第53話 大事な話 オレが決断しなきゃいけないこと(ソフトバージョン) 初出09.3.30
「ユウ大丈夫なの?」
「・・うん・・ごめんね・・急に来てもらって・・・」
オレは結局、博多駅からひとりで帰ることが出来ず、レナに助けを求めてしまったのだ・・・でもレナも天神にいたとかで、すぐに来てくれて助かった・・・
今は天神へ向う地下鉄の中・・・
「それはいいんだけど、なんか泣きそうな声で電話してくるからビックリしたじゃない。」
「・・うん・・・」
「なんで一人で博多駅なんか行ったのよ。」
「・・ひとりじゃないょ・・・兄さんを送って行ったんだ・・・」
「え? お兄さんって、有友さんのこと?」
「うん。」
「有友さん帰ってたんだぁ・・会いたかったなぁ・・・」
「え? なんで?」
「だって、有友さんってちょっとカッコイイじゃない?」
「・・・・!」
レナが兄さんのことそんな風に思ってたなんて知らなかった・・・
「・・そうなの? だったら言えば良かったね・・・お盆の間帰ってきてたんだ・・・」
でもほとんど時間がなかったから、レナと会ってる時間なんてなかったと思う・・・それにレナと会ってたらオレたちとの時間がなくなっちゃう・・・!・・・オレってなんてイヤなやつなんだろう・・・レナはこうしてオレを助けに来てくれたのに、オレはレナに兄さんが来てること言わなくて良かったと思うなんて・・・オレはもっと優しい女の子になりたいのに・・・
「そういえばさあ、ユウ“NANA”読んだの?」
「あ・・うん・・・読んだけど・・・」
「どうだった? キュンとした?」
「・・う・・うん・・ちょっと・・・」
たしかにオレはハチには感情移入してしまったけど・・・作品自体にキュンときたかどうかは良くわからない・・・
「ちょっとなの? ユウどこまで読んだ?」
「えっと・・・6巻かな・・・」
「え?! まだ6巻なの?」
「・・だ・・だって・・・わたしにはちょっと強すぎるっていうか・・・あんなの読んだら女の子になるのが怖くなっちゃうょ・・・」
「・・だめだなぁ、ユウは。 まだまだ女の子じゃないんだね。」
「・・・・・」
「だって女の子なら絶対キュンとくるハズだもん。」
「・・・そうなの?」
「そうよ! “NANA”読んでキュンとこない女の子なんていないよ!」
そりゃぁ、レナみたいなコならそうかもしれないけど・・・高校生の女の子がみんなレナみたいなワケじゃないのに・・・
「ユウいまお金持ってる?」
「・・うん・・そんなにたくさんじゃないけど・・・」
「じゃぁ帰りに天神で続きを買って行こうよ。」
「・・う・・うん・・・」
まさかわざわざ来てもらったのに、イヤだなんて言いにくい・・・お金持ってないって言えばよかったかな・・・
オレたちは天神に着くと福ビルから地下に入って、天神コアの地下にある福家書店に行って“NANA”の10巻まで買った。レナにはもっと買えと言われたけど、オレはとりあえずここまででいいと言い張った。かあさんにあずかってるお金だし、あんまりたくさん使うのもどうかと思う・・使っていいとは言われてたけど・・・マンガ買っていいかどうかは良くわからないし・・・
「そうだ! ユウこんどの金曜日ヒマ?」
「金曜日?・・22日だっけ・・・」
こんど白石先生のところに行くのは19日だし・・・・お盆で兄さんが帰ってくるから1週間とばしてもらったから、こんどの火曜は絶対いかなきゃいけない・・まさかその間に兄さんが先生と会ってたなんて思わなかったけど・・それに兄さんは先生から大事な話があるって言ってた・・・
「22日なら大丈夫だと思うけど・・・」
「じゃぁ、22日に決定ね。」
「え? な・・なにが?」
「海の中道に行くのよ。ユウは花火の時のお詫びがしたいって言ってたじゃない。」
べつに“したい”とは言ってないと思うけど・・・でもたしかに“する”とは言った・・・
「・・・海の中道でなにするの・・・?」
海の中道〈うみのなかみち〉といえば博多湾を囲むように突き出ている細長いところだ・・・その先の志賀島〈しかのしま〉とはあとほんの少しのところで途切れていて橋で渡れるようになっている。
「まあ・・マリンワールドとか・・行こうかと思って。」
「マリンワールド?!」
マリンワールドは海の中道にある水族館だ。イルカのショーとか見ることが出来る。ラッコもいたんだったっけ・・・マリンワールドで遊ぶんだったらお詫びどころか、こっちからお願いしたいくらいだ。やっぱりレナは怒ってなかったんだと知って嬉かった・・・お詫びになんて言いながら、こんな楽しい提案してくれるなんて!
