KillerWorld ―イース編―「空いた場所へ」
ラドが死んだことで、RATには一つの場所が空いた。
判断を急ぐネミティブを止め、迷えば背中を押し、最後まで隣に立っていた人間。
青年は、その穴を外から見ていた。
見ないようにしていた。
けれどゴイは命じる。
「入れ」
治療を続けるため、青年は新しい顔と名前を作る。
――ルイス。
誰にも似せない。
誰かの代わりになるつもりもない。
必要な情報だけを置き、
「信じなくていいよ」
「自分で見れば?」
そう言って、判断はネミティブ自身へ返す。
やがてネミティブは、ルイスの情報を使い、自分で確かめ、自分で決めるようになる。
そして少しずつ。
ラドがいなくなって空いた場所へ、ルイスが入り始める。
青年はそれに気づいていた。
ラドなら止める。
自分は止めない。
それでも青年は言う。
「僕が入らなくても、誰か入るよ」
――本当に、そうなのか。
# 第十一章 空いた場所
ラドが死んでから。
RATの空気は変わった。
人数が減ったからではない。
仕事を回す人間が一人いなくなったからでもない。
もっと。
曖昧なものだった。
それなのに。
そこにいる全員が。
気づいている。
穴。
ネミティブが判断を急げば。
怒鳴る。
見えているものだけで決めようとすれば。
一度。
止める。
逆に。
迷って立ち止まれば。
背中を押す。
正しいか。
間違っているか。
それとは別に。
最後まで。
隣に立つ人間。
その場所だけが。
きれいに。
空いていた。
青年は。
それを。
外から見ていた。
数日。
何もせずに。
正確には。
何もできなかった。
ラドの背中。
掌に残った感触。
乾いた銃声。
リナの顔。
ネミティブの。
「誰が押した!」
全部。
少し。
油断すると。
戻る。
だから。
青年は。
RATへ近づかなかった。
ゴイへの報告。
治療。
それだけ。
終われば。
街の端を歩いた。
昼。
市場。
夕方。
川沿い。
夜。
灯りの少ない路地。
人はいる。
声もある。
鍋。
荷車。
笑い声。
犬。
でも。
青年は。
RATの方角だけ。
見ない。
(逃げてる)
「散歩」
(逃げてる)
「しつこい」
(だって)
頭の奥の声が。
そこで。
一度。
黙った。
青年は。
歩き続ける。
(君)
一拍。
(あそこ見ないようにしてる)
青年の足が。
止まった。
遠く。
建物の隙間。
RATの拠点。
小さい。
人が。
出入りしている。
誰かが荷を運ぶ。
誰かが。
入口で。
何か怒鳴る。
青年は。
すぐ。
視線を逸らした。
「見たら」
一歩。
「何か変わる?」
(変わらない)
「じゃあいいじゃん」
(でも)
青年は。
歩く。
(君は気にしてる)
「……」
(昔)
青年の顔が。
少し。
歪む。
「今それやる?」
(やめる?)
