第48話 花火 オレたちのカンケイ・・・ 初出09.3.2
「・・あ・・あの・・戸田です・・・」
インターホン越しの会話でも気まずい・・・オレが長谷川の家にくるのはこれが2回目だ・・・機会がなかったというのもあるけど、どちらかといえば避けていたと言った方が当っていると思う・・・長谷川のお母さんはオレのことを男だと知っている・・・だから女装好きの変態だと思っているのだ・・・本当は来たくなかったが、どこかで長谷川に浴衣を着付けなきゃいけなかった・・・オレの家に長谷川を連れてくることを考えれば、オレが長谷川の家に行く方がまだマシな気がした・・・オレは自宅に友達に来られるのが好きじゃない・・・それに駅との地理的条件を考えてもオレが長谷川の家に行く方が自然だ・・・だけど・・・
「・・お・・おじゃまします・・・」
「・・いらっしゃい・・・」
オレを迎えに玄関に出てきた長谷川のお母さんが不自然なのは当り前だ・・・自分の大切な娘がオレみたいな変態とつきあっているなんて、誰だってイヤに違いない・・・
「・・良かった、また来てくれて。」
「え?」
お母さんはオレが来ることを嫌がってるハズなのに・・・
「まえに来たとき戸田さん・・誤解してたみたいだから・・・あの後、順子にも怒られたのよ。」
誤解・・怒られた・・・?
「私は戸田さんが順子と仲良くしてくれて本当に嬉しく思ってるの。順子はあまり友達を作るのが上手じゃないし、うちにも誰も連れてこないから。」
長谷川もオレと一緒で、友達に家に来られるのがイヤなのだろうか・・・
「だからまた戸田さんが来てくれてすごく嬉しいの。」
「・・・そ・・そうなんですか・・・?」
長谷川のお母さんがオレを変態だと思ってると考えたのは、オレの誤解だったのだろうか・・・なんか良い人そうだ・・・
「戸田さんは着物の着付けが出来るんですって?」
「・・えぇ・・まあ・・・着物はまだ他の人に着付けできるほどは上手じゃないですけど・・・浴衣はカンタンだから大丈夫です・・・」
その時、いきなり長谷川の部屋のドアが開いた。
「なんか話し声がすると思ったら有希来てるじゃない!ママなんですぐ教えてくれないの?」
「・・あ・・わたしいま来たとこなの・・・」
オレは慌ててそう言った・・・またお母さんが長谷川に怒られたら可哀想だ・・・長谷川って怒るとズケズケ言いそうだし・・・
「浴衣もってきたから・・・着替えよう・・ね?」
オレは急いで、長谷川を押し込むようにして一緒に部屋に入った・・・
「さてと・・・」
箱を開けてピンクの浴衣を取り出した。
「どう? 可愛いでしょう?」
「うん、それ有希に似合いそうね。」
「・・・違うよ、これは長谷川さんが着るやつだよ。」
「えっ・・有希のは・・・?」
「・・わたしが着るのは・・こっち・・・」
オレはもうひとつの箱を開けて紺の浴衣を取り出して、肩から掛けてみせた。
「・・どうかなぁ?・・・ちょっとわたしには大人っぽすぎる気もするけど・・・」
「ダメよ!有希はこっちの方が絶対似合うわ。」
「・・でも・・長谷川さんは女の子だから・・こっちがいいかと思ったんだけど・・・」
「有希だって女の子じゃない!わたしはこっちがいい!」
そう言って長谷川は紺の浴衣を手に取った・・・
「・・あ・・でも・・それ・・もうわたしが一回着ちゃったよ?・・少し汗ついてるし・・・イヤでしょう・・・?」
「それくらいかまわないわよ。わたしはこっちじゃないと着ないから・・・」
「・・・・・」
長谷川って、あんがい我がままだなぁ・・・
「・・長谷川さんがいいって言うんなら・・・わたしはそれでもいいけど・・・」
「じゃぁ、決まりね。」
どっちでもいいけど・・・早くしないと花火大会に遅れちゃう・・・
「じゃぁ、服脱いで・・・あ・・長谷川さんどんなブラ着けてる? スポーツブラの方が着付けしやすいんだけど・・・」
「・・・そうなの?・・パンツ脱げなんて言わないでしょうね・・・」
「パンツは穿いてていいわよ・・線が出るからって穿かない人もいるけど・・わたしも穿いたまま着るし・・・」
オレの場合はナプキンつけなきゃいけないから、パンツを穿かないわけにはいかないんだけど・・・そういえば昔の人はパンツを穿かなかったのにアノ日はどうしていたのかなぁ・・・
「下着はスリップかキャミソールでいいよ。・・・あ・・わたし出てるから、浴衣羽織ったら呼んでね・・・」
オレはそう言って部屋を出ようとした・・・
「なんで出るの? ここに居ていいのに。」
