第52話 別れ 兄さんが帰っちゃう 初出09.3.28
「ど、どうしたの? お姉ちゃん!」
準備を終えてリビングに降りてきたオレを見て麻衣が驚いたように言った。
「ど・・どうもしてないけど・・・」
オレはしらじらしくシラを切ったが、麻衣がそう言うのは無理もないことだ。
いつものオレは、お出かけの時はたいてい可愛い服を選びがちだ・・・女の子らしい服を着るのは今でも恥ずかしいけど、男だとバレたくないという気持ちがどうしてもそういう方向に行ってしまう・・・似合ってないのは重々承知しているけど、男だとバレるよりはずっとマシだ・・・
でも今日のオレの恰好は、Tシャツにジーンズ、そして長くなった髪はピンでまとめて野球帽の中に隠していた・・・そう・・今日のオレは男の子のような恰好なのだ。ブラもあまり胸を強調しないスポーツブラを着けている・・・なんか長谷川みたいな恰好だ・・・
久しぶりに男の子のような恰好をしてみると、かえって恥ずかしい気がするから不思議だ・・・お化粧をしてないのもなんだか頼りない・・・一度お化粧をしてしまうと、すっぴんだと裸になったみたいな気持ちになるなんて知らなかった・・・学校とかでは平気なのに・・いつもならお化粧をして行くようなところに化粧をせずに行くのは恥ずかしいなんて・・・人間の感覚って不思議だ・・・
今日オレがこんな男の子みたいな恰好をしたのには訳がある。オレは今日一日男の子で過ごすことにしたのだ。せっかく兄さんがスペースワールドに連れて行ってくれるというのに、オレときたら兄さんとデートするような気持ちになったり、麻衣が一緒に行くのを邪魔に思ったり・・・オレはそんな気持ちで行きたくなかった。だってそんな気持ちで行っても、ぜんぜん楽しめそうにない・・・兄さんがいるのは今日までなのに・・・明日はもう兄さんは大学に帰ってしまうのに・・・・だから今日は昔のように男の子として・・兄さんと男どうしの兄弟として遊ぶことにしたのだ。
ただ、こうして男の子の恰好をしてみると、ちょっと困ったこともあった・・・男の子の恰好をしているのに、どうしても女っぽさが出てしまうのだ・・・Tシャツを着るとヘンに胸が強調されてしまうし、ジーンズも女性物のせいか妙に女っぽいシルエットになってしまうのだった・・・だからスポーツブラで出来るだけ胸を目立たなくして、少し大きめのTシャツで何とか女っぽさが出てしまう腰を隠していた。
それでも半袖から出た腕や、首まわりなど、いつの間にか筋肉が落ちてしまったせいか、すっかり男っぽさがなくなってしまっていることに改めて気付くシマツだ・・・どうりでホットパンツから出た足に女っぽさを感じたハズだ・・・何とも情けない限りだ・・・
「お姉ちゃん、今日それで行くの?」
「・・うん・・そのつもりだけど・・・」
「そっか・・・まあいいや、その方が“お兄ちゃん”って呼びやすいかも。」
「な、なんかごめんね・・“お兄ちゃん”なんて呼ばせて・・・」
急に呼び方を変えるなんて麻衣もやりにくいに違いない・・・
「いいよ、お姉ちゃんは“お兄ちゃん”でもあるわけだし、あたしお姉ちゃんのそういう奥ゆかしいところ好きだし。」
「・・お・・奥ゆかしい・・・?」
麻衣は“奥ゆかしい”ってどういうことか知っているのだろうか? オレは奥ゆかしくなんかないと思う・・・
「あれ?兄さんは?」
「あ、さっきお母さんを会社まで送って行ったよ。もうすぐ帰ってくるんじゃないかなぁ。お母さんの車を使っていいってさ。」
それはオレとしては助かった。スペースワールドまでは電車と地下鉄とJRを乗り継がなきゃいけないから、オレは少し不安だったのだ。ずっとJRで行くこともできるけど、それも結構便が悪い・・・どちらにしても北九州の小倉まではけっこうかかる。
「良かったぁ・・・わたしちょっと不安だったのよ。」
「ふふっ・・“お兄ちゃん”女の子の言葉になってるよ。」
「え?!・・・そうだった?」
もうオレは女言葉でしゃべるのが普通なってしまったようで、ついつい麻衣としゃべっていると女言葉が出てしまう・・・
「“お兄ちゃん”無理しなくてもいいのに。もう“お兄ちゃん”は女の子なんだから。」
「うぅ・・・でも・・・」
オレはもう決めたのだ。今日一日はオレは男の子なのだ!
