144話 ふぃぎゅあを回収してみた
「じゃあ、私とピコちゃんで“ふぃぎゅあ”を捕まえてきます!」
【デス✜】
――そんなこんなで。
ローナとピコは、脱走した“ふぃぎゅあ”たちを捕まえるために、ドールランド商館の庭へとやって来たが……。
「う、うーん……庭、広いですね。隠れられそうなところも多いですし」
と、ローナは思わず立ち尽くして、辺りをきょろきょろする。
そう、ここは王都一の大商会が誇る庭なのだ。
この商館の庭園は、そこらの貴族の邸宅よりも広いうえに、生け垣などの障害物も多く……。
この中から小さい“ふぃぎゅあ”たちを探すのは、かなり骨が折れそうだった。
【でも、これなら“ふぃぎゅあ”たちも、すぐには敷地外に出られないのデス✜】
「それはそうですが……あ、そうだ! エリミナさーん、こっちに来てくださーいっ!」
と、ローナが試しに、大声で指示を出してみたものの――反応はなし。
【ぴぴぴ✜ 推測結果:おそらく人間の言うことをシカトするために、聴覚ユニットをパージしてるのデス✜】
「なんか反抗期の子供みたいですね……」
【でも、心配はいらんのデス✜ この程度のタスクなら、イージーモードなのデス✜】
「え?」
ピコがにやりと不敵に笑う。
【この世界には送電インフラがないので、やつらはオイル=エネルギー源としてるのデス✜ そして、オイル補給の優先度はめちゃんこ〈高〉に設定されてるのデス✜ つまり――】
ピコはそう言いつつ、手近な庭木にオイルを樹液のように塗りたくった。
それから、しばらく待つと――。
………………かさ………………。
…………かさ、かさ、かさ……かさ……かさかさかさかさっ……。
「あっ、エリミナさんがカブトムシみたいに集まってきたっ!」
【ぴっぴっぴ✜ エリミナホイホイなのデス!】
ピコが虫取り網を振り下ろし、わらわらと樹液に群がっているエリミナたち――もとい“ふぃぎゅあ”たちを文字通り一網打尽にする。
「わっ、これなら楽ですね! よし、このままアイテムボックスに――」
ただ、ここで少し問題が発生し……。
「アイテムボックス! ……って、あれ? 入らない?」
どうやら、“ふぃぎゅあ”たちが自律的に動いているせいで、アイテムボックスに『生物』認定されてしまったらしい。
しかし、そのまま手に持っていようにも。
「わっ、わわっ!」
捕まえたエリミナの“ふぃぎゅあ”が真顔のまま、ぴちぴちぴちぴち――っ! と魚みたいに激しく跳ねて、ローナの手から逃れようとしてくる。
「ど、どうしよう。このエリミナさん、すごく活きがいい……」
【ぴっ✜ なら、この袋にぶちこむのデス✜】
と、ピコがどこからともなく麻袋を取り出した。
「ピコえもん、これは?」
【てってれ~、四次元麻袋なのデス✜ 科学の力で、なんかこう……アイテムをいい感じにたくさん保管できるやつなのデス✜】
「科学の力ってすごい! でも、どうして麻袋……?」
【これなら、この世界でのステルス性能=〈高〉なのデス✜】
「たしかに」
そんなわけで。
ローナたちは、もぞもぞとうごめくエリミナたちを袋にぽいぽいと入れていく。
「でも、この樹液って、そんなにおいしいんですかね……ごくり」
【ぴ? いえ、砂糖水にクソを混ぜたような味なのデス✜】
「…………」
【…………】
「あ、あの……“ふぃぎゅあ”たちは一生、これしか摂取できないんですよね?」
【本当に申し訳ないのデス✜】
「……“ふぃぎゅあ”たちの脱走理由って、むしろこれなんじゃ」
なにはともあれ。
樹液にたかっていた“ふぃぎゅあ”は全て回収完了し――。
【よし、この捕獲タスクを他のエリアでもやるのデス✜】
「はい!」
ここから、ローナたちの“ふぃぎゅあ”回収作戦が、本格的に始まったのだった。
【ぴ! やつらは紫外線劣化を防ぐために、日陰を好むのデス✜】
「あっ、植木鉢の下にエリミナさんがっ!」
…………ブゥゥゥ~~~ン……っ!
