KillerWorld ―イース編―「君には僕がいるじゃないか」
夜が明ける頃には、RATはもうなくなっていた。
建物も、倉庫も、武器も残っている。
けれど。
そこにいた人間たちは、もう同じ集団ではない。
死んだ者。
逃げた者。
投降した者。
そして、残った者。 KillerWorld_イース編_第21章_最後の確認
カイルは、生き残った人間たちを連れて去ろうとする。
一方のネミティブは。
すべてが終わったあとも、まだ瓦礫を見ていた。
血。
足跡。
壊れた扉。
誰がどこから来たのか。
何を見落としたのか。
「俺は確認する」
間違えたから、やめるのではない。
間違えたからこそ。
もっと見る。
もっと知る。
もっと確かめる。
そして次こそ、自分で正しく決める。 KillerWorld_イース編_第21章_最後の確認
青年は、カイルの選択へ何も置かなかった。
言葉一つで、どちらへでも傾けられた。
それでも今回は触れない。
なぜなら。
「ここで僕が選ばせたら」
「カイルが言ったこと、全部台無しになる気がした」
間違えてもいい。
逃げてもいい。
残ってもいい。
自分で決めろ。
カイルとリナが残したその言葉は、青年自身にも刺さり始めていた。 KillerWorld_イース編_第21章_最後の確認
やがて、一人になったネミティブの前へ。
青年は再び、ルイスとして現れる。
しかしそこにいたのは、いつものネミティブではなかった。
見る目も。
疑う目も。
判断する目も薄れ。
残っていたのは。
怯えた子供のような姿だった。
「僕が……悪かったんですか」
「僕がちゃんと見てれば……」
青年は初めて、自分が利用してきたものの根を真正面から見る。
この男が、なぜ見るのか。
なぜ確認するのか。
なぜ自分で決めたがるのか。
それはずっと、生き残るためだった。
そして青年は。
その形を利用した。
正解を重ねさせ。
自分を信じさせ。
他人を疑わせ。
最後には、全部を失わせた。 KillerWorld_イース編_第21章_最後の確認 KillerWorld_イース編_第21章_最後の確認
だから。
青年はネミティブを抱く。
そして優しいルイスの声で言う。
「君には僕がいるじゃないか」
「他に何もいらないだろ?」
ラドはいない。
リナはいない。
カイルはいない。
RATもない。
最後に残ったのは。
ルイスだけ。
盤面だけを見れば。
それは完璧だった。 KillerWorld_イース編_第21章_最後の確認
研究所へ戻ると、ゴイは言う。
「固定したな」
ネミティブの判断傾向は固定した。
観測は終了。
結果は出た。
けれど青年は。
子供のように崩れたネミティブを思い出す。
そして問う。
「どこからどこまでが固定なの?」
人間を一つの結果として切り取ることに。
青年自身が、初めて小さな違和感を持ち始める。 KillerWorld_イース編_第21章_最後の確認
そして。
休む間もなく。
次の対象が提示される。
人を記録する男。
一度知ったものを、失うことを嫌う男。
その名は。
菅原。
新しい盤面が、静かに開く。
# 第二十一章 最後の確認
夜が明ける頃には。
RATは。
もう。
なくなっていた。
建物は。
残っている。
壁。
倉庫。
武器。
燃えずに残った食料。
それでも。
そこにいた人間だけが。
消えていた。
死んだ者。
逃げた者。
敵へ投降した者。
どこへ行ったのか。
分からない者。
昨日まで。
同じ場所で。
飯を食べ。
同じ名前を呼び。
同じ敵へ。
銃を向けていた。
朝。
それは。
もう。
同じ集団ではなかった。
青年は。
崩れた屋根の上から。
見ていた。
今は。
ルイスではない。
名前のない男。
煤。
上着。
擦り切れた靴。
この辺りを。
逃げ回っていても。
誰も。
気に留めない顔。
夜明け前の空は。
まだ。
青くならない。
煙。
低く。
残る。
焼けた木。
湿った土。
火薬。
血。
雨上がりの空気に。
全部。
混ざっている。
下。
カイル。
後ろ。
数人。
怪我をした男。
肩を貸される女。
まだ若い構成員。
皆。
疲れている。
歩くたび。
靴が。
重い。
それでも。
動いている。
「兄貴!」
カイル。
叫ぶ。
青年の視線。
その先。
ネミティブ。
瓦礫の向こう。
一人。
立っている。
もう。
指示を待つ人間。
いない。
報告。
ない。
地図を広げる机。
壊れている。
確認する組織。
ほとんど。
残っていない。
それでも。
ネミティブは。
見る。
地面。
壁。
血。
足跡。
壊れた扉。
誰が。
どちらへ。
逃げた。
敵。
どこから。
入った。
人数。
何が。
起きた。
まだ。
確認している。
(まだやるんだ)
頭の奥。
声。
青年は。
小さく。
「うん」
(もう終わったのに)
青年は。
ネミティブを見る。
「本人にとっては」
一拍.
