第45話 親友 オレが片付けなきゃいけないこと 初出09.2.13
前回は遅れてしまったから今日は早めに来たらオレが一番最初だった・・・クラスメイト相手に化粧もする必要ないし、前回の経験から服もそんなに悩む必要もなかったから早く着きすぎてしまったようだ・・・オレはジュースでも飲みながら待っていた。
最初に来たのは原口だった・・・原口って制服でもそうだけど、私服だとよけいに胸とお尻が強調されて女っぽい・・・
「おはよう、有希。」
「あ・・おはよう・・・」
原口はドーナツがふたつ乗った皿とコーヒーを持って来て、オレの前のイスに座った・・・オレもドーナツ頼めば良かった・・・来た時はとても食べられる気分じゃなかったのに、なんか目の前に置かれると食べたくなってくる・・・
「有希、半分食べる?」
「え、いいの?」
「いいよ。」
弘子はそう言ってチョコレートのドーナツを半分に割ってオレにくれた・・・オレはよっぽどモノ欲しそうな顔をしてたのだろうか・・・
「でも、有希も大変ねぇ。」
「え?」
「だって有希が文句言われる筋合いないじゃない。面接受けることになるなんて誰も思わなかったんだから。」
「・・まあ・・そうだけど・・・」
原口はどこか達観したようなところがあると思う・・・
「それに直美がついていったからって、面接受けるように言われたかどうか判らないじゃない。」
「ううん・・誰だって受けるように言われたと思うわよ・・・だって、わたしが言われたくらいだから・・・」
すると弘子は真剣な顔で言った。
「そういうとこ有希も良くないよ。誰もそんなふうには思わないわよ。」
「・・・・・?」
オレがどういうことか意味がわからず、聞き返そうとした時に佐倉がやってきた。
「おはよう・・・」
ひとことだけ言って、佐倉はオレのとなりに座った。急に気まずい空気になった・・・ドーナツが喉につかえそうになる・・・ジュースを飲み込んだ音がやけに大きく感じる・・・
弘子はいったいどう思っているのだろうか・・・この前は自分は最初から受かるなんて思わなかったようなこと言てったけど、それが本心かどうか判らないし・・・すると佐倉がオレの方を向いて言った。
「有希が一緒に受かって、ほんとよかったぁ・・・」
「・・な・・なんで・・・?」
顔が近いよ・・・こんなに近くで話されると、女の子になった今でもドキドキするオレって変なのだろうか・・・だってオレは男のころは女の子と付合ったこともなかったから、女の子とこんなに近くで話すことなんてなかったのだから仕方がない・・・学校のような慣れた状況ならオレもこんなことはないけど、こうしてお互い私服だったりすると、オレの中の男の気持ちが頭をもたげてくるみたいだ・・・
「だって、わたしひとりだったら、お父さんも許してくれなかったと思うし・・・」
「・・そうなの・・・?」
オレにそんな影響力はないと思うけど・・・すると原口が佐倉に聞いた。
「千里はモデルやりたかったの?」
「・・う〜ん・・最初は良くわからなかったけど・・・今はやりたいと思ってる・・・有希も一緒だし・・・」
「そうなんだ・・・」
オレってそんなに頼りにならないと思うんだけど・・・
弘子はオレたちの味方になってくれるのだろうか・・・それならオレは心強いけど・・・でも、それだと直美が可哀想な気もするし・・・オレはとにかく丸く収まってほしい・・・だってみんな大切な友達だし・・・こんなことで友情にヒビが入るなんてオレはイヤだ・・・オレは3人のことを親友だと思っているのだから・・・長谷川には悪いけど、この女の子どうしの関係は、オレが男だと知られていては出来ない関係だと思う・・・この中にいる時は、オレも普通の女の子でいられる気がするのだ・・・
最後にやってきた岡本は、あきらかに不機嫌そうだった。弘子のとなりに座った岡本はオレに向かって言った。
