KillerWorld ―イース編―「記憶より、記録」
あらすじ
次の観測対象――菅原朔。
青年が最初に目をつけたのは、朔本人よりも。
彼が何でも書き残すことだった。
誰が来た。
何を言った。
何時だった。
天気。
友人の様子。
行方不明者のニュースまで。
見たものを残す。
そして青年は、その記録がただの習慣ではないことに気づいていく。
書けば、残る。
残れば、なくならない。
朔は記録することで安心していた。 KillerWorld_イース編_第22章_第23章 KillerWorld_イース編_第22章_第23章
青年は朔だけを狙わない。
彼女。
美咲。
拓海。
圭介。
そして吉宗。
一人ずつ違う場所へ触れ、違う方向へ考えさせる。
さらに吉宗には、わざと自分の存在を少しだけ見せる。
顔も声も違う。
それでも毎回、
トン。トン。
同じ癖だけを残す。
誰かが動かしている。
そう疑う人間を、一人だけ盤面に置くために。 KillerWorld_イース編_第22章_第23章 KillerWorld_イース編_第22章_第23章
一方。
朔のノートには、青年が別々の顔で置いた言葉が少しずつ増えていく。
「彼女、大事なんだね」
「心配性?」
「なくすの嫌いなんだ」
一つなら、ただの偶然。
けれど吉宗の顔をした青年が、それらを一つに並べる。
「こいつら、全部、同じことしてない?」
青年は答えを与えない。
ただ。
見方だけを置く。
次から同じことが起きた時、それはもう一回目ではなくなる。 KillerWorld_イース編_第22章_第23章 KillerWorld_イース編_第22章_第23章
そして青年は、さらに一歩踏み込む。
朔のノートへ。
本人そっくりの文字で。
たった一行だけ。
『17:41 彼女 圭介と駅前』
しかし翌日。
記憶と記録が食い違う。
朔は迷う。
自分の記憶か。
書かれている事実か。
そして。
青年が何も言わないまま。
朔自身が書く。
『前の記録を信用する』
青年が勝ったのではない。
青年が作った一行を信じたのでもない。
朔自身が。
「記録を信じる」
と決めた。 KillerWorld_イース編_第22章_第23章 KillerWorld_イース編_第22章_第23章
やがて。
六人はそれぞれ違う理由で。
同じ古い商業施設へ向かう。
青年は笑う。
「全員、自分で来た」
本人たちは。
そう思っている。
そして施設の奥では。
ゴイが用意した次の駒が動き始めていた。
# 第二十二章 書く前に
菅原朔は、よく書いた。
最初に青年が面白いと思ったのは、そこだった。
昼休み。
教室の窓から差し込む光は白く、机の上には食べかけの菓子、教科書、開いた筆箱。廊下では教師の声が響き、少し離れた席で誰かが椅子を引きずっている。
その中で。
朔だけが。
カリ。
カリ。
小さな帳面へ、何かを書いていた。
誰が来た。
何を言った。
何時だった。
誰が何をくれた。
ニュース。
天気。
友人の様子。
必要かどうかではない。
見た。
だから。
残す。
青年は教室の後ろから、それを見ていた。
もちろん。
青年の顔ではない。
清掃用具。
作業着。
少し猫背。
三十代後半くらい。
学校に一人くらいいても、誰も名前までは知らない。
そういう顔。
モップを押す。
廊下側。
教室。
朔。
帳面。
(いっぱい書くね)
「うん」
(好きなのかな)
「何が?」
(文字)
青年は、モップの柄を軽く握り直す。
「違うと思う」
朔の周囲。
拓海。
美咲。
圭介。
そして。
吉宗。
青年の視線が、ほんの一瞬だけそちらへ向く。
吉宗は笑っていた。
拓海が何か言う。
美咲が返す。
圭介が菓子を朔の机へ置く。
誰かが笑う。
朔も。
笑う。
普通。
全部。
普通だった。
テレビでは。
また一人。
人が消えたらしい。
その話まで。
朔は。
書いた。
『行方不明 また一人』
青年の足が。
僅かに止まりかける。
(それ)
「うん」
(ゴイ?)
青年はモップを押す。
「多分ね」
ここ数か月。
似たニュース。
増えた。
ある日。
会社へ来ない。
帰宅しない。
家。
残る。
荷物も。
残る。
年齢。
職業。
地域。
大きな共通点はない。
だから。
世間では。
まだ。
一つの事件としては扱われていない。
青年は。
知っている。
偶然ではない。
選ばれている。
何かを見られ。
何かで分けられ。
そして。
消える。
「目立ってきてるよね」
(誰に言ってるの?)
