第47話 浴衣 レナと長谷川 初出09.2.23
「もしもし、レナ?」
「どうしたのユウ・・」
「・・あの・・こんどね、携帯替えようと思って・・それで番号も変わるから、まえもって言っておこうと思って・・・」
「?・・何で番号まで変えちゃうのよ・・面倒じゃない・・」
「・・だって・・今は中学の友達からかかってきたら困るから電源切ってるじゃない・・」
「うん・・」
「でも・・それじゃ不便だから・・もう変えちゃおうと思って・・・」
「そっか・・それもいいかもね・・どうせ会えないもんね・・」
「うん・・・」
オレはもう男に戻ることなんて出来ないし・・・だけど・・もう昔の友達とも会えないのはやっぱり淋しい・・・でも・・だからこそ、オレは今の友達を大切にしなきゃいけないと思う・・・
「そうだ・・わたしユウに連絡しようと思ってたんだけど・・」
「・・な・・なに・・・?」
レナがオレに連絡するなんて・・・いったい何の話なんだろう・・・ドキドキする・・・
「こんど花火大会があるの知ってる?」
「・・えっと・・・筑後川?」
「違うわよ、筑後川はもっと先でしょう? 大濠よ!」
「・・あ・・そっか・・・」
大濠というのは、福岡市の中心部にある大濠公園のことだ。昔は福岡城の濠の一部だったという周囲2キロの大きな池みたいなもので、市民にとっては良いマラソンの練習コースにもなっている。ソラマメみたいな形の池には中心を通るような長細い島があり、いつもは自由に通れるのだが、花火の時は通行止めにして、そこから花火を打ち上げる。オレは小学生のころ一度だけこの花火大会に行ったことがあるが、すごく近くで上がるのですごい迫力だった記憶がある・・・川の向こうとかで上がる花火とは全然ちがうのだ・・・
「8月1日なんだけど、有希いっしょに行かない?」
「・・い・・行きたい・・・いっしょに行ってくれるの?」
「当り前じゃない、ひとりで行ってもつまらないし。じゃぁ、有希行くのね?」
「うん・・行く行く!」
花火大会なんて久しぶりだなぁ・・・なんだかワクワクしてきた・・・
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「ただいま」
「お帰り、かあさん・・・?」
帰ってきたかあさんは大きな平べったい箱をふたつ持っていた。
「かあさん・・それなに・・・?」
「ふふっ・・・有希におみやげよ!」
「・・え?・・わたしに・・・?」
オレは箱を受け取って開けてみた・・・
「あっ・・浴衣だ・・・!」
そこにはピンクの地に金魚の柄の浴衣が折りたたまれて入っていた・・・
「・・これ・・わたしが着ていいの?」
「もちろんよ、有希のために買ってきたんだから。」
「・・わぁ・・ありがとう・・・」
オレは前に、浴衣なんか着る機会が少ないから勿体ないと言ったけど、本当は着たくてたまらなかったのだ・・・かあさんはオレのそんな気持ちをわかっていたのだろうか・・・それともオレの内心思ってたことがバレバレだったのだろうか・・・
「じゃぁ、こっちは麻衣の浴衣?」
「ううん、こっちも有希のよ。」
「・・な・・なんで・・・?」
ふたつともオレのだなんて・・・どういうことだろう・・・?
「麻衣は浴衣よりお洋服の方がいいのよね。」
「うん、だってお姉ちゃんの服ばっかりで、あたしのはあまり買ってくれないんだもん!」
「・・・・・!」
・・そうか・・・オレは何も考えずに服とか下着とか買ってもらっていた・・・そのぶん麻衣が買ってもらえなかったなんて考えもしなかった・・・
「・・ご・・ごめん、麻衣・・・わたし全然気づかなかった・・・」
「麻衣! 何言ってるの、あなたのもちゃんと買ってあげてるでしょう? ただ有希は季節に応じて新しく買わないと着るのがないから、あなたより少し多いだけじゃない!」
そう言われた麻衣は、いたずらっぽく舌を出した・・・
「有希は心配しなくていいのよ。麻衣は有希の服買うときも、大きくなったら自分がもらうつもりで選んだりしてるんだから。」
「・・・そうなの・・・?」
「・・うん・・・」
麻衣はちょっとバツが悪そうにうなずいた。
「・・ごめんね、お姉ちゃん・・・」
「いいのよ・・謝ることないわ。今でも着れるのがあったら着ていいよ。ちょっと大きいサイズでも麻衣が着れそうなのあるから。」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
麻衣は嬉しそうにそう言った・・・妹の嬉しそうな顔を見るとオレも嬉しくなってくる・・・それに・・姉妹で服を貸し借りするなんて素敵なことだと思う・・・今はまだ麻衣はオレより小さいから、麻衣の服でオレが着れるのはあまりないけど・・・もう少し大きくなればオレも麻衣の服が着れるかもしれない・・・その時オレがもっと大きくなってなければだけど・・・オレはもうこれ以上大きくなりたくない・・・やっぱり女の子は小さい方が可愛いし・・・オレは今でも女の子としては少し大きすぎるくらいだ・・・
