第44話 約束 女どうしの約束は・・・ 初出09.2.6
オレは帰る途中の電車の中で、佐倉に今日のことは雑誌が発売されるまで黙っていようと言った。オレとしては出来るだけ問題を先送りしたかったのだが、佐倉にそういう訳にはいかないのではないかと言われてしまった。どうせ岡本はすぐにでも結果を聞きたがるだろうと言うのだ・・・たしかに言われてみればそのとおりだと思った・・・あんなに佐倉にだけ面接の通知が来た事を気にしていたのだから、結果を知りたがるに違いない。
しかし、そうだとすると厄介なことにならないだろうか?・・・佐倉が合格したのは良いとしても、ついて行ったオレまで受かってしまったのは、いくら何でもマズすぎるのでは・・・こんなことなら自分がついて行けば良かったなんて言い出すかもしれない・・・もしそんなことを言われたらと考えると、オレは言い訳する理由さえ思いつかない・・・
でも事が大きくなっては面倒だ・・・だからオレは岡本と原口はしかたないとして、他には黙っていようと佐倉を言い包めた・・・まだ雑誌が出版されるまでにはだいぶ時間があるだろうし、どうせオレたちの写真が載ったとしても、ズブの素人がそんなに大きく使われるハズがない・・・あの写真なら誰も気づかない可能性も高そうだし、もし疑う人がいたとしてもオレたちじゃないとシラを切ることも出来るだろう・・・
オレは佐倉にくれぐれも、まだ他の人には言わないようにと口止めして電車を降りた。
家に着くと玄関に入る前に、オレは深く深呼吸して気持ちを落ちつかせた・・・
「た・だいま・・・」
オレは小さな声でいうと、そっとドアを閉めて2階の自分の部屋に向かおうとした。
「有希、帰ったの? ちょっとこっちいらっしゃい!」
かあさんの声にオレはドキッとした・・・もしかして面接に行ったのがバレたんじゃないだろうな・・・もっともバレる原因はまったく思い当たるものが無いが・・・
オレがリビングに入ると、かあさんと麻衣がいた・・・
「お姉ちゃん、ピザ残ってるよ・・・?・・・」
麻衣が不思議そうな顔でオレを見ている・・・な・・なんだ・・・?
「お姉ちゃん、その髪どうしたの?」
・・・しまった!オレは佐倉のことばかり心配して、自分はそのままなのをすっかり忘れていた・・・!
「なんかお化粧もいつもより大人っぽいね・・・」
ど・・どうしよう・・・オレはパニックになってしまいそうだ・・・
「あ・・あの・・こ・・これは・・・」
なにか良い言い訳を考えようとしたが、まったく思いつかない・・・
「有希・・・何があったのかちゃんと言いなさい。」
「・・・うぅっ・・・」
かあさんにそう言われてオレは言葉につまった・・・なんて言えばいいのだろう・・・
「なに?言えないことなの?」
「・・そ・・そんなこと・・ないけど・・・」
「じゃぁなに?こんな時間まで何してたの?」
もうダメだ・・・オレにはこれ以上かあさんに嘘をつくことは出来ない・・・
「・・あの・・あのね・・・実は・・だいぶ前に・・みんなで雑誌の読者モデルに・・応募してたの・・・」
「読者モデル?」
「あ・・わたしは別に読者モデルなんて興味なかったんだけど・・・みんなで一緒に送ろうって言われて・・・断れなくて・・・」
「・・・それで?」
「・・そ・・それでね・・・この前、一緒に送ったうちの一人に・・面接があるって書類が来て・・・で・・そのコが誰かついて来てって言ったんだけど・・・みんなイヤだって・・・それで仕方なくわたしが行くことになって・・・」
オレはそこで言葉を止めた・・・かあさん怒ってるんだろうか・・・顔を見るのがこわい・・・チラッと麻衣の方を見ると、麻衣は興味津々のようだ・・・ひとの気も知らないでぇ・・・
しばらく様子をみてみたが、どうやらまだ許して貰える感じじゃなさそうだ・・・・オレも腹を据えなきゃいけないみたいだ・・・
「・・・それで・・面接について行ったんだけど・・・なんだか良くわからないんだけど・・・わたしも面接受けることになっちゃって・・・それで・・・・えっとぉ・・・・」
「それでどうしたの?」
また言葉に詰まったオレをかあさんが促す・・・
「・・・それでぇ・・・千里が受かって喜んでたらぁ・・・わたしまで受かっちゃった・・・・」
オレはちょっと可愛く言ってみたが、一瞬のうちに静まり返ってしまった・・・あんまり効果はなかったみたいだ・・・
「・・・あ・・あの・・モデルっていっても・・読者モデルだし・・・・」
言い訳しようとしたがうまくいかない・・・
「・・ご・・ごめんなさい・・・」
オレはかあさんに頭を下げた・・・ほんとオレって何て軽率なんだろう・・・モデルなんて許してもらえるハズがないのに・・・面接を受けるように誘われた時に断わるべきだったんだ・・・・
「モデルになるの?!お姉ちゃんスゴイじゃない!」
「ち・・違・・・読者モデ・・・」
ほんとそんなんじゃないんだ・・・麻衣はカンタンに考えてるんだろうけど・・・
「素敵じゃない、せっかく合格したんだったらやってみれば? かあさんも良いと思うわよ。」
「・・・・!」
オレは自分の耳を疑った・・・かあさん今なんて言った・・・?
