KillerWorld ―イース編―「もうちょっとだけ、嘘つくか」
カルロスの一件を終えた青年は。
夜道を歩きながら。
何度も。
自分の顔を確認していた。
ショーウィンドウ。
車のミラー。
金属壁。
黒いモニター。
映るたびに。
そこにいるのが。
本当に同じ顔なのか。
確かめる。
そして。
一度。
顔の左右が。
別々の人間になる。
戻そうとしても。
どんな笑い方だったのか。
すぐには出てこない。
それでも青年は。
笑う。
「ほら」
「片膝」
「立ってるだろ」
壊れていても。
まだ立っている。
それを。
進む理由にする。 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
研究所へ戻ると。
ゴイはすぐ。
次の対象を渡す。
ルウ。
父。
ガルド。
兄。
ユーラ。
父を殺し。
家族から逃げた兄。
そして。
残された弟。
ルウの記録には。
怒鳴る。
物へ当たる。
父親や兄の話題で過剰に反応する。
怒ったあと。
行動性が上がる。
そんな傾向が並んでいた。
青年は気づく。
悲しい。
怖い。
寂しい。
後悔。
全部。
怒れば動ける。 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
そして。
ゴイが用意した介入点。
手紙。
ユーラから家族へ。
家族からユーラへ。
本当なら。
届くはずだった言葉。
けれど。
ゴイは言う。
「届かせない」
青年は。
ユーラの手紙を。
たった一行へ削る。
――今は戻れない。
家族へ戻れない。
ではなく。
まるで。
家族を捨てたように。
見える言葉だけを残す。
家族からユーラへ送られた手紙も。
青年は止める。
「帰ってきなさい」
「話をしよう」
「ルウも、怒っているけれど。待っている」
その言葉は。
届かない。
ただ。
青年は。
燃やさない。
捨てない。
保管する。
「嘘ってさ」
「元が残ってた方が便利なんだよ」
いつか。
戻すのか。
その問いには。
「……さあ」
とだけ答える。 KillerWorld_イース編_第29章_第30章 KillerWorld_イース編_第29章_第30章 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
やがて。
ルウのもとへ。
一行だけの手紙が届く。
――今は戻れない。
ルウは怒る。
紙を握り潰す。
机を殴る。
怒鳴る。
青年は。
遠くからそれを見る。
悲しいから。
寂しいから。
考えたくないから。
怒る。
青年が書いたのは。
一行だけ。
けれど。
本当なら届くはずだった手紙を。
止めたのも。
青年だった。 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
そして。
次の仕掛け。
ルウに。
兄ユーラが死んだと思わせる。
本来なら。
青年がユーラの顔になる。
しかし。
もう。
できなかった。
写真を見ても。
輪郭を作っても。
一つ直せば。
別の部分へ。
過去に使った誰かの顔が混ざる。
声も。
目も。
口元も。
身体が。
言うことを聞かない。
青年は。
何度も試したあと。
初めて。
自分から言う。
「……作れない」 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
それでも。
青年は止まらない。
ゴイへは。
失敗したとは言わない。
代わりに。
死体を一体用意させる。
そして。
頭の奥の声の力を借り。
死体そのものを。
ユーラへ作り変える。
その代償で。
青年自身の顔は。
さらに崩れていく。
右目。
左目。
口。
頬。
全部。
違う人間。
それでも。
手を止めない。
完成した死体を見て。
青年は言う。
「僕より、そっちの方がユーラらしいね」 KillerWorld_イース編_第29章_第30章 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
古い工場。
そこへ。
ルウが来る。
床にいる。
兄の顔。
冷たい手。
返事をしない身体。
ルウは。
死んだと思う。
そして。
ようやく。
怒りではない言葉を。
兄へ渡す。
「……ごめん」
本当は。
ユーラは生きている。
手紙もある。
真実も。
まだ戻せる。
頭の奥の声も。
「今なら」
「まだ」
と言う。
でも。
青年は。
暗闇から出ない。 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
そして。
ルウの悲しみは。
怒りへ変わる。
恐怖も。
後悔も。
全部。
一つになる。
「……殺す」
「絶対に殺す」
震えは止まり。
ルウは立ち上がる。
青年は。
その変化を見て。
理解する。
「……なるほど」
「楽になるんだ」
悲しみを。
恐怖を。
怒りへまとめれば。
動ける。
それが。
ルウだった。 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
ルウが去ったあと。
青年は。
ユーラだった死体の前へ出る。
床には。
完璧に一人の人間になった死体。
その横には。
複数の顔が混ざり。
自分の顔すら保てない青年。
そして。
青年は言う。
「……嫌味だな」
「死んでる方が、ちゃんと一人だ」
立とうとして。
膝が落ちる。
片膝。
それでも。
青年は笑う。
「まだ」
「片膝」
「まだ片膝だよ」 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
ゴイは問う。
なぜ。
本物のユーラを殺さなかった。
結果だけなら。
同じだった。
青年は答える。
「僕のポリシーだよ」
くだらないと言われても。
それだけは。
まだ。
自分で決める。 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
そして。
工場を出る。
顔は壊れている。
歩幅も。
誰かの癖が混ざる。
それでも。
夜空を見上げる。
思い浮かぶのは。
0。
測れない。
分類できない。
ゴイがいつか。
不要だと判断するかもしれない存在。
だから。
青年は。
自分の意思で笑う。
「……まだ終われないな」
「しゃーない」
「もうちょっとだけ、嘘つくか」
壊れた顔のまま。
また。
歩き出した。 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
# 第二十九章 届かない
カルロスのところを離れてから、青年は一度も振り返らなかった。
夜道を歩く。
人通りは少ない。閉じた店の窓、路肩に停まった車、雨を薄く残した路面。歩くたび、街のあちこちに自分が映る。
最初の二つは見なかった。
三つ目。
信号待ちで止まった時、向かいのショーウィンドウに映った顔を見てしまった。
「……」
知らない男。
カルロスへ最後の一言を置くために使った顔。
そこまでは分かる。
問題は。
左半分。
目元。
頬。
口。
合っている。
右側だけ。
戻り始めていた。
輪郭が僅かに細い。
口角の位置も違う。
二つの顔を中央で雑に縫い合わせたみたいだった。
(顔)
「見えてる」
青年は信号を渡らなかった。
通りから人が消えるまで待つ。
右手を頬へ。
冷たい。
いや。
触れてから一拍遅れて、冷たいと分かる。
「……ほんと、面倒」
(痛い?)