「え?」
だって・・・いくら何でもオレが居るところでブラを付け替えるのはマズイと思う・・・
「・・あ・・あの・・だってさ・・・」
「でも、有希いつも体育の時とかみんなと着替えてるんでしょう?」
「・・それは・・まあそうだけど・・・」
「だったら良いじゃない。」
「・・う・・うん・・・」
でも長谷川はイヤじゃないのだろうか・・・なんていってもオレは元は男なんだし・・・長谷川はそのことを知ってるんだし・・・
「・・じゃぁ・・・後ろ向いてるから・・・」
「・・・・・・」
長谷川の裸を見るなんて・・・長谷川は良くてもオレの方が恥ずかしい・・・クラスのみんなとは慣れてるから、今さら恥ずかしいなんて思わないけど、それはきっとみんながオレのことを男だと知らないからだ・・・今考えると長谷川と同じクラスでなくて本当に良かったと思う・・・
着付けは順調に終った。長谷川は元男のオレと違い身体の凹凸が大きいから、その点が少し手こずったけど、だいたい上手くいったと思う・・・着付けしてみると、思ったよりも長谷川は女らしい体型なのを感じた・・・胸ももっと寄せ上げ効果のあるブラを着ければ、ずっと大きく見せることが出来るのに・・・教えてあげようかと思ったけど、そんなこと男から言われたらイヤかもしれないからやめておいた・・・
髪はアップにしようかと思ったけど、オレはあまり上手じゃないし、長谷川のおかっぱ頭ではヘタにいじらない方が良さそうなので髪飾りをつけるだけにした。
長谷川の着付けが終ったら今度はオレの番・・・これなら十分間に合いそうだ・・・オレは自分の髪は家でやってきたから、あとは浴衣を着るだけだし・・・だって長谷川の部屋には小さな鏡しかないから髪をまとめるのは難しそうだ・・・それにオレはまだ髪をまとめるのは上手じゃないから、どうしても時間がかかってしまうのだ・・・今日の髪型は三吉先生に出来るだけ簡単なまとめ方を習って、何度か練習したから何とか上手く出来た・・・オレもそろそろ髪も自分でやれるようにならないと・・・かあさんにばかり頼ってる訳にはいかない・・・
着替えるためにワンピースの前ボタンを外していく・・・着物の時は前開きの服が便利だ・・・どうしても先に髪を整えることになるから、頭から脱がなきゃいけない服では、せっかくまとめた髪が崩れてしまうのだ。
オレは後ろを向いてワンピースを脱ぐと、急いで浴衣を羽織った・・・やっぱり長谷川がいるところで着替えるのはドキドキする・・・本当は部屋の外で待っててほしいところだが、長谷川が気にしないのにオレが見ないでほしいとは言いにくかった・・・そんなことを言ったら、オレの中にまだ男の部分が残っているのを知られそうで怖い・・・オレとしては長谷川にも女の子と思って接してもらう方が良かった・・・
「有希ってこうして見てるとほんと女らしいね・・・」
「・・そ・・そんなに・・ジロジロ見ないでよ・・・」
オレはただでさえ長谷川の目の前で着替えることに恥ずかしい思いをしてるのに、そんなことを言われたらたまったものではない・・・
「手つきとか仕草も女っぽいのよねぇ・・・」
それはそうするように習ったからだ・・・所作は女らしさの基本だと言われて、三吉先生に徹底的に教え込まれた・・・おかげで今どきの女の子としては、じゃっかん古風に仕上がってしまったかもしれない・・・でも着物を着た時にはそれが活きてくるけど・・・
オレは前で淡いブルーの帯を結ぶと、形が崩れないように気をつけて結び目を後ろに回した。
「・・どう・・・?」
全身を鏡に映して変なところがないか確かめたいところだが、全身を映せる鏡が無くちゃ無理だ・・・
「すっごく可愛いよ。似合いそうだとは思ったけど・・・」
・・・大人っぽいのもどうかと思うけど・・・オレがこんな可愛いのを似合うとは思えない・・・とはいえ、長谷川はたしかに紺の浴衣の方が良かったかもしれない・・・思った以上に・・キレイだ・・・オレも女なのにちょっとドキドキする・・・
オレは着てきたワンピースをたたんで、浴衣が入っていた箱と重ねて部屋の隅に置き、和風のバッグを持って言った。
「それじゃ、行きましょう。早く行かないと花火が始まっちゃうわよ!」
オレたちが部屋から出ると、長谷川のお母さんが感嘆の声をあげたので驚いた・・・
「戸田さん!なんて可愛いんでしょう・・・」
オ・・オレのことはどうでもいいから・・・親なら自分の娘のことを褒めてほしい・・・
「・・・順子さんもキレイでしょう?」
