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誘い

 

「葵さん、陽夜ちゃんも昼休憩入って」

「ありがとうございます」

「はーい」

 お昼の時間が過ぎ、客足が少し落ち着いたため休憩になった。劇に出るメンバーはこの時間に休憩に入ることになっている。

「葵、一緒にご飯食べよう!」

「良いけど、着替えてからね」

 そう言い二人で更衣室に向かう。

 廊下ですれ違うたびに人から見られてしまうのは、やはり仕方がないのかもしれない。



 着替え終わり更衣室を出て荷物を取りに教室に戻ると、と四宮くんとその友人の井上くんに話しかけられた。

「村雨さん、四宮さん。良かったら一緒に回りませんか」

「葵が良ければ」

 そう言いこちらを見る陽夜の目は何か企んでいるようだった。こちらとしては断る理由は無いので一応気になったことを聞いておく。

「私たち軽食は持っていて、それに少し何か追加で買う程度しか回りませんがそれでも良いですか?」

「大丈夫だよ、一緒に回ってくれるということだよね?」

「そういうことですね」

 そう答えると自然に女子と男子それぞれ、ペアになって歩き出した。

 並び順は陽夜と井上くんが前列。私と四宮くんが後列だ。なぜこのペアなのか疑問に思っていると井上くんが急に振り向き、話しかけてきた。

「村雨さんとはたまに話しますが四宮さんとは話したことないので嬉しいです」

 四宮くんがいなければきっと学年で一番カッコいいと話題になっただろう。

 四宮くんが高身長のイケメンなのに対して井上くんは、身長は四宮くんほどは高くはないものの平均よりは高く、紳士的な性格から多くの人に人気だ。もちろん、四宮くんほどではない。

「確かに初めて話しますね……敬語じゃなく大丈夫ですよ」

「四宮さんも敬語じゃなくて良いよ、俺もタメ口にするから」

 それを聞き、井上くんは紳士というよりも子犬のような年下のイメージになった。少し可愛いと思ってしまったのはギャップ萌えというものだろうか。

「そうさせてもらうね」

 そう言い少し笑うと井上くんは少し驚いたような顔をした。

「どうしたの?」

「葵って無自覚で落とすよね……」

 陽夜に困ったようにそう言われてしまったが、何を落としたのだろう。お金も落としてはいないので大丈夫なはずだ。

「葵さん、劇、残念だったね」

「確かに着替えの時間を考え忘れて、急に変更になるとは思っていなかったからね」

 あのドレスを着る時間を考え忘れていたため、始めの継母にいじめられるシーンは、私と背が近い子が代わりにやってくれることになった。その子には本当に感謝している。

 三日前に変更というのはもう二度としたくない。

 ドレスを着るシーンは変わらず私の担当なので、作り直さなくて良いのは不幸中の幸いだろう。

「でも四宮くんと関わるシーンはだいたい私が担当だからよろしくね」

「よろしく……それに四宮くんじゃなくて葵って呼んでくれるんじゃ無かったっけ?」

「そうだったね……葵くん」

 最近『葵くん』と呼んでいなかったからか呼ぶのが少し恥ずかしい。前に慣れたはずなのに。



 校舎内を歩いて回り、いくつか買えたため中庭に来ていた。

「中庭ってあまり人がいないんだね」

「お昼の時間は過ぎたとはいえ二組くらいしかいないのは、いつもと比べて少ないね」

「葵、あそこの椅子に座らない?」

 陽夜がそう言い指したのはベンチだった。道を挟んで向かいにもベンチがある。

「四宮くんと井上くんもここで大丈夫?」

「大丈夫だよ」

「俺も平気」

 井上くんはそう言い笑った。やはり紳士的に振る舞うよりもこちらの方が似合っている気がする。

「葵?またぼーっとしてたの?早く食べないと休憩、終わっちゃうよ」

「ごめんね、食べようか」

 そう言い買ってきたものを陽夜との間に広げる。

 買ったのは、たこ焼きとジュースをそれぞれ一つずつだ。軽食としておにぎりを持ってきているので十分な量だろう。

 温かそうなたこ焼きを一つとり口に入れる。少し熱い気がするが安っぽい味が割と美味しい。

 隣の陽夜もたこ焼きを食べているようで「熱い」と言いながら足を少し揺らしている。やはり陽夜の動きは一つ一つが可愛く見える。見ていた私に気がついたのかこちらを見て「どうしたの?」と首を傾げているのも可愛く見える。見えるのではなく可愛い、という断定の言葉の方が合っているのかもしれない。

 時間もたくさんあるわけではないので少し急ぎめで食べる。

 食べ終わった頃には四宮くんも井上くんも食べ終わっていた。 ちょうど陽夜も食べ終わったようだ。

「お待たせしてごめんなさい」

「大丈夫だよ。美味しそうに食べるな、と思って見ていただけだから」

「そう思うよね、やっぱり陽夜は美味しそうに食べるよね」

「私のことではないと思うよ……」

「そうかな?」

「時間も無いから戻ろう」

 井上くんがそう言うとみんな動き出した。発言力がある人は良いな、そう思いながらみんなの後ろについていった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

前回の予告通り、劇のシーンまで書きたかったのですが残念ながら劇までは書けませんでした。

次回は書けたらなと思っています。


今回は新しく「井上くん」も登場しました。

これからも新しく増えた井上くんも含めて四人の関係を見守っていただけると嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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