「別に」
指先で頬を押す。
目を閉じる。
戻す顔を思い浮かべる。
鼻。
顎。
目。
口。
そこまではいい。
次。
どんな笑い方だった。
「……」
(忘れた?)
「黙って」
ガラスを見る。
口角を上げる。
違う。
さっきの男じゃない。
誰か。
以前。
使った。
駅。
違う。
学校。
「……あー」
(分かる?)
「候補が多いんだよ」
(便利だったのにね)
青年は少し笑う。
「今も便利だよ」
今度は。
左右。
揃う。
青年はガラスから離れた。
「ほら」
(何)
「片膝」
歩き出す。
(それ、片膝?)
「立ってるだろ」
冗談。
声も。
笑い方も。
軽い。
ただ。
右手だけは。
コートのポケットから出さなかった。
* * *
研究所へ着くまでに。
青年は三度。
顔を確認した。
一度目。
車のミラー。
二度目。
エレベーターの金属壁。
三度目。
研究室前。
黒いモニター。
全部。
同じ顔。
少なくとも。
そう見えた。
(入る?)
「仕事終わった報告だからね」
(手)
「出さなきゃいい」
(顔)
「笑っとけばいい」
(声)
青年は喉へ触れかける。
止める。
「それは喋ってみないと分かんないな」
(怖い?)
「最近それ好きだね」
(答えは?)
青年はドアへ手を伸ばす。
「営業前に商品チェックするのと同じ」
(商品、君だけど)
青年は笑う。
「高級品だよ」
扉。
開く。
* * *
ゴイはいた。
やっぱり。
「……またいる」
「報告」
「ただいまくらい言わせてよ」
「必要ない」
「知ってる」
青年は椅子を引く。
座る。
右手。
膝。
机から見えない位置。
「カルロス。終了」
「結果」
「本人がゼロまで行った」
「介入」
「一言」
ゴイの視線。
上がる。
「内容」
青年はほんの少しだけ間を置く。
「『何にでもなれるね』」
「それだけか」
「それだけ」
「十分だった?」
「十分だったよ」
青年は笑う。
「僕、ほとんど何もしてない」
最後。
「ない」
そこだけ。
声が。
低くなる。
青年の喉が止まる。
ゴイを見る。
ゴイ。
何も言わない。
聞いたか。
聞いていないか。
分からない。
青年は、そのまま続ける。
「勝手に比べて、勝手に足して、勝手に自分を消した」
声。
戻っている。
「最後に意味を置いただけ」
「成功と判断する」
「そう」
「身体」
青年の笑顔。
変わらない。
「元気」
「聞いていない」
「最近それ多いな」
ゴイは端末へ視線を戻した。
「次だ」
「もう?」
「問題があるか」
「人権って知ってる?」
「次だ」
「はいはい」
机。
新しい資料。
青年は右手を出さない。
左手。
取る。
最初のページ。
寒冷地。
工業地帯。
乾いた土地。
古い工場。
家族。
父親。
ガルド。
長男。
ユーラ。
そして。
ルウ。
青年はページをめくる。
借金。
土地。
再開発。
家族。
集落。
条件。
さらに。
ガルド死亡。
青年の指が止まった。
「……これ」
「何だ」
「息子がやったんだ」
「そうだ」
「君?」
「違う」
「じゃあ僕も関係ない?」
「現時点では」
「珍しい」
読み進める。
ガルド。
家族のために何とかしようとしたユーラ。
一人で抱える。
条件を受ける。
父を殺す。
逃げる。
残された弟。
ルウ。
記録。
舌打ち。
怒鳴る。
物へ当たる。
父親の話題で過剰反応。
兄の名で反応。
怒りの後、行動性上昇。
青年はそこを二度読む。
「怒ると動ける」
「そうだ」
「怒らないと?」
「停滞する」
青年の目が。
僅かに。
細くなる。
「……なるほど」
悲しい。
怖い。
寂しい。
後悔。
全部。
怒れば。
動ける。
青年は資料を閉じかけた。
「僕、これもそんなに要らなくない?」
「介入点はある」
「どこ」
ゴイが一枚。
机へ置く。
封筒。
写真。
文字。
青年の目。
細くなる。
「手紙?」
「ユーラから家族へ」
次。
「家族からユーラへ」
青年は二枚を見る。
「届いてない」
「届かせない」
一拍。
「調整しろ」
青年は手紙へ視線を落とした。
それから。
少し。
笑う。
「なるほど」
* * *
最初の手紙は。
ユーラからだった。
長くはない。
でも。
資料に残る文面は。
ルウが受け取ることになるものより。