「終わってないんでしょ」
カイル。
もう一度。
「来い!」
ネミティブ。
動かない。
「兄貴!」
「お前ら行け」
青年の目。
僅かに。
細くなる。
声。
疲れている。
でも。
判断。
残る。
「俺は確認する」
カイルの顔。
崩れる。
「まだ言ってんのかよ!」
青年は。
そこで。
少し。
笑いそうになる。
やっぱり。
予想通り。
間違えたから。
やめる。
ではない。
間違えたから。
もっと。
見る。
もっと。
知る。
もっと。
確かめる。
そして。
次こそ。
自分で。
正しく。
決める。
ゴイへ。
話した通り。
(嬉しい?)
「仕事としてはね」
(それだけ?)
青年は。
少し。
鼻から息。
「今日はそれ聞くのやめない?」
カイルが。
ネミティブへ。
一歩。
出ようとする。
でも。
後ろ。
誰か。
袖。
掴む。
弱い。
震えている。
でも。
離さない。
カイルが。
振り返る。
前。
ネミティブ。
後ろ。
自分を見る人間。
青年は。
その位置を。
見る。
何もしない。
数日前なら。
顔。
一つ。
借りる。
言葉。
一つ。
置く。
こっち。
選べ。
あっち。
行け。
今しかない。
兄貴を置いていくのか。
皆を見捨てるのか。
どちらにも。
傾けられる。
でも。
今は。
やらない。
「……俺」
カイル。
息を吸う。
「こいつら連れてく」
青年の目。
僅かに。
動く。
ネミティブ。
何も。
言わない。
「兄貴」
カイルの声。
震える。
「死ぬなよ」
返事。
ない。
カイルは。
待つ。
一秒。
二秒。
青年も。
待つ。
やがて。
カイルは。
背を向けた。
歩く。
数人。
ついていく。
誰も。
カイルを。
頭。
そう。
呼ばない。
カイル自身も。
命令しない。
ただ。
歩く。
青年は。
背中。
見送る。
(触らなかったね)
「うん」
(どうして?)
青年は。
しばらく。
答えない。
「知らない」
(嘘)
青年の口。
少し。
止まる。
「……ここで」
一拍.
「僕が選ばせたら」
カイルの背中。
遠く。
「カイルが言ったこと」
もう一拍.
「全部台無しになる気がした」
(何て言ってたっけ)
青年は。
答えない。
覚えている。
間違えたっていい。
そいつの間違いまで取るな。
残りたい場所にしろ。
逃げたいなら逃げろ。
自分で決めろ。
青年は。
それらを。
少し。
嫌っていた。
多分。
自分に。
刺さるから。
ネミティブは。
一人。
残る。
青年は。
すぐには。
下りない。
屋根。
上。
見る。
ネミティブ。
歩く。
止まる。
しゃがむ。
拾う。
見る。
また。
歩く。
敵。
もう。
いない。
少なくとも。
近く。
いない。
それでも。
探す。
青年にも。
途中から。
分からなくなる。
何を。
探す。
犯人。
裏切り者。
生存者。
失敗した場所。
自分が。
見落としたもの。
それとも。
全部。
灰。
割れた食器。
焼けた布。
薬莢。
血。
見慣れた場所。
少しずつ。
過去。
なる。
青年は。
そこまで。
見て。
屋根を。
降りる。
今度は。
ルイス。
顔。
作る。
頬。
顎。
喉。
肩。
歩幅。
呼吸。
何度も。
使った役。
もう。
細かく。
考えなくても。
身体が。
戻る。
頬の奥。
僅かな熱。
右手。
痺れ。
青年は。
握る。
開く。
動く。
「……平気」
(聞いてない)
青年は。
歩く。
「言いたかっただけ」
ネミティブの背中。
見える。
こちらへ。
気づかない。
しゃがんでいる。
地面。
何か。
見る。
青年は。
近づく。
途中。
足音。
わざと。
少し。
強く。
踏む。
じゃり。
ネミティブの身体。
跳ねた。
青年の足。
止まりかける。
速い。
敵へ。
反応する動きではない。
もっと。
古い。
身体。
先に。
怯える。
ネミティブ。
顔。
上げない。
肩。
力。
右手。
古い傷。
掴む。
「……ネミティブ」
青年は。
ゆっくり。
呼ぶ。
顔。
上がる。
「……ルイス」
目。
青年は。
そこで。
少し。
予想を。
外した。
ネミティブ。
でも。
いつもの。
目。
ない。
判断する。
見る。
疑う。
薄い。
代わり。
怯えた。
子供みたいな。
目。
「僕……」
青年は。
何も。
言わない。
「僕……」
膝。
落ちる。
灰。
手。
汚れる。
「間違えましたか」
青年の胸。
何か。
止まる。
(僕?)