青年は。
数歩。
歩いて。
少し迷った。
「短いなら」
声が。
少し。
遠くなる。
(昔)
(火をつけた場所へ)
一拍。
(戻れなかったことがあった気がする)
青年の眉が。
寄る。
「何それ」
(僕がつけたのか)
(誰かがつけたのか)
「また曖昧」
(でも)
一拍。
(燃えた後って)
青年は。
RATから。
さらに。
顔を背ける。
(見たくないんだよ)
青年は。
少しだけ。
笑った。
「それ」
歩き出す。
「今の僕じゃん」
(うん)
「嫌だなあ」
(でも)
声。
静か。
(戻るんでしょ)
青年は。
答えなかった。
* * *
その日の夜。
研究所。
ゴイは。
一枚の紙を。
青年へ差し出した。
「入れ」
短い。
青年は。
紙を取る。
見る。
「どこに」
「RATだ」
青年の喉。
少し。
硬くなる。
「何で」
「穴が空いた」
青年の指が。
紙の端で。
止まる。
「人手?」
「それもある」
ゴイは。
机へ指を置く。
「観察を継続する」
青年は。
黙る。
「ネミティブ」
「うん」
「ラドが死んだことで」
ゴイの目。
記録。
「判断が変わっている」
青年は。
紙を見たまま。
答えない。
「近くで見ろ」
青年は。
紙を。
机へ戻した。
す。
薄い音。
「嫌」
ゴイの目。
上がる。
「何」
青年は。
ゴイを見る。
「嫌だって」
「理由は」
「行きたくない」
「仕事だ」
「知ってる」
「なら行け」
青年は。
ほとんど。
間を置かない。
「嫌だ」
二人。
何も言わない。
換気設備。
低い音。
ぶううん。
天井。
白。
薬品。
青年の右手。
机の縁。
指。
僅かに。
動く。
ゴイが言う。
「治療は」
それだけ。
青年の指が。
止まった。
十分だった。
青年は。
息を吐く。
「ずるいなあ」
「条件だ」
「その言い方」
青年は。
口元だけ。
笑う。
「好きだね」
「有効だから使う」
青年は。
笑えていた。
顔は。
ちゃんと。
笑っている。
でも。
胸の奥。
冷たい。
「分かったよ」
一拍。
「入る」
ゴイは。
紙を引き寄せる。
「名前は」
「何が」
「使う名だ」
青年は。
少し考えた。
ラド。
ネミティブ。
リナ。
血。
銃。
全部。
一度。
頭へ浮かぶ。
それから。
遠ざける。
「ルイス」
ゴイが。
記録へ。
書く。
青年は。
ペン先を見る。
ル。
イ。
ス。
「理由は」
青年は。
肩をすくめる。
「別に」
「意味はない?」
「うん」
青年は。
笑う。
「名前なんて」
一拍。
「だいたいそうでしょ」
(嘘)
青年の目が。
僅かに。
横へ動く。
「今は黙って」
* * *
ルイスとして。
RATへ入った。
最初の日。
青年は。
極力。
目立たなかった。
それが。
一番。
難しかった。
顔を作る。
声を作る。
歩き方。
姿勢。
呼吸。
全部。
でも。
ラドには。
寄せすぎない。
ネミティブにも。
誰にも。
似ない。
細い身体。
少し長めの髪。
汚れた上着。
肩。
力を抜く。
立ち方だけ。
ほんの少し。
軽い。
誰かが。
荷を運ぶ。
手を貸す。
終われば。
離れる。
誰かが。
道を聞く。
知っていれば答える。
知らなければ。
知らないと言う。
余計な口。
挟まない。
誰かの隣。
奪わない。
少なくとも。
最初は。
青年は。
自分へ。
そう言い聞かせた。
ネミティブを見たのは。
二日目。
拠点の外。
壁。
背中。
ネミティブは。
膝を立てて座っている。
少し離れた場所。
少年。
腕。
包帯。
北へ向かった。
三人のうち。
一人。
死んではいない。
でも。
傷は深い。
ネミティブは。
少年を。
見ていない。
地面。
そこだけ。
見ている。
青年は。
少し離れた壁際。
止まる。
声をかける。
やめる。
一度。
考える。
(行く?)
「……」
(君が決めれば?)
青年の口元が。
少し。
歪む。
「それ僕の台詞」
(まだ言ってない)
青年は。
息を吐く。
一度。
「難しいね」
ネミティブが。
顔を上げる。
「何が」
青年は。
壁へ肩を預ける。
怪我をした少年。
見る。
次。
ネミティブ。
「決めても」
一拍。
「人が傷つくし」
もう一拍。
「決めなくても傷つく」
ネミティブの目。
細くなる。
青年の。
顔。
手。
腰。
靴。
順番。
「誰だ、お前」
青年は。
肩を竦めた。
「ルイス」
「知らねえ」
「今名乗ったからね」
ネミティブは。
視線を戻す。
「失せろ」
「いいよ」
青年は。
答える。
でも。
動かない。
ネミティブの眉。
寄る。
「……何だよ」
「別に」
「じゃあ行けよ」
青年は。
怪我人へ。
目を向ける。
「行ってもいいけど」
一拍。
「明日の東」
ネミティブの目が。
戻る。
「やめた方がいいよ」
「何で」
「橋」
「何」
青年は。
ネミティブを見る。
「昼前に落ちる」
ネミティブ。
立つ。
背中。
壁から離れる。
「何言ってんだ」
青年は。
笑った。
胸。
少し。
痛い。
ラドなら。
ここで。
もっと強く言う。
危ない。
行くな。
止める。
青年は。
言わない。
「だから」
一拍。
「信じなくていいよ」
ネミティブの目が。
僅かに。
変わる。
「自分で見れば?」
そこ。
引っかかった。
青年には。
分かる。
「……どの橋だ」
青年は。
場所だけ。
答えた。
* * *
翌朝。
ネミティブは。
本当に。
一人で橋へ向かった。
青年は。
少し離れた場所。
高い石壁の影。
そこから。
見ている。
橋。
古い。
石。
木。
何度も。
補修。
水際近く。
支柱。
細いひび。
昨日。
青年は。
それを見つけていた。
ただ。
本当に。
昼前に落ちるか。
そこまでは。
分からない。
(外したら?)
