140話 魔王編を終わらせてみた
…………遠い昔。
この世界で、旧人類と神々による終末戦争が起きた。
そのときに現れたのは、3つの大いなる厄災。
第一の厄災――終末竜ラグナドレク。
第二の厄災――黙示獣テラリオン。
そして、それに続く第三の厄災……。
それは、人類の悪夢の集合体にして、地上にはびこる悪夢どもの王。
その存在に“名”などなく。その存在は“名”など必要とせず。
人や神は恐れを込めて、この厄災をこう呼んだ。
――――“魔王”、と。
………………。
…………。
(…………我が目覚めの刻は……近づきたり……)
――夢幻領域ヨルムンランド。
そこは、現実からは隔てられた、無限に広がる夢幻の世界。
あちこちから泡のようにわき上がるのは無数の眼球、地面からうねうねと生えているのは影の腕の群れ、宙に浮かぶのは誰かの夢を映している絵画たち……。
そんな全てがぐにゃぐにゃで、どろどろで、曖昧で、不確かな、おぞましい悪夢みたいな世界の中心にある禍々しい玉座に――。
――ひとりの少女が、座していた。
夢のように、蝶のように、シャボン玉のように、幻想的で儚げな少女。
しかし、少女は……人間、ではない。
こんなものが、人間であっていいはずがない。
どれだけ擬態していようと、少女は“魔王”と呼ばれる悪夢そのものなのだから。
(……終末の竜も、黙示録の獣も、討たれにけり……全ては、我が描きし物語のまにまに……)
歌鳥がさえずるように。
声というよりは、音色のように。
古の“魔王”は、悪夢の中で、美しく言の葉を口ずさむ。
どうやら、現在――とある少女が、さまざまな厄災を討ち滅ぼし、世界を救っているらしい。
まるで、物語の“主人公”のように……。
おそらく、“主人公”はそのまま“魔王”をも倒そうとでも考えているのだろう。
(……されど、全ては……我が手のひらの上……)
なぜなら、“主人公”が敵を倒せば倒すほど、力をつければつけるほど……。
それは――“魔王”の糧となるのだから。
(……くふふ……おかしいとは思わざりしや? なにゆえ、そなたは……たかが人の身にて、竜や神を討ちえたる? なにゆえ、たかが人の身にて、そこまで強うなりける?)
そう、全てに答えはあるのだ。
“主人公”の前に立ちふさがる敵が、いつも“適正レベル”だったことも。
“主人公”が、たびたび誰かに自分の行動を“選択”されていたことも。
“主人公”が人間の身でありながら“外見編集”や“肉体自動保存”や“死に戻り”ができたことも。
(……全ては……そなたが、かように創られし、我が化身なればこそ……)
――化身。
それは、“魔王”の善なる部分を切り離し、現世に顕現させた“魔王”の半身。
それは、神々を欺きながら、地上で力をたくわえさせていた“魔王”の新たなる肉体。
化身のレベルも、スキルも、装備も、所持金も、アイテムも、召喚獣も……。
いずれ、全ては“魔王”のものとなる。
なぜなら、それは最初から、そのように生まれた存在なのだから――。
(……さあ、来たれ、“主人公”よ……今こそ、我らの永年王国を始めようぞ……)
そして、“魔王”をめぐる壮大な物語が、今――始まったのだった。
◇
一方、その頃。ローナはというと。
「うーん……魔王復活かぁ」
ラフィエール(偽物?)の配信によって“魔王”復活のお告げを聞いたあと。
インターネット画面をぽちぽちして“魔王”について検索していた。
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▍メインストーリー/3部/【魔王】
▍推奨レベル:150
▍開始場所 :【夢幻領域ヨルムンランド】
▍開始条件 :2部クリア
▍概要
ついに明かされた【魔王】の正体……
それは【主人公(プレイヤー)】自身だっ
た!
