17:帰還兵は再就職先に悩む
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「……思い浮かばないんだよなあ」
これまでの回想から現在に戻り、昼下がりの公園で、手帳を開いて座るシャフトが呟く。
「僕……ずっと、決められたことばかり、やってたからなあ……」
生まれた時にはもう、長い長い戦争の最中にあった時代。
人が、個としての生き方より、国の資源であることを優先されていた時代。
シャフトには、選べる未来などなかった。“こうしなければならない”は“こうすればいい”と同義であって、諦めは即ち、悩まずともよいという意味に通ずる。それは確かに、ある意味では楽であったのだとも思う。
——目の前に、親子連れが通り過ぎていく。
あの子供は、将来何になるものか。
それを選べるのは、同じ自由でも、最初から自由であるからだ。シャフトの頭には【自分は生き方を選ぶのを諦めた】という選択が詰まっていて、それが今更の解放に当惑している。
レイチェルから聞いた。
シャフトの尊敬する隊長は……目を覚ました彼に、かつてのしがらみから脱してほしがっていたという。
徴兵された帝国軍人でなく、任務として何事も強いられない、新しい生を好きにやり直すのだ、と。
「……まったく、レキーナ。君が難題を振ってくるのは毎度のことだけどさ、最後の最後に、とんでもないのを残すじゃんか」
皮肉なものだ。どれだけ未来にやってきても、自分が自分である以上、結局これからを左右するのは、置いてきたはずの過去の記憶で——
『はっ! 贅沢な悩みだな! 諸君、いつからそんなに頭が悪くなったのだ!?』
円柱の頭に自嘲が浮かんだ時。
ふと、その過去の記憶から、敬愛する隊長の言葉が思い出された。
『何が本当に正しき結果に繋がるかなど、我らにわかろうものか! そんな枷に囚われている暇があったなら、その鎖ごと抱えて走れ! やってやってやり切った先、迷いながらも駆けたなら……もう、それを抱きしめる他なかろうさ!』
それは、根拠なんてまるで無い……いや、必要としなかったもの。
神の保証がなかろうと、皇帝の許可がなかろうと。彼が、彼らが、正しいと信じたいと思った、少女の声。
「……あーあ。こんな弱気、君に見られたら——どんなに面白がられるか、だ」
足に力を込めて、立ち上がる。
単純なもので、たったそれだけのことで……自分は何処にも縛られてなどいないのだと、何処へだって歩いて行けると、実感する。
「そうだ。何処かへ行こう。今の此処に無くたって、探せばいいんだ。立ち止まったまま悩むより、腕でも頭でも動かしてれば、うん、きっとそのうち、いくらでも——」
やりたいことが見つかるはずだと、シャフトは決意を新たに一歩目を——。
——踏み出した、その瞬間である。
「っへ、ヘーイ! ヘイヘイヘイヘーイ、そこのひと! 円くて長くてクールなアナタっ!」
最後の形容詞のおかげで、「これひょっとして僕のこと?」とぎりぎり思えた。
ひどく慌てた声に引かれて円柱が回った先は、公園の茂みだった。
……公園の茂みから顔を出し、こっちを見ている不審者がいた。
「ああっ、えー、その、勘違いしないでください。わたし、怪しいものではございませんで。そのですね、いきなりお声をかけさせていただいたのは、あい、あいたたっ、ぬっ、ぅうう、この、こっちをこうで、こうしたら……んきゅぁっ!?」
諸々を茂みに擦られ、挙句強引に引っかかりを外した勢いですっ転び尻を打った人物は、女性で、大柄で、ウェーブのかかった桃色の髪で、大変豊満なスタイルで、眼鏡をかけていて、背の枝に空色の衣をかけていた。
「だ、大丈夫ですか」
いきなりの散々な様に、シャフトが近寄り、手を差し伸べる。
……そこに置かれたのは、女性の手ではなく、長方形の紙片だった。
「私、竜殻奇譚編集部の記者、ペンタ・パルナと申します」
名刺を手渡してきた女性……ペンタは、転んだ拍子にズレた眼鏡を直しながら言う。
「あなたのような方を探していました。一緒にお仕事しませんか?」




