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15:今日の円柱さん(公園で レポートしてるよ かわいいね)

     (2)


 夕焼けに決意を燃やす名物ガイド。

 ……その様子は置いておいて、時間を少し遡り場所を変えよう。

 青空昼下がりの自然公園、池を周る遊歩道のベンチに、突飛なものが座っている。


 服装自体は何の変哲もない。春先に合わせた普段着で、上にコートを羽織っている。背の部分に枝を通す切れ込みが入っていないので、精錬人——融和以来、羽衣人からの視点として、製造の発展を遂げた銀鉄帝国側の人間はそのように呼ばれはじめた——であることがわかる。

 問題は、その頭だ。


 胴体に直接()()と、物々しい円柱が乗っかっている。

 何かのキネマの撮影か、どこぞの魔法使いの悪戯ドッキリか。通りがかりの人も思わず二度見で、子供なんかは平気で指差し「ママーなにあれー!」と叫んだりする。

 そんな周囲を尻目に、本人は堂々としたものだ。子供に手を振り返し、足元に寄ってきた犬を撫で、飼い主と会釈を交わしたりする。


 そういうのが、あんまりに普通だから。

 外見はともあれ、おかしなものでも物騒なものでもないと、人々は受け入れる。彼の存在を、街の風景の一部として、当たり前に通り過ぎる。


 こういう土壌ができているのが、この街だ。

 二つの種族の交わった百年により、技術文明のみならず【他の異を認める】文化的先進性が発展したのが……創立の母が築いた、融和を冠する都市、ホロハニエである。


 その一角の、何気無い休日に。

 つい最近、遠い過去の戦場から生還した元兵士……むかしは童顔、今は円柱の頭を持つ青年、シャフト・エーギリーは混じっていた。 


「少しは、埋まってきたかな——現代いまのこと、この街のこと」


 満足そうに頷く彼は、真新しくも使い込まれた手帳を開き、読み返している。


「丁寧で、よくわかった。若いのにベテランで、格好良かったなあ、あのガイドさん」


 ホロハニエに来て、十日間。

 五体を投じて浴びた現代の有様、過去の人間である彼との間にある空隙ギャップを満たす為のインプットからアウトプットされた文と絵(レポート)が、手帳には所狭しと踊っていた。


 情報の収集。事実の編纂。記録の咀嚼。状況を把握し理解してから判断する。

 これは、彼がまだ王冠の一部であった頃、不可思議現象の相次ぐ竜殻戦場で生き残るために培った心得であり、今も変わらない行動手順(ルーチン)だった。


「そろそろ、決められそうかな。僕が……一体、これから、何者になるのか」


 ペンの尻で紙面を叩き、心中に思い浮かべる。

 それは、今のシャフトがここに居られる理由であり事情であり、その周囲を回らせてもらっている、離れられない軸のことで——。


        ■■■


「あ、ちなみに心配しないでいいよ。オジサンの生活は、ぜーんぶ私が整えっから」


 シャフトが、百年の時間を飛び越えて目覚めたあの日。

【栄光の王冠】部隊長第十三皇女レキーナの子孫——十六歳という年齢以上に大人びた、切れ長の目と高い背の銀髪少女レイチェルは胸を叩いて宣言し、それは果たして真実であった。


 彼女が再び操縦を始めた銀巨人はまず、広大な都市を囲む壁に至る。シークレット&イリーガル経緯で現代に目覚めたシャフトは身分も姿も怪しさ満点、おいそれとはどんな場所にも入れない不審者なのだが……しかし、そんな影の要素より、彼女の威光が強かった。

 銀巨人を目にした年若き門番は、全幅の信頼を声と動作で表していた。


「これはこれは! お疲れ様です、ミッセ部長殿! 本日も特務ですか?」

「ああ。そちらを終えて、今、客人と帰還したところさ。大関門を開けてもらえるか?」


 円柱頭の同行者、こうしてチェックを見事スルー。

 関門を越えると、そこで彼女は「回収班の手配を頼む。輸送先は第三整備部で」と銀巨人を降りた。どうやら、市街地での運用を推奨されていないらしい。人々の生活域から離れた場所で活動する際に用いられる装備なのだろう。


 あれだけの図体だ、内部には武装も積んでいるに違いない。整備するところとか、スケッチしたいなあ——とシャフトが考えていたあたりで呼びつけられた。

 危険な市街活動のための乗機から、市内を行く為の足……車へと乗り換える。

 扉を閉めて二人きりの車内になった途端、レイチェルの表情と態度が、柔和に崩れた。


「快適な旅の第二部スタート。今度も安全運転で……ただし、今度はかっ飛ばしてこー」


 車については、百年前の兵士とて知っている。

 鉄道網は銀鉄帝国最大の発明の一つで、それをもって大帝国へのし上がったとさえ言える。生き物に引かせることなく、生き物を超えた速度で地を走る移動と運搬の担い手は、人が錬鉄で為し得た偉業の筆頭と彼は深く認識している。


 だからこそ呆気に取られた。

 その車は、彼の古い常識を、肌に感じる風で置き去りにして刷新した。爽快と恐怖の渾然となった感覚になぶられ、口なき頭で「あああああああああ!?」と絶叫するシャフトをレイチェルは楽しそうに横目で見る。


「いいっしょ? あんな軽トラ荷台での雑な輸送を、車に乗る感覚の基準にされたくなかったからさー。これが本物のドライブね」


 ハイウェイをかっ飛ばした終点は、天にも届く柱のような建物だった。

 乗車したまま内部に乗り入れ、床に描かれた円の上に駐車する。促されて降りると、円部分の床が降下していく。成程、駐車と保管を兼ねている。


『お帰りなさいませ、ミッセ様』


 突然の声に、シャフトは反射的に、携行もしていない腰の拳銃を抜く仕草をしてしまった。

 周囲を見渡すが、やはりここには自分たち二人以外の姿はない。

 では今の女性の声は? ……危険と警戒を促すように見ると、レイチェルが口元を抑えて笑っていた。



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