「ねえ、どういうことか説明してよ!」
「あ・・えっと・・電話でも言ったけど・・・わたしも良くわからないの・・・気がついたらこんなことになってて・・・」
「そんなの信じられると思う?」
「・・う〜ん・・・どうかなぁ・・・」
ほんと、こんなことオレに聞かれても困ってしまう・・・オレだってどうして自分を合格にしたのか編集長に聞きたいくらいなのに・・・
「千里は? 有希面接の時どんな恰好で来てた?」
「え?・・・それは・・・可愛かったけど・・・」
千里はちらっとオレの方を見て言った。
「ほら、有希ったら付いて行くなんて言って、受ける気で行ったんでしょう!」
「・・そ・・そんなことないよ!」
オレは大きく手を振って否定した。そりゃあファッション誌の編集部に行くんだから、少しはオシャレして行ったけど・・・でも変な恰好で行くワケにもいかないし・・・
「もうっ・・・有希がこんな抜け駆けみたいなことするなんて思わなかった。」
「・・そ・・そんな・・・抜け駆けって・・・」
それはいくら何でもひどすぎないだろうか・・・オレは悔しくて涙があふれてきた・・・今日は絶対泣かないって決めてたのに・・・
「有希、また泣く気? あんた泣けば済むと思ってない?」
「・・そ・・そんなこと思ってない・・・今日は・・泣かないようにしようって・・・思ってたんだもん・・・」
まばたきしたら今にも涙がこぼれそうだ・・・そんなオレを助けてくれたのは原口だった。
「直美ったら、有希泣かせたの?」
「な・・泣かせたって、電話してたら有希が勝手に泣いただけよ・・・」
岡本はちょっとたじろいだものの、自分は悪くないという態度をとおしている・・・
「だいたい直美も有希がついていくことに賛成したんじゃなかった?」
「それは・・そうだけど、有希がこんな抜け駆けすると思わなかったし・・・」
すると千里も言ってくれた。
「ほんとにそんなんじゃないのよ。向こうの人が勝手に受けるように言ったんだから。断れる感じじゃなかったのよ、ねえ有希。」
「・・うっ・・うん・・・・」
オレは泣きながらうなずいた・・・
「ほんとかしら・・・」
まだ懐疑的な岡本に、さらに千里は言った。
「そもそもわたしに面接の通知がきて、有希に来なかったのおかしいと思わない?」
「・・・・・」
「直美だって、有希なら納得できるとか言ってたじゃない。」
「そんなこと・・・言った・・・?」
「たしかに言ってたわね。」
弘子もそう言ってくれた・・・千里がさらに続けた・・・
「有希は最初から受かるハズだったのよ。誰が見たって一番かわいいんだから!」
そ・・それは言い過ぎでは・・・
「だいたい有希に面接の通知が来なかったの直美のせいなのよ・・・」
「・・・・!」
千里のやつ・・・まさか言っちゃうつもりじゃ・・・
「なんで・・・わたしのせいなのよ!」
「有希が黙っててっていうから言わなかったけど、直美が写した写真、有希の顔ボケてて見えなかったんだから!」
「そうなの?!」
弘子もそれには驚いたようだった・・・
「・・で・・でも・・なんで・・・写し直せば良かったじゃない!」
「直美も知ってるでしょう? 有希は自分がどんなに可愛いか良くわかってないの。だからどうせ受からないなんて思って、そのまま送っちゃったのよ。」
「・・ほんとなの?・・有希・・・」
「・・・うっ・・うん・・・」
オレが自分のこと可愛いのをわかってないって所はどうかと思うけど、写真のことはほんとうだ・・・
「だから実際に有希を見て、可愛いから面接受けるように言われたんじゃない。」
「・・・・・」
こんどは岡本が黙ってしまった・・・
「直美が有希に謝らなきゃいけないんじゃないの?」弘子が言うと
「な・・なんでわたしが・・・」
