142話 エリミナグッズを作ってみた②
ローナたちが“ふぃぎゅあ”のモツ煮機能のせいで、どたばたしていた頃。
ドールランド商館のエントランスもまた、どたばたと騒ぎになっていた。
「きゃああ~っ! エリミナ様よっ!」
「エリミナ様が薔薇をくわえながら歩いてるわっ!」
「おかしくなっちゃいそうっ! 心臓が破裂しそうっ!」
そう、今をときめく大スターこと、エリミナ・マナフレイムが商館に降臨したのだ。
「でも、エリミナ様? 今日はどうして薔薇をくわえてるのですか?」
「…………ふぅ」
エリミナは無言のまま、ちっちっち、と指を振る。
「私が薔薇をくわえてるんじゃないわ」
「え?」
「――薔薇が、私にくわえられに来てる……みたいな?」
「――っ!」「きゃあ、素敵!」「さすがエリミナ様!」
商会職員たちが仕事も忘れて、きゃあきゃあと色めきたつ。
それもそのはず。
先日の“こみけ”でのエリミナ初ライブは伝説となり、ファンたちの熱狂は最高潮。
さらに、『魔法少女エリミナ』の2期制作まで決定したのだ。
そんな今ノリにノッているエリミナが生きているだけで歓声を浴びるのは、もはや自然の摂理であり……。
つまるところ、エリミナはいつものごとく調子に乗っていた。
(……聞こえる聞こえる……私を呼ぶ声が……うへ……うへへへへ……)
エリミナはそう内心で気持ちよくなりながら、受付へと向かい――。
「それで、エリミナ様? 本日はどのようなご予定でこちらに? 撮影の打ち合わせは、明日だったかと思いますが」
「…………ん?」
エリミナがぴたりと硬直した。
そのまま、ぎぎぎ……と、受付の横にある卓上カレンダーを見て――気づく。
(よ……曜日間違えたああああッ!?)
そう、今日は打ち合わせでもなんでもない、ただの平日だった。
(そ、そういえば、最近は通勤してないから曜日感覚が……でも、薔薇をくわえてきた手前、今さら間違いだとも言いづらいし……くっ、薔薇さえくわえてきてなければ……っ!)
今さらそう後悔するも、すでに遅く。
「あの、エリミナ様? もしかして、曜日を間違えて――」
と、受付嬢のひとりが察したように口を開く。
――が。
「エリミナ様が、そんな間違いするわけないでしょ!」
そこで、他の受付嬢から鋭い叱責が飛んだ。
「そもそも、薔薇をくわえながら来ておいて曜日間違いでしたとか、そんなのただのバカじゃない!」
「え……」
「エリミナ様をバカにしないで! 今日もなにかインポッシブルなミッションをしに来たに決まってるでしょう!」
「ね! そうですよね、エリミナ様!」
「…………」
「…………」
「……はい」
「ほら!」
なぜか、どんどん引き返せない感じになっていく。
「あ、そういえば、今……『まほエリ』関連の会議が急遽開かれていますが、もしかしてエリミナ様もそちらにご参加するとか?」
「……せ、正解よ」
「やった!」
なんかよくわからないままに、『魔法少女エリミナ』の会議に出ることが決定したエリミナであった。
(ま、まあ、『魔法少女エリミナ』関係の会議なら、私がいても問題ないはず……よね?)