「ゴイ」
(ここにいないよ)
青年は小さく笑う。
「あとで言う」
教室の横を通る。
その時。
吉宗が。
こちらを見た。
一秒。
ない。
青年も見る。
まず。
朔。
帳面。
次。
吉宗。
そこへ。
視線。
置く。
それだけ。
歩く。
表情は変えない。
でも。
教室を通り過ぎる直前。
右手。
モップの柄。
人差し指。
トン。
トン。
二回。
小さく。
叩く。
廊下へ出る。
(今の何?)
「癖」
(君の?)
青年は笑う。
「今日から」
背後。
教室。
空気。
ほんの少しだけ。
変わった。
分かる。
青年は。
振り返らない。
必要ない。
吉宗は。
見た。
それでいい。
校舎裏。
人の来ない倉庫。
青年は作業着を脱いだ。
窓。
薄く映る顔。
作業員。
頬へ。
指。
熱。
皮膚の奥。
僅かな。
違和感。
青年は目を細める。
「……」
戻す。
次。
若い男。
学生。
他校の制服。
髪。
声。
肩。
作る。
途中。
口元だけ。
作業員の形。
残る。
「……あ」
(失敗?)
「違う」
もう一度。
口角。
整える。
学生。
完成。
(今、ちょっと変だったよ)
「見えてないでしょ」
(君が気にしたから)
青年は右頬を軽く叩く。
「便利だねえ」
感覚。
少し。
遅れて戻る。
「まだ平気」
(また言ってる)
「確認」
鞄。
持つ。
持ち手。
人差し指。
トン。
トン。
青年は。
笑う。
「これで二回目」
吉宗は。
思ったより。
早く気づいた。
下校途中。
朔。
拓海。
圭介。
吉宗。
四人。
青年は背後から声をかける。
「すみません」
全員。
振り向く。
「駅ってこっちで合ってます?」
拓海が答える。
「まっすぐ」
「ありがとうございます」
青年は笑う。
普通に。
そのまま。
視線。
朔のメモ帳。
次。
圭介。
最後。
吉宗。
そこで。
止める。
吉宗の表情。
僅かに。
固まる。
(気づいた)
「まだ」
青年は頭を下げる。
「仲いいんですね」
誰も。
すぐには。
答えない。
だから。
もう一滴。
「友達って」
一拍。
「近い分だけ、大変ですよね」
吉宗が。
一歩。
出る。
「お前」
青年は首を傾げる。
「何です?」
吉宗を見る。
顔ではない。
声でもない。
何かを。
探している。
青年はそこで。
鞄の持ち手。
トン。
トン。
二回。
吉宗の目が。
見開く。
「お前――」
青年は背を向ける。
「じゃあ」
「待て!」
走る。
曲がる。
路地。
壁の陰。
上着。
脱ぐ。
顔。
変える。
髪。
戻す。
学生。
消える。
代わり。
買い物袋を下げた女。
反対側。
出る。
吉宗が角を曲がってくる。
青年と。
すれ違う。
目。
合う。
吉宗。
止まらない。
青年も。
止まらない。
(惜しい)
「何が?」
(見つかりそうだった)
青年は。
少しだけ笑う。
「見つけてほしいんだよ」
(え?)
青年は。
袋を揺らしながら歩く。
「朔じゃなくて」
一拍。
「吉宗には」
頭の奥の声が。
黙る。
「全部分かられたら困るけど」
青年は。
さっきの顔を思い出す。
疑い。
警戒。
守る。
その判断。
「何かいる」
一拍。
「くらいは思っててもらった方がいい」
(どうして?)
青年は。
角を曲がる。
「その方が動くから」
今後。
朔が何かを見る。
何かを書く。
その時。
吉宗だけが。
――誰かがやっている。
その可能性を持つ。
「一人だけ」
青年は。
少し笑う。
「違う方向向いてる人がいると」
(うん)
「他の人も動かしやすい」
指。
鳴らしかける。
やめる。
右手。
一瞬。
痺れる。
「……」
(また?)