「笑われる」
(それだけ?)
「信用なくす」
(困る?)
青年は。
少し。
考える。
「ちょっと」
ネミティブ。
橋の手前。
しゃがむ。
支柱。
継ぎ目。
錆。
水。
流れ。
見る。
長い。
じっと。
見る。
青年は。
横顔。
見る。
ラドの死後。
ネミティブは。
以前より。
さらに見る。
道。
背中。
人。
足。
窓。
影。
音。
見落としたものを。
探す。
あの日。
後ろ。
青年を。
見つけられなかった。
青年の胸。
痛む。
「……」
(戻る?)
「何で」
(もう十分見た)
青年は。
ネミティブを見る。
「まだ」
一拍。
「まだ見てない」
何を。
青年にも。
分からない。
ぎしっ。
橋。
鳴る。
ネミティブの身体。
止まる。
振り返る。
何も。
起きない。
でも。
今度は。
もっと見る。
水面近く。
支柱。
ひび。
木。
鉄。
青年の口元。
少し。
上がる。
(嬉しい?)
「違う」
(また)
「違うって」
昼前。
橋は。
落ちた。
重い音。
どん。
木が裂ける。
石が崩れる。
川。
水。
高く。
跳ねる。
青年は。
その瞬間。
笑わなかった。
* * *
夜。
ネミティブは。
青年を見つける。
すぐ。
来る。
「何で分かった」
青年は。
古い木箱の上。
パン。
手。
「橋?」
「ああ」
「見たから」
「何を」
「色々」
「答えになってねえ」
青年は。
パンを。
ちぎる。
「でも落ちたでしょ」
ネミティブの眉間。
皺。
青年は。
パンの断面を見る。
「君も」
一口。
「危ないとは思ったんじゃない?」
「行ってからな」
「じゃあ」
青年は。
噛む。
「僕じゃなくても分かったじゃん」
「最初に言ったのはお前だ」
青年の手。
少し。
止まる。
「だから何」
「何で教えた」
青年は。
パンを。
見た。
本当の答え。
分からない。
ゴイ。
観察。
仕事。
穴。
入るため。
全部。
正しい。
でも。
それだけではない。
「……死んだら」
一拍。
「困るから?」
ネミティブの顔。
強張る。
青年自身も。
言ってから。
止まる。
「何」
「別に」
「今、何て」
青年は。
パンへ視線を落とす。
「聞こえたでしょ」
「何で困る」
青年は。
少し。
黙る。
「仕事」
頭の奥。
即座。
(嘘)
青年の眉が。
ぴく。
「うるさい」
ネミティブ。
「何?」
青年は。
パンを口へ。
押し込む。
「独り言」
ネミティブ。
怪訝。
青年は。
飲み込む。
味。
分かる。
「とにかく」
一拍。
「僕を信じなくていいよ」
ネミティブを見る。
「自分で確かめて」
一拍。
「自分で決めればいい」
その言葉。
0へ。
言ったものと。
よく似ている。
でも。
今は。
違う。
0には。
選んでほしかった。
ネミティブには。
自分で選んだと。
思ってほしい。
青年は。
その違いを。
まだ。
言葉にしなかった。
# 第十二章 代わり
ルイスは。
少しずつ。
RATへ馴染んでいった。
最初から。
受け入れられたわけではない。
誰かに。
好かれようともしない。
ネミティブへ。
取り入ることもしない。
ただ。
必要な時に。
いる。
それだけ。
東の道。
危ない。
知らない馬車。
二台。
取引相手。
昨日より。
一人多い。
荷の流れ。
一度。
止まった。
青年は。
答えを出さない。
情報だけ。
置く。
「東」
青年は。
通りを見ながら言う。
「今日はやめた方がいいかも」
「何で」
「昼に」
指。
二本。
「知らない馬車が二台入ってる」
「荷、下ろしてない」
「誰の」
「そこまでは分からない」
「なら」
青年は。
笑う。
「信じなくていいよ」
一拍。
「自分で見れば?」
ネミティブは。
見る。
考える。
決める。
当たる。
次。
また。
呼ぶ。
少しずつ。
そうなる。
青年は。
気づいている。
呼ばれる回数。
目。
声。
立つ距離。
ネミティブが。
何かを見る前。
一度。
ルイスを見ること。
少しずつ。
ラドのいた場所へ。
自分が。
近づいている。
(嫌?)