「・・・あ・・あの・・・」
「有希やってみたいんでしょう?だったらやってみればいいじゃない。」
「・・・い・・いや・・あの・・・」
オレは別にモデルなんてやりたい訳じゃない・・・そりゃぁちょっとは興味はあるけど・・・
「・・で・・でも・・わたしなんて無理じゃないかなぁ?」
「でも合格したんでしょう?無理かどうかは向こうの人が決めるんじゃない?」
「・・そ・・それは・・そうだけど・・・」
なんかそう言われるとそんな気もしてくる・・・
「それにさっき有希も言ってたじゃない、モデルっていっても読者モデルだって、だったら楽しんでやってみれば良いんじゃないかしら?」
「・・・うん・・・・」
なんか・・かあさんに言われると妙に納得してしまう・・・
「・・あ・・でもさぁ・・・男が・・女の子のモデルなんてやっていいのかなぁ・・・」
「あら、雑誌社の人に言わなかったの?」
「・・い・・言えないよぉ・・だってずっと千里がいたし・・・そんな時間もなかったし・・・」
やっぱり言わなきゃいけなかったのだろうか・・・
「有希がずっと黙ってようと思うんなら言わなくてもいいかも知れないけど、一応言っておいた方がいいと思うけどな。」
「・・や・・やっぱり・・・?」
オレどうしたらいいんだろう・・・
「・・・実はね・・・もう撮影しちゃったの・・・」
「あら。」
「・・あ・・でも・・全然違うよ・・・雰囲気が・・・たぶん誰もわたしたちだって判らないと思うんだ・・・」
「そうかしら?」
「・・プロのカメラマンってすごいよねぇ・・・ぜんっぜん違うの・・・」
「そう? でも早いうちに言っておいた方がいいわよ。」
「・・う・・うん・・そうする・・・」
オレは自分の考えの浅さに情けなくなってシュンとしてしまった・・・それに・・佐倉にあれだけ口止めしたのに、オレがバラしてたら世話ない・・・
「でも、お姉ちゃんがモデルなんて、クラスのみんなに自慢しちゃおうかなぁ!」
「・・そ・・それはやめて・・・モデルじゃないの・・“読者”モデルなんだから・・・」
そんなこと言いふらされたらたまったものじゃない・・・それに・・・
「・・・それに・・麻衣の中学はわたしが行ってたとこなのよ?・・・そこでわたしがモデルになったなんて言ったら、わたしが女になってるのバレちゃうじゃない・・・」
「あっ、そっか!」
まったく麻衣ときたら何てこと考えるんだろう・・・
しかし・・・意外な展開だった・・・きっとモデルなんて言ったら絶対に反対されると思っていたのに、逆にやることをすすめられるなんて・・・オレとしては怒られれば、それを理由にやめることも出来たのに・・・かあさんが雑誌社に断わりの電話でもしてくれれば願ったり叶ったりだったのに・・・
でも・・・それとは裏腹に、オレの中には読者モデルをやってみたいという気持ちが芽生えてきているのも否定できなかった・・・いろんな服を着るのは、ちょっと自信がないけど・・・でも撮影している間は不思議に恥ずかしい気持ちもなくなっていた・・・それに・・・モデルの仕事は普通の生活では、なかなか知ることができない女の子の色んなことを勉強することが出来るような気がする・・・オレだってどうせ女になるのなら、女の子のことをもっと知りたい・・・・
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ピザを少し食べて、お風呂に入ったオレは湯舟の中に自分の胸をさわってみた・・・オレは女の子の胸なんてさわったことないから比較できないが、けっこう柔らかい・・・
今日、スタイリストのケイコさんにつかまれた痛さがまだ少し残っている・・・でもあんなふうに胸をブラに入れるなんて知らなかった・・・雑誌には脇のお肉も入れ込むなんて書いてあるけど、オレには具体的にどうするのか良くわかっていなかったと思う・・・
オレはこれまでどちらかといえば、自分の胸にあまり触れないようにしてきた・・・女の子の雑誌にはマッサージのやりかたとか書いてあるけど、そんなこと怖くて出来なかったのだ・・・でも、そういう事もこれからはやっていかなきゃいけないと思う・・・少しつかまれたくらいで痛がるようでは女の子失格だ・・・こんどエステに行ったら、胸のマッサージのやりかたを習ってこようと思う・・・そうすれば・・・もう少しは大きくなるかもしれないし・・・オレは自分の胸はBカップで十分だと思っていたが、最近はCカップくらいあっても良いのかなという気持ちになってきた・・・やっぱり胸の谷間って魅力的だ・・・