直美はそう言ったものの、オレに謝ってくれた・・・
「・・ご・・ごめん・・有希・・・」
「・・・ううん・・・いいの・・・」
オレは嬉しくって、また涙があふれてきた・・・直美もほんとは素直なコなのだ・・・
「・・直美ぃ・・・わたしこそ・・何かごめんね・・・」
やっぱりオレたちは友だちだ・・・
「・・直美のほうが・・モデル・・なりたかったのにぃ・・・」
「・・そ・・そんなの・・もういいよ・・・有希が可愛いのはわかってたしね。」
「・・・ううっ・・・」
オレは可愛くなんかないのに・・・直美だって可愛いのに・・・オレは直美に申し訳ない気持ちでいっぱいだった・・・
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
何とか話が収まって、友情も壊れずに済んだようでホッとした・・・また泣いちゃったのは反省したい気持ちだけど・・・今回はどうしようもない気持ちで泣いてしまったのだから、ある意味仕方がないと思う・・・だれだって、悔しかったり、悲しかったりすれば泣いてしまうと思うし・・・
しかし、良く考えてみればオレにとっては余計やっかいな事になったような気もする・・・オレと佐倉がモデルをやるのに納得してくれたのは良いけど、オレがモデルをやれるかどうかは、まだわかっていないのだ・・・どう考えたって、オレが男だとわかれば断られる可能性の方が大きいだろう・・・
でも・・やっぱり編集長には言わなきゃマズいと思う・・・だって後でバレて大事になったら、それこそ大変だ・・・オレはこの前もらった名刺の番号に電話した。
「はい、佐々木です。」
「・・あ・・あの・・昨日、面接していただいた・・戸田有希ですけど・・・」
「あぁ、戸田さん。どうしたの?」
「・・あの・・実は・・昨日言わなきゃいけなかったんですけど・・言えなかったことがあって・・・もう一度・・会っていただけないかと思って・・・」
「あら、そう・・・電話じゃダメなの?」
「・・あ・・えっと・・出来れば実際に会って話したいんですけど・・・今日忙しいんだったら、また今度でもいいんですけど・・・」
「そう・・でも早い方が良いんでしょう?」
「・・はぃ・・・」
「それじゃ、もう少ししたら食事するから、食べながらで良かったらどう?」
「・・え・・でも・・迷惑じゃ・・・」
「ああ、大丈夫よ。食事しながら仕事の話することも良くあるから。モデルさんとも良く食事しながら話するわよ。」
「・・あ・・じゃぁ・・お邪魔します・・・わたし今、久留米にいるので・・・30分くらいで行けると思うんですけど・・・」
「それじゃね、薬院に着いたらまた電話くれる?」
「・・はぃ・・わかりました・・・よろしくお願いします・・・」
オレは電話を切ると、急いで改札を通ってホームへ向かった・・・ちょうど特急が来るところだ・・・
オレが薬院の駅に着いて電話をかけると、編集部のビルの下で待っているように言われた。ビルの一階には大きな文房具店が入っている。ちょっとショーウインドウを覗いていると、後ろから名前を呼ばれた・・・
「戸田さん!こっちよ。」
オレは慌てて編集長の方へ駆け寄った・・・
「・・あ・・こんにちは・・・」
「近くの喫茶店だけどいい?」
「・・あ・・わたしは・・どこでも・・・」
オレは編集長の後をついていった。
「えっと・・わたしはシーフードパスタ。戸田さんは何がいい?」
「・・あ・・わたしは・・さっきドーナツ食べたから・・いいです・・・」
「そう? でもひとりじゃ食べにくいなぁ・・・パフェでも食べたら?ここのパフェ美味しいらしいわよ。食べない?」
「・・あ・・えっと・・・」
「もう入らない?」
「・・そ・・そんなことないですけど・・・」
「じゃあ食べなさいよ。ね?」
「・・は・・はい・・じゃぁ・・いただきます・・・」