「何が」
(代わりになるの)
青年の足が。
少し。
止まる。
「なってない」
(でも)
「違う」
(呼ばれてる)
「仕事」
(前も言ったね)
青年は。
歩く。
「本当だよ」
声。
笑う。
(嘘)
青年の顔。
少し。
歪む。
「……最近」
一拍。
「君嫌い」
(知ってる)
* * *
ある夜。
仕事から戻ったネミティブが。
扉を開けた。
ぎい。
古い蝶番。
青年は。
机。
紙。
何か書いている。
顔を上げる。
考えない。
「おかえり」
言った。
ネミティブの足。
止まった。
ほんの。
一瞬。
青年は。
見る。
胸が。
冷える。
ラド。
帰ると。
時々。
同じことを。
言った。
青年は。
知っている。
直接。
聞いたわけではない。
ラドの顔を借りた時。
ネミティブ。
反応。
言葉。
間。
全部から。
拾った。
青年は。
ペンを。
紙へ戻す。
「どうだった?」
何事もなかったように。
聞く。
ネミティブは。
視線を外す。
「……別に」
上着。
脱ぐ。
「予定通り」
「そっか」
それだけ。
青年は。
また。
紙を見る。
ネミティブも。
何も言わない。
でも。
その日から。
ルイスがそこにいる景色へ。
ほんの少し。
違和感がなくなった。
青年は。
そこまで。
見ていた。
そして。
何も言わなかった。
* * *
リナは。
最初から。
ルイスを疑っていたわけではない。
青年にも。
分かる。
むしろ。
自分を疑うこと自体を。
リナは。
嫌がっている。
ラドが死んだから。
その後へ来た男が。
気に入らないだけ。
きっと。
それだけ。
そう。
自分へ。
言い聞かせている。
でも。
目が。
少しずつ。
変わる。
青年が。
椅子へ座る。
足を組む。
リナ。
見る。
青年が。
考える時。
目を。
少し細める。
見る。
誰かが。
怒っている。
青年。
すぐ返さない。
一拍。
その間。
見る。
青年は。
全部。
気づいている。
(似てる?)
「何が」
(ラドに)
青年の指が。
止まる。
「……」
(無意識?)