青年は。
買い物袋を持ち直す。
「荷物重いだけ」
(軽そうだけど)
「うるさい」
菅原本人より。
周りの方が。
先だった。
青年は。
朔だけを見ていない。
彼女。
美咲。
拓海。
圭介。
吉宗。
一人ずつ。
少しずつ。
違う場所へ。
触れる。
答えは渡さない。
考える向きだけ。
変える。
例えば。
彼女。
朔を。
嫌ってはいない。
むしろ。
大切。
だから。
直接。
――朔はお前を束縛している。
そんなことは。
言わない。
言えば。
庇う。
反発。
終わり。
必要なのは。
本人の中。
既にある。
小さな。
息苦しさ。
そこへ。
名前。
一つ。
夕方。
交差点。
右。
川沿い。
左。
商店街。
青年はスーツ姿の男で立っていた。
彼女。
一人。
歩く。
スマートフォン。
バッグ。
左右。
見る。
少し。
迷う。
青年は歩き出す。
「すみません」
彼女が振り返る。
「駅ってどっちです?」
「左です」
「ありがとうございます」
青年は。
わざと。
右を見る。
「こっちは?」
「川沿いです」
「近道?」
「まあ、こっち側の住宅なら」
「なるほど」
ここまで。
どうでもいい。
道を聞いただけ。
青年は笑う。
「最近、変な人多いみたいだから気をつけて」
彼女の表情。
僅かに。
曇る。
「はい」
もう一つ。
「彼氏さん心配するでしょうし」
止まる。
「……なんで彼氏いるって」
青年はすぐ。
手。
見る。
ペアリング。
「ああ……」
困ったように。
少し。
「すみません。余計なこと言いました」
頭を下げる。
離れる。
それだけ。
(右に行けって言わなかったね)
「言ったら意味ないでしょ」
少し離れた場所。
青年は足を止める。
背後。
スマートフォン。
震える。
画面。
朔。
文字までは。
見えない。
でも。
彼女の顔。
分かる。
また。
そう思った。
多分。
朔。
聞く。
どこにいる。
その程度。
彼女の口元。
少し。
硬くなる。
左。
人。
多い。
右。
近い。
彼女は。
右へ。
曲がる。
青年は。
小さく。
「ほら」
(何もしてないのに)
「したよ」
青年は背中を見る。
「朔の心配を」
少し笑う。
「うるさいものにした」
(それだけ?)
「それだけ」
その。
それだけ。
人は。
道を。
変える。
青年は。
そういう瞬間が。
好きだった。
命令。
していない。
押していない。
手も。
掴んでいない。
でも。
彼女は。
青年が見ていた方向へ。
自分で。
歩いた。
「綺麗だよね」
(また言った)
青年は少し笑う。
「今回はいいでしょ」
反対方向へ。
歩き出す。
川沿い。
何が起きるか。
青年は知っていた。
正確には。
何が。
置かれているか。
ゴイから。
聞いていた。
人間。
男。
Chaos因子への反応。
欲求。
不足。
摂食。
自己損傷。
青年の仕事。
ではない。
ゴイ側。
選別。
観察。
配置。
最近。
行方不明。
その一部も。
同じ。
流れ。
「今日はあれ使うんだ」
夜。
川へ向かう途中。
青年は。
何となく。
口にした。
返事はない。
当然。
ゴイは。
隣。
いない。
(誰に?)
「だからゴイ」
(いないよ)
青年は。
暗い高架下へ入る。
「いるよ」
(どこ?)
「多分」
その先。
街灯。
人影。
ゴイ。
立っている。
青年の口元。
上がる。
「ほら」
(本当にいた)
「最近これ多いね」
青年は近づく。
「毎回待ってるの?」
「報告を」
「質問に答えてよ」
「進行は」
青年は肩を落とす。
「順調」
ゴイ。
青年の冗談。
反応。
なし。
いつも通り。
「対象は記録行動を継続」
「確認した」
「周囲は」
「面白いよ」
「具体的に」
青年は壁へ。
背。
指。
まだ。
少し。
痺れている。
「本人より」
一拍。
「周りの方が動きやすい」
「当然だ」
青年はゴイを見る。
「吉宗は気づき始めてる」
ゴイの目。
青年へ。
「何に」
「僕」
「問題か」
青年は。
笑う。
「逆」
一拍。
「ちょっと気づかせてる」
沈黙。
「理由は」
「警戒する人が一人いると」
一拍.
