お墓参り
旦那様方が避暑に向かい一週間の使用人たちは休暇に入った。
八月の下旬だからか暑さは厳しく、外に出ることを躊躇ってしまう。本当ならば訓練を水谷さんに見てもらいたいが、せっかくの休暇を邪魔にする訳にはいかない。
することが無いならば図書館にでも行くのはどうだろうか。何年図書館に通っていても未だに全ての本に目を通すことは出来ていない。
行く途中は暑いものの施設内はとても涼しい。
薄手のワンピースに上着を持って行けば風邪を引くことも無さそうだ。
急いで着替え、外に出る頃には昼に近づいていた。小腹を満たそうとパン屋に入るとカレンダーが目に入った。
先日はお盆だったようだ。普段世間から離れた生活をしていると日付けが分からなくなってしまう。
天気も良いので久しぶりにお花でも買ってお墓参りに行こう。予定も無かったので丁度良かった。
お墓参りに向いているかどうかは置いておき、両親が好きだった花を見繕う。
カスミソウとカランコエ。その他にはそれらに合いそうなものを選んでもらい買った。
カスミソウは特に母が好きだった花だ。
花言葉は「幸福」「無邪気」「親切」「清らかな心」「感謝」。
以前、なぜカスミソウが好きなのか聞いたことがある。
あの時は二人が若くして亡くなるとは思ってもいなかった。何と言っていただろうか。ハッキリとは思い出せない。
日に日に両親のことを思い出せなくなっていくのが怖い。いつか二人の声や顔まで思い出せなくなってしまうのではないかと思ってしまう。
しばらく電車に揺られながらずっと亡くなった両親のことを思い出していた。
目的地に辿り着き、電車を降りると夏独特の蒸し暑さと日差しが肌に刺さるように感じた。
すぐに肌が赤くなってしまうので日焼け止めはきちんと塗っているが、それでも焼けていく感覚がある。
お寺で手桶とひしゃくを受け取り、線香を買って両親のお墓の前に向かった。
お花を生けようとするも、既にいくつか生けられていた。花が枯れている様子は無く、まるで今さっき持ってこられたかのようだった。
身内は……居ないはず。そもそも両親と自分以外に同じ血筋の人が居るという話は聞いたことがない。
それならば両親の知り合いだろうか。
生けられた花の中にカスミソウがあった。
母の好きな花を知っているということはそれなりに親しかったのだろうか。
既に去った人物のことは確かめようが無い。
持ってきた花を生け、線香を並べた。
そしてお墓に水をかける。
水をかけ終わっても何故か立ち尽くしてしまった。
やはりお墓には何かあるのだと思う。
他の場所よりも涼しく、心地良く感じるのは私だけだろうか。
両親のお墓に向けてそっと手を合わせた。
お父さん、お母さん、お久しぶりです。お盆時期に来れず、少し遅れてしまいましたが挨拶に来ました。命日にも来れなくてごめんなさい。丁度その日はお嬢様が風邪をひいてしまったのと、仕事が抜けられそうになくて来れませんでした。
そちらはどうですか。過ごしやすいですか。元気にやってますか。辛くはないですか。凄く心配です。
そういえば、初めて彼氏という存在の人が出来ました。とても優しくて色々と助けてくれる人です。最近付き合い始めたばかりですがずっと騙しているようで心苦しいです。
これも言って無かったでしょうか。『柳田』さんという方のところに嫁ぐことになりました。『柳田』さんは色事をよく好む方で、お酒も好んで飲むようです。
その方に嫁ぐことは後悔していません。それが私に出来る最大の恩返しだと思っています。なのでどんなに扱いが悪くても仕方がないことだと思い、頑張りたいと思います。
メールの内容からすれば『柳田』さんは可愛がってくれそうですが、他の女性や息子さん方からはよく見られないでしょう。その息子さん方は私と同学年の方が一人、一つ年下の方が一人ということで同じ学校に通うことになります。レベルは少し下がりますが、変わらず勉強は続けられるようにしたいと思います。
十月頃には嫁ぐ予定ですが、未だにこのことは伝えられていません。どうやって伝えるのが一番良いでしょうか。私には分かりません。
もし上手く伝えられたとしても受け止めてはもらえないでしょう。良くて罵倒されると思います。
別に受け止めて貰えないことは良いんです。罵倒されようが非難されようが自業自得なので仕方ないとは思ってるんですが……それでも無視されたら……きっと辛くなってしまう気がして、まだ言えてないです。
どうすれば良いでしょうか。
まあ、その辺りはどうなっても自分の責任ということで頑張りたいと思います。
まだまだ心配をかけてしまうことも多いと思いますがこれからも見ていてください。
こちらは何とか元気にやっているので、あまり心配はしなくて大丈夫です。
矛盾していることばかりですが、これでもきちんと仕事はこなしているので安心してください。
婚約の件で十月辺りからはしばらく来れなくなってしまうので、また休暇中にもう一度来ます。あと来れれば十月の頭辺りにも。
では、そろそろ。
ありがとうございました。どうかこれからもよろしくお願いします。
両親に報告し終わった直後は別世界に飛ばされ、戻ってきたようだった。
返事がある訳ないと分かってはいても耳を澄ましてしまう。
勿論空耳が聞こえることも無く、ただ木々のざわめきを感じるだけだった。
外柵にそっと腰を下ろす。行儀は良くないがその場を立ち去ることは躊躇われた。
両親のお墓の場所は墓地の中でも端の方にあり、少し孤立気味だ。
だからこそ遠慮なくお墓の前で過ごすことが出来る。
それにこの場所はちょっとした木陰があり涼しい。
こうして座っていると全身で自然を感じられる。目をつぶると、普段では感じることの難しいことまで感じられる。
ふと目を開けると木陰の位置が変わっていたように感じられた。
やはり寝てしまっていたようだ。
運の良いことにさっきも今も木陰の中で、日に当たった様子は無さそうだった。
久しぶりに自分の部屋でない時に寝てしまったかもしれない。いくら人が周りに居なくて、居心地が良かったからといって警戒感が無さすぎだっただろうか。
少し安心し過ぎてしまった気がする。
時計を確認すると意外にもあまり時間は経っておらず、戻ってから図書館へ行く余裕もありそうだ。
また来ます、とだけ言いその場を離れ図書館に向かった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は葵の夏休みについての話でした。
近いうちにと言いながら数週間も経ってしまいすみません。
次回は早めに更新したいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