オレはあまり食べたい気分でもなかったが、こう勧められては断るのも失礼な気がした・・・たしかに何も食べてない人の前で、自分だけ食事するのは気まずいかもしれない・・・
お昼時ということもあり、たのんだパスタとパフェはすぐにきた。
「どうぞ、食べて。」
「・・ぁ・・はぃ・・・」
オレは長いグラスに入ったイチゴパフェを長いスプーンで一口すくって食べた・・・その瞬間、その美味しさに驚いた! そもそもオレは男だったからパフェなんかそんなに食べたことがなかったから、こんなに美味しいとは知らなかった・・・
「美味しい?」
「はい!おいしいです!」
「良かった。モデルさんたちが美味しいって言ってたのよ。」
そうか・・・ここのパフェが特に美味しいのかもしれない・・・
オレが夢中で食べていると
「ところで、話って何かしら?」
「うぐっ・・・」
オレは思わず喉を詰まらせてしまった・・・
「・・ぁ・・す・・すみません・・わざわざ時間とっていただいたのに・・・」
「それはいいんだけどね、戸田さんの子供っぽいところも見れたし。」
オレはそんなこと言われると思わなかったから、一気に顔が熱くなった・・・
「ふふっ・・戸田さんっていろんな表情もってるのね。」
「・・あ・・えっと・・・」
「化粧してないとこんなに幼い感じだと思わなかったわ。この前とは別人みたいね。」
「・・・・・・」
やっぱり化粧して来るべきだっただろうか・・・
「・・へ・・変ですか・・・?」
「ううん、そういう意味じゃないの。可愛いなって思って。」
オレはもう恥ずかしくてたまらない・・・・
でも恥ずかしがってばかりもいられない・・・オレは話をしに来たのだから・・・
「・・あ・・あのぉ・・この前写した写真・・・載せるの止めることって出来ますか・・・?」
「あ、今朝もう色校済んじゃったけど・・・」
「・・いろ・・こう・・・?」
「あっ、色校っていうのは写真の商品の色が、印刷でちゃんときれいに出てるかとか、あと文字の間違いとか直すことを言うの。この後、最終の校正があるけど、そこではよっぽどの事がないと写真の入れ替えとかは出来ないのよ。」
「・・そ・・そうですか・・・」
「なに?ご両親に反対された? 結構あるのよね、戸田さんと一緒に採用したコも、もう3人やめたいって言って来てるわ。まあ、だから多めに採用するんだけど。」
・・・どうりでオレなんかが採用されたワケだ・・・
「・・あの・・お母さんは賛成してるんですけど・・・」
「じゃあ、お父さんが?」
「・・・いや・・お父さんもたぶん反対しないと思うんですけど・・・」
「それじゃぁ、何が問題なの?」
なんか本当のことを言おうと決心して来たのに、いざその時になると何て言えばいいのかわからなくなってくる・・・
「・・あ・・あのぉ・・わたし見て・・・なんか変じゃないですか・・・?」
「・・・さあ・・・普通の女の子にしか見えないけど・・・いや・・普通よりは相当可愛いわね。」
「・・い・・いや・・そういう事じゃないんです・・・」
この後に及んで可愛いなんて言われら、よけい言い出しにくくなってしまう・・・どう言えばいいんだろう・・・
「・・わたしぃ・・心の中では・・自分のこと・・オレって言ってるんです・・・」
「そう・・・? まあ、実際に自分のこと僕とか俺とか言う女の子もたまにいるみたいだから、別に心の中ならオレって言っても良いんじゃない?」
編集長はそう言った後「それとも・・・もしかして性同一性障害とか・・・?」
オレはドキッとした・・・まさかそんなに単刀直入に来るとは予想してなかった・・・
「自分が女の子だと受け入れられないの? でも変ねえ・・・そういうコってあまり女の子っぽい恰好したがらないんじゃないのかしら?」
「・・・・・?」