頭の奥。
声。
珍しく。
小さい。
「僕が……」
ネミティブ。
青年を。
見ない。
もっと。
遠い。
昔。
見る。
「悪かったんですか」
「僕がちゃんと見てれば……」
肩。
傷。
掴む。
強く。
爪。
食い込む。
「ちゃんと……」
呼吸。
崩れる。
「見てたんです」
青年は。
一歩。
近づく。
この反応。
知らない。
資料。
ない。
ゴイ。
記録。
ない。
少なくとも。
この形。
なかった。
父親。
虐待。
幼少期。
知識。
ある。
でも。
知っている。
それと。
目の前で。
戻る。
違う。
「ちゃんと……」
涙。
落ちる。
灰。
小さな。
濃い跡。
「すみません」
青年の足。
止まる。
「ごめんなさい」
誰へ。
ラド。
リナ。
カイル。
RAT。
父親。
自分。
分からない。
多分。
本人も。
分からない。
(どうする?)
青年は。
黙る。
(いつもみたいに何か言う?)
言葉。
ある。
いくらでも。
お前は悪くない。
仕方なかった。
全部終わった。
間違えた。
もっと見れば。
次は。
どれでも。
押せる。
どこへでも。
今のネミティブなら。
少し。
触れば。
簡単に。
転ぶ。
青年は。
それを。
分かっている。
だから。
しゃがむ。
ネミティブの身体。
強張る。
右手。
傷。
守る。
反射。
青年は。
見る。
そこには。
触らない。
反対。
肩。
背中。
そこへ。
腕。
回す。
抱く。
ネミティブ。
固まる。
青年も。
少し。
固い。
初めて。
少なくとも。
ルイスとして。
こういうふうに。
ネミティブへ。
触れたのは。
数秒。
青年は。
何も。
言わない。
背中。
思っていたより。
小さい。
(……軽いね)
青年は。
頭の中。
「黙って」
ネミティブの手。
ゆっくり。
ルイスの服。
掴む。
「ルイス……」
声。
子供。
本当に。
「僕……ちゃんと見てたんです」
「うん」
青年は。
答える。
「ちゃんと……」
ネミティブの指。
服。
強く。
「間違えないように……」
「うん」
「でも……」
続かない。
「みんな……」
青年は。
背中へ。
置いた手を。
少し。
動かす。
傷には。
触れない。
青年は。
全部。
見てきた。
なぜ。
この男が。
人を見る。
確認。
決める。
間違えれば。
誰か。
傷つく。
見落とせば。
自分。
傷つく。
幼い頃から。
それで。
生き残った。
その形。
青年は。
利用した。
正しい材料。
置いた。
正解。
重ねさせた。
自分。
信じさせた。
他人。
疑わせた。
最後。
全部。
失わせた。
青年は。
その事実を。
頭の中。
並べる。
そして。
口から。
出た。
「君には」
一拍.
「僕がいるじゃないか」
ネミティブの指。
さらに。
強く。
服。
掴む。
青年は。
自分の声を。
聞く。
優しい。
完璧な。
ルイス。
「他に」
一拍.
「何もいらないだろ?」
返事。
ない。
ネミティブが。
縋る。
青年は。
抱く。
表情。
変えない。
優しく。
いつもの。
ルイス。
でも。
ネミティブから。
見えない。
青年の目。
ほんの少し。
温度。
消える。
(これで?)
「何」
(欲しかった場所?)
青年は。
すぐには。
答えない。
ラド。
いない。
リナ。
いない。
カイル。
いない。
RAT。
ない。
最後。
ルイスだけ。
いる。
ネミティブ自身が。
その服を。
掴んでいる。
盤面だけなら。
完璧。
青年の口元。
ほんの少し。
歪む。
「……うん」
(嬉しい?)
長い。
沈黙。
青年は。
ネミティブの肩。
震え。
感じる。
「面白いよ」
嘘ではない。
(それだけ?)
