KillerWorld ―イース編― エピローグ「偽物」
マリを置いて。
青年は夜の中を歩いていく。
背中の向こうでは。
メリカがまだ泣いている。
「偽物でもいい」
その言葉を。
青年は何度も思い返す。 KillerWorld_イース編_エピローグ_偽物
マリは。
ゴイに作られた。
顔も。
記憶も。
身体も。
役割も。
それでも最後に。
死に方を選んだのは。
マリ自身だった。 KillerWorld_イース編_エピローグ_偽物
では。
偽物が自分で選べば。
本物になるのか。
青年は。
そんな綺麗な答えを拒む。
なぜなら。
「僕、まだ偽物だから」 KillerWorld_イース編_エピローグ_偽物
そして。
青年は。
白い部屋の0を思い出す。
何を欲しがるのか。
何を嫌うのか。
何を選ぶのか。
まだ。
何も決まっていない。
でも。
マリが選べたなら。
0にも。
まだ選ぶ余地はある。
だから。
「まだ終われない」
青年は。
壊れた身体のまま。
もう一度。
歩き出す
エピローグ 偽物
背中の向こうで、メリカが泣いていた。
声を押し殺すこともできず、名前を呼んでいる。
「マリ」
何度も。
「マリ……」
もう返事が返らない相手へ。
青年は振り返らなかった。
黒いフードを深く被り、マスクで顔を隠したまま、夜道を歩いていく。
足取りは遅い。
右脚が少し遅れてついてくる。
右手はポケットの中。
さっきまで、マリを終わらせた手。
感覚は、もうほとんど残っていなかった。
(振り返らないんだ)
「振り返って何するの」
(慰めるとか)
「僕が?」
(冗談)
「だよね」
青年は小さく笑った。
マスク越し。声が少し籠もる。
後ろでは、メリカの泣き声がまだ聞こえる。
怒っている。
泣いている。
縋っている。
全部、青年は聞いた。
偽物でもいい。
歩けなくても。
見えなくても。
聞こえなくても。
何もできなくても。
ここにいてくれれば。
青年は数歩進んでから、ふと足を止めた。
夜空を見上げる。
星は何も知らない顔で光っている。
「……ねえ」
(何)
「聞いた?」
(何を)
「またそれ」
(色々聞こえたからね)
「性格悪いなあ」
(君ほどじゃない)
「それ褒め言葉?」
(半分)
「僕の台詞取らないでよ」
頭の奥で、笑う気配がした。
青年はマスクの上から自分の頬へ触れた。
輪郭はある。
ただ、それが今、誰のものなのかは分からない。
確かめる気にもならなかった。
「あの子さ」
(うん)
「最後まで偽物でいたよ」
少しだけ間を置く。
「しかも、偽物でいいんだってさ」
(メリカが言ったね)
「すごいよね」
(何が)
「知ってたんだよ?」
青年は片手を軽く広げた。
「違うって。本物じゃないって。ちゃんと分かってたのに」
(うん)
「それでもいいんだって」
青年はマスクの奥で笑った。
「いやあ。愛って怖いねえ」
(君が言う?)
「僕だから言うんだよ」
(そう)
「だって、僕とは大違いだ」
青年はもう一度、夜空を見る。
「僕も偽物なのにね」
頭の奥の声は、すぐには返さなかった。
「何」
(いや)
「何だよ」
(君、自分でそれ言うんだと思って)
「失礼だな」
(前なら誤魔化した)
「成長したんじゃない?」
(壊れただけかも)
「それも成長って言うんだよ」
(言わないよ)
「細かいなあ」
青年はまた歩き出す。
右脚が一拍遅れる。
(じゃあ、マリは最後まで偽物だった?)
青年の足が止まった。
「何その質問」
(君が言った)
「言ったけど」
(ゴイが作った)
「うん」
(記憶も)
「うん」
(身体も)
「うん」
(役割も)
「うん」
(でも最後に、死に方を決めたのは誰?)
青年の笑いが少しだけ消えた。
「……君、たまに嫌なこと言うね」
(いつも言われてる)
「褒めてない」
(知ってる)
青年は空を見る。
「マリ、か」
(うん)
「じゃあ最後に本物になった、とか?」
(そう思う?)
「うわ、安っぽい」
(君が言ったんでしょ)
「撤回」
(早いね)
「だってさ。偽物が自分で選んだら本物になる、とか、そんな綺麗に片付いたら僕が困る」
(どうして)
「僕、まだ偽物だから」
(本当に?)
青年の歩みが、ほんの一瞬だけ止まった。
「……さあね」
(逃げた)
「プロだから」
(何の)
青年は少し考える。
「嘘つき」
* * *
風が、マスクの端を揺らした。
青年は夜空を見上げる。
星。
雲。
その向こうに。
ふと、白い部屋を思い出した。
0。
何を欲しがるのか。
何を嫌うのか。
何を選ぶのか。
まだ何も決められていない。
何者なのかすら、決められていない。
「……」
(どうしたの)
「別に」
(嘘)
「うん」
青年は少しだけ笑った。
マリは作られた。
顔も。
記憶も。
役割も。
それでも最後には、自分で選んだ。
なら。
あの白い部屋にいる0にも。
まだ、選ぶ余地は残っている。
「しゃーないな」
(何が)
「まだ終われない」
(仕事?)
「仕事」
(顔もろくに作れないのに)
「マスクあるし」
(右手)
「左あるし」
(脚)
「歩けてる」
(声)
「まだ喋れる」
(名前)
青年は一瞬、黙る。
それから夜空を見たまま笑った。
「そんなの、必要になったらまた適当に作るよ」
(それでいいの)
「いいんじゃない?」
(本当?)
「さあ」
背中の向こう。
メリカの泣き声は、もう随分と遠い。
青年は振り返らなかった。
「だって」
マスク越し。
少し籠もった声。
「僕は嘘つきだから」
頭の奥で、小さく笑う気配がした。
青年も笑う。
0を。
白い部屋を。
まだ終われない理由を。
胸のどこかへ残したまま。
夜の中へ、歩いていった。
イース編、エピローグ「偽物」でした。
この話では最後まで。
本物か偽物かを、綺麗に決めません。
マリは作られた存在です。
でも。
最後に選んだことまで。
偽物だったとは言えない。
だからといって。
そこで「本物になった」と片づけるのも違う。
青年自身が。
それを拒みます。 KillerWorld_イース編_エピローグ_偽物
そして。
その答えはそのまま。
0へ繋がります。
まだ何者でもない。
まだ何も選んでいない。
だからこそ。
まだ。
選べる。
青年がここまで壊れながらも。
「まだ終われない」
と言う理由が。
ここでようやく。
はっきり形になります。 KillerWorld_イース編_エピローグ_偽物
最後は。
名前も。
顔も。
自分が何者かも曖昧なまま。
それでも。
いつものように笑う。
「僕は嘘つきだから」
イース編は。
ここで終わりです。 KillerWorld_イース編_エピローグ_偽物
【KillerWorld ―七つ目の答え― 世界地図】