なんか話が変だ・・・もしかして逆に思われているのだろうか・・・
「・・あ・・あの・・わたし身体は女の子だけど・・心は男の子ってワケじゃないんです・・・」
「でしょうねぇ、とてもそんな風には見えないわ。」
「・・あのぉ・・その逆なんです・・・」
「逆?」
編集長はどうも要領を得ないみたいだ・・・もう言うしかない・・・
「・・あの・・わたし・・・本当は男なんです・・・・」
「え?どういうこと?」
ううっ・・・恥ずかしい・・・男だとバラすのがこんなに恥ずかしいとは思ってもみなかった・・・そういえばオレが女の子になってから、男とバラすのは初めてだった・・・
「・・わたし・・身体っていうか・・・戸籍が男なんです・・・」
さすがに身体が男とは言いにくかった・・・ずいぶん男の頃とは変わっちゃったし・・・
「えっと・・・それって、戸田さんが本当は男だってこと?」
「・・はぃ・・・」
どうやらやっと解ってくれたみたいだ・・・
「嘘でしょう? だってあなた胸があるじゃない。撮影の時、胸が開いた服だったから谷間が見えてたわよ。」
「・・そ・・それは・・ホルモンで・・・」
「本当? 読者モデル断るために、そんな嘘ついてるんじゃないの?」
「・・う・・ウソじゃありません・・・」
しかし、考えてみれば、オレが男だと証明するものは戸籍と保険証と・・・あとは股間のアレぐらいしかない・・・今は戸籍も保険証も持ってないし・・・かといって股間のアレを女の人に見せるのは・・・さすがにイヤだ・・・もっと立派ならまだしもオレのは萎びてちっちゃくなってしまっているし・・・まあ、そんな話でもないけど・・・
「・・あの・・・どうやったら信じてもらえますか・・・?」
オレとしても、もうどうしたらいいのかわからない・・・
「う〜ん、言われてみれば・・・少し男の子っぽい感じはあったけど・・・でもそれはあくまで女の子としてはってレベルだしねぇ。そこがまた可愛いワケだし。」
「・・うぅ・・・やっぱり・・アソコ見せなきゃダメですか・・・?」
「・・アソコ・・・?」
「・・こ・・ここはまだ男のままなんです・・・」
オレは股のところを指さして言った・・・
「・・あっ・・わかったわ、信じる。」
やっぱり股間なんて見たくないに決まっている・・・だから信じるとは言ったけど、本当に信じてくれたかは疑わしい限りだ・・・
「つまり、戸田さんが男だから、読者モデルになるのはダメなんじゃないかと思ってるワケでしょう?」
やけに簡単に言ってくれたが・・・まあ、早い話はそういうことだ・・・
「・・はぃ・・・」
オレはコクリとうなずいた・・・
「それじゃ、私がここで、戸田さんが男でもいいわよって言えば、何も問題ないのよね?」
「・・そ・・それは・・・・」
「戸田さんは女の子にしか見えないし、女の子の服も良く似合う。それなら女の子の服のモデルやっても何の問題もないんじゃない?」
「・・で・・でも・・・もしわたしが男だってバレたら・・・そちらに迷惑が・・・」
「大丈夫よ、戸田さんみたいな可愛いコ誰も男の子だなんて思わないし、もし万が一バレたとしても、全然問題ないと思うわよ。」
「・・・・・・?」
「戸田さん、ファッション誌の目的はね、服を良く見せることが第一なの。あくまでメインは服なのよ。だから戸田さんが着て服がきれいに見えるなら、ファッション誌としては問題ないと思うの。戸田さんがやりたくないのなら別だけど。」
オレは・・・どうなのだろう・・・
「戸田さんはやりたいんでしょう?」
「・・・・・」
「この前の撮影の時もいい表情してたじゃない。」
「・・そ・・そうでしょうか・・・」
オレはそんな表情してたんだろうか・・・オレじゃないみたいとは思ったけど・・・
「楽しそうだった。そういうのは大切なことなのよ。」
