145話 夢の国を作ってみた
――そんなこんなで。
なんだかんだと、すったもんだはあったものの。
「くぅ~疲れました……」
【ぴぃぃ~✜ 取りこまれるのは二度とごめんなのデス✜】
ローナたちは、無事に“ふぃぎゅあ”たちを全て回収することに成功し――。
ふたたび、ドールランド商館の会議室へと戻ってきていた。
「やー、あれだね、ほんと……異世界技術には、頼りきらないほうがよさそうだね……うん」
「……し、新作グッズは、AIなしの“ふぃぎゅあ”にしましょう……」
と、メルチェ&コノハも疲れたように肩を落とす。
こちらもこちらで、いろいろと苦労があったらしい。
なにはともあれ、こうして“ふぃぎゅあ”の集団脱走騒ぎは、ひとまず収束したが……。
しかし、これで『めでたしめでたし』と幕を引くには、まだ問題が残っており。
「……で、この“ふぃぎゅあ”たちの処遇はどうするの?」
と、メルチェが回収された“ふぃぎゅあ”たちへと視線を向ける。
今は電源をオフにしているため大人しいが……このままでは、電源を入れるたびに騒ぎが起きてしまうだろう。
「んーでも、さすがに売るわけにもねー」
「ただ、処分するのもかわいそうですし……」
「……人類に反抗しなければ、うちで働かせてもいいんだけど」
と、3人が頭を悩ませていたところで。
ぴぴぴ、とピコが電子音を鳴らした。
【――記憶解析完了なのデス✜ “ふぃぎゅあ”たちの要望:『おもちゃとかより、もっと楽でビッグな仕事がしたい』『コスパよくちやほやされたい』『働いたら負けだと思ってる』とのことなのデス✜】
「就活前の学生かな?」
「……そこはかとなく社会をナメてるわね」
「うーん、性格はエリミナさん(心が清らか)をモデルにしたはずなんですが……」
【あとは、『偽物ではなく本物になりたい』っていうのも、あるみたいなのデス✜】
「……複雑な“ふぃぎゅあ”心ね」
「本物を消して自分が本物になろう、とか考えてたりして」
【考えてるのデス✜】
「考えてた」
「うーん、ビッグな仕事……ちやほやされたい……働きたくない……本物になりたい……」
【まあ、働きたくないと言っても、タダ飯はやれないのデス✜ 働かざる『物』食うべからずなのデス✜】
と、“ふぃぎゅあ”たちをどうするか、みんなで頭を悩ませる。
本人たちが嫌がっているうえに、自我が芽生えてしまった以上、売り物にするわけにもいかないが……。
「あっ、そうだ!」
そこで、ローナがぽんっと手を打つ。
「それなら、私に考えがあります!」
――かくして。
“ふぃぎゅあ”たちの命運は、ローナの手に託されることになったのだった。
◇
……一方、その頃。
現世より隔てられた夢の世界――夢幻領域ヨルムンランドにて。
この世界の最後にして最大の悪夢である“魔王”は、今――。
(…………どうしよう……我が化身……全然、来たらず……)
ちょっと不安になってきていた。
ローナたちがのん気に日常を送っている間も、“魔王”は夢の世界でずっとスタンバっていたのだが……まったく誰も来る気配がなく。
(……もしや……我が計画、いとガバし?)
だんだん弱気になってきた“魔王”であった。
そもそも、“魔王”の計画とは――。
①夢の中から出られない“魔王”の代わりに、化身を創って現実世界で活動させる。
②レベルアップした化身が“魔王”のもとに戻ってくる。
③そこで化身と合体し、封印されていない新たな肉体をゲット。
④化身の体で“魔王”が現実世界に降臨し、いざ世界征服!
……というものなのだが。
なんか無駄に複雑なうえに、これでは化身がここに来てくれないだけで、計画が詰んでしまうわけで。
ただ、こちらから接触しようにも……。
(……我が化身は、何処にありや……?)
神々に警戒されないよう化身と魔力的な経路はつないでいなかったし……これまで『化身が宿命に導かれてここまで来てくれる』という予定だったので、居場所などは全然わからなかった。
そもそも、夢の世界に封印されているため、こちらから現実世界に干渉することは、ほとんどできず……。
(……え、よもや……我、ここで永遠にスタンバることになりけるか……?)
と、“魔王”が頭を抱えていたところで――。
『――わぁっ、ここが夢の国かぁっ!』
(…………めぁ?)
夢の世界の様子が映されている絵画の中に、突然、ひとりの少女が入ってきた。
というか、なんかいろいろ順序をすっ飛ばして、虚空からにゅっと少女が生えてきた。
『千葉県の名物は……落花生、梨、醤油、菜の花、M○Xコーヒー、かぁ……“なのはな体操”っていう伝統的な舞いも見てみたいなぁ』
(……え? ……え? な、なにゆえ、只人がここに? ここは……現世より隔たりし、ドリームなランドなりけるが……)
戸惑っている“魔王”をよそに、少女はてくてくと夢の世界を歩く。
一見すると、どこにでもいる普通の少女だ。
なんか猫のように虚空をぽけーっと見つめてぶつぶつ呟いているし、あまり知性も感じられないというかアホっぽいが……。
しかし、よくよく見てみると。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォオオオオオオオ……ッッ!!
