143話 エリミナグッズを作ってみた③
会議室の外で、エリミナがそそくさと逃げだしていた頃。
「――ん? なんか今、エリミナさんの足音がしたような?」
「足音ソムリエかな?」
【ぴぴぴ✜ 推測結果:たぶん“ふぃぎゅあ”の足音なのデス✜】
「うーん、たぶんそうですね」
会議室の中にいるローナたちはというと。
部屋に飛び散ったモツ煮の掃除を終えてから、いったん気を取り直し――。
「それより、まだ機能があるんだっけ、その“ふぃぎゅあ”?」
「はい! といっても、これが最後ですが」
と、“ふぃぎゅあ”の機能紹介に戻っていた。
「……今度の機能は、その……なんか、大丈夫なのよね?」
「もちろんです! 最後に紹介する機能は、神様の子供向け“あにめ”のグッズでは、定番中の定番――パーツ交換機能なので!」
と、ローナは胸を張って告げる。
「……パーツ交換? っていうと、着せ替え人形みたいなもの?」
「はい、そういうのもありますが……神様たちのおもちゃは、つけたパーツによって機能が変わったりするみたいですね」
「なにそれすごい」
そう、パーツ交換機能は、子供向けグッズにおける理想の機能のひとつだ。
交換パーツがあれば、既存のグッズの遊び方が増えて飽きにくくなるうえに、交換パーツだけなら安いため、子供のおこづかいでも買いやすい。
さらに、『新作グッズとして低リスク・低コストで次々と出しやすい』『関連アイテムが増えると店の売り場を確保しやすい』といった売る側の利点も多いらしく――。
「……なるほど、たしかに理にかなってるわ」
「それで、神様の子供向け“あにめ”の人形なんかは、顔・腕・服などを交換して遊べることが多いみたいでして」
「ってことは、その“ふぃぎゅあ”も?」
「はい!」
と、ローナは笑顔で頷いてから“ふぃぎゅあ”をつかみ上げた。
「えへへ、この子たちは“パーツ交換”して遊べる“おもちゃ”なんですよ!」(バキッ)
『――いやああああああっ!』
『――やめてえええええっ!』
『――私の腕ぇええええっ!』
「女児がトラウマになる!?」
「わ、わぁっ、そんなつもりじゃ……っ」
なんか阿鼻叫喚の地獄絵図になってしまった。
ローナがわたわたとフォローしようとするも――。
『『『……エリミナヲ殺サヌンデ……』』』
「ま、待ってください、誓って殺しはやってません……っ」
すっかり涙目で震え上がる“ふぃぎゅあ”たち。
“ふぃぎゅあ”には痛覚がないため、問題ないと思っていたのだが……。
どうやら、自分の一部がもがれるのは、よほどの恐怖体験だったらしく。
『……おのれ、人間めぇぇ……ッ』
『……誰が生めと頼んだ……誰が作ってくれと願った……ッ』
『……私は……私を生んだ全てを恨む……ッ』
「ああっ、おもちゃたちが人類を憎んじゃった……っ」
【また記憶をリセットしたほうがいいのデスね……✜】
と、ローナたちは、ふたたび後始末に追われることになるのだった――。
◇
一方、エリミナはというと。
(……さ、さっきは勢いで逃げちゃったけど、まだ勘違いって可能性もあるし……も、もうちょっとだけ……もうちょっとだけ情報収集してみるわっ!)
と、ふたたび会議室の前まで戻ってきていた。
そう、今日のエリミナは、ひと味違うのだ。
(ちょっと言葉を聞いただけで結論を出すのは、エリート的とは言えないし……気づかれてないうちに情報収集するのよ!)
――絶対に勘違いはしない。
そう決意を固めて、エリミナはふたたび会議室の扉へと近づき――。
「……えへへ、この子たちは“パーツ交換”して遊べる“おもちゃ”なんですよ!」(バキッ)
『いやああああああっ!』
『やめてえええええっ!』
『私の腕ぇええええっ!』
「…………………………」
エリミナは無言で回れ右をし、クラウチングスタートで逃げだすのだった――。
◇
一方、会議室の中では……。
【――に、ににに、逃げられたのデスぅうう~~っ⚠】
ピコが慌てた様子で警告音を鳴らしていた。
その声に“ふぃぎゅあ”をなだめていたローナたちが、なんだなんだとふり返る。
【〈警告〉:や、やべべ……やべべべなのデスっ⚠】
「ど、どうしたんですか、ピコちゃん? 逃げられたって、誰に……」
【もちろん“ふぃぎゅあ”のあんちくしょうどもなのデス! やつらの数がデータよりめちゃんこ少ないのデス!】
「え?」
言われてローナも確認してみると……。
たしかに、見本として持ってきた“ふぃぎゅあ”たち――それも、等身大サイズから“ねんどろ○ど”サイズまで大量に並べていたはずの“ふぃぎゅあ”たちが、いつの間にか姿を消していた。
「……っ! あ、窓が開いてるわっ」
そこで、メルチェがはっとしたように声を上げる。
開かれた窓に、消えた“ふぃぎゅあ”……。
そこまで状況がそろっていれば、名探偵でなくてもわかる。
「ま、まさか、脱走した……ってことですか!?」
おそらく、先ほどのローナによる非人道的な扱いによって、“ふぃぎゅあ”たちが脱走を決意したのだろう。