青年は。
答えない。
震えが。
止まるまで。
手を。
離さなかった。
* * *
研究所へ。
戻ったのは。
翌日の夜。
白い廊下。
薬品。
一定間隔。
照明。
外。
焼けた街。
まるで。
別。
青年は。
ルイスの顔。
そのまま。
歩く。
途中。
ガラス。
映る。
ルイス。
いつもの。
顔。
青年は。
少し。
立ち止まる。
右手。
開く。
震え。
少し。
握る。
止まる。
歩く。
観察室。
ゴイ。
壁。
記録。
紙。
写真。
数値。
ネミティブ。
ラド。
リナ。
カイル。
RAT。
青年が。
見ていない映像。
ある。
ゴイ側も。
見ていた。
青年は。
入口で。
「終わった」
ゴイは。
振り返らない。
「報告を」
「RATは崩壊」
「対象は」
「生きてる」
「判断傾向は」
青年は。
一瞬。
黙る。
「……強くなった」
「具体的に」
青年は。
ルイスの顔。
まま。
答える。
「失敗した理由を」
一拍.
「判断すること自体じゃなくて」
ゴイの背中。
見る。
「情報不足だと処理した」
一つ。
「だから次はもっと見る」
二つ。
「もっと確認する」
三つ。
「もっと自分で決める」
ゴイ。
記録。
書く。
紙。
擦れる。
「固定したな」
青年の目。
動く。
「固定?」
「そうだ」
「……」
ゴイの手。
止まる。
「何だ」
青年は。
壁。
写真。
ネミティブ。
まだ。
RATに。
皆が。
いた頃。
横。
カイル。
リナ。
ラド。
今。
違う。
「最後」
青年が。
言う。
「子供みたいになってたよ」
ゴイの手。
止まる。
「退行か」
「多分」
「既往歴と一致する」
「そう」
ゴイは。
それ以上。
興味。
示さない。
「なら結果に矛盾はない」
青年は。
ゴイを見る。
「そうかな」
ゴイ。
完全に。
振り返る。
「何がだ」
青年は。
少し。
考える。
「固定したって」
一拍.
「言ったでしょ」
「ああ」
「でも」
青年は。
写真。
見る。
「カイルがいなくなった時も」
一拍.
「自分で決めた」
「当然だ」
「最後まで確認するって決めたのも本人」
「その判断傾向が固定したという話だ」
青年は。
少し。
笑う。
「子供に戻った時は?」
「根底へ退行しただけだ」
青年の笑み。
僅かに。
深くなる。
「じゃあ」
一拍.
「どこからどこまでが固定なの?」
沈黙。
ゴイの目。
少し。
細くなる。
「言葉遊びか」
「質問」
「結果は十分だ」
「そっか」
青年は。
それ以上。
言わない。
今。
勝てない。
議論。
したいわけでも。
ない。
ただ。
少し。
引っかかる。
固定。
終了。
結果。
簡単。
便利。
青年自身。
よく。
使う。
だから。
余計。
気になる。
(誰が決めるんだろうね)
頭の奥。
声。
青年は。
反応しない。
「次だ」
ゴイ。
言う。
青年の顔。
少し。
崩れる。
「もう?」
「時間を空ける理由はない」
「僕ちょっと休みたいんだけど」
「処置を受けろ」
青年の笑み。
僅かに。
止まる。
右手。
ポケット。
指先。
感覚。
少し。
薄い。
「……分かってる」
ゴイは。
一枚。
新しい資料。
机。
置く。
青年は。
近づく。
写真。
男。
ネミティブとは。
全く。
違う。
横。
何枚もの。
紙。
日付。
時間。
名前。
場所。
短い記録。
青年は。
一枚。
取る。
目。
走らせる。
「……几帳面」
「記録する」
「何を?」
ゴイ。
青年を見る。
「人を」
青年の眉。
僅かに。
上がる。
「へえ」
ゴイは。
次の紙。
指す。
「一度知ったものを」
一拍.
「失うことを嫌う」
青年は。
もう一枚。
めくる。
時刻。
帰宅。
体調。
会話。
誰と。
会う。
何を。
する。
細かい。
「これ本人が?」
「ああ」
「全部?」
「確認できた範囲では」
青年は。
少し。
笑う。
「面白そう」
「対象名」
ゴイ。
告げる。
「菅原」
青年は。
写真を見る。
「何すればいい?」
「観察しろ」
「それだけ?」
「必要なら誘導しろ」
青年の指。
記録。
一行。
なぞる。
日付。
時間。
事実。
自分が。
見たもの。
自分で。
書いたもの。
本人より。
後に。
残るもの。
(今度は何するの?)
