14:何者いかにも円柱さん
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「ひゃわ!?」
ホロハニエ観光協会第四広報課、通称【ガイド部】の片隅にて、今年入社の新卒羽衣人が驚いた。
ある席の机にうずたかく積まれた資料、所狭しと広げられた古新聞。広大にして深淵な記録の海に全身で飛び込んでいるのは誰あろう、
「……テッピ先輩?」
呼ばれた相手が顔をあげた。
瞬間、新人の身体が勝手に「すわ戦闘か」と反応し、羽衣を枝から浮かせかけてしまう。
ガイド部ならず協会の、いやホロハニエ全体でも、いやいや共和国領や羽衣域まで知られる才色兼備有名人の面相に浮かぶものときたら、都市転覆を企む回帰主義のテロリストを追う警備局もかくやな、それは切実なる【追跡】の感情だったのだ。
「————————————————ああ、モチュケちゃん。おつかれさま」
にこり微笑む名ガイド。
それはモチュケがこの業界に憧れたきっかけで、今日も今日とて魅力溢れる代物だが、一秒前のインパクトがかき消せない。
「どうなされたんですか? 何か、調べ物ですか? 今回のお客さんに質問されて、わからないことでもありました? なーんて、そんなの先輩に限って」
「そうそう。そうなの。聞いてくれる、モチュケちゃん。あのね」
憧れの先輩が食い気味に語り出す。
今日のガイドに混じっていた、変わった客のこと。
どんな観光客より……それこそ、時間を飛び越えてきたのかというくらい、ホロハニエの何もかもを珍しがっていた、円柱頭の男性について。
「円柱さん……ああ、これって勝手に、心の中で呼んでたんだけど。あの人、本当に凄く良いお客様でね。とても熱心に聞いてくれて、他のお客様も盛り上げてくれて」
先輩はにこにこ語る。ガイドに限らず、コミュニケーションはキャッチボールだ。受け手が乗り気で返球してくれれば、やり取りはスムーズに心地よく運ばれる。
実に羨ましい。そんな人がいてくれれば、その回のガイドはさぞかしいい感触の、
「だから、ぶっ倒さなくちゃ、なのね」
いきなり雲行きが怪しくなった。
ファリロが早口で続けたことによれば、どうやらその“円柱さん”とやらが、まったく只者ではなかった。
朝のガイドツアーの大トリな定番、ザンドラシヤ記念館に訪れて、過去の遺物……ここがホロハニエとなる前、戦場であったころの品々を見た瞬間。
力関係が、唐突にひっくり返った。
「つい言っちゃった、みたいな一言だったの。当時の革命で工場も壊されて資料も散逸しちゃって、ろくに情報も残っていない旧帝国の道具が展示されてたんだけど。『うわ、今これこんなふうに言われてるの?』って呟いてたのを聞いて、それってどういう意味ですか、って尋ねたら、『いや、これ、当時の帝国軍では使い捨ての弁当箱だった筒ですよ』って」
「……口から出まかせ、とかじゃなくて?」
「違うんだよそれが! 確かにね、証拠とかはないよ? あったらそんなふうに扱われてないもん。でもね、聞いたらそうとしか思えないし、ほらこれ!」
ばっ、とテッピが示したのは、変色も激しい、旧帝国時代発行の新聞である。資料棚の相当奥にあったのだろう、モチュケは見たこともなかったものだ。
「見てここ! 戦場に力を届ける画期的な兵站輸送器開発に成功って!」
発行の日付を見れば、それは帝国が激しく揺れるクーデターの発生の直前だ。件の筒弁当は前線に出された期間も短く、それゆえに情報も残っていなかったのだろう。
「他にも他にも、円柱さんが言ったことがあったの! 旧帝国の遺物とか、帯持ちが戦争に用いていたまじないの道具とかについて! そういうのを調べてたら、確かに、それと合致する記述がいくつも見つかって……!」
勤勉なるガイドに、記録の見落としはない。
ただ、その記録には、断絶したディテールがあっただけ。文字や写真からでは伝わらない、後世に残っていない、その時代で生まれて消えた、記憶にしか留まらないような情報があっただけ。
それを、彼は保有していた。
まるで、その時代を過ごしたみたいに。
「……何者ですか。その、円柱さんって人」
「わっかんない! 最高っ!」
インタビューで見せる外面では、成熟した大人そのものの顔も自在に操るアイドルみたいな名物ガイドが、童心を露わに笑った。
大人社会では滅多に見せない・この仕事では機会もない、相手に対する戦意を剥き出しにした……すなわち、子供が喧嘩に挑む時の顔だった。
「私なんてまだまだだなあ! 今度どこかで逢えたら、絶対聞くんだ! 銀帯戦争の、まるで当時を現地で見てきたような知識、どうやって学んだんですか、って!」
ギラついた目からして、到底和やかでもそれだけでも終わるまい。
モチュケは、部署でも負けず嫌いで知られる先輩のガイド魂に火をつけた謎の人物について、羨ましさと同情とを同時に覚えた。
【ロストヘッドの再生】をお読みくださり、ありがとうございます!
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