主人公は【魔王】とひとつになり、世界を
滅ぼすため現実世界へと降臨する。
そんな主人公の前に立ちふさがるのは、か
つての仲間たち……。
はたして、仲間たちの祈りは主人公に届く
のか!?
今、【魔王】をめぐる壮大な物語が、始ま
る――!!
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「……なるほど?」
いつも以上に、よくわからない情報が多かったが、とりあえず……。
「――うん、『開始場所』に行かなきゃいいみたいなので、魔王さんは放置でいいですね」
というわけで、“魔王”をめぐる壮大な物語が、今――終わった。
………………。
「え、魔王の話これで終わり?」
「はい」
終わりだった。
――――魔王編、完。
「じゃあ、話も終わりましたし、スロット打ってきますね」
「……我が使徒ローナよ。ちょっと待て。ステイ」
「わん」
ラフィエールからストップがかかった。
「いえ、あの……え? 魔王ですよ? この世界の最後にして最大の厄災が、満を持しての復活ですよ? もっとこう、なにかあるでしょう? 『魔王との壮大なる最終決戦!』『感動のフィナーレ!』『そして、伝説へ……』的なあれやこれやとか……」
「………………」
「神が話してるときに、スロット打ちたすぎて震えるのやめてくれます?」
「あの、ちなみに……魔王さんを倒すといいことあるんですか?」
「ラフィエールポイントがたまって、隠しヒロインのわたくしとデートできるようになります」
「…………」
渋いなぁ、とローナは思った。
「うーん……私も忙しいので、魔王さんにかまってられないと言いますか」
「いえ、あなたの1日って、ほぼスロットじゃないですか。もはやスロットの合間に人生やってるじゃないですか」
「そ、そんなことありませんよ。週末には競馬にも行ってます」
「…………」
「えへへ、モツ煮をちびちび食べながらレースを観るのが、最近の生きがいでして――」
「……我が使徒ローナよ。あなた、実は中におっさんの魂とか入ってます?」
と、話は脱線してしまったが。
それはともかく。
「うーん、でも、魔王さんの話と言いましても……こっちから行かなきゃ、魔王さんは夢の王国でスタンバってるだけ、みたいなんですよね」
「え、えぇ……そんなことあります?」
「はい。インターネットに書いてあったので間違いありません」
――インターネット。
それは、神々の書架にして、真理の窓。
ゆえに、インターネットには正しい情報しか書かれていないというのは、もはや常識だった。
「そういうわけで、インターネットにいる神様たちもみんな、魔王さんを放置してカジノに行ってるみたいです」
「それは、さすがにかわいそう」
「まあ、それに……戦うことになっても、“攻略法”はもうインターネットに書いてあるので」
と、ローナはアイテムボックスから黄金の拳銃を取り出した。
「……? それは?」
「これは、カジノの景品の“回転式金銃デット・オア・アライブ”っていうものでして……この銃の装備スキル【現金弾】は、『消費金額の1%の威力の弾を生成する』って効果があります」
「? それは強いのですか?」
「はい。魔王さんのHPは100億ぐらいなので、その100倍の1兆シルあれば一撃で倒せるみたいですね」
「!?!?!?」
「それで、友達のメルチェちゃんの資産だけでも10兆シルぐらいあるので、まあ……」
「い、いや……なんちゅうもんをカジノの景品にしているのですか!? こんなんあったらもう、魔王とか出てきてもシリアスできないじゃないですか!」
「平和でいいじゃないですか」
「それは、そう……ですがっ! なんか、すごく……モヤるっ!」
まあ、“魔王”が封印されてから1000年も経っているのだ。
さすがの“魔王”といえど、時代の波には勝てなかったのだろう。
なにはともあれ。
「はぁ……ひとまず、話は理解しました。そういうことでしたら……魔王は放置しましょう。あえて藪をつつく必要もありませんしね」
「はい!」
かくして、“魔王”をめぐる壮大な物語は、幕を閉じ――。
“魔王”を放置したまま、ローナの平和な日常回が始まるのだった。