「他の人との温度差ができる」
「不要な変数だ」
「変数がないと面白くない」
「目的は娯楽ではない」
青年は。
肩を竦める。
「僕には少し娯楽」
ゴイは。
何も言わない。
青年は。
少し。
拍子抜け。
「壊してないよ」
「ならいい」
短い。
本当に。
それだけ。
青年は。
少し眉を上げる。
「ねえ」
「何だ」
「ニュース」
ゴイ。
黙る。
「また消えてるって」
「選別だ」
やっぱり。
青年の目。
僅かに。
細くなる。
「結構目立ってるよ」
「問題はない」
「ニュースになってるけど」
「関連付けられていない」
青年は。
川。
見る。
「今はね」
ゴイ。
答えない。
青年は。
少し。
間を置く。
「朔、書いてたよ」
「何を」
「行方不明」
一拍。
「全部書くんだね、あの人」
「だから対象になった」
青年の笑み。
ほんの少し。
消える。
「記録するから?」
「失うことを嫌うからだ」
ゴイ。
平坦。
「記録は結果にすぎない」
青年は。
頭の中。
朔の帳面。
思い出す。
『行方不明 また一人』
『圭介 菓子くれた』
同じ場所。
同じ筆圧。
世界のニュース。
友達からの菓子。
同じ。
残す。
青年は。
小さく。
「結果ね」
「そうだ」
「じゃあ」
青年は。
少し笑う。
「何を書かせるか見てみるよ」
ゴイの眉。
僅かに。
「書かせる?」
「言い方」
青年は壁から身体を離す。
「本人が書くよ」
指先。
軽く。
振る。
「僕は」
一拍.
「その前に立つだけ」
駅前。
人。
多い。
青年は。
少し離れた場所。
朔たち。
見る。
吉宗。
朔。
彼女。
拓海。
美咲。
圭介。
全員。
いる。
その向こう。
痩せた男。
大きすぎる上着。
指。
噛む。
血。
「足りない……」
青年の笑み。
消える。
あれ。
自分の仕込みではない。
ゴイ。
青年は。
そこを。
間違えない。
男は。
誰も。
見ていない。
ただ。
「足りない」
「足りない」
繰り返す。
朔が。
帳面。
開く。
カリ。
遠く。
でも。
分かる。
書く。
時刻。
場所。
特徴。
言葉。
青年は。
小さく。
「やっぱり」
(書いた)
「うん」
そこで。
別の視線。
気づく。
人混み。
外。
男。
帳面。
白衣。
ではない。
研究所。
そうも。
見えない。
ただの。
街の男。
でも。
青年には。
分かる。
「……またいる」
ゴイ。
立つ。
帳面。
書く。
痩せた男。
次。
朔。
そして。
青年。
視線。
合う。
ゴイの表情。
変わらない。
青年は。
小さく。
笑う。
「僕まで観察?」
届く距離ではない。
ゴイは。
答えない。
当然。
ただ。
いる。
青年は。
その視線を受けながら。
朔。
見る。
朔。
書き終える。
眉間。
力。
少し。
抜ける。
青年の目。
変わる。
「……あ」
(何?)
「書くと安心するんだ」
これは。
使える。
見た。
だから。
書く。
違う。
もう一つ。
書けば。
残る。
残れば。
なくならない。
少なくとも。
朔の中では。
青年は。
小さく。
「なるほどね」
ポケット。
右手。
指。
感覚。
薄い。
さっきより。
少し。
握る。
開く。
遅れる。
「……」
(大丈夫?)
「うん」
答え。
少し。
早い。
青年は。
右手を。
そのまま。
ポケットの奥へ。
隠す。
向こう。
吉宗。
こちら。
見ている。
青年は。
笑う。
そして。
見えるように。
左手。
出す。
人差し指。
鞄の端。
トン。
トン。
吉宗の表情。
固まる。
青年は。
内側。
「三回目」
(何してるの)
「記録」
(君も?)
青年は。
人混みへ入る。
「僕は書かないよ」
一拍.
「書く人がいるから」
顔。
消す。
服。
変える。
歩幅。
変える。
数秒。
さっきの男は。
もう。
いない。
でも。
吉宗の中。
残る。
朔の帳面。
別のもの。
残る。
ゴイの帳面。
また。
別の記録。
同じ場所。
同じ時間。
同じ出来事。
なのに。
三人。
違うもの。
残す。
青年は。
それが。
ひどく。
気に入った。
# 第二十三章 一行
青年が一番気に入ったのは。
菅原朔本人ではなく。
そのノートだった。
正確には。
朔が。
ノートを見る時の顔。
疑う時。
怒る時。
思い出せない時。
誰かの言葉と。
自分の記憶。
食い違う時。
最後に。
必ず。
ノートを見る。
そして。
文字。
ある。
少し。
安心する。
「便利だね」
(何が?)
