第878話 エメラルドの邂逅
*
それは昔、私が初めて〝大都市エルクステン〟を訪れたばかりの話だ。
最愛のリョク兄さんを失い──〝シルフディート〟に、人生に、運命に絶望していたあの頃の私の記憶の物語。
*
──10年前。
冒険者パーティー〝吟遊詩人〟の皆と別れた後、私は一人、都市を歩く。
(ひ、人が多い……)
田舎育ちの私に取っては都会は賑やかすぎる。
目が回って来た。少し大通りから離れよう。
少し暗い路地裏の大きなバケツの上に私はションぼりと、しゃがみこむ。
「……」
「……」
「……」
一秒、一秒が、やけに長く感じる。
……リョク兄さん……私……もうダメかも……
ツーっと、私の瞳から涙が流れる。
落ち着け私。泣いていても良いことなんてない。泣き止め、泣き止め、泣き止め!
だけど、私の思いとは裏腹に涙はどんどん溢れてくる。
「……ひぐっ……うぅ……うわぁ……ぐすっ……」
……兄さん……兄さん……兄さん……兄さん……
(……──側に居てよ……)
生まれてから、ずっと隣に居てくれた兄さん。
おはよう。と、毎朝笑ってくれた。
泣いてる時はそっと涙を拭ってくれた。
お腹が空いたらごはんを食べさせてくれた。
辛い時は抱き締めてくれた。
寒い夜は手を握ってくれた。
風邪を引いた時は朝まで看病してくれた。
朝から夜まで畑で私の為に働いてくれた。
……くれた。
…………くれた。
………………くれた。
──
────
私の、大好きな、大好きな、大切な兄さん。
……兄さんを殺した。最高貴族。バルス・ハンジ。
絶対に、絶対に許さない!
いつか必ず──殺してやる。兄さんの仇だ!
*
どれだけ、そこにいただろう。
もう辺りは日が沈んできた。
お腹も空いてきた。
でも、持ってるお金は使えない。
兄さんがくれた大切なお金だ。
護衛依頼で少し使ってしまったけど……
私は兄さんから貰った最後の贈り物を、使い果たすのが嫌だった。
お金は使うものなのに、でも私はこのお金は使わずに大切に持っていたかった。
……もう寝てしまおう。
疲れた。
今なら空腹も忘れ泥のように寝れそうだ。
せめて、夢の中で兄さんに会えますように。
そう思いながら、私はそっと──
路地裏、大きなバケツの上で目を閉じた。
*
数時間後。ポツポツと、頭に冷たい水が当たる感触と共に、私は目を覚ます。
「……んっ……雨……」
……冷たい。
折角寝れたのに。
……夢でも、兄さんと会えなかったな。
ザーっと、雨が強くなる。
気づけば私もビショビショだ。
でも、そんなことはどうでもよかった。
寧ろ、涙を雨で隠せてラッキーなくらいだ。
……寒い。
すると、雨がスッと止む。
いや、違う……これは傘?
「──どうしたの? 大丈夫?」
一人の小さな女の子の声が私の耳に響いた。
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