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迷ったら月に聞け 3~叛乱  作者: 環
月の真実
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生きる

次の日の朝、蒼が急いで維心の居間へ行くと、十六夜が伸びをしながら奥の部屋から出て来た。

「よお、早いな、蒼。」

蒼はびっくりして問うた。

「え、維心様の所で寝たの?」

「こやつがどうしても譲らぬと言いおって」続いて維心が維月の手を取って出て来た。「結局は我の寝台に並んで寝たのよ。」

憮然としているが無理もない。維月が横に居て手を出せないなんて、維心にすれば針のむしろであったろう。蒼は苦笑した。

「まあ、いつもは二人なんですから。」

維心はフイと向こうを向いた。

「我には時間の制限があるというに。」

蒼はそれで思い出した。母さんは、どうするつもりで居るんだろう…。すると、十六夜も言った。

「条件は同じだろうが。維月もオレもその時一緒に逝くんだからよ。これからはきっちり半分に分けるからな。」

蒼は仰天した。なんだって?

「ええ!十六夜も母さんも?!」

十六夜は何でもない事のように言った。

「なんだよ、まだ言ってなかったか?維月が維心について行くと言うから、オレも行くんだ。お前が居るから、月は大丈夫じゃねぇか。」

蒼は地団駄を抱き締めた踏まんばかりに言った。

「そんな…オレ一人残すつもりかよ?!無理だ…オレだけ不死なんて!」

楊蘭と地が来たのがわかったが、蒼は止められなかった。十六夜が諭すように言った。

「蒼、誰でも親離れしなきゃならなぇ時が来るんだ。維心だって、将維を残して行くんだしな。どの親だって、先に死ぬだろうが。維心なんて寿命を遥かに越えて地を守り続けたんだぞ、たった一人で。お前には将維も居る。大丈夫だ。」

蒼はかぶりを振った。

「無理だ!オレには無理だよ…三人一度になんて!勝手過ぎるよ!」

「蒼…」

維心が止めようとしたが、蒼はそこを飛び出して行った。

地と楊蘭が顔を見合わせた。

「地上の王よ、話があるのだが。」

地の声に、維心が振り返った。維心は、座るように促した。皆が腰掛けると、再び地が口を開いた。

「まず話さねばならぬのは、主らの寿命についてだ。」一同は驚いた。急に命の話か。「それぞれの寿命は、与えた責務によって変わる。生まれ出るにも、個々に使命を持っておる…それが例え、どんなに小さき人であってもな。」

皆頷いた。

「それが大きな力を持って生まれると、さらに責務は大きくなる。地上の王は、元々我が、我が子を作る前に、地を平定させようと生まれたもの。しかし、神の力には制限があるので、いくら強大でも抑えられぬものがある。よって、我は月を作った。月が早くに役目を果たせるべく育っておれば、主の使命は果たされ、寿命は尽きていた。」

維心は驚いた。では、我が十六夜に会うのは、決められた事であったのだ。十六夜と維心は目を合わせた。

楊蘭が、維月に言った。

「主も使命があった。主は我に似せて地が人として生ませたもの。子をたくさん成し、月の力をもっと使えるように、月を補佐させようとした。そこは思惑通りで、力の強い人を産み出した主の寿命は尽きた…が、月は主を、想像以上に必要としていた。片割れが世を捨てて一人になるのは不憫でならず…無意識に主に母を見ているのかとも思い、地は月の片割れの命を、主に与えるように持って行った。そして、同じ孤独に使命を果たし続ける、地上の王が主を望むのも、また良しとした。」

維月は驚いた。自分で何もかも決めていたつもりが、そちらへ促されていたなんて…。

地が続けた。

「地上の王の寿命は、月が王になれる時点で尽きる。だからこれは後10年と申した訳だ。王よ、主は早く寿命が来ればと望んでおったであろう。我が引き伸ばしておったために、1700年にもなっておったのだからの。」

その視線を受けて、維心は維月を見た。確かに、我は早く世を去りたいと思って生きていた。なぜに自分だけ、これほど長く世におるのかと…。

「…確かにそうだった。だが、主は維月を我に与えたであろう。不死の維月を思うあまり、我は初めて生きたいと望んだ。死ねば二度と会えぬからだ。」

地と楊蘭は、また顔を見合わせた。

「…さもあろう。我にもその気持ち、今はわかる。」

「ですが、私も共に参ります」維月が言った。「維心様は、命を切り離せるので。」

維心は維月の手を握った。反対側で、十六夜も維月の手を握った。

「だからオレも逝く。それは阻まないでくれよ。維心の気持ちがわかるなら、オレの気持ちは分かるはずだ。」

地は頷いた。

「わかっておる。しかし…」と楊蘭を見た。「昨日話し合ったのだが、月は我らよりは人の世を知っておるとはいえ、やはり神の世も知らぬ。それに、王としての気構えがまずない。判断の真ん中に維月が来るのでな。力は持っておるが、これは終生変わらぬのであろうて。そこで地上の王よ。主に、地上を統べてもらい、月に教え、その力が必要な時には、月にさせて欲しいのだ。地上を円満におさめるには、王の器が居る。考えたが、主以外に居らぬのだ。」