青年は。
笑う。
「僕より信用されてる」
夕方。
駅裏。
路地。
今の顔。
吉宗。
制服。
鞄。
少し。
乱れた髪。
数日前から。
何度も。
使う。
表情まで。
身体へ。
馴染む。
前。
朔。
拓海。
圭介。
三人。
青年は。
最後尾。
近すぎず。
離れすぎず。
朔。
メモ帳。
出す。
何か。
書く。
青年は。
横目だけ。
(見たい?)
「もう知ってる」
(何書いたの?)
「多分、さっきの人」
(誰?)
青年は。
少し笑う。
「僕」
(どの僕?)
青年の口元。
僅かに。
止まる。
「それ聞かれると困るなあ」
始まりは。
小さい。
知らない男子。
昼。
一年の教室近く。
「彼女、大事なんだね」
それだけ。
別の日。
駅前。
年上の男。
「大事にされてる子だね」
チラシ。
配る男。
「心配性?」
別の顔。
「なくすの嫌いなんだ」
彼女の待ち受けを見た男。
「友達多そう」
一拍.
「男友達も多そう」
全部。
青年。
一つずつ。
何でもない。
知らない人。
妙なことを言う人。
距離感。
おかしい。
その程度。
だから。
朔は。
全部。
書いた。
顔ではない。
言葉。
『昼 知らない男子。一年教室』
『駅前 男 大事にされてると言う』
『チラシ 心配性』
『知らない男「なくすの嫌い」』
『男友達多そうと言う』
青年は。
全部。
知っている。
自分が。
言ったから。
そして。
今日。
吉宗の顔。
初めて。
一本に。
する。
「お前」
朔が。
見る。
「何」
「知らねえ奴に話しかけられた記録」
一拍.
「全部残ってるよな」
朔の指。
止まる。
「……たぶん」
「見せて」
「今?」
「今」
青年は。
声を。
少し。
低く。
笑わない。
眉間。
僅か。
視線。
朔。
ではない。
ノート。
次。
周囲。
誰か。
見ているかもしれない。
そう。
見えるように。
拓海。
圭介。
気づく。
空気。
変わる。
(演技上手)
「仕事だから」
朔。
ページ。
めくる。
一枚。
二枚。
青年は。
知っている行。
初めて。
見るように。
『昼 知らない男子。一年教室』
「……」
次。
『駅前 男 大事にされてると言う』
眉。
少し。
曇らす。
『チラシ 心配性』
目。
止める。
『知らない男「なくすの嫌い」』
そこで。
一度。
朔。
見る。
すぐ。
戻す。
『男友達多そうと言う』
青年は。
息を。
吐く。
「……これ」
「何」
「お前さ」
指。
一つ。
次。
また。
自分が。
置いた言葉。
自分で。
指す。
「こいつら」
一拍.
本気で。
今。
気づいたように。
「全部、同じことしてない?」
朔。
止まる。
「同じ?」
「お前か彼女のこと聞いてる」
拓海が。
横。
覗く。
「……あ」
圭介も。
笑わなくなる。
青年は。
二人を。
見ない。
見れば。
誘導。
強くなる。
必要なのは。
自分が。
答えを。
言ったように。
見せないこと。
あくまで。
吉宗。
友達。
心配。
ただ。
気づいた。
あとは。
三人が。
考える。
朔。
ページ。
見る。
言葉。
関係。
彼女。
友達。
失う。
繰り返し。
青年は。
顔。
見る。
胸の奥。
何か。
噛み合う。
「……偶然だろ」
朔。
青年は。
否定しない。
「かもな」
これ。
必要。
――違う。
――絶対誰かがやっている。
そこまで。
言えば。
朔は。
吉宗の判断を。
疑う。
でも。
「かもな」
なら。
残る。
疑問だけ。
(言わないんだ)
「何を?」
(全部君だって)
青年は。
少し。
笑う。
「言ったら終わるでしょ」
(じゃあ何のため?)