ずっと長い。
父のこと。
自分がやったこと。
戻れないこと。
家族を捨てたわけではないこと。
何度も書き直した跡。
インクが滲んだ場所。
最後。
家のことを頼む。
青年は読む。
一度。
二度。
「これを」
「短縮する」
「どこまで」
「必要最低限」
青年は元の手紙を見る。
次。
白紙。
「……ひどいね」
「問題か」
「褒めてる」
ペンを取る。
右手。
無意識。
机へ。
ペン。
握る。
一文字目。
止まる。
「……」
ペン先。
紙。
震えてはいない。
でも。
動かない。
(どうしたの)
「筆圧」
(何)
「分かんない」
青年は右手を見る。
握っている。
強い。
弱い。
分からない。
一度。
線。
引く。
濃い。
強すぎる。
紙。
僅かに。
凹む。
「……あー」
ゴイが見る。
青年はすぐ笑う。
「インク出過ぎ」
「交換しろ」
「そうする」
ペン。
置く。
左手。
取る。
今度は。
普通に。
書く。
ユーラの字。
真似る。
形。
癖。
筆圧。
止め。
払い。
一枚目。
違う。
二枚目。
近い。
三枚目。
完成。
ただ。
最後。
線の終わり。
別の癖。
混じる。
青年の目が止まる。
ユーラじゃない。
誰。
知っている。
昔。
使った。
誰か。
筆跡。
(混ざった)
「分かってる」
ゴイが顔を上げる。
「何か言ったか」
青年は笑う。
「独り言」
紙を丸める。
「やり直す」
四枚目。
今度は。
完璧。
残った文章。
一行。
――今は戻れない。
青年はそれを見る。
「……これだけ?」
「十分だ」
「家族捨てたみたいに見えるね」
「対象はそう解釈する可能性が高い」
「だろうね」
封筒へ。
入れる。
「怒りやすいから」
「そうだ」
青年は小さく。
「便利だな」
言った直後。
少し。
嫌そうな顔。
* * *
家族からユーラへ出された手紙もあった。
こちらは。
もっと短い。
母親の字。
帰ってきなさい。
話をしよう。
何があったとしても。
家は家だ。
弟たちもいる。
ルウも。
怒っているけれど。
待っている。
青年は最後の二行で手を止めた。
「……」
(消す?)
「仕事だからね」
(最近、そればっかり)
「便利なんだよ」
青年は封筒から紙を抜く。
破らない。
燃やさない。
別の封筒。
移す。
「届かせないだけ」
(捨てる?)
「保管」
(どうして)
「後で必要になるかもしれない」
(ゴイに?)
青年は少し笑う。
「僕に」
封筒。
閉じる。
「嘘ってさ」
一拍。
「元が残ってた方が便利なんだよ」
(いつか戻す?)
青年の指。
一瞬。
止まる。
「……さあ」
* * *
数日後。
ルウの家。
郵便屋。
一通。
差出人。
なし。
ルウが受け取る。
青年は遠くから見ていた。
顔を変える必要はない。
ただの通行人。
ただ。
今の青年には。
その「ただ」が。
難しい。
歩く。
右。
左。
三歩。
四歩。
五歩目。
身体が。
勝手に。
別の歩幅。
選ぶ。
「……っ」
片足。
僅かに。
前へ出すぎる。
肩。
傾く。
青年はすぐ立て直す。
(今の)
「分かってる」
(誰)
「知らない」
(知らない?)
「どっかで使った」
歩きながら。
笑う。
「歩き方まで残るとか、サービス良すぎない?」
(面白くない)
「僕はちょっと面白い」
(嘘)
青年は少し間を置く。
「半分」
窓。
映る。
青年の顔。
右目。
一瞬。
変わる。
瞼。
眉。
別人。
青年は歩みを止めない。
でも。
視線だけ。
窓へ残る。
「……」
(戻ってない)
「知ってる」
右目。
意識。
戻す。
一秒。
二秒。
戻らない。
三秒。
ようやく。
揃う。
青年は笑う。
「今日は長いな」
(帰ろう)
「まだ」
(もう手紙届いた)
「反応見る」
(ゴイに任せれば)
「僕の仕事」
(身体)
青年は窓へ。
一瞬。
自分を見る。
「まだ立ってる」
何度目。
もう。
分からない。
窓の向こう。
ルウが手紙を開く。
読む。
止まる。
もう一度。
読む。
――今は戻れない。
それだけ。
ルウの手。
震える。
妹。
覗く。
母親。
弟。
何か。
話す。
ルウ。
怒鳴る。
紙。
握り潰す。
机。
殴る。
皿。
跳ねる。
家族。
黙る。
青年は外から。
見る。
(成功?)