維心はじっと聞いていた。それは…

「…我も、死ねぬということか。」

地と楊蘭は頷いた。

「主に寿命は決めずにおこうと思う。どうしても逝きたい時は、相談するが良い。我らも考えようほどに。」と十六夜を見た。「主は子を王に育てよ。逝くのはその後のことぞ。今はもし命を切り離されても、我らが主を留めるゆえ逝けはせぬぞ。生まれた以上は責務を果たせ。母は主を生むために、どれほどに大変であったか。」

隣で楊蘭が笑った。地のほうが苦しそうだった記憶を思い出したのだ。十六夜はブスッとした顔をした。

「なんでオレだけ。若月は逝かせた癖によ。」

地は首を振った。

「あれは別の生き方をしておったからの。女ゆえ、甘やかしてしもうた。が、その命を維月に与えて、主の希望通りにしてやったではないか。これでも我も、子の心配はしておったのだぞ。確かにこの世よりあの世のほうが安らかではある。責務も使命もないゆえな。だが主は、まだ責務を全うしてはおらぬわ。」

その様子に、維月は笑ってしまった。十六夜が父に叱られている。こんなことは、絶対にないと思っていたのに。

十六夜は頷いて、維心を見た。

「お前も付き合え。さっさと先に逝きやがったら許さねぇからな。」

維心は呆れたように眉を寄せた。

「まあ、考えておく。」

その様子を微笑んで見ていた楊蘭が、地をつついた。地は微笑した。

「では、これよりはこれからの地上の対策を話そうぞ。女同士は話す事があるようだ。」

楊蘭が立ち上がって、維月を呼んだ。維月はためらいがちに立ち上がった。

「庭にでも出ようぞ。政治向きのことは、男どもに任せておけば良いのだ。」

二人は、居間の横の庭へと出て行った。


居間がかなり向こうに見える池の側、楊蘭は立ち止まって座った。維月もそれに倣って横に座る。楊蘭はそれを見て微笑んだ。

「主はな、月は我に姿が似て居らぬと申したが、髪を黒くして目の色を変えた我に、良く似ておるのよ。地は、女というと我しか思い浮かばなかったと言っておった。それで、我に似せて生ませたのだそうだ。」

維月は微笑んだ。

「では、本当に娘であるのですね。若月から命をもらわなくても…。」

相手は頷いた。

「そうよな。主は他人とは思えぬ。」そして、居間の方へ目をやった。「我は今まで神とも人とも生活を共にしたのだ。だが、昨日我が片割れに会って、愛されると、それこそが幸福と思えたのだ。主は幸せ者よの。そんな者が二人も居るのだから。我は主らが夜あの行為をしておるのも見たが、維心は巧みであるよのう。今度地と共に見に行こうと言っておる。」

維月は真っ赤になった。そうか、地は維心様より力が上だから、維心様でも気付かなかったのだわ。

「あの、それは…さすがに恥ずかしいので、お断りしたいのですが…。」

楊蘭は不思議な顔をした。

「何が恥ずかしい?我らは学ばねばならぬ。何でも良い方法があるなら、そちらも試してみたいのよ。」維月はこちらを見ない。楊蘭はため息をついた。「まあ、良い。黙って見るゆえ。」

維月は慌てた。どうしよう。維心様に言うべきかしら…。楊蘭はそんな維月に構わず、息をついて空を見上げた。

「月のこと、頼んでおく。あれは間違いなく主を母とも思っておるわ。愛しゅうてならぬのだ。全てを主に見ておるのでな。まあ、おそらく維心もそうなのだろうが。」

維月は頷いた。そうなのだ。両方とも、子供のような時もある。いろんな役割を全て自分に見ているから、あんなに執着するのだわ…。

「私は多くの子の母ですから。大丈夫ですわ。」

維月はうけおった。子育てなら自信はある。陽蘭は満足げに頷いた。

「我は子育てだけは出来なんだゆえ。」維月は悲しげな顔をした。陽蘭はそれを見て笑った。「今更もう良いのよ。それでも、あれは我が生んだには変わりない。あの目は我、髪は片割れよ。」

そして立ち上がって居間の方を見た。

「これからは、たびたび地上へ出て来ようと地と話しておった。だから、月ともたびたび会うであろうし、主とも会う。それに、蒼にもな。あれはまだほんの赤子のようなもの。王になれるよう、維心や月から学ぶ必要がある。主はしっかりそれをサポートしてくれ。維心の子の事もあるであろうがな。」

「はい。」

維月も立ち上がって、しっかりと頷いた。陽蘭は、居間の方へ歩き出した。

「さて、帰ろうぞ。おそらくもう終わる。」

維月は驚いた。もう?