「ありがとうレナ、わたしマリンワールド行きたかったんだぁ!」
「そうなの?それは良かった。きっと楽しくなるよ!」
そう言って楽しそうに笑った・・・オレはレナの笑顔の意味なんて考えもしなかった・・・
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「・・お・・おはようございます・・・」
オレは保健室のドアをそっと開けて中に入った・・・なんか大事な話なんて言われると身構えてしまう・・・
「おはよう有希ちゃん。待ってたわよ。」
「先生・・兄さんと会ったんでしょう?」
「ええ、お兄さんから何か聞いた?」
「い・・いえ・・・先生から大事な話があるとだけ・・・」
「そう・・・」
なんか先生も言いにくそうだ・・・その大事な話っていうのを、兄さんがオレにしてたら良かったと思っていたのかもしれない・・・でも・・それじゃ・・そんなに重大なことなの・・・?
白石先生はしばらく何か考えていたけど、意を決したように話しはじめた・・・
「あのね、有希ちゃんに使ってる女性ホルモンのことなんだけど・・・」
「・・はい・・・」
「今は有希ちゃんの身体には男性ホルモンもたくさんあるから、それを打ち消すくらいの女性ホルモンを投与しているの。」
「・・・・・」
「でも、それは身体にとっては危険なことでもあるの。薬を大量に投与すると肝臓や腎臓に負担をかけてしまうし、それに、女性ホルモンの投与自体が肝臓の機能を低下させる副作用があるとも言われてる。血栓症や肺塞栓の危険もあるの。今のところ血液検査の結果は、有希ちゃんはまだそういうことは心配ないんだけど、もし肝機能に変化が現れたらホルモンの投与を中止しなくちゃいならなくなるかも知れないの。」
「・・・・!」
オレは女性ホルモンを打ってるからこんなに女の子の身体に近づいている・・・もし止めてしまったら、また元の男に戻るのだろうか・・・
「・・先生・・・わたしどうしたら良いんですか?」
オレはいまさら男には戻りたくない・・・いや・・完全に戻れるのならまた話は別だが、いま女性ホルモンを止めたとしても、もはや完全な男には戻れないと思う・・・
「有希ちゃんの身体は今でも男性ホルモンを作り続けているの。だからちょっとした手術をしたほうが良いと思うのよ」
「その手術って・・簡単なんですか?」
「そうね、部分麻酔だし、手術のうちではごく簡単な方かしらね。」
「・・します・・・」
「ん?」
「手術します。」
「いや、まだ決めなくていいのよ。今日は話しただけだから。家に帰ってご両親とも相談しないと・・・」
「もちろん相談しますけど、わたしは手術すると思います・・・だって・・もうわたしには・・必要ないですから・・・」
もう必要ないのに・・男性ホルモンは出し続けているのでは、たまったもんじゃない・・・
「お兄さんが言った通りね。」
「・・なにがですか?」
「有希ちゃんは自分で決断できるコだって言ってたから。」
「・・・兄さんが・・そんなこと・・・?」
オレは兄さんがそういう風に見てくれてると知って嬉しかった・・・でも、その後のことで評価が変わってないと良いけど・・・オレは兄さんに、ずいぶんダメなところを見せてしまった気がする・・・
「お兄さんと、どうだった? 楽しかった?」
「・・・はい・・・」
先生は兄さんに何か聞いたのだろうか・・・
「お兄さんって優しそうな人じゃない。有希ちゃんはお兄さんみたいな人がタイプなんでしょう?」
「え?・・そんなこと・・・」
何で先生わかるんだろう・・・オレが兄さんを好きなこと・・・
「だってどことなく山上くんに似てるじゃない。」
・・・そうか・・・先生もそう思っただけなんだ・・・まさかオレが本当に兄さんのことが好きで・・・キスまでしてもらったなんて・・・そんなことわかるハズないもん・・・
「そ・・そんなに似てないですよ・・・少ししか・・・」
「でもお兄さんのこと好きなんでしょう?」
「・・はい・・・それは・・兄妹ですから・・・」
兄弟としてではなく、兄妹としてなのはオレだけの秘密だ・・・
「手術をするとして、本当はもっと早く言っておけば、夏休みの間に手術出来たんだけど、今からじゃ二学期に入ってからになっちゃうみたいなの。」
そうか・・・それじゃ学校を休まなきゃいけないのか・・・オレはあまり休みたくないけど・・・