「・・わたし・・写真は・・写すのは好きなんですけど・・・写るのは苦手だと思ってたんです・・・でも・・・なんかああやって写されてると・・頭の中がポーッとしちゃって・・・」
「良いんじゃない? 写すのが好きな人って、本当は写るのも好きなんだと思うわよ。ただ写す相手の良いところばかり見ちゃうから、自分に自信がなくなってしまうんじゃないかな? 戸田さんは? 自分に自信ある?」
「・・ううん・・自信なんて・・あるわけ・・ないです・・・」
オレはとんでもないというように手を振った・・・オレは男のころからそうだったけど、女の子になってからは本当に自信がなくなってしまっている・・・
「もっと自分に自信持たなきゃ!戸田さんは可愛いし、素敵だと思うわよ。」
「・・・・・」
「もし戸田さんが、どうしてもやりたくないって思うのなら仕方ないけど、私はやめてほしくないんだけどな。」
「・・・・・」
オレは・・・オレは・・・
「どう? やりたくない?」
「・・わたし・・やりたい・・・」
オレは全然自信はないけど・・・出来るのならやってみたい・・・
「そう、じゃ決まりね。やりましょう!」
「・・・はぃ・・・」
でも、ほんとにオレでいいんだろうか・・・
「でも驚いたわ。戸田さんが男の子だなんて。」
「・・はぁ・・・」
やっぱりオレって全然男に見えないんだろうか・・・
「一緒に来てた佐倉さん?あのコは知ってるの?」
オレは首を横に振った・・・
「じゃあ、学校は? 先生たちは知ってるの?」
「・・はぃ・・」
「それじゃ、学校には女の子として通ってるってこと?」
「・・はぃ・・」
「へぇ〜・・スゴイわね。いつから女の子として暮らしてるの?」
スゴイかどうかは知らないけど・・・
「・・高校生になってから・・です・・・あ・・中学の最後の方からかな・・・」
「その前は男の子だったんだ?」
「・・はぃ・・たぶん・・・」
「たぶんってどういう事?」
「・・あ・・わたし・・・小さいころ・・小学校2年生の頃までは女の子みたいだったらしいんですけど・・そのころのことは全然憶えてないんで・・・記憶にないんです・・・」
「ふ〜ん・・そんなことってあるのねぇ。」
「・・・・・」
「でも、今は女の子だってことは、やっぱり自分のことを女の子だと思ってるんでしょう?」
「・・は・・はぃ・・・」
「それじゃなんで心の中で自分のこと“オレ”って呼んでるのかしら?」
「・・・・・!」
しまった・・・オレは自分が男だと告白することで頭がいっぱいで、そこまで気がついてなかった・・・たしかに言われてみれば変かもしれない・・・
「・・あ・・あのぉ・・・そこが難しいところで・・・自分が女だって思うことと・・・それとはまた別というか・・・」
どう言い訳すればいいだろう・・・オレは頭の中で性同一性障害のことを必死で思い出していた・・・このごろは慣れてたから、あらためて気にしたことなんてなかった・・・
「・・性同一性障害って・・身体が男で心が女の場合は・・性格が女の子らしいとは限らないんです・・・」
「どういうこと?」
「身体が女で心が男の人は・・性格も男らしいし、女の子しか愛せない場合がほとんどらしいんですけど・・・わたしみたいに・・・身体が男で心が女の場合は・・・女の人にいろんな性格の人がいるように・・・いろんな人がいるんです・・・」
「えっと・・・じゃあ男らしい人もいるってこと?」
「女の人に男っぽい性格の人がいるみたいに・・・ですけど・・・」
「・・・・・」
「女の人でもみんなが女らしいワケじゃないでしょう?」
「そうねぇ・・・私なんか良く性格は男っぽいって言われるわね。」
「でも、女の子のオシャレもするし、愛するのは男性でしょう?」
「・・・そうね・・男っぽい性格だからって、女の子が好きって訳でもないわね・・・まあ、嫌いでもないけど・・・」