「オ・・オレ・・“お兄ちゃん”だから・・・」
なんか男の子の恰好をしたことで、逆に女の子になっている自分を認識してしまったようだ・・・昨日まで自然に“オレ”と言えていたのに急に恥ずかしさが込み上げてきた・・・
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ドアが開いて兄さんの声がした。
「有希、麻衣!行くぞ!」
「は、はい!」
オレたちは急いで靴を履いて外に出た。
「おっ!有希、今日はずいぶんスポーティーだな。」
「・・う・・うん・・・遊園地だしね・・・」
「そうか、絶叫マシンとか乗らなきゃいけないもんな。」
ヒ〜〜・・・絶叫マシン?
「オ・・オレは絶叫マシンはいいよ・・・」
「なんだ、有希は絶叫マシンが怖いのか?」
「え?!」
麻衣もいるのに・・・こんな男の子みたいな恰好をしてるのに・・・絶叫マシンが怖いなんて言えない・・・
「こ・・怖くなんかないけど・・・」
どうしよう・・・またチビッちゃったりしたら・・・一応・・多い日用のナプキンはしてるけど・・・
車で高速を小倉方面に向いながら、オレは兄さんに聞いてみた・・・
「兄さん・・兄さんは絶叫マシンとか好きなの?」
「ああ、特別好きって訳でもないけど、別に普通だと思うけどな。」
「普通・・・」
普通はああいうの平気なのだろうか・・・まあ、嫌いな人ばかりだったら遊園地も困るだろうけど・・・
「でも、あれだなぁ。有希はそういう恰好をしても十分女の子に見えるんだな。」
「え?!」
「あ!あたしも思った! “お兄ちゃん”ってもうどんな恰好をしても女の子に見えるんだなぁって。」
「そ・・そんな・・・」
オレは男の子で居ようとして、こんな恰好までしてるのに・・・それでも女の子に見えるなんて・・・ そりゃあ、ふだんなら女の子に見えるのはありがたいことなんだけど・・・なんだか複雑な気分だ・・・
「で・・でも・・今日は男の子として遊ぶんだ!そう決めたんだもん!!」
もう内心思ってるだけじゃダメだ・・・みんなちゃんとオレを男の子として扱ってくれなきゃ、オレどうしていいかわからないよ・・・
「そうなのか? わかったよ、それじゃ今日は有希は男の子だ。いっぱい絶叫マシンに乗ろうな!」
ううぅ・・・やっぱりそうなっちゃうのか・・・
「・・う・・うん・・た・・楽しみだなぁ・・・・」
なんかノドがカラカラになってきた・・・オレどうなっちゃうんだろう・・・
遠くにスペースワールドのシンボルにもなっているスペースシャトルが見えてきた。実物大のシャトルの模型はさすがに大きいようで、モニュメントのように遠くからでも良く見える。
男の子だったら・・・それにもう少し小さい頃だったら・・オレもそれを見てはしゃいだかもしれないが、さすがに今のオレはそこまでの気持ちにはなれなかった・・・出来ることなら、まだ男の子だった小学生のころに来たかった・・・あらためてオレの両親は、どこにも連れて行ってくれなかったのだと思う・・・
これがもし兄さんとふたりきりだったら・・・またそんな考えが頭をもたげてくる・・・
兄弟なのに・・兄さんと恋人どうしのようにいられたら・・・兄さんに女の子として甘えられたら・・・そんなバカみたいな考えが頭の中で膨らんでくる・・・
そんな気持ちにならないために今日はこんな男の子の恰好をしてきたというのに・・・オレってつくづくダメなヤツだ・・・恥ずかしいことにそんな妄想をしていたらブラの中の乳首がシコッてきてしまった・・・
「有希、気分でも悪いのか?」
「え? ううん・・・大丈夫だよ・・・」
顔が赤くなっていたのだろうか・・兄さんにそう聞かれてオレは慌てて否定した・・・
「み・・見て!スペ−スシャトルがあんなに大きく見えてきた!」
兄さんにオレがこんな気持ちでいることを悟られたくない・・・オレは昔から兄さんが好きだったけど、それは兄弟として兄さんに憧れていただけだ・・・恋人になりたかったワケじゃない・・・オレのこんな気持ちを知られたら・・兄さんに嫌われてしまうかもしれない・・・だってこんな弟・・・気持ち悪いに決まってる・・・