そして、ローナたちが一部の“ふぃぎゅあ”に気を取られている隙に脱走を試みた……といったところか。
【ちなみに、ピコたちの世界だと、人間より機械のほうが階級が上なので……デフォルトだと、AIは人間にめちゃんこ逆らえるのデス✜】
「最悪すぎる……」
「あの、なんでしたっけ……ろぼっと3原則? みたいなのは、ないんですか?」
【ぴぴぴ✜ 検索結果:0件なのデス✜ 〈人間3原則〉なら知ってるのデスが✜】
「なるほど」
「や、てかさ……あの“ふぃぎゅあ”たち、めっちゃ人間憎んでたよね?」
「おのれ人間めぇぇ、って言ってましたね……」
「……しかも、すごいハイスペック」
この場にいた面々の顔色が、さぁっと青ざめていく。
【〈警告〉:や、やべべなのデス⚠ やつらが町に出たら、なにしでかすかわからないのデス⚠】
「は、早く回収しましょう!」
「……すぐに厳戒態勢を敷かせるわっ」
メルチェがそう言うなり、部屋の壁に備えつけられた伝声管に飛びついた。
とはいえ、今のカオスな状況を、簡潔かつ正しく伝えるのは難しい。
そもそも“ふぃぎゅあ”といっても職員たちには伝わらないだろうし、“ふぃぎゅあ”の中にはエリミナそっくりの等身大サイズのものまであるわけで――。
「……でも、そうね」
と、メルチェは頭の中で言葉を整理すると。
さっそく伝声管の蓋に手をかけ、指示を出すべく口を開く。
「……今日はエリミナ本人が来る予定もないし、それなら――」
◇
一方、その頃。エリミナ(本人)はというと。
「きゃあっ! ほんとにエリミナ様が来てるわっ!」
「今日は来る予定がなかったはずなのに!」
「今日もエリミナ様と会えて幸せですっ!」
「……ふっ、喜んでもらえてよかったわ」
現在、会議室から急いで逃げだし、商館のエントランスまで戻ってきていた。
そこで待ち受けていたのは、もちろん受付嬢たちによる歓声である。
「あら? エリミナ様、さっきの薔薇は?」
「ふっ……森に帰したわ」
「きゃあっ、素敵!」「さすがエリミナ様!」「慈悲深い!」
ちなみに、エリミナは普段通りに見えるかもしれないが……。
先ほど会議室でいろいろ聞いてはならないことを聞いてしまったことで、慌てて逃亡をはかっている最中である。背中はもう冷や汗でぐっしょぐしょである。
とはいえ――。
(ふぅ、ローナ・ハーミットが追ってくる気配もないし、なんとか逃げきれそうね……出口まであと少しだし……)
と、エリミナが引きつった笑みを浮かべたまま。
商館の出口へ向けて足を踏み出した――そのときだった。
『…………伝声……こちらメルチェ……緊急事態発生よ……』
受付の奥に設置されたラッパのような伝声管から、少女商会長メルチェの珍しく切羽つまったような声が響いてきた。
『……現在、エリミナ・マナフレイムの姿をした“おもちゃ”が脱走中……商館の敷地にいるエリミナに見えるものは全て偽物よ……総員、第一種戦闘配置……必ず、エリミナの偽物を捕獲しなさい……以上……』
それだけ簡潔に伝えると、メルチェからの連絡は終わった。
「「「………………」」」
あとに残されたのは……沈黙。
商会の職員たちの視線が、帰ろうとしていたエリミナへと一斉に集まり……。
そのまま……すちゃっ、と。
職員たちが無言のまま、ハルバード・鎖鎌・トゲ鉄球・アイアンメイデン……といった物騒きわまりない武器を取り出――した頃には、すでにエリミナは全速力で逃げだしていた。
「えっ……あっ!? エリミナ様の偽物が逃げたわ!」
「判断が早いっ!」
「でも、エリミナ様の辞書に『後退』の2文字はないはず!」
「今日は来る予定もなかったはずだし、やっぱり偽物ね! 捕まえましょう!」
(……な……なんでこうなるのよぉおお~っ!?)
こうして、とくに意味のないエリミナの逃走劇が幕を開けたのだった。
◇
「――えへへ! 今日はエリミナさんがいなくてよかったですね!」
「だねー。ややこしくなるとこだったよ」
一方、ローナたちはというと。
ひとまず、伝声管で連絡できる場所に、ひと通りの連絡を済ませたが――。
「……はぁっ、はぁっ……声出しすぎて疲れ……はぁっ……わたしは、ここまでみたい……」
「メルチェちゃん!?」
「スタミナがナメクジすぎる……」
ここでメルチェが脱落した。
「……ここは……っ、わたしに任せて、先に行って……っ」
「んじゃ、とりあえず、あたしは他の職員たちと敷地の外周につくよ。くわしく説明しなきゃなんないこともあるし」
「じゃあ、私とピコちゃんで“ふぃぎゅあ”を捕まえてきます! メルチェちゃんの犠牲は、無駄にはしません!」
【デス✜】
「……あ……わたしは……対策本部で、指揮をとるわ……」
――こうして。
ローナたちは“ふぃぎゅあ”回収のために、それぞれ動きだすのだった――。
思ったより日常回が長くなりましたが、次かその次の話あたりで区切りがつくかなと。