自信はあまりないが、すげなく追い返されることはないだろう。
と、エリミナが考えていたところで。
「そうですか、エリミナ様も、ローナ様からお声がかかっていたのですね!」
「…………ん?」
――というわけで。
なぜかエリミナは、ローナが待つ会議室へと向かうことになったのだった。
(……え、なんで? なんで、私の行く先々にいつもローナ・ハーミットがいるの? 定められし宿命なの? というか、ローナ・ハーミットが招集した会議ってなに? サバト? 私、これから生贄にされるの? もうやだ、怖い……エリミナおうち帰りたい……)
さっきまでのるんるん気分はどこへやら。
ちょっと半泣きになりながら、ひとり会議室へと向かうエリミナ。
――ローナ・ハーミット。
それは、『邪悪なる“魔王”』であり、『分裂・増殖をくり返す生体兵器』であり、『闇の勢力から崇拝されている邪神』であり、『遊びで世界を終わらせようとする人類の敵』である(※エリミナ調べ)。
そんな相手のテリトリーに、自ら近づけば……。
(うん……『突撃! 私が晩ごはん』の未来しか見えないわね)
間違いなかった。
とはいえ――。
(ん? でも、そういえば……)
と、そこで、エリミナは冷静に考え直す。
思えば、ローナ・ハーミットからは日常的に恐喝やパワハラを受けてきたが、直接的にエリミナが危害を与えられたことは……そこまでなかった気もする。
それに、この“あにめ”作りにおいても、最初に世界を人質に恐喝された以外は、ひどい目にあわされたこともない。
だから、もしかしたら……もしかしたら、だが。
これまでのあれやこれやは、奇跡的な勘違いで――。
(ローナ・ハーミットは、そこまで邪悪な生き物じゃなかった説も……ある?)
あるいは、人類の敵ではないという可能性も、なくはないかもしれない。
(なんにせよ……エリートたる者、この目でしっかり真実を見きわめるべきね!)
と、そんなことを考えているうちに、エリミナは会議室の扉の前にたどり着き……。
「……ん?」
そこで、ふと。
会議室の中から、ローナ・ハーミットが子供(?)と話している声が、かすかに聞こえてきた。
『『『…………シテ……コロ、シテ…………』』』
「……“おもちゃ”たちが……死に救いを求めちゃった……」
【……記憶をリセット……死……】
………………。
なんか、すごく不穏だった。
(え、なに……絶賛サバト中? い、いやいやいや……なにかの聞き間違いよ、きっと!)
そう、いつものエリミナならば、ここですぐに『ローナ=魔王』と結論を出して逃走していただろう。
しかし、今日のエリミナはひと味違った。
(ちゃんと真実を見きわめなきゃ、真のエリートとは言えないわ! それに、まだこっちには気づかれてないし……これはローナ・ハーミットを見きわめるチャンスよ!)
というわけで。
より情報を得るため、エリミナがさらに扉へと耳を近づけると。
「……あ……“モツ”の掃除もしないと……」
ふいに、そんな言葉が聞こえてきた。
(……モツ?)
なにやら、会議室の中は“モツ”の話題でもちきりになっているらしい。
何度も何度も“モツ”という言葉が使われている。
(? なんで、ここで食材の話……? 『まほエリ』の会議って聞いてたけど……)
と、エリミナが首を傾げつつ、さらに扉に耳を近づけると。
子供のような声と、ローナ・ハーミットの声が、よりはっきりと聞こえてきた。
『『『…………シテ……コロ、シテ…………』』』
「……すぐ楽にしてあげますからね。体の中の“モツ”を……全部出して、と……」
………………。
たぶん食材の話ではなかった。
というか、『体の中のモツ』ということは――。
(――モツって、臓物のことだ!)
エリミナは、今――全てを理解した。
となると、今この会議室でくり広げられている会話も、意味合いが変わってくるわけで――。
「……うへぇ……部屋中、臓物まみれだよ……」
(ぎゃああああッ!? スプラッタッ!?)
「……口から臓物を吐いてるときに、歌って踊らせたのはまずかったですね……」
(鬼かよ!?)
「……で、この臓物どうする?」
「……あ、ちょっと食べてみたいです!」
(食べるの!?)
「……んんぅ~っ♪ おいしい~っ♪」
(食べたあああああああッッ!?)
「……えへへ……噛んだ瞬間……じゅわ~っ! と臓物のうまみが口いっぱいにあふれ出てきて……んぅ~、舌の上でとろけますっ!」
(世界一聞きたくない食リポ!?)
「……うん、この子たちの臓物は売れますね!」
(児童臓物を売捌そうとしてる!?)
……なんか、聞いてはいけないことを、いろいろ聞いてしまった気がする。
もしも、ここにいたことがバレたら……消されかねない。
というわけで。
(……わ、私はなにも聞いてない……私はなにも聞いてないぃぃ……っ)
エリミナは涙目になりながら、そそくさとその場から逃げるのだった――。