青年は。
ノートを閉じる朔。
見る。
「見方を置いた」
(また)
「うん」
青年は。
心の中だけ。
続ける。
次。
知らない人から。
話しかけられたら。
一回目とは。
違う意味。
なる。
* * *
その夜。
青年は研究所へ戻らなかった。
学校。
朔の家。
そこからも。
少し。
離れる。
河川敷。
街灯。
低い柵。
水。
暗い。
車の音。
遠く。
途切れない。
青年は。
吉宗の顔のまま。
歩く。
視界の端。
人影。
「……いた」
ゴイ。
柵。
そば。
また。
待っている。
青年は近づく。
「最近さ」
一拍.
「呼ばなくてもいるよね」
「報告を」
「怖いよ」
「進行は」
青年は。
少し。
笑う。
「無視?」
「進行は」
「いいよ」
柵へ。
背。
「対象」
一拍.
「自分の記録を並べて見始めた」
「誰がそうさせた」
「吉宗」
「お前だろう」
青年は。
顔。
指す。
「役としては吉宗」
「同じだ」
「結構違うよ」
ゴイ。
答えない。
青年も。
説明しない。
「知らない人から言われた言葉」
青年は。
指。
折る。
「一個ずつなら流せてた」
「それで」
「並べた」
「結果は」
青年は。
楽しそうに。
「偶然だって」
「なら不十分だ」
「今はね」
一本。
指。
立てる。
「次にまた同じことが起きた時」
二本。
「二回目になる」
三本。
「三回目」
四本。
「四回目」
手。
開く。
「本人が勝手に数え始める」
ゴイ。
青年を見る。
「何のためだ」
「記録を強くするため」
「説明しろ」
青年は。
頭。
軽く。
指す。
「自分の記憶より」
掌。
開く。
そこに。
ノートがあるように。
「こっちを信じてもらう」
「対象は既に記録へ依存している」
青年は。
首を。
少し。
傾ける。
「まだ足りない」
「何が」
一拍.
「間違った時」
ゴイの目。
僅かに。
細くなる。
「記憶と記録が食い違った時?」
青年は。
笑う。
「そう」
一拍.
「見たいでしょ?」
ゴイ。
否定。
しない。
青年の笑み。
少し。
深くなる。
「じゃあ」
立つ。
「一行だけ借りる」
* * *
翌日。
朔のノート。
机。
上。
昼休み。
本人。
いない。
拓海。
美咲。
圭介。
彼女。
誰も。
いない。
吉宗も。
いないことに。
なっている。
青年。
廊下。
別の顔。
教師。
生徒。
どちらでもない。
誰も。
気にしない。
通り過ぎる。
そういう人間。
教室。
入る。
時間。
四十秒。
長く。
いらない。
ノート。
取る。
開く。
青年は。
何度も。
見ている。
朔。
文字。
縦。
横。
数字。
癖。
「彼」。
「圭」。
「駅」。
筆圧。
止め。
払い。
間隔。
詐欺師にとって。
署名より。
簡単。
青年は。
ペン。
右手。
僅かに。
震える。
「……」
(大丈夫?)
「今だけ黙って」
左手。
右手首。
掴む。
一度。
深く。
息。
吐く。
離す。
震え。
止まる。
一行。
書く。
『17:41 彼女 圭介と駅前』
止める。
見る。
少し。
違う。
最後の。
「前」。
払い。
青年は。
本物の文字。
見る。
角度。
筆圧。
上から。
ほんの僅か。
なぞる。
今度。
ほとんど。
区別。
できない。
(それ、嘘だね)
「うん」
(珍しい)
「何が?」
(本人に書かせないんだ)
青年の手。
一瞬。
止まる。
「全部本人にやらせる必要ないでしょ」
(最後の一手は?)
青年は。
即答。
「これ最後じゃないよ」
少し。
早い。
自分でも。
分かる。
青年は。
ノート。
閉じる。
「ただの材料」
(便利)
「便利だよ」
位置。
角度。
ペン。
机。
全部。
戻す。
教室。
出る。
四十一秒。
青年は。
廊下。
小さく。
「一秒オーバー」
(誰が決めたの?)
「僕」
(じゃあ問題ないね)
青年は。
口元。
少し。
「そういうこと」
三歩。
そこで。
右手。
感覚。
消える。
青年は。
止まる。
指。
開く。
動く。
でも。
触れている。
感覚。
ない。
壁。
掌。
当てる。
冷たい。
はず。
分からない。
「……面倒だな」
(痛い?)
「痛くない」
(じゃあいい?)