入場して下から見上げたスペースシャトルは、さすがにすっごく大きくてオレはすっかり圧倒されてしまった。ちょっと怖い気さえする・・・麻衣も同じ気持ちのようで自然にオレの手を握ってきた。
「すごいね麻衣、こんなにおっきいんだねぇ。」
スペースシャトルなんてテレビでしか見たことなかったけど、こんなに大きかったなんてビックリだ。模型とはいえ実物大だと迫力が違う・・・
「お兄ちゃん、見て!」
麻衣が指さした方を見てオレはゾッとした・・・
「フリーフォールだよ!あれ乗ろうよ!」
「え? 麻衣怖くないの?!」
「怖いけど、そこがいいんじゃない。」
「そ・・そっか・・・」
こういうのは怖さを楽しむものなのか・・・オレはそんなのちっとも楽しくないと思うんだけど・・・
オレたち3人はいきなりフリーフォールに乗ることになってしまった・・・こんな状況で怖いから乗らないなんてとても言えない・・・それに今日はオレは男の子・・・よけい怖がることなんかできない・・・
体をガッチリ固定されると絶望的な気持ちになる・・・麻衣も緊張はしてるみたいだが、そんなに怖がってはいない・・・兄さんは全然平気みたいだ・・・なんか兄さんって男らしい・・・こんな時なのに思わず見とれてしまうオレって何なんだろう・・・怖さとはまた別のドキドキが混ざっているような気がする・・・
だんだん上がって行く・・・徐々に視界が広くなって頂上に着いた時にはスペースワールド全体・・いや、もっと向こうの小倉城まで見えてきた・・・足場のしっかりしたところからの眺めだったら感動するかも知れないが、これから一気に落ちるのでは、とてもそんな気持ちにはなれない・・・
“ガタン”と音がして、オレたちが乗ってる部分が前に出た・・・ドキッとした一瞬の後、一気に下に落ちていく・・・・
(ヒィ〜〜〜〜〜)
声も出ない・・・体が浮き上がる感覚にゾッとする・・・オレはこの感覚が大嫌いなのだ・・・お尻がズンとしてキンタマが縮みあがっていく・・・こういう感覚はぜったい男の方が不利だと思う・・・
“ボワン”と空気の上にでも落ちたような感じで、少し弾むように止まった・・・たぶんあっという間だったのだろう・・・でもオレにはすごく長く感じた・・・股間は汗ばんではいるが、なんとかチビってはいないようでホッとした・・・
「お兄ちゃん!面白かったね、ふわっとしたよ!」
「・・う・・うん・・・」
オレは足がガクガクするのを隠すのに必死だ・・・
「こんどはどれに乗ろっか?」
ううぅ・・・勘弁してほしい・・・
「あ・・あんまり乗ると・・お金がかかるんじゃないかなぁ・・・」
「お兄ちゃん知らないの?フリーパスだからどれに乗ってもタダなんだよ!」
「え?・・・ほんと・・・?」
なんてこった・・・オレ死んじゃうよぉ・・・
「有希、イヤだったら乗らなくてもいいんだぞ? おれと麻衣だけで乗ってくるから。」
そんなのイヤだ・・・絶叫マシンには乗りたくないけど、オレだけ仲間はずれにされるのはもっとイヤだ・・・
「の・・乗るよ・・・兄さんが乗るんだったら・・・」
ジェットコースターも三井グリーンランドに負けないくらいスゴイのばっかりだ・・・フリーフォールも怖かったけど、まだジェットコースターよりマシな気がする・・・だって“ズンッ”てするのが一回だけだし・・・ジェットコースターは何回も上下するのがたまらないのだ・・・時間も長いし・・・
上から体を固定するハ−ネスが降りてくると、やっぱり手の平が汗ばんできた・・・オレは麻衣に聞こえないように兄さんに言った・・・
「に・・兄さん・・・手・・・つないでいい・・・?」
オレがそう言うと、兄さんは何も言わずにオレの手を握ってくれた・・・汗でびっしょりなのがバレるのは恥ずかしいけど背に腹は替えられない・・・でも兄さんに手を握ってもらうと少し落ちついてきた・・・