「多分」
(嘘)
「全部」
青年は。
右手を見る。
「わざとじゃない」
そこは。
本当。
ラド。
癖。
ネミティブ。
癖。
これまで。
借りた顔。
声。
歩き方。
手。
笑い方。
姿勢。
青年の身体には。
一度。
入れたものが。
時々。
勝手に。
出る。
椅子へ座る時。
誰の癖か。
分からない。
目を細めた時。
ラドか。
ネミティブか。
昔。
騙した誰かか。
どこまでが。
演技。
どこからが。
自分。
少しずつ。
分からない。
リナは。
それを。
見ている。
青年は。
リナが見るたび。
ほんの少し。
面白い。
そして。
ほんの少し。
怖い。
* * *
ゴイは。
定期的に。
聞いた。
「ネミティブは」
「元気」
「判断は」
「前より慎重」
「本当か」
「前より僕を呼ぶ」
「依存か」
青年の目。
少し。
動く。
「違う」
「何が」
青年は。
机に置かれた薬を見る。
透明。
無色。
「僕を信じてるわけじゃない」
「なら何だ」
青年は。
少し。
笑う。
「自分を信じるために」
一拍。
「使ってる」
ゴイは。
黙る。
青年は。
指で。
薬瓶の影を。
なぞる。
「僕が一個」
一拍。
「情報を置く」
「……」
「ネミティブが確認する」
「……」
「自分で」
青年は。
指を止める。
「答え出す」
口元。
上がる。
「だから」
一拍。
「気持ちいいんだよ」
「お前が決めている」
「違うよ」
即答。
ゴイの目。
青年へ。
「何が違う」
青年は。
ゴイを見る。
「僕は」
一拍。
「材料置いてるだけ」
言った。
頭の奥。
声。
静かになった。
青年は。
気づく。
「……何」
(今の)
「何」
(覚えとこう)
青年の眉。
寄る。
「何で」
(君)
一拍。
(また言う気がする)
青年は。
嫌そうな顔。
「やめてよ」
(僕じゃない)
一拍。
(君が言った)
* * *
その夜。
ネミティブと。
二人。
火を見ていた。
小さい火。
乾いた木。
ぱち。
火の粉。
上がる。
夜気。
油。
煙。
少し離れた場所。
誰かの笑い声。
ネミティブは。
地図。
見る。
「明日」
「うん」
「南」
「うん」
「人数足りねえ」
「そう」
一拍。
「……お前」
青年が。
顔を上げる。
「何」
ネミティブは。
地図を見たまま。
「明日も来る?」
言った直後。
自分で。
少し。
驚いた顔。
すぐ。
視線。
地図。
「仕事だよ」
言い訳。
「南」
指。
道。
「人数足りねえから」
青年は。
追及しない。
笑わない。
「いいよ」
ネミティブの肩から。
ほんの少し。
力が抜ける。
「……そうか」
それだけ。
青年には。
分かる。
ラドが。
いなくなってから。
空いていた場所。
そこへ。
少しずつ。
自分が。
入っている。
ラドは。
ネミティブを。
止めた。
青年は。
止めない。
「信じなくていいよ」
いつも。
そう言う。
「自分で決めれば?」
最後。
そう返す。
その言葉が。
ネミティブにとって。
少しずつ。
心地よくなっている。
青年は。
それを。
ちゃんと。
分かっていた。
(やめる?)
頭の奥。
声。
静か。
「何を」
(そこに入るの)
青年は。
火を見る。
ぱち。
火の粉。
上がる。
「僕が入らなくても」
一拍。
「誰か入るよ」
(そうかな)
「そうだよ」
(本当に?)
青年は。
返さない。
火だけ。
見る。
しばらく。
ネミティブが。
地図を畳む。
「ルイス」
青年が。
顔を上げる。
「何?」
ネミティブは。
地図を。
差し出す。
「これ」
青年は。
受け取る。
紙。
道。
人。
判断。
見る。
足りない情報。
一つ。
置く。
ネミティブが。
拾う。
考える。
決める。
青年は。
その横顔を。
見る。
ラド。
思い出す。
止めろ。
一度。
見ろ。
全部。
自分で決めるな。
あの声。
今は。
ない。
青年の口は。
開く。
でも。
何も言わない。
止めなかった。
第十一章「空いた場所」/第十二章「代わり」でした。
今回は、ラドが死んだ後にできた空白へ、青年がルイスとして入り込んでいく話です。
ただ本人は、最初からそこへ入りたかったわけではありません。
むしろRATを見ることすら避けています。
背中を押した感触。
銃声。
リナの顔。
ネミティブの声。
全部がまだ残っている。
それでも治療を失いたくないから、ゴイの命令を受けて戻る。
そしてルイスとしてネミティブへ近づいていきます。
今回かなり重要なのが、
「僕を信じなくていいよ」
「自分で確かめて、自分で決めればいい」
という言葉です。
0にも似たことを言っていました。
ただし、意味はまったく違います。
0には、本当に自分で選んでほしかった。
ネミティブには、自分で選んだと思ってほしい。
青年は答えそのものを押しつけません。
情報だけを置く。
ネミティブが確認する。
自分で答えを出す。
その積み重ねが、ネミティブにとって少しずつ心地いいものになっていきます。 KillerWorld_イース編_第十一章_第十二章