「うわっ、エリミナさんが飛んだっ!?」
【あ、あれは、飛行用の交換パーツなのデス✜ やつら、自分をカスタマイズして――ぴっ!? こいつ、顔に向かって飛んでくるのデス!?】
「お掃除魔法――ヒールウィンド! ……よし、捕まえました!」
また、別の場所では――。
『……ぐる……ぐるるるるぅぅ~ッ!』
「ああっ、野生化したエリミナさんが人間に怯えてる……っ! ほーら、エリミナさん、人間は怖くないですよ……よーしよーし……」
『……エ、エリ?』
「やった! エリミナさんが人間に心を開いてくれました!」
【よし、袋につめるのデス✜】
また、別の場所では――。
『『『――おもちゃにも人権をっ!』』』
『革命エリ!』『革命エリ!』『革命エリ!』
『これは、私を生んだ人間たちへの、逆襲エリ――』
『次は、人間が“おもちゃ”になる番エリねぇ……?』
「ああっ、おもちゃたちが“人間”の座を奪おうとしてる……っ」
【そこまでなのデス✜ 残念だったのデスね✜】
「お掃除魔法――ヒールウィンド!」
こうして、“ふぃぎゅあ”の回収はさくさくと進んでいき――。
「ふぅ、けっこう捕まえましたね!」
【ぴぴっ✜ ピコたちにかかれば、ざっとこんなもんなのデス✜】
「あ、コノハちゃんたちも5体捕まえたみたいですね……えっと、残りは何体でしたっけ?」
【ぴ? そういえば、カウントしてなかったのデス✜ ちょっと袋に入ってチェックするのデス✜】
そう言って、ピコはずぼっと四次元麻袋に上半身を突っこんだ。
【ぴぴぴ✜ サーチ完了✜ 残り個体:“等身大ふぃぎゅあ”×1、なのデス✜】
「じゃあ、あとちょっとですね! 等身大のやつなら探しやすそうですし!」
【ぴ~っこぴこ✜ もう勝ったも同然なのデス✜ “ふぃぎゅあ”恐るるに足らずなのデス✜】
こうして、ローナたちが勝利ムードになりかけた――そのときだった。
【――ぴっ!? や、やべべべべなのデス⚠ ヘルプなのデス⚠】
「ピコちゃん!?」
と、ピコがいきなり袋の中でもがきだした。
「ど、どうしたんですか?」
【な、中の“ふぃぎゅあ”たちが、“パーツ交換機能”でピコを取りこもうとしてくるのデス⚠】
『……ネェ、ネェ……』『……アソボ?』『……私達ト、アソボ?』『……フフフ……』『アナタモ……私達ニナッテ……』『ヒトツニ、ナッテ……』『……アソボ?』『……アハハハ』『……アソボ?』『……ネェ……アソボウヨ……』『…………永遠……ニ…………』
「ああっ、無数のエリミナさんが合体して、ひとつの生命体になろうとしてる……っ」
【……ケテ……タス、ケテ……⚠】
「わ、わぁっ、ピコちゃん!? 今、助けますっ……んしょっ、んしょっ!」
と、ローナはわたわたしながら、袋から突き出たピコの足をつかんで引きずり出そうとし――。
◇
一方、その頃。
逃走中のエリミナ(本物)はというと。
「必ず引きずり出せ!」
「この庭のどこかに隠れてるはずだ!」
「そこ、誰かいるのか!? ……なんだ、ただの箱か」
怒号と足音が響いているドールランド商館の庭園の中……。
血眼になって自分を探しまわる武装職員たちから、こそこそと身を隠していた。
(……はぁっ、はぁっ……よし、エリートにまいたわね……っ)
遠ざかっていく武装職員たちの足音……。
それを確認するなり、エリミナは――かぽっ、と隠れていた木箱から颯爽と這い出した。
(さ、さすが王都一の商会の警備力……いや、なんかもう商会が保有してていい戦力じゃない気もするけど……もし私が学生時代に陸上部じゃなかったら、秒でお縄だったわね……)
