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「息子に間違いない」
唐突にスバン国王は、息子の遺体を間違いないと肯定の声を上げる。
声をあげたスバン国王に、雪華は視線を向け掛ける言葉もなく無言の眼差しを向ける。
翡翠の壺に入っている生首は、スバン国王の次期国王として育っていた長男なのだ。
雪華が初陣で最初に打ち取った敵将が、スバン国王の長男の生首であった。
次期国王候補であった長男を打ち取ったことによって、縁国の士揮が高まった。
雪華も両親をこの戦争で失ったが、敵国の国王も長男を失ったのだ。
互いにとって掛け替えのない家族を失ったのだ。
雪華は父の遺体に駆け寄る事なく、スバン国王の翡翠の壺に眠る長男を見つめ続ける国王の項垂れた姿をしっかりと目を逸らすことなく見つめていた。
静かに無言の対面の時が進むが、微動だにするうことなくスバン国王の息子との対面に水を差すことなく静かに無言でスバン国王の動きを待っていた。
スバン国王は突如として、大きく息を吐くと壇上の玉座に座る縁国の女王に向き直る。
「王同士で、差しで話しをしたい。
お茶の席でも、設けてくれないか?」
スバン国王は、朗らかに笑みを浮かべて雪華に提案してくる。
戦後処理の会談を設けていたが、差しでの話し合いをすることを雪華は想定していなかった。
スバン国王の提案に、驚きのと拒絶の声をあげそうになるところを、雪華はグッと飲み込む。
「・・・了解した、すぐに用意させよう」
雪華は、なんとか表情を変える事なく返答しつつ叔父である宰相に目配せする。
国王同士のやり取りを聞いていた宰相は、雪華の視線を受け止め会釈をする。
「3分ほど、お待ち頂きたい」
宰相は二人での会談のセッティングに要する時間を求める。
縁国の宰相の提言に、スバン国王は鷹揚に頷くと静に縁国の若き女王へと視線を向けてくる。
不躾なスバン国王の眼差しに、雪華は嫌悪の眼差しを返しそうになるのを堪え続けていた。
◆
スバン国王と縁国の女王は、遠い親戚なのだ。
雪華の母親サーチェとスバン国王は従兄弟に当たる。
雪華の母方の祖母の母国が、スバン国の末の王女だった。
スバン国王と雪華の母は従妹同士と言うこともあり、母が縁国に嫁ぐ前の500年ほど前には婚約間近だとか噂が立つほど従妹のサーチェに会うためにスバン国王はルルドに翼竜で日参していたと言われていた。
スバン国王が次期国王候補として継承する為にルルドの王女であるサーチェを求婚する為に、王位争いに参戦している間にサーチェは病で眠りに落ちた。
王位争いに勝利して、サーチェを迎えにルルド国に向かった。
意識のない眠りの病に陥っているサーチェに求婚するも、ルルドの国王が意識のない娘の婚姻を許す訳もなく。
スバン国王は王を継承し、サーチェの従妹であり、サーチェによく似た容姿のルルド国の公爵令嬢を王妃に迎えた。
視線の先の玉座に座る愛しいサーチェの娘。
波打つ黒髪に黄金の角は、サーチェを奪った男に似ている。
サーチェはストレート髪をしていた。
唯一似ているところは、サーチェと同じ深緑の瞳。
顎のラインに、桜色の唇もサーチェを彷彿とさせる。
目元は仮面をつけているので、鼻から下の顔半分しかわからない。
150cm代の小柄な身長もサーチェを彷彿とさせる。
縁国の王族の王女は、第二次性徴期に角が生え始めると仮面をつけて生活する。
婚姻し、処女を夫に捧げることで仮面を外す生活に戻るという。
サーチェの娘も慣例にのとって、仮面をつけて生活しているようだ。
仮面の隙間からのぞく深緑の瞳は、警戒に満ちて剣呑な眼差しを私に向けていた。
ズキンッ・・・!
眼帯で覆った右目の、既に存在しないはずの眼球の痛み。
片手で眼帯をした右目を覆い、足下がふらつく。
右目の失った時の瞬間がフラッシュバックする。
鬼神が仮面の隙間から覗く深緑の炎を宿した眼差しを見た瞬間が、射抜かれる前の最後に右目に映った光景だった。
あの時の痛みと熱が身体を支配し、鼓動が早くなる。
鬼神の存在を意識すればするほど、頭痛と無いはずの眼球の痛みが酷くなる。
スバン国王は頭を振りながら、玉座に座る鬼神を見つめ返す。
戦場を縦横無尽に走り、鬼神の如く屍を山を築いたあの女王はいま目の前に座っている。
奥歯を噛みしめ、苦痛に呻きながらトラウマの元凶である鬼神を見つめ返した。