「まだ」
(怒ってる)
「怒ってるね」
ルウ。
外へ。
歩く。
速い。
怒りながら。
青年は追わない。
「でも」
(何)
「本人が選んだ」
(怒ること?)
「うん」
胸。
痛い。
悲しい。
寂しい。
考えたくない。
だから。
怒る。
「僕が書いたのは一行だけ」
(届かなかった手紙は?)
青年は黙る。
(家族は、帰ってきてって書いた)
「知ってる」
(ユーラは)
「知ってるよ」
(じゃあ)
青年の顔が。
窓へ。
映る。
口元。
別人の笑い方。
青年自身。
笑ったつもりは。
ない。
手。
口元。
「……ほんと」
(何)
青年は物理的に口角を下げる。
「勝手に動くなよ」
冗談みたいに。
「僕の顔なんだから」
頭の奥。
声。
何も返さない。
* * *
夜。
研究所。
ゴイ。
「結果」
「手紙は届いた」
「反応」
「怒った」
「想定通り」
「うん」
「次へ進める」
青年は椅子へ座らず、机へ背を預けた。
「次って」
「対象は父親の死の真相へ近づく」
「ユーラのことも分かる?」
「いずれ」
青年は。
少し。
目を細める。
「怒れなくなるね」
「一時的に」
「一時的?」
「別の理由を与える」
机。
写真。
古い工場。
床。
血。
ユーラ。
青年は数秒。
見る。
「……死体?」
「そう見せる」
青年の口元。
僅かに。
上がる。
「僕?」
「適任だ」
「また顔?」
「必要だ」
青年は返事をしない。
右手。
ポケット。
指。
一本。
勝手に。
曲がる。
戻そうとして。
戻らない。
二本目。
痺れ。
青年は。
ポケットの中。
左手。
重ねる。
「……いつ?」
「まだ先だ」
その言葉。
青年はほんの少しだけ。
息を吐いた。
ゴイが見る。
「何だ」
「何でもない」
すぐ。
笑う。
「準備期間あるなら助かるなって」
「なぜ」
青年は。
軽く。
「死体役って」
一拍。
「寝てるだけでいいでしょ?」
ゴイは答えない。
青年は笑ったまま。
部屋を出る。
* * *
扉。
閉じる。
三歩。
四歩。
角。
誰もいない。
青年は壁へ肩をつける。
右手。
ポケットから。
出す。
指。
二本。
曲がったまま。
「……」
(痛い?)
「痛くない」
(それ、いいの?)
「よくないね」
左手。
一つずつ。
伸ばす。
人差し指。
戻る。
中指。
戻る。
薬指。
少し遅い。
青年はしばらく。
手を見る。
(休める?)
「まだ先って言ってたし」
(休める?)
同じ質問。
青年は笑う。
「……死体の練習でもしようかな」
(それ慰め?)
「横になれるよ」
(君)
「何」
(最近、冗談が暗い)
「元からでしょ」
歩く。
廊下。
ガラス。
顔。
見る。
右目。
戻っている。
口。
戻っている。
左右。
揃っている。
でも。
数秒。
見つめる。
「……誰だっけ」
(分からない?)
一拍。
二拍。
青年の目。
揺れる。
そして。
笑う。
「冗談」
(……)
「冗談だって」
歩き出す。
ガラスの中の顔だけが。
一瞬。
笑うのに。
遅れる。
自動扉。
外。
夜気。
頬。
触れる。
冷たい。
少し遅れて。
冷たいと分かる。
「……」
右手。
見る。
指。
まだ。
動く。
顔。
まだ。
戻せる。
声。
まだ。
選べる。
まだ。
その言葉ばかり。
増えていく。
(帰る?)
「そうだね」
歩き出そうとして。
止まる。
研究棟の窓。
白い光。
何段も。
上。
続く。
青年はそのうち。
一つ。
見る。
どの部屋か。
分からない。
それでも。
ふと。
思い出す。
白い部屋。
観察記録。
数字。
反応。
欲求。
選別。
そして。
そのどれにも。
上手く。
入らなかった。
0。
何が欲しい。
何を嫌う。
何を選ぶ。
測っても。
空欄。
残る。
青年の目。
少し。
細くなる。
(どうしたの)
「いや」
右手。
握る。
遅れる。
開く。
顔。
今は。
保つ。
身体は。
確実に。
終わる方へ。
向かっている。
ゴイも。
多分。
知っている。
それでも。
使う。
自分も。
分かった上で。
まだ。
いる。
(疲れた?)