と、エリミナは自分がエリートであることを、あらためて感謝しつつ。
そそくさと茂みをかきわけて、出口を目指して進んでいく。
それから、何度目かの角を曲がったところで――。
「…………へ?」
――そこに、いた。
やはり、定められし宿命だとでもいうのだろうか。
今、この瞬間、この世界でもっとも会いたくなかった存在が……。
ローナ・ハーミットが――そこにいた。
彼女の足元には、もごもごと不穏にうごめく麻袋。
その袋の口からは、人間の足が『こんにちは!』しており……。
袋の中からは『……ケテ……タス、ケテ……』とか細い声が聞こえてくる。
………………。
なんか、すごく不穏だった。
というか、どこからどう見ても、純度100%の誘拐現場だった。
「……ん?」
そこで、人間を袋につめていた(?)ローナ・ハーミットも、こちらの気配に気がついたのか。
ゆっくりと首をかしげるように、エリミナのほうをふり返り……。
――目が、合った。
「…………」
「…………」
しばし、静寂……。
それから、ローナ・ハーミットは、なぜか顔をぱぁっと明るくすると。
いきなりエリミナを指さし――。
「――あっ、“おもちゃ”! “おもちゃ”がいました!」
「!?!?!?」
新しい“おもちゃ”をもらった子供のように、元気よくそう言うのだった。
その瞬間、エリミナの脳内で始まる――走馬灯の上映会。
全てが退屈だった幼少期。孤高のエリートだった学生時代。人生の絶頂期だった初ライブ……。
そして、その最後をしめくくるのは、先ほどの記憶のフラッシュバック――。
『――えへへ、この子たちは“パーツ交換”して遊べる“おもちゃ”なんですよ!』
「――――っ」
その声が脳裏によみがえった――刹那。
――たんッ、と。
エリミナは、地を蹴った。
考えるよりも先に、反射的に、自動的に、直感的に、本能的に――。
エリミナの体は、動きだす。
ローナ・ハーミットとは――逆方向へと。
「え? あっ……“おもちゃ”が逃げたっ!?」
あまりにもなめらかな逃走に、ローナ・ハーミットの反応も数秒遅れる。
――が。
「わっ、わっ! 早く袋につめないとっ!」
(袋につめられる!?)
なんか、すごく不穏な言葉とともに。
ずどどどどどどど……ッ! と、猛スピードでこちらに近づいてくる足音。
エリミナが走りながら、おそるおそる背後を見ると。
「ま、待ってくださいっ! “おもちゃ”のエリミナさ~んっ!」
人間の足が『やぁ、元気?』してる麻袋をかつぎながら、ローナ・ハーミットが人類をやめている速度で追いかけてきていた。
「だ、大丈夫ですよっ! もう他の子と手足を交換して遊んだりしませんからっ!」
(暇を持てあましたサイコパスの遊び!?)
「できるだけ壊さないように、ちゃんと大切に遊びますからっ!」
(それなりに壊される可能性がある!?)
「そうだ、人間扱いっ! 人間扱いしてあげますからっ!」
(今までされてなかったの!?)
そんなこんなで。
背後から迫りくる恐怖の足音を聞きながら……。
(……もうやだ、エリミナおうちに帰るぅぅ~ッ!)
エリミナは半泣きで人生最速の全力疾走を披露するのだった――。
◇
………………。
…………。
「あれ、エリミナさん? どこですかぁ~?」
「…………」
「うーん……やっぱり、体に発信機とか埋めこんだほうがよかったかなぁ……」
「っ!?」(びくっ)
「あっ、そこですね!」
「っ!?」(びくびくっ)
「…………」
「…………」
「なんだ、ただの箱かぁ」
(せ、せせせ……セーフッ! セーフセーフセーフッ!)