お風呂からあがって部屋で髪を乾かしていると、佐倉からメールが来た・・・もし問題がおきてもすぐに対処出来るように電源は入れておいたのだ・・・開いてみると電話がほしいという・・・何か問題でもあったのだろうか・・・
「千里?どうしたの?」
オレが聞くと、やっぱり岡本から電話が来たらしい・・・
「それでね、わたしと有希が合格したって言ったら・・・」
オレのことも言っちゃったのか・・・どうせ編集長にオレが男だって言えば、オレはやめなきゃいけない可能性が高いから言わなくても良かったかも知れないのに・・・
「直美・・なんて言ってた・・・?」
「有希に電話するって・・・電話なかった?」
・・・・・・
「あ、お風呂に入ってたから、その間にかかってきてたかも・・・」
「わたし・・有希に謝らなきゃいけなくて・・・お父さんに遅くなったこと問いつめられて・・面接に行ったこと言っちゃったのよ・・・なんか反対されそうだったから、有希もいっしょに合格したことも言っちゃった・・・二人の方が反対されないような気がして・・・そしたら何とか許してくれた・・・」
・・・何でオレが一緒なら許してくれるんだろう・・・でもオレが一緒だから許してくれたんだったら・・・オレがやめなきゃいけなくなったら佐倉はどうなるのだろうか・・・
とりあえず他には言わないようにと言って電話を切ると、急いで履歴を見てみた・・・やっぱり岡本から電話があったようだ・・・メールでなく、いきなりかけてきたところをみると、そうとう怒っているのだろうか・・・?
「・・あ・・あの・・・」
「有希?あんたどうなってんのよ!なんで有希まで受かってるの?」
「・・え・・えっと・・それは・・・」
オレはどう言ったらいいのだろうか・・・自分でもなんでこんなことになってしまったのか良く判らないのに・・・
「・・実はわたしにも良くわからないのよ・・・ついて行っただけなのに、編集長にいきなりわたしも面接受けるように言われて・・・」
「それで受けたら合格したって言うの?」
「・・・そぅ・・・」
「そんな都合がいい話ってある?」
「・・い・・いやぁ・・・ある?って言われても・・・」
オレは回転の悪い頭を必死で回転させて、なにか納得できそうな理由を探そうとした。
「・・あ・・あのさ・・・なんか、芸能人の話で聞いたことない?・・・友達といっしょにオーディションに行ったら・・自分だけ受かっちゃった・・・みたいなの・・・」
「有希そんな話信じてるの?」
「・・い・・いや・・・べつに信じてたワケじゃないけど・・・実際にあるのかなぁ・・・とか・・・」
「有希・・・あんたわたしのことバカにしてるの?」
オレは驚いた・・・なんでそんなふうに考えるんだろう・・・
「・・そ・・そんなハズないじゃない・・・」
オレはもうどうしていいかわからなくて泣きそうだ・・・・もう・・・いっそのこと泣いちゃおっか・・・そう思った瞬間、オレの目から涙があふれてきた・・・
「・・うっ・・・ご・・ごめん・・・」
「・・な・・なに?・・・有希・・泣いてんの?」
「・・だ・・だって・・・」
「泣くことないじゃない・・・」
「・・んくっ・・・だって・・・わたしも・・良くわからないんだもん・・・」
「・・ちょっと・・泣かないでよ・・有希・・・」
それでもオレが泣きじゃくっていると
「・・ねえ・・・あしたもう一度みんなで会おうよ・・久留米の駅前のミスドよ・・いい?」
「・・・うっ・・う・・うん・・・」
なんとかそういう話で電話を切った・・・
明日どうなるかは解らないけど、この場は何とかなったみたい・・・女の涙って、相手が女の子でも通用するのだろうか・・・でも・・・オレは泣くことで事態を収拾してしまったことに言いようのない嫌な気持ちになってしまった・・・もちろんオレの涙は嘘じゃなかったと思うけど・・・これまでにも泣いてしまったことはあったけど・・・今日は・・・なんだかカンタンに泣いてしまったような気がする・・・オレは涙を武器にしてしまったのだろうか・・・オレ・・そんな女の子にはなりたくないのに・・・
でも・・・本当にオレにはどうしたらいいのか判らなかったのだ・・・