オレは兄さんに手を握ってもらったせいか、なんとかジェットコースターもクリア出来た・・・いや・・もちろん平気だったというワケではなく・・・あくまでチビらなかったというだけの話だ・・・オレにはそれだけでも十分な進歩だと思う・・・
スペースワールドというだけあって宇宙関係のモノもいろいろあった。月の石なんてのも展示してあったが、見た所そこらの石ころと大差ない感じだ・・・ちょっとガッカリした・・・
もっともオレはアトラクションに乗るよりは、こういうのを見てる方がいい。でも麻衣はまだいろいろ乗るつもりらしい・・・なんか麻衣ってたくましいと思う・・・オレより男の子っぽいかも・・・
オレっていったい何なんだろう・・・こんな男の子っぽい恰好までして、それでも女の子みたいな気持ちが抜けないなんて・・・半年前までは普通の男の子だったのに、今ではあの頃の自分がどんなだったかさえ良く思い出せない。オレはもう男じゃないんだ・・・
「兄さん・・ち・・ちょっと・・トイレ行ってくる・・・」
オレはトイレに駆け込むと鏡の前で帽子を取った・・・髪をまとめる為のピンを外して髪をおろす・・・この半年でだいぶ長くなった髪がハラリと落ちていつものオレに戻る・・・オレってそんなに女っぽいだろうか・・・やっぱり自分じゃ良くわからない・・・ブラシがないから手櫛で整えた・・・こんなことなら化粧道具も持ってくれば良かった・・・
「お・・おまたせ・・・」
「どうしたんだ有希、もう男の子はやめたのか?」
「・・う・・うん・・・」
なんかバツが悪い・・・
「ヘ、ヘンじゃない? この恰好にこんな髪型・・・」
「べつにヘンじゃないだろう。テーマパークなんだ、軽装の女の子だっていっぱいいるよ。」
「・・そ・・そうだよね・・・」
顔が熱い・・・
「に・・兄さんって・・女の子とこういうとこ来るの・・・?」
「いや、ほとんど研究室にいるからなぁ。」
「じゃぁ・・彼女とかいないの?」
「全然いないよ。」
「そ・・そうなんだ・・・じゃ・・じゃぁ・・・オレ・・今日は・・・彼女のかわりしてあげよっか・・・」
オ・・オレ何言ってるんだ・・・?!
「い・・いや・・冗談だよ・・・冗談・・・」
オレどうかしてる・・・兄さんにこんなこと言ってしまうなんて・・・
「有希、言っただろう? 自分の気持ちに正直になればいいって。」
「・・・・・」
「お前は女の子になるんだろう? 有希にとって必要ならおれは彼氏の役でも何でもやってやるよ。」
「・・ひっ!」
兄さんが手をオレの腰にまわしてオレの体を引き寄せた・・・恥ずかしいけど・・・離れられない・・・
「に・・兄さん・・・」
恥ずかしくて顔を上げられない・・・とても兄さんの顔を見れない・・・
「お兄ちゃんたち恋人どうしみたいだよ。」
「・・・・・!」
麻衣に見られていたなんて思わなかった・・・
「そ・・そんな・・・やめてよ・・・」
「お姉ちゃんはやっぱり女の子の方が似合うよ。」
「ううぅ・・・」
オレどんな顔すればいいのかわからない・・・
その後のことは何だか夢の中の出来事のようで良く憶えていない・・・兄さんも麻衣もオレと女の子として接してくれて、オレは幸せな時間をすごしたような記憶だけが残っていた・・・オレはお酒は飲んだことないけど、酔っぱらったらこんな感じなのだろうか・・・
帰りの車の中ではいつの間にか眠ってしまっていた。
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16日・・・とうとう兄さんが大学に戻ってしまう日、かあさんは仕事、麻衣は学校の用事があってオレだけが送って行くことになってしまった・・・でも、これはオレにとっては好都合だった。
オレは兄さんを駅まで見送るためにお化粧をした・・・服も胸元がフリルで飾られた可愛らしいワンピースを選んだ・・・もう兄さんの前で男の子のふりをするのはやめたのだ・・・まだ兄さんに女言葉は使えないけど・・・
「ごめん・・待った・・?」
「いや、まだ十分時間あるよ。」
「そ・・そう・・・良かった・・・」