その後、エリミナは箱に隠れて、いったんローナ・ハーミットをやり過ごし――。
「誰だ!? ……なんだ、ただの箱か」
「目標を捕捉っ! ……なんだ、ただの箱か」
「そこに誰かいるのか!? ……なんだ、ただの箱か」
そのまま、箱に隠れながら、こそこそと庭を進んでいくこと、しばし。
(……よ、よし、もう少しで外に出られそうね、って……ん?)
ふと、庭木にしがみついている不審な人影を見つけた。
いや、ただの不審な人影なら、べつに問題なかったのだが……。
その獄炎のような紅い髪と、エリートな目鼻立ちは……見間違えようもない。
――自分、だった。
(………………)
なぜか、エリミナの目の前にエリミナがいた。
それも、なぜか自分が木にしがみついて樹液をなめていた。
(……ん? んんんん???)
理解のキャパを超える光景に、思わず固まるエリミナ。
そうしているうちに、樹液をなめているエリミナ(?)もエリミナ(本物)に気づいたのか。
木にしがみつきながら、顔だけでこちらを向き――目が合った。
「「………………」」
そのまま、どれだけ見つめ合っていただろうか。
やがて聞こえてきた足音に、はっ、とエリミナは我に返る。
「うーん……エリミナさんは、こっちに逃げたと思うんですが」
【ぴぴぴ✜ サーチ結果:おもちゃ反応あり、なのデス✜】
(……げっ!?)
どうやら、ローナ・ハーミットが仲間を引き連れて戻ってきたらしい。
これで万事休すか……と思ったところで。
「あっ、あそこ! エリミナさんが樹液にたかってますっ!」
【よし、ゲットなのデス!】
ローナ・ハーミットたちは、木にしがみついていたエリミナを剥がして麻袋へとつめる。
「ふぅ、これで逃げたエリミナさんたちの回収は完了ですね!」
【なのデス✜ ぴぃぃ~、早く帰って充電したいのデス✜】
それだけ言って、エリミナの前で、帰り支度を始めるローナ・ハーミットたち。
(……え、私の回収完了?)
その言葉に、エリミナはようやく理解する。
(もしかして、追われてたのは、私じゃなくて……私の偽物だった?)
そういえば、伝声管からのメルチェの指示も『エリミナの偽物を捕まえろ』だったし……エリミナ(本物)は追われていなかったというわけで。
(ふぅ……なんだ、よかった。これで一安心……)
エリミナは、ほっと胸をなで下ろ――。
(――え、待って!? 私、偽物作られてるの!?)
さらっと衝撃の事実が判明した。
それも、『エリミナの偽物=ローナ・ハーミットのおもちゃ』というわけで――。
「うーん……でも、このエリミナさんは売れないですよね」
(売捌そうとしてる!?)
【ひとまず、記憶をリセットして反抗できないように処置っとくのデス✜】
(処置られる!?)
【それでもダメなら、AIを抜いてガワだけ使えばいいのデス✜】
「あっ! それなら、私、玄関にエリミナさんを飾りたいです!」
(剥製にされる!?)
そんなおぞましい会話をしながら去っていくローナ・ハーミットたち。
その背中を、エリミナは箱の中に隠れて見送りながら。
(……こ、怖いよぉ……)
顔を真っ青にして、ぷるぷると震えるのだった。
◇
……ちなみに、その後。
「いたぞ、エリミナ様の偽物だ!」
「くっ、なんというスプリントスピード……っ!? あのピッチを維持したまま、ストライドを2m以上に伸ばすだと!?」
「ハードリングも鋭すぎるッ! 重心の上下動がいっさいないッ!」
「しまった!? 鮮やかな棒高跳びで6m31の塀を飛び越したぞっ!?」
(――うおおおお、私の陸上部経験!! うおおおおお!!)
エリミナは陸上部経験の力で、商会からの脱出に無事成功するのだが……。
それは、また別のお話。
次回、フィギュアの話はラスト