「そうね・・順子も素敵よ・・・馬子にも衣装ってこういうことよねぇ・・・」
それは褒めてるんだろうか・・・
「もう・・ママよけいなこと言わないでよ・・・」
でも長谷川さんはまんざらでもなさそうだ・・・良かった・・
「それじゃぁ、行ってきます・・」
「気をつけてね、戸田さん順子のことよろしくね。」
「・・は・・はぃ・・・」
どっちかといえば・・世話になるのはオレの方なんだけど・・・でも・・オレもしっかりしなきゃ・・・長谷川やレナの世話になってばかりはいられない・・・
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大濠公園には西鉄電車で天神まで出て、市営地下鉄に乗り換えて大濠駅まで行く・・・西新よりは2つ手前の駅だ・・・電車はやはりすごい混みよう・・・
長谷川はオレの面倒は見ないなんて言ってたけど・・なにげに気にしてくれてるみたいだ・・・オレが揉みくちゃにされないように守ってくれている・・・オレとしては情けない限りだけど・・今は甘えておこうと思った・・・だって・・花火を見る前に気分が悪くなったら何にもならないし・・・
電車の乗客は花火を見にいく人が多いとみえて、オレたちの他にも浴衣の娘やカップルも何人かいた・・・それでもやっぱり浴衣の娘はそんなに多くはないから、思ったより人の目が気になる・・・オレは出来るだけうつむいて周りを見ないようにしていた・・・
天神に着いて電車を降りると長谷川が言った。
「みんな有希のこと見てたね。やっぱり抜きん出て可愛いからしょうがないわよね。」
「・・・そんなこと・・ないんじゃないかな・・・長谷川さんだってキレイよ・・・」
「ふふっ・・じゃぁ二人が可愛いからって事にしときましょう!」
「・・・・!」
少しくらいの意地悪な言い方は我慢しなきゃ・・・守ってもらっておいて強いことは言えないし・・・
地下鉄は2つ目の駅なのですぐだ・・・歩いて行けない距離じゃないけど、歩くとけっこう遠いし、下駄を履いていては長い距離を歩くのは難しいかもしれない・・・草履風の下駄なので、そんなに歩きにくくはないけど、さすがに長距離歩くと足が痛くなりそうだ・・・
大濠公園は丸い形をしてるから、どこからでも花火を見れるのが良いところだ・・・入口まで歩くとすごい人込みだった・・・それに不良が沢山たまってる・・・
「・・や・・やっぱり途中から入ろうよ・・・」
「でもあっちにお店とかいっぱい出てるわよ・・有希、夜店見たいって言ってたじゃない。」
「・・でも・・不良がいるじゃない・・・絡まれたらどうするのよ・・・」
「なに? 有希・・怖いの?」
「・・・・・」
そりゃぁ不良は怖いよ・・・でも・・怖がってるなんて知られたら馬鹿にされそうだ・・・
「・・べ・・べつに・・怖くはないけど・・・」
でも・・オレはまだナンパされた時のトラウマを克服したとは言い難い・・・普通の男でもイヤなのに不良だったらなおさらだ・・・こんなところでおもらししたら大変だ・・・ナプキン変えるにもトイレが空いてるかどうか・・・
不良ってなんでこんな邪魔になるとこに座り込むんだろう・・・嫌がらせなのだろうか・・・オレは出来るかぎり目を合わせないようにして不良たちの前を歩いた・・・猿と不良は目を合わせたらいけないらしい・・・誰かが言ってた・・・
だけど近づいてみると警官も沢山いて、入口の車止めの柵を過ぎると不良はいなくてホッとした・・・警官の人がこっちには入らないように注意してるみたいだ・・・そういえば最近はお祭りで騒ぐ不良が問題になったるからなぁ・・・不良もなかなか大変な時代だ・・・
「あっ・・長谷川さん、サイリュームがあるよ。買おっかなぁ・・・」
「いいよそんなの・・お金がもったいないわよ・・・」
「・・・いいじゃない・・わたしが買うんだから・・・」
オレは青いサイリュームの腕輪を二つ買って、一つを腕にはめた・・・
「はい、こっちは長谷川さんの・・・」
「・・いいよ・・そんなの恥ずかしいじゃない・・・」
「え〜・・でも暗いから・・・してた方がわかりやすいと思うけど・・・」
「・・わたしはいいから・・有希が二つしてなさいよ・・・二つしてる人なんてあまりいないから、有希がもし迷子になってもすぐにわかるわよ。」
「・・・・・」
もう・・・なんでそんな言い方するのかなぁ・・・
「あれ? やっぱりお姉ちゃんだ!」
後ろからの声に振り返ったオレは一瞬のうちに氷りついた・・・そこには麻衣がいて・・・その横にはレナがいた!