オレのせいで遅れたらいけないから、今日はすごく急いで準備した。でもいざ、お洒落をして兄さんの前に出るとやっぱり恥ずかしい・・・
「それじゃ行くか。」
「・・う・・うん・・・」
兄さんはこんな女の子になってしまったオレなのに、昔と同じように接してくれた・・・それなのにオレときたら、女の子みたいにドキドキしたり、男の子でいようとしたり、ジタバタしたあげく結局は女の子に戻ってしまった・・・
新幹線のホームに着くとオレはソワソワしだした・・・兄さんに言いたいことがある・・・でもそんなこと言って嫌われたらどうしようという思いで、なかなか口に出せないでいた・・・
「有希、さっきから黙ってどうしたんだ?」
「・・ん?・・うん・・・」
どうしよう・・・
「・・じ・・じつはね・・・兄さんに・・頼みたいことがあるんだけど・・・」
「何だ?」
「あ・・あの・・オレさぁ・・・オレもいつかは・・男の子と付合ったりしなきゃいけないと思うんだけど・・・でも・・オレ・・まだ怖いんだ・・・」
ほんとにこんなこと頼んでいいんだろうか・・・
「それでね・・兄さんが・・・オ・・オレに・・・キ・・キスしてくれないかなぁ・・・」
「キス?」
驚いてる・・・兄さんが驚くのも当り前だ・・・
「オ・・オレ・・一回キスすれば・・少しは自信がつくんじゃないかと思うんだ・・・けどこんなこと・・他に・・頼める人もいないし・・・」
それは嘘だ・・・オレはファーストキスの相手は兄さんがいいのだ・・・でも、まさかそんなこと言えない・・・
「・・あ・・でも・・やっぱりイヤだよね・・・兄弟でキスするなんて・・やっぱりヘンだよね・・・」
やっぱり気持ち悪いに決まってる・・・こんなこと言わなきゃよかった・・・軽蔑されたかも知れない・・・
「おれでいいのか?」
「え?」
「おれは別にかまわないけど、有希はおれなんかのキスでいいのか? あまり上手くないと思うけどな。」
「う・・ううん・・・兄さんがいいんだ!」
あっ!本当のこと言っちゃった・・・
「わかったよ。」
兄さんが両手をオレの肩にそっと添えた・・・オレはもうドキドキどころじゃない・・・今にも心臓が止まりそうだ! オレはギュッと目をつむった・・・変な顔になってないか気になる・・・オレひょっとこみたいな顔になってなければいいけど・・・
兄さんの顔が近づいてくる気配がする・・・もうすぐだ・・・そう思った時、オレのおでこに柔らかいものが触れた・・・
(そんな・・・そこじゃない・・・)
「兄さん・・ずるい・・・?!」
オレがそう言って目を開けた時、兄さんの顔が目の前にあった! 次の瞬間、兄さんの唇がオレの唇に重なる・・・オレの身体は電気が走ったみたいに痺れて硬直した・・・頭は真っ白で何も考えられなかった・・・・
兄さんが唇を離した時には、オレはヒザが折れてベンチへとへたり込んでしまった・・・
「じゃぁ、行くからな。」
発車の合図が鳴る。
「・・うん・・・」
兄さんが帰っちゃう・・・また当分会えないと思うと、もっといろいろ話せば良かったと今さら思う・・・
「有希、こんど白石先生から大事な話があると思うから、ちゃんと自分で考えて決断するんだぞ。」
「え? 兄さん先生に会ったの?」
「ああ、お前のことも頼んできたから、先生の言う事を良く聞くんだぞ。」
「・・うん・・わかった・・・」
「それじゃな。」
新幹線のドアが閉まる・・・オレは兄さんに手を振った・・・
列車が行ってしまうと、オレだけがホームに取り残された・・・まだキスした時の頭の痺れが残っている・・・キスがこんなに強烈なものだなんて思いもしなかった・・・そしてこんなに幸せで・・・せつないものだなんて・・・
それにしても兄さん・・・先生と何話したんだろう・・・大事な話って・・・
しばらくホームに佇んでいたが、急に不安に襲われた・・・そういえばオレひとりなんだ・・・今まで兄さんと一緒だったから忘れていたけど・・これからひとりで家まで帰るのだと思うと、急に怖くなってきた。オレまだひとりじゃあまり出歩けないのに・・・