「・・あれ?・・・でも・・麻衣のじゃないんだったら・・何でわたしに二枚も買ってくれたの・・?」
「こんど花火大会があるでしょう? 有希も長谷川さんと行って来たらいいんじゃないかと思って。有希だけ浴衣じゃ長谷川さんが可哀想でしょう?」
「・・・え・・じゃぁ、ひとつは長谷川さんの分なの?」
「ええ、有希が一緒に行くんならね。」
「・・・・・・」
でも・・花火大会はレナと行く約束しちゃった・・・長谷川はレナと一緒でも行ってくれるかなぁ・・・
「どうしたの? 有希・・・」
「・・あ・・ううん・・なんでもない・・・ありがとう、かあさん・・長谷川さんもきっと喜ぶと思うよ・・・」
でも・・長谷川・・・あまり人付き合いがいい方じゃないみたいだしなぁ・・・
もうひとつの浴衣は紺地に朝顔の柄だった・・・こっちの方が大人っぽい感じだ・・・長谷川はどっちが好きだろう・・・やっぱり女の子だからピンクの方だろうな・・・
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「あら? 有希ちゃん、今日は浴衣なの?」
お稽古に来た三吉先生のお弟子さんがオレに言った・・・
「はい・・かあさんが買ってくれて・・・着物と少し違うから、先生に着かたを習おうと思って・・・」
「いい柄ねえ。ちょっと回って、うしろ姿も見せてよ。」
オレは恥ずかしかったが、先生に教えてもらった女の子らしい仕草で、両手の袖の端を持って少し持ち上げて、小股でちょこちょこと一回転して見せた・・・
「・・に・・似合ってますか・・・? 変じゃないですか・・・」
「すごく似合ってるわよ!・・・有希ちゃんは大人っぽいのも似合うのねぇ・・・」
オレには紺の浴衣は大人っぽすぎるってことかなぁ・・・
「・・わ・・わたしには・・こういう色はまだムリかなぁ・・・って思うんですけど・・・」
着てみると、紺の浴衣は白い朝顔の柄がシックで・・・帯は山吹色で、畳んだ状態で見るよりも、かなり大人っぽい感じだった・・・
「ううん、素敵よ。有希ちゃんの歳ならもっと華やかなのも可愛いと思うけど、有希ちゃんは首が細くて長いからこういう色も合うわ・・・いつもよりずっと色っぽいわよ。」
・・オ・・オレが色っぽいなんて・・・そんなぁ・・・
三吉先生のお弟子さん達はオレのことを完全に女の子だと信じて疑わない・・・先生もオレの事を女の子として扱ってくれるから気づかないのだろう・・・それにお茶のお稽古には普段より女らしい恰好で来るから、それもあるのかもしれない・・・清楚なブラウスやワンピースを着た男の子なんているハズないと思っているのだろう・・・
浴衣は着物に比べると、ずいぶん着付けもカンタンだった。これなら長谷川に着付けるのも心配なさそうだ・・・オレひとりで十分やれる・・・
それよりも問題は、長谷川が一緒に行ってくれるかどうかだ・・・明日は登校日だし、長谷川には直接聞いてみようと思っている・・・電話では・・何て言えばいいのかわからないし・・・
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「有希と会うのも久しぶりね。」
「・・う・・うん・・・」
なんだか久しぶりに会うと妙に気恥ずかしい・・・
「長谷川さんは? もうどこか行った・・・?」
「どこかって?」
「旅行とかよ・・・夏休みじゃない・・・」
長谷川って、あいかわらずつっけんどんな感じだ・・・久しぶりに話すとよけいに感じる・・・
「お盆あたりは行くかもしれないけど・・まだどこにも行ってないわ。」
「・・そ・・そう・・・」
「・・・・・・」
なんだろう・・・なんか今日はやけに長谷川がオレを見てる気がする・・・
「なんか・・ちょっと見ない間に・・有希、感じが変わった気がする・・・」
「え?! ・・そんなことない・・と思うけど・・・」
オレはどこも変わってないハズだけど・・・
「なんか前より女っぽくなってる・・・まえは可愛い感じだったけど・・・ちょっと色っぽいっていうか・・・」
「・・そ・・そんな・・わたしが色っぽいハズないじゃない・・・!」
オレは男なんだから色っぽいハズなんてない・・・昨日も言われたけど・・・
「・・だって・・ついこのまえ幼いって言われたもん・・・」
「だれに?」
「・・あ・・それは・・・」
そういえばオレに幼いって言ったのは編集長の佐々木さんだった・・・佐々木さんのことはモデルのことに触れなきゃいけないから長谷川には言えない・・・話かえないと・・・