青年の眉。
寄る。
「痛くない方が嫌だよ」
右手。
振る。
一度。
二度。
三度。
戻る。
ざらついた壁。
冷たい。
指先。
「戻った」
(やめる?)
「何を」
(仕事)
青年は。
少し。
黙る。
「死にたいの?」
声。
黙る。
青年も。
少し。
黙る。
「僕は嫌だよ」
右手。
ポケット。
「だから続ける」
* * *
数日後。
結果は。
青年の予想より。
綺麗だった。
朔。
ノート。
昨日。
『17:41 彼女 圭介と駅前』
その下。
『圭介 昨日はいない』
矛盾。
青年は。
吉宗の顔。
少し。
離れた場所。
見る。
朔の目。
行。
行。
行。
記憶。
探す。
出ない。
顔。
曇る。
「朔?」
吉宗として。
声。
朔。
答えない。
もう一度。
ノート。
『17:41 彼女 圭介と駅前』
青年。
書いた。
一行。
だけ。
でも。
前。
後ろ。
全部。
朔。
紙。
ペン。
癖。
時間。
そこだけ。
嘘。
朔の唇。
動く。
「……俺が忘れてるだけだ」
青年は。
表情。
変えない。
胸の奥。
静かに。
何か。
鳴る。
(勝った?)
「何に?」
(記憶)
青年は。
朔を見る。
「まだ」
朔。
ペン。
持つ。
カリ。
『前の記録を信用する』
青年の目。
僅かに。
見開く。
これは。
書かせていない。
言っていない。
朔が。
自分で。
書いた。
「……へえ」
(嬉しそう)
青年は。
本当に。
少し。
笑う。
「これは嬉しい」
(僕の一行を信じた?)
青年は。
ノートを見る。
「違うよ」
一拍.
「自分で」
もう一度。
文字。
見る。
「記録を信じるって決めた」
それは。
青年の想定より。
ずっと。
強い。
* * *
数日後。
古い商業施設。
拓海。
美咲。
圭介。
彼女。
吉宗。
朔。
全員。
同じ場所。
向かう。
理由。
全部。
違う。
メッセージ。
誰かからの連絡。
知人。
落とし物。
確認。
呼び出し。
そして。
朔。
一枚。
メモ。
『16:30 行く』
それだけ。
青年は。
遠く。
六人。
見る。
(これも?)
「うん」
(全部?)
「うん」
少し。
声。
黙る。
(全員に?)
「別々に」
青年は。
指。
数える。
「美咲には美咲が動く理由」
一つ。
「圭介には圭介」
二つ。
「拓海には拓海」
三つ。
「彼女には彼女」
四つ。
「朔には」
少し。
笑う。
「本人の字」
(吉宗は?)
青年は。
当然。
「僕」
(全員、自分で来た)
「うん」
(君が呼んだのに)
「呼んでないよ」
(呼んでるよ)
青年は。
古い建物を見る。
「理由を置いただけ」
(同じじゃない?)
青年は。
即答。
「全然違う」
人気のない商業施設。
シャッター。
割れたガラス。
暗い入口。
少し離れた場所。
車。
中。
人影。
白衣。
ゴイ。
青年の口元。
僅かに。
「……また立ってる」
正確には。
今日は。
座っている。
(いたね)
「本当に毎回いるな」
青年は。
笑った。
その時。
車。
ゴイ。
こちら。
見る。
遠い。
それでも。
分かる。
青年の笑み。
少し。
消える。
ゴイ。
六人。
だけ。
見ているわけではない。
青年。
見ている。
「……僕も記録?」
(たぶん)
青年は。
少し。
嫌そうに。
「嫌だなあ」
(君もいっぱい書いてたでしょ)
「僕は人のだけ」
(同じじゃない?)