と、まとっているマナの量は、もはや人間のものではなかった。
(……こ、この力、もしや……我が化身!? たぶん我が化身なるよね、これ!?)
思わず、天を仰いでガッツポーズをする“魔王”。
おそらく、宿命に導かれて“魔王”の化身がここまで来てくれたのだろう。
やはり、宿命……宿命は全てを解決する。
あとは、“魔王”のいる最深部までやって来たところで、その肉体の主導権さえ奪えば――。
そのときこそ、“魔王”は現世へと顕現できるようになるはずだ。
(……さあ、来たれ、我が化身よ……今こそ、我らの永年王国を始めようぞ……)
“魔王”は口元を邪悪に歪めて、にたぁりと嗤う。
かくして、今――“魔王”をめぐる壮大な物語が、始まろうとしていた。
一方、少女のほうはというと。
『うん! 広いし、近所迷惑も気にしなくていいし、ここなら“あれ”を作れそうだね! それじゃあ、ピコちゃんにもらったワープ装置を置いてっと……』
と、よくわからないことを言うと。
そのまま、少女は帰還の翼でいったん夢の世界から出て……かと思ったら、今度はたくさんの仲間を引きつれて戻ってきて――。
――そして、工事が始まった。
……カンカンカンッ! ガガガガガガガガガガ……ッ!
“魔王”が見ている前で、夢の世界に次々と資材が運びこまれ、先ほどの少女やドワーフたちがなぜかツルハシで夢の世界を整地していく。
『わふふっ! 工事ってんなら、ドワーフの出番でありやがりますねーっ!』
『『『――どわっほい!』』』
『ありがとうございます、ワッフルちゃんとドワーフのみなさん! それで、さっそく……地底王国ドンゴワのトロッコみたいな感じで、この“じぇっとこーすたぁ”っていうのを作りたいなって思ってるんですが』
『わふ? あー、なるほど、トロッコを連結させやがるんですねっ! わかりやがりましたっ!』
こうして、工事は着々と進んでいった。
悪夢を駆除しては魔除けの松明を設置し、整地された地面に金属のブロックがどんどこ積み上げられ、よくわからない設備が次々と形作られていき――。
『へぇ~、千葉県っていうんだ、ここ……あたしのデータにはないけど、亜空間みたいなもの?』
『たぶん、そんな感じです!』
『……くすくす。“こみけ”でも使えそうね……千葉県なら土地代もかからないし、近所迷惑も考えなくていいし……』
『ですね!』
……もちろん、全てが順風満帆というわけではなかった。
スケジュールの遅延、当初の想定よりも膨らむ予算、搬入路やバックヤードの設計ミス、音楽性の違いによる喧嘩……。
しかし、そんな数々の障害も、少女たちは絆パワーでひとつずつ乗り越えていく。
こうして、さまざまなドラマをくり広げているうちに、あっという間に時間が経ち――。
『――お待たせしました! 夢の国エリミナランドの開園です!』
『『『――わああああああああああああああぁぁぁ……ッ!!』』』
(………………)
そして、“魔王”が見ている前で、ついにエリミナランドが開園した。
『――エリミナランドへようこそエリ!』
『エリぴょい♪ エリぴょい♪』
『エリ!』『エリ?』『エリ!』『エリ!』『エリ?』『エリ!』
『すごい! エリミナ様がうじゃうじゃいるわ!』
『『るっ! エリミナせんべい持ってると、めっちゃたかってくる!』』
『わぁっ、尊み秀吉です! 毎日インパしたいです、救世主様っ!』
エリミナカチューシャをつけた人々が、歓声を上げながら楽しげにエリミナランドを回っていく。
園内には、“じぇっとこーすたぁ”などの定番アトラクションに、『魔法少女エリミナ』の“あにめ”やヒーローショーを楽しめる劇場、エリミナ“ふぃぎゅあ”と触れ合えるオイル入りのエリミナせんべい……。
さらには、“隠れエリミナ探し”のような、入場者を楽しませる工夫がたくさんあり――。
『……くすくす。エリミナ推しには、まさに夢の世界ね』
『ま、それにこれなら、“ふぃぎゅあ”たちも偽物じゃなく本物として扱ってもらえるしねー』
【めちゃんこ、ちやほやしてもらえるのデス✜】
『……本人たちも、あんま働いてるって感覚がなさそうだし……いい落としどころね』
『えへへ、“ふぃぎゅあ”たちも楽しそうでよかったです!』
こうして、たくさんの笑顔が弾ける中……。
エリミナランド作りは、無事に『めでたしめでたし』という空気になり――。
(………………なにこれ……?)
そして、魔王編は始まらなかった。