「・・ねえ・・そんなことよりさ・・長谷川さん・・花火大会があるの知ってる・・・?」
「大濠のでしょう? 知ってるけど?」
「・・い・・いっしょに行かない・・・?」
「だって・・花火大会ってけっこうな人出よ。有希だいじょうぶなの?」
・・そ・・そっか・・・わすれてた・・・・
「・・だ・・大丈夫じゃないかな・・・夜だし・・・」
「でも、帰りの電車なんかすごく混むのよ。有希知らないの?」
「・・そうかぁ・・・」
なんか・・そう聞くと怖くなってくる・・・
「・・だ・だ・だ・・・大丈夫よぉ・・・」
「ぜんぜん大丈夫じゃないじゃない・・・だ・だ・だ・・って・・・」
「・・うぅっ・・・」
「わたしに面倒見させようと思ってない?」
「・・そ・・そんなこと思ってないよ!」
なんでそんなこと言うんだ・・・オレそんなことまったく思ってなかったのに・・・
「・・だって・・だってさ・・レナも一緒なんだもん・・・長谷川さんに面倒見てもらおうなんて思ってないよ・・・」
「え?・・・レナちゃんも一緒・・・そうなんだ・・・だったらレナちゃんに面倒見てもらうのね・・・勝手に二人で行けばいいじゃない・・・」
「・・そ・・そんな・・長谷川さんが一緒に来てくれないと・・困るのよ・・・」
「・・なんで・・・?」
「・・だ・・だって・・かあさんが・・・浴衣買ってきて・・・長谷川さんの分も・・・」
「なんで有希のおかあさんが、わたしの分まで買うのよ。」
「・・いや・・長谷川さんの分っていうか・・・わたしに二枚買ってくれて・・長谷川さんと行ってきたらって・・・」
「よけいなお世話よ・・・」
「・・ご・・ごめん・・・そうだよね・・・」
そうだ・・・たしかに長谷川さんにしてみれば・・・よけいなお世話に違いない・・・でも・・・
「・・でも・・かあさんは・・いつもわたしが長谷川さんに世話になってるから・・・それで・・・」
・・・それに・・・
「・・わたしも・・長谷川さんの浴衣姿・・見てみたいし・・・」
「・・そりゃぁ・・わたしだって有希の浴衣姿は見たいけどさ・・・」
「・・!・・だ・・だったら・・・」
「でもレナちゃんと一緒はイヤ・・わたし知らない人苦手なのよ・・有希知らなかった?」
「・・い・・いや・・なんとなくそうかなぁ・・とは・・・」
「・・・じゃぁ・・じゃぁさ・・レナが一緒じゃなかったら・・行ってもいいってこと?」
「・・まぁ・・有希とふたりでなら・・・」
「じゃぁ・・レナは断るから・・・」
「・・・それじゃぁ、レナちゃんに悪いじゃない。」
「・・い・・いいのよ・・・レナは他にも友達がたくさんいるし・・・わたしが断っても誰かと行くって・・・」
・・・たぶん・・・そうだと思う・・・
「わたしと二人でなら行くのよね・・そうでしょう・・・? 約束よ!」
「・・いいわよ・・・断れるならね・・・」
「・・うん・・・じゃぁ・・夜に電話するから・・・」
・・レナには悪いけど・・長谷川が浴衣着てくれないと、かあさんの思いが無駄になってしまう・・・
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「・・あ・・レナ?・・・」
「どうしたの、有希?」
「・・あの・・花火大会のことなんだけど・・・」
「あぁ、1日は晴れそうで良かったね。」
「・・う・・うん・・そうなんだけど・・・」
「ん? どうしたの?」
「・・そ・・それがね・・わたし・・行けなくなって・・・」
「え?どうして?」
「・・・あのぉ・・・」
本当のことなんて言えないし・・・
「・・え・・えっと・・学校のクラブで・・・」
「生け花の? 夜に?」
「・・い・・いや・・次の日の用意っていうか・・・」
「あ、展示会か何か?」
「そうそう!・・展示会の用意で・・・」
「・・・じゃぁ、しょうがないね・・わたしも行くよ。」
「え?」
「展示会よ。有希の生け花見たいし。」
「・・・・・!」
大変だ・・・!
「・・あ・・あの・・学校の行事だから・・・部外者は入れないの・・・保護者だけっていうか・・・」
たのむから・・信じてほしい・・・ウソだけど・・・
「そっか・・それじゃ仕方ないね。」
「・・う・・うん・・・」
良かったぁ・・信じてくれた・・・
「・・ご・・ごめんね・・だから花火は・・・」
「うん、それなら仕方ないね。がんばってね。」
「・・う・・うん・・・じゃぁね・・・」
ごめんレナ・・・オレってヒドイやつだ・・・ウソついて約束破るなんて・・・でも・・・・・
いくら言い訳を考えようと・・・オレがレナと長谷川を秤にかけたのは間違いない事実だ・・・そしてオレは長谷川を選んでしまった・・・先に約束していたレナを断ってまで・・・もちろん浴衣のことは大きいと思うけど・・・でも・・・オレは・・・・こんなことならレナと約束するんじゃなかった・・・・