青年は。
すぐ。
「疲れたよ」
(怖い?)
今度は。
誤魔化さない。
「怖い」
(じゃあ)
青年は空を仰ぐ。
研究区。
明るすぎる。
星。
ほとんど。
見えない。
でも。
向こうに。
ある。
それくらい。
分かる。
「……でも」
0。
頭へ。
浮かぶ。
何も。
欲しがらない。
何も。
選ばない。
だからこそ。
いつか。
ゴイが。
不要。
そう。
判断するかもしれない。
青年の口元。
少し。
上がる。
さっきまでの。
勝手な笑顔。
違う。
自分で。
笑う。
「0」
一拍。
「まだ終われないな」
(そう)
「うん」
青年は夜空を見たまま。
笑う。
「しゃーない」
右手。
ポケット。
「もうちょっと働くか」
今度こそ。
歩き出す。
足取り。
僅かに。
ずれている。
それでも。
前へ。
# 第三十章 死んだふり
ユーラの顔を作る日が来た。
青年は鏡の前へ立ち、机に並べた写真を見る。
正面。
横顔。
笑った時。
疲れている時。
父親の隣。
弟の隣。
まだ何も失う前の。
どうでもよさそうな顔。
必要な情報は。
揃っている。
いつもなら。
これで十分。
青年は一枚を取る。
目。
閉じる。
輪郭。
頬骨。
鼻梁。
目。
唇。
顎。
頭の中。
完成。
「……よし」
目を開く。
鏡。
ユーラ。
青年は少し笑う。
「ほら」
(違う)
笑みが。
止まる。
「……何が」
鏡。
右目。
ユーラ。
左目。
違う。
「……」
指。
左目。
意識。
直す。
左目。
ユーラへ。
その瞬間。
口元。
変わる。
知らない男の笑い方。
「待って」
口。
直す。
鼻筋。
別人。
鼻。
戻す。
顎。
細くなる。
戻す。
右目。
また。
変わる。
「……ちょっと待ってって」
(落ち着いて)
青年は即答。
「落ち着いてるよ」
声。
低い。
ユーラ。
違う。
青年自身。
それも。
違う。
自分で。
気づく。
喉。
鳴らす。
「……ユーラ」
今度は。
近い。
でも。
顔。
崩れる。
頬。
目。
口。
一つ直せば。
一つ外れる。
青年は鏡の前で。
何度も。
作る。
一度。
二度。
三度。
四度。
五度。
そのたび。
知らない顔。
混ざる。
いや。
知らない。
違う。
どこかで。
使った。
誰かへ。
見せた。
誰かを。
騙した。
でも。
名前。
出ない。
場所。
出ない。
何のために。
その顔へ。
なった。
それも。
出ない。
「……」
(もう一回)
「やってる」
(違う。ユーラを思い出して)
「思い出してるよ」
(じゃあ何で)
青年は鏡を見る。
右目。
ユーラ。
口。
別人。
鼻筋。
さらに昔の。
誰か。
左頬。
自分でも覚えていない癖。
「身体が」
言葉が。
止まる。
鏡。
見る。
「……言うこと聞かない」
頭の奥。
声。
何も返さない。
青年は。
もう一度だけ。
やる。
写真。
見る。
目。
閉じる。
ユーラ。
父親を刺した手。
震える肩。
家族を守ろうとして。
最悪の選択をした男。
輪郭。
目。
鼻。
口。
顎。
開く。
「……」
違う。
青年は長い間。
鏡を見る。
それから。
小さく。
笑う。
「……作れない」
初めて。
自分から。
言った。
* * *
ゴイには。
言わなかった。
「死体は用意できる?」
研究所。
青年はいつもの声。
顔。
一つ。
固定。
誰の顔だったか。
もう。
考えない。
「目的は」
「ユーラが死んだように見えればいいんでしょ?」
「本人を使う方が確実だ」
「確実って、殺すって意味?」
「必要なら」
青年は。
笑う。
「もったいない」
「何が」
「生きてるもの」
ゴイは青年を見る。
青年は視線を逸らさない。
「死体なら、僕がなる必要ないよね」
「可能なのか」
「やってみる」
「失敗した場合」
「その時考える」
ゴイは黙る。
やがて。
「一体、用意する」
「助かる」
青年は笑う。
右手は。
ずっと。
ポケット。
* * *
死体。
知らない男。
年齢。
近い。
体格。
完全には。
違わない。
でも。
ユーラではない。
当然。
鼻。
違う。
顎。
違う。
目。
間隔。
骨格。
全部。
青年は床へ膝をつき、死体の顔を覗き込む。
「普通なら無理だね」
(普通なら?)