「それで思ったんだけど、有希ちゃんは体育祭は出たい?」
「体育祭?」
うちの学校は夏休みが終ったらすぐに体育祭の準備が始まるらしいのは聞いていた。たしかオレたちは一年生と三年生の時が体育祭で、二年生の時が学園祭だという話だった・・・オレは学園祭が2回の方が良かったが、こればかりは入学した年の巡り合わせなのでどうにもならない・・・
「体育祭がどうしたんですか?」
「有希ちゃんが体育祭やりたいんだったらアレだけど、もし出なくてもいいんだったら、その間に手術したらどうかと思ったのよ。それなら勉強にも影響が少ないでしょうし。」
「!」
それはオレにとっても好都合だ・・・オレは体育祭にはあまり乗り気じゃない・・・オレはもともと体育はそんなに得意じゃなかったけど、女の子になってからはまったく苦手になっていた・・・最初のころはなぜだかわからなかったけど、最近ではそれが女性ホルモンによって筋肉が少なくなってしまったせいらしいと気付いていた・・・筋肉が少なくなったのに以前を同じように動こうとするから、すぐにコケてしまったりするのだ・・・近頃ではドジっコみたいなイメージまで付きはじめている・・・これじゃぁ、男だからスポーツは頑張らないようにと気を使っていたのがバカみたいだ・・・今じゃ頑張ってもなかなか女の子にさえかなわないシマツだ・・・女の子になったんだから良いようなものの、元は男のオレとしては何とも情けない話だ・・・
「わたし、体育祭は出なくてもいいです・・・あまり得意じゃないから・・・」
「そう? それじゃその方向で考えましょう。」
「・・はい・・・」
でもオレ・・かあさんやとうさんに何て言おう・・・手術するなんて・・・
・・でも言うしかないんだ・・・
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その日、かあさんが帰ってくると、とうさんも来てもらってふたりの部屋で話をした。麻衣にはまだ言わないつもりだ・・・こんな話、中学生の女の子には聞かせられない・・・
「そうか・・おれは別に反対する理由はないと思うが・・かあさんはどうだ?」
「わたしも有希が決断したのなら、その気持ちは尊重したいと思うけど・・こればかりは女のわたしには良くわからないわ。」
そうか・・・たしかにかあさんには男のことは良くわからないだろうな・・・
「そんなに大変な手術じゃないらしいんだ・・・入院しなくてもいいくらいらしいよ・・・」
なんかオレ・・手術したがってるように見えるかな・・・べつにオレは手術をしたいワケじゃない・・・オレはアソコを女の子みたいにしたいとは思っていない・・・だけど副作用とかあるのなら・・どうせ有っても仕方がないのだから取っちゃった方がいいかな・・・と思ってるだけだ・・・
「とうさん・・・手術してもいい?」
「ああ、おれは構わんよ。もうお前は女なんだから好きなようにすればいい。」
そうはっきり言われると、ちょっと複雑な気持ちだ・・・突き放されたみたいな気もするけど・・・でも、これはとうさん流にオレのことを信頼してくれてるんだと思う・・・
「じゃぁ、こんど白石先生に言うね・・・手術するって・・・」
オレは正直、少しは反対されるかと思っていたから、賛成してくれてホッとした・・・ちょっと拍子抜けしたくらいだ・・・でもふたりがオレが女の子になることを認めてくれてると再確認できたような気がして嬉しくなった・・・
「どうしたんだ? 有希・・」
嬉しさに涙ぐむオレにとうさんが言った・・・オレ、悲しくて泣いてるように思われちゃったかな・・・
「・・うぅっ・・とうさんと・・かあさんが・・・わたしを信頼してくれてるのが・・嬉しくて・・・」
「なに言ってるの。わたしたちはいつも有希のこと信頼してるわよ。まあ、勉強に関しては少し心配だけどね。」
「・・うっ・・うん・・・」
そりゃそうだ・・・オレ・・女の子になるだけじゃなくて・・もっと勉強も頑張らなきゃいけない・・・だって、せっかく女の子になっても・・バカな女の子じゃ悲しい・・・
「わたし・・いろいろ頑張るから・・・頑張って素敵な女の子になるから・・・・」
本当にそうなれるかどうかはオレにもわからない・・・でも・・それくらいの気持ちは持ってもいいんじゃないかと思った・・・
