。
(……な、なれば、確率をば絶妙に調整し……はぁ、はぁ……ここはかようにして……)
「“あぷで”が遅いなぁ……これは☆2」
(……ちょっとは待たれよ! ……はぁ、はぁ……よし! これならば、いかに……っ!?)
と、“魔王”が息を切らしながら少女のほうを見ると。
『――おかえりぃ~♡ 今日の支給品だよぉ♡』(ポン♪)
「えへへ、“そしゃげ”は楽しいなぁ」
(…………)
すでに別のことをしている少女の姿が、そこにあった。
“魔王”の必死のテコ入れなど、もはや見てすらいなかった。
(……な……なんなるものぞ、もぉおおおおお……ッ!!)
◇
――そんなこんなで。
それからも“魔王”は必死に、少女を幸せな夢につなぎ止めようとしていたが……。
一方、囚われの少女――もといローナはというと。
(えへへ! 指で机をとんとんしながら『“あぷで”まだ?』って言うと、いろいろ出てきて楽しいね!)
よくわからないながらも、この状況を楽しみだしていた。
ちなみに、普段からインターネットを浴びているローナにとって、コンテンツ作りの素人である“魔王”の『幸せな夢』程度では、もはや刺激が弱く。
さらには今に満足していて、戻りたい過去などもないうえに、そもそも『ここはただの夢の中』と最初から知っていたため、“魔王”の『幸せな夢に閉じこめる計画』は破綻していたのだが……。
それはそれとして。
「次の“あぷで”は、まだかな? まだかな?」(とん、とん、とん)
ローナはわくわくしながら、指で机をとんとん叩く。
しかし、追加コンテンツは、だんだんと今までの焼き直しが増えていき……。
さらには“あぷで”ペースも、どんどん落ちていき……。
ついには“あぷで”がぴたりと止まり……。
「あ、あれ、次の“あぷで”が来ない……? それに、なんかクオリティーも落ちてきたし……こ、こうなったら、もっと指で机をとんとんしないとっ!」
――とんとんとんとんとん……っ!
と、ローナは“あぷで”を急かすように指で机を叩き続ける。
すると、その指とんとんに呼応するかのように……。
……ぴし……ぴしぴし……ぴし……っ、と。
幸せな夢にいくつも亀裂が走り始め、そして――。
――――ぱりんッッ!!
と、周囲の景色が、ガラスのように砕け散ったのだった。
『“魔王”を倒した! EXPを274111獲得!』
『LEVEL UP! Lv110 → Lv116』
『称号:【エターナル・ヒストリア】を獲得しました!』
「…………?」
なんか突然、よくわからないメッセージが、ローナの視界に表示される。
それと同時に、幸せな夢の景色が、ぱらぱらぱら……と完全に剥がれ落ち――。
「…………え?」
気づけば、ローナは悪夢の中みたいな場所に立っていた。
泡のように宙を漂っている無数の眼球、地面からうねうねと生えている影の腕の群れ……。
そして、そんな悪夢みたいな世界の中心――。
禍々しい玉座の上に、ひとりの少女がいた。
その少女は、夢のように、蝶のように、シャボン玉のように、幻想的で、儚げで……。
(……せぇ、はぁ……こ……こ、こんな……はずでは……っ)
なぜか、過労死しそうな顔をしながら消滅しかかっていた。
その少女のものらしき弱々しい声が、ローナの脳内に直接響いてくるが――。
「え……誰? ……え?」
……ちょっと意味がわからなかった。
と、ローナが戸惑っているうちに、謎の少女の体がぐったりと力なく傾きだし……。
(……はぁ、はぁっ……い、意識が薄れゆくなり……はぁ……我が世界が……崩れ……ぐはっ)
「わ、わぁっ、倒れた!? だ、大丈夫ですか!?」
ローナは慌てて、過労で倒れた謎の少女のもとに駆け寄る。
「――いったい、どうしてこんなことに!?」
(……………………)
なぜか、謎の少女は、なにか言いたげにローナを見るのだった――。