青年は少し笑う。
「僕なら、も無理」
そのまま。
死体の頬へ手。
「だから」
一拍。
「ねえ」
(何)
「ちょっと貸して」
(何を)
青年は目を細める。
「君のやつ」
沈黙。
(やめた方がいい)
青年の眉。
上がる。
「珍しいね」
(君、今それを使ったら)
「僕に使うよりマシでしょ」
(そういう問題じゃない)
青年の指。
死体の頬。
押す。
「ユーラになれないんだよ。僕」
言って。
青年自身。
少し。
黙る。
それから。
笑う。
「だから」
一拍。
「死んでる人にやってもらう」
最初に。
頬骨。
動く。
音。
ない。
皮膚。
下。
輪郭。
ゆっくり。
青年は写真。
死体。
交互。
「もう少し」
力。
通す。
頬骨。
沈む。
鼻梁。
変わる。
顎。
短く。
皮膚。
引かれる。
瞼。
形。
変わる。
知らない男。
少しずつ。
ユーラ。
青年は笑った。
「できるじゃん」
(君の顔)
「後」
(見て)
「後でいい」
死体の右目。
調整。
同時。
青年の右目。
変わる。
別人。
ユーラではない。
青年。
気づく。
でも。
手。
止めない。
「目、もう少し下」
死体。
変わる。
青年。
左口角。
上がる。
笑っていないのに。
笑う。
(君)
「喋らないで」
死体の口。
ユーラ。
青年の口。
別人。
鼻。
整える。
青年の鼻筋。
崩れる。
頬。
整える。
青年の頬。
別の誰かの癖。
鏡。
ない。
でも。
分かる。
自分の顔が。
動いている。
「あと少し」
(やめて)
「あと少し」
死体。
顎。
ユーラ。
髪。
輪郭。
写真。
死体。
写真。
死体。
最後。
目元。
「……ここ」
力。
通す。
瞼。
変わる。
ユーラ。
完成。
青年は手を離す。
「……」
床。
ユーラ。
完璧。
青年自身より。
ずっと。
整っている。
(できた)
「うん」
(君の顔は)
青年は近くの金属板へ。
視線。
薄く。
映る。
右目。
知らない。
左目。
別人。
口。
別。
頬。
左右。
違う。
青年は数秒。
見る。
「あとで直す」
(今)
「仕事先」
(今直して)
「死体の方が先」
青年は床のユーラを見る。
少し。
笑う。
「僕より、そっちの方がユーラらしいね」
頭の奥。
声。
笑わない。
* * *
工場。
古い油。
冷えた鉄。
血。
服。
位置。
青年は死体を置く。
手。
冷たい。
当然。
本当に。
死んでいる。
ただ。
ユーラではない。
見覚えのある服。
見覚えのある顔。
冷たい手。
返事をしない身体。
それだけで。
十分。
青年は工場の奥。
暗がり。
入る。
待つ。
自分が。
死体になる必要はない。
もう。
なれない。
足音。
「母さん?」
ルウ。
青年は影から見る。
「おい」
足。
止まる。
「……兄貴?」
見つけた。
一歩。
二歩。
「おい」
ルウ。
膝。
死体の肩。
揺らす。
動かない。
「……嘘だろ」
青年は何も言わない。
ルウ。
死体の手。
握る。
「兄貴」
冷たい。
「……俺」
声。
震える。
「分かったんだよ」
青年の顔。
暗闇。
一瞬。
別人。
戻す。
「親父のこと」
ルウは死体へ話す。
「全部」
返事。
ない。
「俺」
喉。
詰まる。
「ずっと」
言えない。
青年は。
黙る。
「……ごめん」
青年の表情。
止まる。
「ごめん」
もう一度。
「兄貴」
手。
震える。
悲しい。
怖い。
間に合わなかった。
全部。
青年には。
分かる。
手紙。
本当は。
届く。
はずだった。
ユーラから。
家族へ。
家族から。
ユーラへ。
自分が。
止めた。
そして。
今。
ルウは。
ようやく。
怒りではない言葉を。
兄へ。
渡している。
「……」
(今なら)
頭の奥。
声。
小さい。
(まだ)
青年は。
答えない。
ユーラは。
生きている。
手紙も。
ある。
真実も。
全部。
まだ。
戻せる。
でも。
青年は。
暗闇から。
出ない。
* * *
「……誰だ」
ルウの声。
変わる。
涙。
落ちる。
「誰だよ」
死体の手。
離す。
「誰がやった」
青年は影の中。
見る。
誰も。
ユーラを。
殺していない。
「誰だよ!」
拳。
床。
「ふざけんな!」
悲しみ。
熱。
なる。
「返せよ!」
恐怖。
熱。
なる。
「やっと……!」
後悔。
怒り。
なる。
「やっと分かったのに!」
ルウの震え。
止まる。
青年は。
見る。
これ。
この瞬間。
悲しみを。
怒りへ。
恐怖を。
怒りへ。
後悔を。
怒りへ。
全部。
一つ。
「……殺す」
声。
静か。
「絶対に殺す」
青年の目。
少し。
細くなる。
さっきまで。
泣いていた。
もう。
震えていない。
「……なるほど」
(何)
青年は。
小さく。
「楽になるんだ」
誰にも。
聞こえない。
ルウ。
立つ。
工場。
出る。
足音。
遠く。
消える。
一分。
二分。
青年は。
まだ。
出ない。
(行ったよ)
「うん」
暗がり。
一歩。
顔。
また。
揺れる。
右目。
別人。
口。
別人。
青年は直そうとする。
戻らない。
「……」
(もういい)
「よくない」
(今は誰も見てない)
青年は。
低く。
「僕が見てる」
死体の前へ。
しゃがむ。
床。
完璧なユーラ。
その横。
壊れた顔の青年。
「……嫌味だな」
(何が)
青年は少し。
笑う。
「死んでる方が、ちゃんと一人だ」