「あら?・・・有希・・それと・・・長谷川さん?」
「・・あ・・ああ・・・」
オレはもうアワアワするばかりだ・・・どうしたらいいんだろう・・・なんでレナと麻衣が・・・?
「有希・・・もしかして・・・」
「・・そ・・そぅ・・・妹の・・麻衣・・と・・・いとこの・・レナ・・・・」
レナはニコニコして全然驚いていないみたいだ・・・
「やっぱり長谷川さんね、いつも有希がお世話になってるって聞いてる!」
「はじめまして・・レナさんの事も聞いてます・・レナさんにもずいぶん世話になってるってね。」
「そりゃ、わたしはいとこだから、とうぜん有希の面倒は見るよ。」
な・・なんか・・大変なことになってる・・・?
「あれ? ・・・そういえば有希、生け花の展示会・・準備は終ったの?」
「!」
そうだ・・・すっかり忘れていた・・・いきなり会ったんで驚いたが、そもそもオレは今ここに居てはいけないんだった・・・!
「・・あ・・あの・・それが・・・思ったより早く終っちゃって・・・・ねぇ、長谷川さん・・・」
オレは何とか長谷川が察してくれることを祈った・・・
「・・・あぁ・・うん・・・もっと時間かかるかと思ったんだけどねぇ・・・」
・・ホッ・・・話を合わせてくれたぁ・・・でも・・後が怖い・・・
「・・・そっか・・・早く終ったから・・“急遽”お揃いで浴衣に着替えて来たんだ・・・」
・・疑ってる・・・そりゃそうだ・・・急に来たのに二人とも浴衣なんて・・・ありえない・・・
「お姉ちゃん! そろそろ行かないと花火始まるよ。レナちゃんも!」
麻衣がオレの腕に抱きついてきてくれて助かった・・・
「・・そ・・そうよね・・・い・・行こうよ・・レナ・・・と長谷川さん・・・」
・・!・・なんか長谷川がついでみたいになっちゃった・・・
「あ! いいなぁこれ・・・」
麻衣はオレが手首に付けているサイリュームを見て言った・・・
「・・あ・・これ・・あげる・・・」
オレは仕方なく長谷川にあげようと思っていたサイリュームを麻衣に渡してしまった・・・でも・・どうせ長谷川はいらないって言ってたし・・・いいか・・・
歩きながら、何気なくレナがオレに聞いた・・・
「ねえ、有希今日もナプキンしてるの?」
「・・・!」
あまりに自然だったから一瞬呆気にとられたが、長谷川と麻衣が一緒なのを思い出しオレはあせった・・・
「・・・ナプキン?・・有希がナプキンなんかするワケないじゃない・・・」
長谷川がそう言うのは当然だ・・・長谷川はオレがおもらしするなんて知らないのだから・・・
「あっ、長谷川さんは知らないんだぁ・・ゴメンね有希、わたし長谷川さんも知ってるのかと思って・・・」
「・・・いいよ・・もう・・・」
麻衣もいるのに・・なんでそんなこと言うんだよ・・・
「お姉ちゃんだってナプキンくらいするよねぇ、女の子なんだから。」
麻衣はどこまで解って言ってるんだろうか・・・それとも助けてくれてるのかな・・・
「・・・・・」
長谷川さんは黙ってしまった・・・怒ってるんだろうか・・・いや・・男なのにナプキンなんかしてるオレの事を軽蔑したのかも知れない・・・
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花火が始まると麻衣は無邪気に喜んでいたが、オレはとてもそんな気持ちにはなれなかった・・・長谷川とレナと一緒に見るのが、こんなに気まずいものだとは考えもしなかった・・・
しかし・・そもそも最初に3人で行こうと思ったのはオレだ・・・今にして思えばバカなことを考えていたものだ・・・長谷川とレナとでは、オレと共有している情報が違う・・・秘密にしている事も違うのだ・・・だからオレは軽率に会話することも出来なかった・・・ふたりいる所で話をすると、どこかでボロが出そうだ・・・
花火を見てるオレの両脇にはレナと麻衣が陣取っている・・・麻衣の向こうに長谷川がいて完全にのけ者みたいになってしまっている・・・せっかくオレは長谷川と浴衣で花火を見ようと思っていたのに・・・これでは台無しだ・・・もっとも・・こうなってしまった原因はオレにあるのだが・・・