声。
青年は。
少し。
考える。
そして。
笑う。
「別に」
紙。
一枚。
戻す。
もう一枚。
見る。
「まずは」
指。
一行。
止まる。
「この人が何を見たら」
次。
その下。
「何を書くのか」
青年は。
写真。
見る。
「そこから」
一拍.
「見ようか」
白い照明。
下。
新しい盤面が。
静かに。
開いた。
第二十一章「最後の確認」でした。
今回は、ネミティブ編の締めであると同時に。
青年の中で、少しずつ何かが変わり始める回です。
RATは崩壊します。
でもネミティブは止まりません。
失敗した。
だから判断することをやめる。
ではない。
むしろ逆です。
「もっと見ればいい」
「もっと確認すればいい」
「次は間違えない」
失敗した原因を「自分で決めたこと」ではなく「情報が足りなかったこと」へ置く。
その結果。
青年が作ってきたネミティブは、最後まで青年の予測通りの方向へ進みます。 KillerWorld_イース編_第21章_最後の確認
ただし今回。
青年は一度だけ、意図的に何もしません。
カイルが、
ネミティブのところへ戻るのか。
生き残った人たちを連れていくのか。
その場面で。
青年なら、本来なら一言置けます。
どちらにでも傾けられる。
でもやらない。
理由は、
「ここで僕が選ばせたら、カイルが言ったこと、全部台無しになる気がした」
から。
これはかなり大きい変化です。 KillerWorld_イース編_第21章_最後の確認
リナは言いました。
間違えるのまで取らないで。
カイルも言いました。
そいつの間違いまで取るな。
逃げたいなら逃げろ。
残りたい場所にしろ。
そして今回。
青年は初めて、その言葉を尊重するような行動をします。
本人は、その理由をまだ綺麗には説明できません。
むしろ、
「少し嫌いだった」
とすら思っている。
たぶん。
自分に刺さるから。
ここは、青年がこれまで使ってきた、
「最後は本人が決める」
という言葉と。
リナやカイルが言う、
「自分で決める」
という言葉の違いが、少しずつ青年自身にも見え始めるところです。
そして。
ネミティブとの最後の場面。
ここまで青年は、ネミティブの癖を完全に利用してきました。
なぜ見るのか。
なぜ疑うのか。
なぜ確認するのか。
なぜ自分で決めなければ気が済まないのか。
その根には。
見落とせば、自分が傷つく。
間違えれば、誰かが傷つく。
そうやって生き残ってきた幼少期があります。
青年はそれを知っていた。
そして。
利用した。 KillerWorld_イース編_第21章_最後の確認 KillerWorld_イース編_第21章_最後の確認
正しい材料を置く。
正解させる。
自分を信じさせる。
他人を疑わせる。
そして。
ラド。
リナ。
カイル。
RAT。
全部を失わせた先に。
ルイスだけを残す。
だから、
「君には僕がいるじゃないか」
という言葉は。
慰めでもあります。
でも同時に。
恐ろしく完成された誘導でもあります。
そして青年自身も。
それが分かっています。
「盤面だけ見れば。完璧。」
だからこそ、
「嬉しい?」
と聞かれて。
すぐには答えられない。
「面白いよ」
とは言える。
でも。
それだけなのか。
そこには答えない。
ネミティブが震えなくなるまで抱いていたことも含めて。
もう青年自身にも、どこまでが観察で、どこからが別の感情なのか。
少しずつ分からなくなり始めています。 KillerWorld_イース編_第21章_最後の確認
そして後半。
ゴイはネミティブを、
「固定した」
と判断します。
でも青年は引っかかる。
ネミティブは。
最後まで確認すると決めた。
カイルを行かせることも決めた。
そして最後には。
子供のように崩れた。
それら全部を見た上で。
どこを切り取れば、
「この人間はこういう人間だ」
と固定できるのか。
そこで出るのが、
「どこからどこまでが固定なの?」
という問いです。
ゴイにとっては観測結果。
青年にとっては、まだ途中。
このズレが。
ここから先の大きな部分へ繋がっていきます。 KillerWorld_イース編_第21章_最後の確認
そして最後。
次の対象は菅原。
今度の男は。
人を記録する。
見たものを書き残す。
失うことを嫌う。
青年が最後に考えるのは、
「この人が何を見たら」
「何を書くのか」
ネミティブでは「見ること」を使った。
次は。
記録すること。
新しい盤面の始まりです。