右手。
死体の頬。
力。
解く。
ユーラの顔。
戻る。
頬。
鼻。
顎。
目。
知らない男。
本来。
名も知らない。
借りた死体。
青年は立とうとする。
膝。
落ちる。
「……っ」
片膝。
床。
右手。
つく。
力。
入らない。
数秒。
(イース)
青年は。
笑う。
「まだ」
(何)
「片膝」
息。
整える。
「まだ片膝だよ」
今度は。
一度で。
立てない。
二度目。
ようやく。
立つ。
* * *
「結果は」
後ろ。
ゴイ。
青年は振り返らない。
「出したよ」
「対象は」
「見た通り」
「ユーラは」
「生きてる」
沈黙。
ゴイの視線。
床。
死体。
「ではこれは」
「借り物」
「命令と違う」
青年はようやく振り返る。
顔。
揃っていない。
右目。
左目。
輪郭。
僅かに。
全部。
違う。
それでも。
笑う。
「結果は同じだろ?」
「死んだと思ってくれた」
ゴイは。
青年の顔を見る。
青年も。
分かっている。
見られている。
でも。
先に。
笑う。
「なぜ本人を殺さなかった」
青年は少しだけ考える。
ユーラ。
生きている。
ルウ。
死んだと。
信じている。
結果だけなら。
同じ。
青年は肩を竦める。
「僕のポリシーだよ」
「くだらん」
青年は床の死体を見る。
さっきまで。
ユーラだったもの。
少しだけ。
笑う。
「そう?」
一拍。
「僕は結構気に入ってるんだけどな」
返事。
ない。
青年は歩き出す。
一歩。
二歩。
三歩。
歩幅。
違う。
四歩目。
別人の癖。
五歩目。
戻す。
それでも。
歩く。
工場の出口。
夜。
空。
青年は一度だけ。
見上げる。
0。
白い部屋。
何も決められない。
何にも分類できない。
あの存在。
青年の口元。
今度は。
自分の意思で。
上がる。
「……まだ終われないな」
(うん)
右手を。
ポケットへ。
「しゃーない」
夜空から。
視線。
戻す。
「もうちょっとだけ」
一拍。
「嘘つくか」
青年は。
壊れた顔のまま。
歩き出した。
第二十九章「届かない」/第三十章「死んだふり」でした。
今回の二章は。
青年の身体が。
もう明確に。
「使えば壊れる」
ではなく。
「使っていなくても壊れ続ける」
段階へ入っています。
カルロスのところを離れた直後。
青年の顔は。
左右で違う人間になる。
戻そうとしても。
顔そのものだけではなく。
「その顔がどう笑うのか」まで。
すぐには思い出せない。
つまり。
顔を作る能力の問題だけではなく。
その顔に紐づいた。
記憶。
癖。
表情。
役。
全部が。
混ざり始めています。 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
それでも。
青年は。
「片膝」
と言います。
これは。
第27章の昔話の続きです。
老いに勝てなくても。
片膝で済んだ。
なら。
まだ。
立てる。
青年は。
自分の崩壊を。
同じ言葉で測るようになっています。
ただ。
今回。
最後には本当に。
片膝をつく。
比喩だったものが。
身体へ返ってくる。
しかも。
一度では立てない。
二度目で。
ようやく立つ。
それでも。
青年にとっては。
まだ。
「片膝」
なんです。 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
そして。
ルウ。
今回の核は。
章題にもなっている。
「届かない」
です。
ユーラは。
家族を捨てたわけではない。
家族も。
ユーラを捨てていない。
互いに。
言葉を出している。
でも。
届かない。
正確には。
届かせない。
青年とゴイが。
その間へ入る。
ユーラの。
父を殺したことへの苦しみ。
家族を捨てていないという気持ち。
家族からの。
帰ってきてほしいという言葉。
全部。
存在している。
なのに。
ルウが受け取るのは。
「今は戻れない」
という。
たった一行だけです。 KillerWorld_イース編_第29章_第30章 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
青年がやっていることは。
嘘を一から作ることではありません。
本物を削る。
届くはずだったものを。
届かなくする。
そして。
残った一部分だけを。
相手へ渡す。
このやり方は。
かなり青年らしい。
全部偽物にすると。
見抜かれる。
でも。
本物の一部なら。
受け取った側が。
残りを。
自分で補完する。
ルウは。
「今は戻れない」
という一行から。
兄に捨てられた。
もう戻る気はない。
そういう意味を。
自分で作っていく。
青年が。
全部言わなくても。
本人が。
完成させる。 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
ただ。
今回。
青年が。
元の手紙を捨てなかったのも。
結構大きいです。
頭の奥の声に。
「いつか戻す?」
と聞かれて。
答えは。
「……さあ」
完全に。
戻すつもりがあるわけではない。
でも。
消さない。
菅原の時。
青年は。
記録を燃やしました。
今回は。
本物を。
手元へ残す。
これは。
同じ「操作」でも。
青年自身の中で。