「まだ半時も経っておりませぬが。」

陽蘭は笑った。

「そんな込み入ったことを話しておるのではないわ。地はの、維心に地上は任せるつもりでおるのだ。困ったことがあったら、自分に言えと。それぐらいよ。なぜなら、これからは我らが直に話せるゆえ。」

居間に向かって歩いていると、維心と十六夜と地が、立ち上がったのが見えた。三人ともこちらを見ている。維月は歩くスピードを上げた。

居間へ入ると、維心が維月にすぐ手を差し伸べて、こちらへ来るよう促した。いつもそうなので維月は慣れていたが、十六夜がふてくされた。

「なんでえ維心、お前はそういうことには早いんだからよ。」

維心はフフンと笑った。

「もたもたしておったら、かすめ取られるのだ。主も少しは危機感を持て。」

陽蘭が地に話している。

「…それでの、維月は嫌だと申した。」

地は戸惑っている。

「別に本人に言わずとも良かったのではないか?」

陽蘭は首を振った。

「黙って見るより良いかと思うて。」

維心が怪訝な表情で維月を見た。維月は小声で言った。「後からお話しします」

しかし、陽蘭がこちらを向いて大きな声で言った。

「では、維心を貸してもろうても良いぞ!我が学ぶゆえ。」

維月はびっくりして維心の前に通せんぼをするように立った。

「駄目です!」

維心は眉を寄せた。

「何の話だ?」

維月が困っていると、陽蘭があっけらかんと言った。

「主の夜の技のことよ。主はいろいろ知っておろう?我は見た。」

維心がびっくりして両眉を上げた。見た?

維月が下を向いてごにょごにょと言った。

「その…見ていらっしゃったと言って、それを学びたいと…。お断りしたのですが。」

維心は呆れたように肩でため息をついた。十六夜が横で憮然としている。

「なんだよ、あれは人に見せるもんじゃねぇだろうが。」

地が頷いた。

「それは知っておるぞ。我らもそこまで無知ではない。ゆえにわからぬようにしておるではないか」と陽蘭を見た。「だから、言わずに行こうと言ったではないか。」

陽蘭はぷうと膨れた。

「わかった。維月が良さそうだったから、我はそれを地としたいと思っただけなのだ。」

維心は笑ったが、十六夜は不機嫌そうに眉をますます寄せ、維月は真っ赤になった。地はまあまあと陽蘭を諭し、三人を振り返った。

「ではな。我はまた参るゆえに。聞きたいことがあれば、いつでも呼ぶがよい。どこに向かって呼んでも、我には聞こえる。」と陽蘭を見た。「ほれ、行くぞ。」

二人は窓から飛び立って行った。

残された三人は呆然と立っていたが、十六夜がまだ機嫌悪げに言った。

「…気分が悪い。オレは蒼をなだめに行ってくらぁ。」

十六夜は、そう言い置いて、荒々しく出て行った。

まだ維心の前に通せんぼの状態で立っていた維月は、それを見送って途方にくれた。いったいどんな顔で維心と向き合えばいいのだろう。

それを知ってか知らずか、維心が後ろから維月を抱きしめた。

「主、我を守ろうとしたの。我が他の女の所へ行くのは、嫌か。」

維心の声は、心なしか弾んでいる。維月はおそるおそる振り返った。

「…維心様は、行きたかったですか?」

維心は慌ててかぶりを振った。

「それはない。」と、維月を抱き上げた。「昨日は我がどれほどに我慢したか、主には分かるまい。奥へ行こうぞ。」

維月はびっくりして言った。

「維心様!あんなお話になったばかりで、しかもまだお昼になるかならぬかの時間でございます。もし、あの二人が戻って参ったら…。」

維心はちょっと膨れたような顔をした。

「別に見ていても良い。どうせこちらからは見えぬのだから。」

維月は維心の腕から飛び降りた。

「だ、ダメです!」そして、慌てて居間の出入り口に向かった。「私も蒼が気になるので行って参りまする。」

維心は腕をつかんで止めた。

「わかった、何もせぬゆえ」と、引っ張り戻した。「ここにおれ。後で我と行こうぞ。今は十六夜が話しておるのだろう。水をさしてしまうのでな。」

維月は渋々頷いて、維心に促されて隣へ座った。維心は維月の肩を抱いてため息をついた。

「夜が待ち遠しいことよ…。」

その呟きを聞き、維月もため息をついた。

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