「そう、そういうことなんです・・・心が女なんて言うと女っぽいって思われるんですけど・・・ほんとうは脳が女なんだと思うんです・・・だからどんなに男っぽくても女なんです・・・」
なんかオレうまいこと言ってないだろうか・・・
「だから・・・わたし・・・男の子として育ってしまったから・・・どうしても男っぽいところが抜けなくて・・・」
これは間違いなく本当のことだ・・・
「じゃあ戸田さんは男の子っぽい女の子なんだ。」
「・・ま・・まあ・・そういうことに・・なります・・・」
「そっか・・そういうところが余計に魅力的なのね。」
「・・そ・・それはどうかなぁ・・・?」
「それで? 戸田さんはどっちが好きなの?」
「・・どっちというと・・?」
「恋愛の対象は、男の子なの? それとも女の子?」
うぅっ・・・どう答えればいいのだろう・・・
「・・男の子が・・好きです・・・」
なんか自分で言ってて恥ずかしい・・・顔から火が出るって表現があるけど、まさにこんな感じなのだろう・・・
「・・あ・・で・・でも・・・わたし・・まだ恋愛とかしたことなくて・・・ほんとうは良く解らないんです・・・」
やっぱり本音が出てしまう・・・オレはまだ恋愛なんて語れない・・・恋も愛もしたことないのだから・・・
「・・男の子のアイドルだったら・・誰が好きかとか・・そういう感じなんです・・・」
「ふふっ・・可愛いわねぇ・・・私も仕事柄いろんな女の子を見てきたけど、戸田さんみたいな可愛い女の子はそんなにいないわよ。それなのに自分のこと男っぽいなんて・・・とてもそんなふうには見えないわ。」
「・・そ・・そんな・・・」
オレは可愛いなんて言われると、すごく居たたまれない気持ちになってしまう・・・
編集長の携帯が鳴って、オレはホッとした・・・このまま話続けていたら、またボロが出ないとも限らない・・・
「戸田さん、ごめんね、編集部に戻らなきゃいけないの。」
「・・いぇ・・・」
オレにとってはその方がありがたいくらいだ。
「それじゃ、細かいことはまた今度話しましょう。」
「・・はぃ・・・」
「あ、戸田さんはパフェ食べてからでいいからね。」
そう言って編集長の佐々木さんは急いで会社に戻って行った。
そういえば、いつのまのかパフェを食べるどころではなくなっていた・・・あらためて食べようとしたが、アイスはもうほとんど溶けていた・・・
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おまけ・架空の西鉄大牟田線案内
○=特急停車駅(急行も停車) ●=急行停車駅
・久留米以降は急行はありません ・普通駅は省いています
○福岡(天神)- -天神の中心部のビルの中にある駅。駅ビルには架空の三越が入っている。
○薬院- - - - - - 九州JINONの編集部、駅の下にミスドと大きな本屋〈マンガも充実〉
・平尾- - - - - -レナの家
●大橋- - - - - - 急行停車駅では一番大きい。市街地へ向かうバスのターミナルでもある。有希が行った手芸店〈西沢〉がある。
●春日原- - - - - 有希、長谷川の家がある。おばさんの美容院、二光のエステもココ。駅前にはさかえ屋、マックがある。
●下大利- - - - -
○二日市- - - - -
●朝倉街道- - - - 急行停車駅だが、雰囲気は普通駅のようだ。三吉先生の家
●筑紫- - - - - -
●小郡- - - - - -
●宮の陣- - - - -
○久留米- - - - - 白鴻女学園 駅前にミスド、マック
○花畑- - - - - -
○大善寺- - - - - 佐倉千里の家
○柳川- - - - - -
○新栄町- - - - -
○大牟田- - - - - 三井グリーンランド