少し変化している部分です。 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
そして。
ルウの性質。
悲しみ。
恐怖。
寂しさ。
後悔。
そのままでは。
動けない。
でも。
怒りに変わると。
動ける。
青年は。
最初からその傾向を。
資料で知っています。
だから。
手紙によって。
怒れる形へ持っていく。
でも。
ここで面白いのが。
工場で。
一度。
ルウが怒りを失うところです。
死んだ兄を前にして。
怒れない。
ただ。
悲しい。
怖い。
間に合わなかった。
そして。
ようやく。
「ごめん」
と言える。
その瞬間。
青年には。
全部。
戻せます。
ユーラは。
生きている。
本物の手紙も。
ある。
まだ。
間に合う。
頭の奥の声も。
「今なら」
と言う。
でも。
青年は。
出ない。 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
そして。
ルウは。
再び怒りへ戻る。
そこで。
青年が初めて。
ルウの「怒り」を。
資料ではなく。
身体で理解する。
「楽になるんだ」
という言葉です。
悲しい。
怖い。
後悔している。
全部。
一つずつ抱えるのは。
苦しい。
でも。
怒りへまとめれば。
敵ができる。
やることが決まる。
動ける。
震えも止まる。
だから。
ルウにとって怒りは。
悪い感情というより。
生きるための形になっています。 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
そして。
第三十章。
ここで。
青年は。
ついに。
ユーラになれません。
今までなら。
写真があれば。
十分だった。
顔。
声。
癖。
全部。
作れた。
でも。
今回は。
一つ直すと。
別の部分が壊れる。
過去に使った顔が。
勝手に混ざる。
青年本人が。
身体を制御できない。
だから。
初めて。
「……作れない」
と言う。
これは。
かなり大きい台詞です。
「まだできる」
ではなく。
明確に。
できない。
それを。
自分で認める。 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
ただ。
青年は。
そこで仕事をやめない。
別の方法を探す。
自分がユーラになれないなら。
死体を。
ユーラにする。
しかも。
ここで。
頭の奥の声の力を借りる。
結果。
死体は。
完璧なユーラになる。
一方。
青年自身は。
さらに。
複数の顔へ崩れる。
この対比が。
今回一番強いところだと思っています。
死んでいる方は。
完璧に。
一人の人間。
生きている青年は。
もう。
一人にまとまらない。
だから。
出てくる。
「死んでる方が、ちゃんと一人だ」 KillerWorld_イース編_第29章_第30章 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
この言葉は。
単純に顔が崩れているだけの話ではなく。
ここまでずっと。
青年が抱えてきた。
「僕ってどれ?」
という問題の。
かなり危険な答えでもあります。
死体には。
一つの顔がある。
一つの役がある。
今は。
ユーラだと。
誰が見ても分かる。
でも青年は。
顔も。
声も。
歩き方も。
筆跡も。
どれが自分なのか。
本人にすら。
分からなくなっていく。
生きている方が。
一人ではなくなる。
かなり皮肉な場面です。
そして。
もう一つ。
大事なのが。
青年が本物のユーラを殺さなかったこと。
ゴイにとっては。
ルウが死んだと思えば。
結果は同じ。
なら。
本人を殺してもいい。
でも。
青年は。
やらない。
「僕のポリシーだよ」
と言う。
青年は。
善人だから殺さなかったわけではありません。
ルウを。
徹底的に騙している。
本物の手紙も止めている。
兄が死んだと思わせている。
やっていることは。
かなり酷い。
それでも。
殺さなくていいなら殺さない。
その線だけは。
まだ。
青年自身が。
選んでいる。 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
そして最後。
0。
身体は。
もう。
終わる方向へ進んでいる。
青年自身も。
分かっている。
ゴイも。
おそらく。
分かっている。
疲れた。
怖い。
そこまで。
青年は今回は。
誤魔化さない。
でも。
0を思い出す。
何も欲しがらない。
何も選ばない。
分類できない。
だから。
ゴイにとって。
いつか。
不要になるかもしれない。
その存在が。
まだいる。
だから。
「まだ終われない」
になる。 KillerWorld_イース編_第29章_第30章
ここで。
青年が笑うのも。
大事です。
少し前まで。
顔は勝手に笑っていた。
自分が笑おうとしていないのに。
別人の笑い方が出る。
でも。
0を思い出した時の笑顔は。
自分の意思で笑った。
身体が。
どれだけ青年から離れても。
まだ。
自分で決めているものがある。
その一つが。
0。
そして。
最後。
「しゃーない」
「もうちょっとだけ、嘘つくか」
壊れた顔のまま。
歩く。
今の青年は。
かなり限界に近い。
でも。
まだ。
終われない。
だから。
もう少しだけ。
嘘を続けます。