「お姉ちゃん、きれいだねぇ!」
麻衣が興奮してオレの浴衣の袖をしっかりつかんでいる・・・
「・・う・・うん・・・きれいね・・・」
ずっと見上げたままで、降り注ぐような花火を見ていると、なんだか頭がクラクラしてくるようだ・・・それともオレはこの異常な状況にクラクラしているのだろうか・・・だんだん何も考えられなくなりそうだ・・・
いつの間にかレナがオレの手を握っていた・・・
長谷川を誘わなければ、オレはレナとこうして二人で楽しく花火を見たのだろうか・・・長谷川のことなど考えることもなく・・・でも・・・今のオレは長谷川のことが気になってしようがない・・・レナも大切には違いないが・・あくまでいとこの関係だ・・・でも長谷川は違う・・・長谷川はオレにとって、たんなる友達でも親友でもない・・・もっと特別な存在なのだ・・・
オレはレナの耳もとで言った・・・花火の轟音のおかげで囁きでなくても他には聞こえそうにない・・・
「・・レナ・・・ごめん・・・展示会なんて嘘なんだ・・・このお詫びはきっとするから・・・わたし・・長谷川さんのところに行かなきゃ・・・ほんとごめん・・・」
オレはレナの手を放して長谷川の方へ行こうとしたが、麻衣が袖をつかんでいるのを忘れていた・・・
「・・麻衣・・ちょっと・・・」
オレが麻衣の手を袖から外そうとした時、すっと出てきたレナの手が麻衣と手をつないだ・・・
「・・・・・」
オレは少し離れて立っている長谷川のところへ急いだ・・・
「・・は・・長谷川さん・・・」
「・・・・・」
「・・・ごめんね・・・」
長谷川はしばらく何も言わずに花火を見ていた・・・
「・・・有希ったら最低ね・・・」
「・・うっ・・うん・・・」
オレはなんか泣きたくなってきた・・・
「・・嘘ついて断るなんて・・・まるで男みたいじゃない・・・」
思わずドキッとした・・・
「・・男なのに・・ナプキンなんかして・・・ほんと最低だわ・・・」
「・・・うん・・・」
オレには弁解のしようもない・・・それに・・・おもらしするからなんて言ったらよけい嫌われそうだ・・・
「・・ねえ・・サイリューム・・わたしにくれるんじゃなかったの?」
「・・あ・・でも・・・」
長谷川さん・・いらないっていったのに・・・
「・・ご・・ごめん・・麻衣に・・あげちゃった・・・」
オレが謝ると長谷川は
「じゃぁ・・有希のをちょうだい?」
「・・あ・・う・・うん・・・」
オレは急いで腕から外して長谷川に渡した・・・すると長谷川は青いサイリュームを腕にはめ、その手でオレの手をにぎった・・・痛いほど強く・・・
「・・わ・・わたしのこと・・嫌いになった・・・?」
長谷川は何も言わない・・・
「・・そうだよね・・・嫌われたってしかたないよね・・・」
すべてはオレのせいなのだ・・・長谷川に嫌われたって自業自得だ・・・
「・・男ならね・・・」
「え・・・?」
「・・有希がもし男だったら・・嫌いになったかもしれないけど・・・有希は女の子でしょう?」
「・・う・・うん・・・」
「だったら・・・もういいよ・・・わたしたち友達でしょう・・・?」
「・・うん、うん!」
「これからはもっと相手の気持ちを考えて、慎重に行動しなさいよ。」
「・・・!」
オレはコクコクとうなずいた。何度も・・・
「有希って、ほんと女の子の気持ちがわかってないんだから・・・」
「・・・そう?」
「全然わかってないわよ。まだまだ男の子だわ。」
そう言ってオレに微笑んだ・・・オレは嬉しくて・・長谷川の腕に抱きついた・・・
「ちょっと・・有希・・やめてよ浴衣が着崩れちゃうじゃない!」
大丈夫よ・・・もし着崩れてもわたしが直してあげるから・・・
「・・長谷川さん、大好き!」
長谷川を好きな気持ちが、はたして女同士としてなのか、男女としてなのか、オレには良くわからなかった・・・でも・・オレにとってかけがえのない大切な存在なのだという事だけは解っている・・・
ただ・・オレはたしかに女の子の気持ちがわかってないのかもしれない・・・長谷川とレナがこの時どんな気持ちだったのか、オレにはちっとも解っていなかった。