青年は。
答えない。
施設。
奥。
音。
金属。
低い。
何か。
動く。
青年の目。
そちら。
ゴイ側。
次の駒。
知らされていない。
でも。
もう。
驚かない。
「また増やすんだ」
小さく。
呟く。
六人。
見る。
全員。
自分で。
ここへ。
来た。
少なくとも。
本人たちは。
そう。
思っている。
青年は。
ポケットの中。
右手。
ゆっくり。
握る。
感覚。
ある。
まだ。
ある。
青年は。
笑う。
「じゃあ」
一歩。
前へ。
六人。
違う考え。
違う怖さ。
違う大事なもの。
「次は」
青年の目。
一人ずつ。
なぞる。
「誰が最初に」
もう一歩。
「自分で動くかな」
第二十二章「書く前に」/第二十三章「一行」でした。
今回は、ネミティブ編の「見る」から。
菅原編の**「残す」**へ切り替わる話です。
朔は、とにかく書きます。
重要なことだけではありません。
ニュースも。
天気も。
友達にもらった菓子も。
同じ筆圧で残す。
青年が最初に面白いと思ったのは、その行動そのものです。
でも観察を続けるうちに。
もう一つ見えてくる。
朔は、
見たから書く。
だけではない。
書けば残る。
残ればなくならない。
だから書く。
つまり記録は、情報ではなく。
朔にとっては**「失わないための装置」**になっています。 KillerWorld_イース編_第22章_第23章 KillerWorld_イース編_第22章_第23章
そして今回も青年は、対象本人だけを触りません。
彼女には彼女の息苦しさ。
吉宗には警戒心。
周囲には、それぞれ別の材料。
直接、
「朔はこういう人間だ」
とは言わない。
それを言ってしまえば、相手は青年の言葉を判断するだけになる。
そうではなく。
本人の中に元からあるものへ。
名前だけ置く。
彼女が道を変えた場面は、その象徴です。
青年は右へ行けとは一度も言っていません。
ただ、朔の心配を。
「うるさいものにした」
だけ。
その結果。
彼女は自分で右へ曲がる。
青年が一番好きな形です。 KillerWorld_イース編_第22章_第23章 KillerWorld_イース編_第22章_第23章
そして吉宗。
今回、青年はわざと自分の痕跡を残します。
トン。トン。
顔は違う。
声も違う。
でも同じ癖。
全部見破らせるつもりはない。
ただ、
「何かいる」
と思わせる。
青年自身の言葉通り、
一人だけ違う方向を見ている人間がいると。
他の人間も動かしやすくなる。
つまり吉宗は。
青年が成りすます役であると同時に。
盤面の中で青年を疑うための役にもなっています。 KillerWorld_イース編_第22章_第23章 KillerWorld_イース編_第22章_第23章
第二十三章で一番大きいのは。
やはり一行です。
青年は今まで、
最後は本人に選ばせる。
という形を好んできました。
でも今回は。
初めて、本人の記録へ直接嘘を書き込む。
頭の奥の声から、
「本人に書かせないんだ」
と言われる。
そして、
「最後の一手は?」
と聞かれた時。
青年はすぐに、
「これ最後じゃないよ」
と返します。
少しだけ。
早すぎるくらいに。 KillerWorld_イース編_第22章_第23章
ここは、第二十章の最後で出た、
「ゴイが触っていいなら、僕だけ最後に触るなってルールでもないよね」
という変化の続きでもあります。
青年自身の中で。
「どこまでなら材料なのか」
という線が、少しずつ動いています。
ただ。
それでも最終的な選択そのものは、朔へ残す。
記憶と記録が食い違った時。
青年は、
「記録を信じろ」
とは言わない。
朔が自分で、
『前の記録を信用する』
と書くまで待つ。
だから青年は喜ぶ。
「僕の一行を信じたんじゃない」
「自分で、記録を信じるって決めた」
ここが青年にとって重要です。 KillerWorld_イース編_第22章_第23章
そしてもう一つ。
今回かなり危険になっているのが青年自身。
顔を使うたびに。
右手の感覚が薄くなる。
開いても。
触っても。
一瞬、感覚が来ない。
それでも仕事をやめるか聞かれて、
「僕は嫌だよ」
「だから続ける」
と答える。
青年がこれを続ける最大の理由は。
面白いからだけではありません。
生きたいから。
ゴイの処置が必要だから。
自分の身体が壊れていると分かっていても。
止まる選択肢を、まだ持てない。 KillerWorld_イース編_第22章_第23章
最後。
六人は同じ場所へ集まります。
でも。
誰一人、
「青年に呼ばれた」
とは思っていない。
美咲には美咲の理由。
圭介には圭介。
拓海には拓海。
彼女には彼女。
朔には本人の字。
吉宗には青年自身。
だから青年は言う。
「全員、自分で来た」
頭の奥の声は。
「君が呼んだのに」
と返す。
この二つの間にあるものが。
今の青年そのものだと思っています。
本人が選んだ。
でも、その選択肢を置いたのは誰なのか。
菅原編では。
その境界が、さらに曖昧になっていきます。