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注意
ソフトバージョンではこの回はバッサリとカットすることも考えましたが、その後のことにも影響するので、何らかの手術はすることにしました。ただし細かな説明はしないつもりです。
この回ではソフト化のため肝心なことを書いてないので、白石先生が適当な説明しかしてないように感じるかも知れませんが、実際にはちゃんと話しています。
また、現実には未成年に対して何らかの手術をすることは一般的にはありません。
2026.9.6 追記
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おまけ「ドラマ化を妄想してみる」
もし評価・感想のところを読んでくれてる人なら知ってるかもしれませんが(誰もが見れるところなので、どうしても書いている者としては、みんな読んでいるような気持ちになってしまうのですが、普通ああいうところは書込んだ人以外はそんなに読まないのではないかという気がします)この話では有希の顔の特徴などはわざと書かないようにしています。というか私自身、有希の顔を想像しないようにして書いています。
その理由としては、文章で人物の顔を表す場合、顔の輪郭、目鼻立ち、その他のパーツをいくら事細かに書いてみても、作者の頭の中にある顔を読者に伝えるのは不可能だと思うからです。簡単に伝える方法としては「芸能人の誰々に似ている」「誰と誰を足して2で割ったような」というようなのがありますが、それではその芸能人のイメージに引っ張られてしまいます。また細かな点を書けば書くほど読者のイメージを限定する結果になりかねません。
評価のところで「重要な人物は一人一人直ぐに外見の説明を入れるべき」とのご指摘を受けたこともあります。私もその方が親切だとは思うのですが、実際に有希の顔は説明のしようがないのです。そもそも男のころはちゃんと男に見えたのに、女になるとそこらの女の子よりも可愛いなんてありえません(笑)でも、もともと女の子によく間違えられるようなコだったというような設定にはしたくなかったのです。
こういうことが出来るのは文章だけだからであって、マンガなどでは見た目はまったく女の子にするしか方法がないので、たいてい自分のことをボクとかオレとか呼ばせることで読者に男であることを常に意識させなければなりません。
まあ、そいう事なので、ドラマにした時の主人公といっても、それが私が考える有希のイメージというワケではなく、あくまで元が男の子だったという感じが出せる人ということですのでお間違えなく。
この話が、例えばカツラを被って女になりすまし、時々男に戻るというような話であれば、多少無理はあっても男の子の役者を使いたいところなのですが(最近は女装男子もいますし・・・)この「オレは女子高生」の場合女の子になってからは、なりっぱなしなので、無理に男の役者を使う意味はあまりないと思う。
今の日本の女優で、元は男の子だったというような役が出来そうなのは「相武沙季」以外にはいない気がする。演技はそんなに上手くはないけど、こういう役は“それらしさ”が一番重要なので。
それにたどたどしい演技はあんがい有希っぽいかもしれない(笑)水泳をやってたらしいので体つきもしっかりしているし、こういう話の主人公としては少し高めに設定した163cmという身長も、「相武沙季」は165cmと有希より高いくらいで頼もしい(笑)男の子の時代は実際の男の子の体を使い、カット割りでそれっぽく見せたい。ただ、だんだん女の子に近づくのは難しいかも知れない。いや、それ以前に女の子の胸はテレビじゃ映せないかな?いっそそういうのは見せずにやっても良いのでは?
「相武沙季」を使う場合、一番問題なのは年齢、どう考えても高校生役をやるには今がギリギリ限界だろう・・・
とまあ、こんな勝手な妄想をしているATですが(笑)みなさんはどんなふうに妄想しているのでしょうか?そんな話も聞かせていただけると嬉しいです。
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これまでのおまけの場所
36話 制作おぼえがき 08.6.21
40話 『オレは女子高生』の世界 人物、舞台設定など
45話 架空の西鉄大牟田線案内
49話 名前について




